氷帝カンタータ





番外編 秘密のランデブー -Back to the Future-





「まずはバック・トゥ・ザ・フューチャー・ザ・ライドに行くんですよね。」

「…わ、すごい。ぴよちゃんさま何で私が行きたいのわかったの?」

「さっき電車で言ってたじゃないですか。」

「あ、そうだった。……でも待って!先に帽子買わないとね。」

「…帽子?」

「えー。しおりに書いてたでしょ?ぴよちゃんさまがかぶるエルモの帽子だよー!」

「かぶりませんよ。」

「…絶対可愛いのに?」

「可愛くないです。」

「跡部は帽子欲しいって言ってたよ。」

「……何か…跡部さん変わりましたね…。」



恐竜の帽子を嬉々としてかぶる跡部を想像し、遠くを見つめるぴよちゃんさま。
私は2人でお揃いの帽子をかぶってUSJを満喫する気で来たのに、また思わぬ衝突をしてしまった。
…もうこれ以上後輩に気を遣わせるのは嫌だし、この件は諦めよう…

諦めよう…と…思うんだけど、自然と足がグッズショップへと向いてしまう辺り私は駄目な先輩です。


「……先輩。」

「わかってる!買わなくていい!買わなくていいから、ちょっと一瞬かぶってるところを目に焼き付けさせて。

「…必死ですね。」


目を細めて柔らかく笑うぴよちゃんさまを見て、やっぱりカッコイイなって思う。
綺麗とか可愛いとかもう全部ひっくるめてカッコイイ。…こんな人とデート出来てる私って奇跡じゃない?
普通だったら私がぴよちゃんさまの旅行代金も全額負担した上で、さらに10万ぐらい積まないと出来ない体験だよ。
しかし、真面目なぴよちゃんさまはお金に関しては超がつく程真面目なので、そんな提案受け入れてくれるはずないけど。


ぴよちゃんさまの言う通り、必死な形相でショップに突入すると
目の前には色とりどりの帽子が所狭しと並べられていた。あ、そっか。ハロウィン期間だから普段より種類が多いのかな?
ぴよちゃんさまに何をかぶってもらうかを事前に調べていたときに見た帽子以外のモノを見て、さらにテンションが上がってしまう。


「う…っわ、可愛い!これとか絶対ぴよちゃんさまが着けたらかわいいよ!」


キティちゃんの白い猫耳に、ハロウィン使用の飾りがちょこんと乗っている可愛いカチューシャを手にとり、
私より少し背の高いぴよちゃんさまの頭めがけて問答無用で装着させる。
意外にも素直にその行動を見守っていてくれたぴよちゃんさまは、真顔で私を見つめる。猫耳をつけて。


猫耳をつけたぴよちゃんさま。



猫耳…。





「っく……!ぴよちゃんさま、ダメもとで聞くけど「駄目です。」

「…っまだ、何も言ってないじゃん!」

「どうせ写真撮りたいとか言うんでしょ。」

「……わぁ、ぴよちゃんさまって私のこと何でもわかるんだねー。」

「先輩の思考は特に浅はかですからね。手に取るようにわかります。」


猫耳をつけたまま冷たい視線で淡々としゃべるぴよちゃんさまを見て、私の中の何かが目覚めそうになるのを抑えつつ
脳内にこの画像を焼き付けようと必死に目を見開く。はぁ…可愛い…可愛すぎてニヤけちゃう…。
最初は真顔だったぴよちゃんさまも、尋常ではない見つめられ具合に居心地が悪くなったらしく、
どんどん顔を歪め、ついには猫耳に手をかけあっさりと取り外してしまった。


「あっ……。くっそ…可愛かったのに…。もうちょっとで私の網膜に焼きつくところだったのに…。」


本当なら無理やりにでももう1度装着させて、あわよくば購入して1日中つけておいて欲しいところだけど
機内での失態や、先ほどの電車でのやり取りを思い出し、私にしては珍しく自重した。
もう手とか震えてたと思う。普段自由奔放に生きすぎてるから知らなかった。自分を抑えることがこんなに大変だったなんて…。

うなだれる私の頭に突然、きゅっと小気味の良い締め付けが感じられた。
反射的に顔をあげてみると、先ほどの真顔よりは少しばかり頬の筋肉が緩んだぴよちゃんさまが居た。
毎日観察していないとわからない程の表情の違い。だけど、私にはわかる。
伊達に「日吉の公式ストーカー」と称されてないですから。最近まで知らなかったけど、私のことをこういう風に呼んでる人は結構いるらしい。
失礼な話です。普通「日吉の彼女」とか噂になるもんじゃないですか?
と、真子ちゃんに相談してみたところ「日吉君の表情が明らかに彼女に向けるソレではなく、焦燥しきった表情だもん。」と諭されました。
…ぴよちゃんさまの新しい表情を開拓した私、すごい。



「……。先輩がつけた方が可愛いんじゃないですか?」

「なっ……。」


先ほどの笑顔とはまた違う表情。少し生意気に口の端をあげてぴよちゃんさまが笑う。
普段のぴよちゃんさまからはおよそ出るはずのない言葉に、一瞬喉が詰まる。
これ…これが幸村君が言ってた「旅行マジック」なのでしょうか。
何か、甘い発言が飛び出してきたよ…!何その今すぐにでもカメラに収めたくなる笑顔…!

自分の顔がどんどん熱くなっていくのがわかる。
やめて、マジでそういうのやめてください。慣れてないから。
特にぴよちゃんさまは絶対ダメ。本気で心の臓が爆発してしまいます。


「…まぁ、でもやっぱりバカっぽさが増すからあんまりオススメではないですけどね。」

「バカって…先輩に向かって…!そんなこと言ったら跡部が可哀想でしょ!

「別に跡部さんの話してませんけど。」


恐竜帽子をかぶる跡部は絶対今の私よりバカっぽさが増すと思う。
あの帽子はイケメンとかそんなこと全部帳消しに出来るほどの破壊力があると思うんだ。
絶対買って帰るけどね。見たいもん。



































泣く泣く猫耳を諦め、私達はアトラクションへと向かっていた。
園内マップを見ながら的確に方向を指示してくれるぴよちゃんさまは、後輩ながら尊敬しちゃうほどしっかりしてる。
人が多いんですから、フラフラしないでくださいね、と念を押されてしまっては益々後輩には見えなくなってくるよ。

土日とあって、やはり人は少なくない。
何度かはぐれそうになりながら、やっとたどり着いた目的地。
そこには「現在待ち時間30分」の立て看板。


「これって、空いてる方だよね?」

「おそらく…。他のアトラクションは1時間待ちのものもあるみたいですから。」

「そっか!じゃあ今のうちに早速並ぼう!」


まぁ、私としては待ち時間が長ければ長いほど嬉しいんですけど。
もちろん普段ならそんな風には感じないけど、今日はぴよちゃんさまと一緒だからね。
待ち時間の間にしゃべりたい事がいっぱいあるんだ。
昨日の晩にどんなことを話すか、ということを携帯のメモに密かに列挙してみたんだ。ふふ。

こんなことをしてると、まるで本当に私がぴよちゃんさまの彼女になってしまったかのような錯覚に陥るけど
現実はそうではない。もちろん普段よりは幾分か優しいぴよちゃんさまが見れて既に大満足なんだけど、
例えば、人ごみの中を歩くときに手をつないだりとか…そういうのしたい…!
あ、今ちょっと想像しただけで口元が緩んで涎が出そうになった。

こんなことじゃ本当に手をつなげたりしたら、私は全身の穴という穴から全ての液体を発散して、爆発してしまうかもしれない。
風に舞う塵となり、分子レベルまで分解されてしまうかもしれない。でもやっぱりちょっと手はつないでみたい。

ある日突然、泥にまみれたテニス部生活を余儀なくされた可哀想な私に、どうか神様夢を見させてください…!
と、割と本気で祈ってみたものの、目の前のぴよちゃんさまは、すたこらさっさと待機列へ飛び込んでしまった。
…わかってる、現実はそう甘くない。





「ねぇ、ぴよちゃんさま。まさかとは思うけどさ、それ…手に持ってるのって…。」

「…小説ですけど。」

「あか…あかーーん!あきまへんで!」

「…だって暇じゃないですか、30分も。」

「も…もう!ぴよちゃんさまの照れ屋さん!小説なんかよりもっと楽しいことがあるじゃない。」

「……すいません、思いつきません。」

「私とのおしゃべりを楽しむんでしょうが!いくらぴよちゃんさまでもそろそろ怒っちゃうぞ!ぷんぷん!」

「…毎日嫌ってほど話してるじゃないですか…。」

「あの…いや、ごめんって…。そんな顔しないでよ…そんな嫌なの?あのお昼間のおしゃべりタイムが…。」


私の剣幕に押されたのか、持っていた本をパタンと閉じ素直に鞄にしまうぴよちゃんさま。
よし…よし!この流れでどうにか私が考えてきた、「今聞きたい☆ぴよちゃんさまのあんなことやこんなこと!」リストを開放するぜ…!


「…人に本読むなとか言っておいて、自分は携帯を弄るんですか。」

「ちがーうよ。あのねぇ、昨日一晩かけてぴよちゃんさまとどんなこと話すか考えてきたの。そのメモを見ておるのです。」


薄暗いアトラクション館内にぼうっと白い光に照らされる。
私が携帯を弄ってるのが気に食わないのか、むすっとした表情のぴよちゃんさまを横目に
私は1つの話題をピックアップした。



「よし、じゃあこれにしよっと。ぴよちゃんさまの好きなパンツは?

「一晩かけて考えた結果がそれですか、本気で先輩の頭が心配になってきました。」

「ちょ…失礼な!これでも厳選した結果なんだよ?」

「まず1番に捨てるべき選択肢でしょう、それ。第一何のためにそれを聞くんですか。」

「それは…え、こんな人がいっぱい居る所で言っていい?ぴよちゃんさまの「すいません、言わなくていいです。」

「……じゃあ答えやすいように三択にするね?1.ブリーフ、2.トランクス、3.ボクサー。はい、どうぞ!」

「………あぁ。男物のパンツのことですか。」

「…ん?そうだよ?……あ、もしかしてぴよちゃんさま女「2番です。もうこの話題は終わりでいいですね。」


薄暗い館内でもわかるぐらいに、赤く染まったぴよちゃんさまの耳の先。
もうぴよちゃんさまといると胸がきゅんきゅんして仕方ない。小動物を見ているような、この愛しい感覚。
あぁ…なんて可愛いんだろう…!こういうところが2年生は可愛いんだよね…!

忍足なら私の制止を振り切ってでもベラベラと女のパンツについて語りだすだろうし、
宍戸なら怒って右ストレートの一つでもくりだしてくるかもしれない。
だけど、2年生トリオは違う。ちょたもぴよちゃんさまも樺地も皆、同じような反応をすると思うんです。


「トランクス派かぁ…、じゃあがっくんとジロちゃんと宍戸と、あと樺地も一緒だね?」

「何でそんなこと知ってるんですか。」

「………さ、次の話題は何にしよっかな…。」

「……変態。」

「…っ!……も、もう1回言って、ぴよちゃんさま…!今の…今の動画に収めたいんだけど、いいかな?!」

「ちょ…、本気で気持ち悪いですよ、先輩…。


心底呆れた声色で、冷たい目線で「変態」なんて言い放たれたら…さっきとは違った意味できゅんきゅんしちゃう…!
必死に懇願してみたけども、ぴよちゃんさまはどん引きの表情で、要望には答えてくれなかった。残念。

あぁ、たった数十分の間にこんなに色んなぴよちゃんさまの表情が見れるなんて…旅行、最高だな…。
気づいてみれば列はどんどん短くなっていて、私達の順番が近づいてきていた。
























「こんにちは!何名様ですか?」

「あ、2名ですー。」

「それでは3番の列にお並びください!」


あっという間に私達の順番が回ってきた。
研究室と称される部屋に移動させられ、私とぴよちゃんさまとその他6人のお客さんと一つの部屋で映像を見る。
デロリアンに乗り込む際の様々な注意事項を笑える映像と共に説明が終わると、大好きなドク(デロリアンを作った博士)と
相変わらず憎たらしい顔をしたビフ(いわゆる悪役)の映像に切り替わり、テンションは一気に上がってしまう。



「はい、それでは皆様新型デロリアンに乗り込んでください!」

「う…っわー!すごい!ぴよちゃんさま見て、デロリアンだよー!」

「…結構本格的に作られてるんですね。」


運よく1番前の席に乗り込んだ私達。
最後のお客さんが乗り込んで、ドアが閉められると一瞬の静寂がデロリアンを包む。



ビーガシャガシャッ


≪さぁ、準備はいいか?心配いらん、私がついている!≫


目の前の小さな液晶にドクが映し出され、いよいよデロリアンの出発が告げられる。


≪おっと、リモコンの調子がちっと怪しいがしかしやるっきゃない!≫


映画と同じようにポシティブシンキングなドクについ笑みがこぼれてしまう。
まだこの時の私は、隣に座るぴよちゃんさまの顔を覗き込む余裕があった。
ぴよちゃんさまも真剣に液晶を見つめていて、なんだかそれがとても可笑しくてまた笑ってしまった。


≪よーしいくぞ!時速65・75・85・……!≫


ついに研究室の扉が開け放たれ、私達はタイムトラベルへと出発する準備に入った。
憎きビフを探しに行くために。ドクのカウントダウンが始まり、そしてついに、タイムトラベルに必要な時速88マイルに達した。


≪88マイルだぁあああ!≫



「う…わぁあああ!」


雷のような光と音に包まれたかと思うと、目の前にはアメリカの風景が広がっていた。
そして液晶に映し出される憎たらしいビフの顔と、フラフラと私達のデロリアンの前を飛び回るビフが乗るデロリアン。

そのデロリアンを追いかけるために、ドクがリモコンで私達のデロリアンを操作するのだけど
とても危なっかしくて、様々な障害物に当たりそうになってしまう。

その度に私は大きな声をあげてしまう。


「…あ…当たる当たる当たる、ダメだってマジあた…ぎゃあぁああ!

「ちょ…先輩、もう少し静かに…」

「こん…っの、ビフゥゥウウ!待ちなさいこの野郎!だ…駄目、当たる!また当たるって…ば、ぁうわぁあ!」

「…っふ…ぶふ…、せん…先輩…!」


大好きなバックトゥザフューチャーのテーマソングに包まれながら、
私達のデロリアンは危険な道をどんどん進んでいく。
あとちょっとのところでひょいひょいと逃げるビフに本気で殺意を覚えつつ、私は目の前にあるバーにしがみついてた。

もう隣に居るぴよちゃんさまのことを気にする余裕など全くなく、
ひたすらタイムトラベルに入り込んでいた。


「あ…ああああダメェエエ!当たる当たる、デロリアンが壊れる!!…っきゃぁあああ!」


私の忠告もむなしく、デロリアンは時計台の時計に激突し、
その衝撃でまた違う時間軸へとタイムスリップしてしまった。
運よくビフもその時間軸に逃げ込んでいて、私達はまたビフを追うはめになってしまった。

っくっそ…ビフのせいでこんな危険な目にあわされて…!

そして、次の時間軸は先ほどの街中とは違い、明らかに危険そうな100万年前のヒューバレーだった。
…絶対何かいるじゃん…絶対何か起こるじゃん…!

しかし途中で降りるわけにもいかず、私は手に汗をにぎりながらドクのリモコン操作を信じた。


「うわああああ!駄目、倒れてくるって、そっち行っちゃ駄目だって、駄目だっつってんでしょぉぉおお!」

「…………っく…ふふ…。」

「あぶ…あっぶないわね!ぴよちゃんさまに当たったらどうしてくれんの!」


≪じゃーぁな!あーばよ!≫


捨て台詞を残して、また違う時間軸へと逃げたビフ。
もう私はここで、大人しく研究室へ戻って自然とビフが自滅するのを待ちたい気持ちでいっぱいだったけど、
ドクはビフを追いかけようとまたデロリアンを操作する……のだけど……

「あれ…ちょ、何この画面…」


目の前の液晶に表示される、緊急事態を知らせる赤い点滅文字。
そして焦るドクの声。いきなり急降下しはじめる私達のデロリアン。


「ちょ…ちょっとぉぉおお!落ちてる落ちてる…っ!ぎゃぁあああもう駄目、今までありがとうお父さんお母さーん!

「っぐっ…あはは…っふ…!」


真っ逆さまに落ちていく瞬間に、私の短い人生の思い出が走馬灯のように頭をよぎる。
小さい頃の楽しかった記憶から、跡部に羽交い絞めにされている最近の記憶まで…色んな事があったな…


≪や…ったぁあああ!≫


「え?」


堅く閉じていた目を開けてみると、正常に戻っている液晶画面に、ドクの歓喜の声。
私達のデロリアンは何とかトラブルを脱し、谷の底から急上昇してまた別の時間軸へと移動していた。



「た…助かった…やったよ、ドクー!すごいすごい!生きてる!生きてるって素晴らしい!!



≪ハロォ、アホども!ったく、お前らも諦めが悪いなぁ!≫


憎たらしいビフが、またムカツクことを言い放つ。
こ…こっちはあんたの所為で死にそうになってるんだよ…!?
本当に映画の時もそうだったけど、こいつだけは許せないな…!


≪覚悟した方がいい。これから行く原始時代のヒューバレーは…≫


「原始時代…!?」


そういえば、目の前に広がる光景はマグマ溢れる活火山のようだった。
その上をひょいひょい飛んでいく2台のデロリアン。あぁ、もうここで絶対死ぬじゃん。
絶対生きては帰れないじゃん…!

ますます緊張してきた私は、手だけでなく額にも薄っすら汗をかいていた。


ぴよちゃんさま…生きてまた会おうね…!

「え…、ふっ……はい……ふふっ。」


目の前の画面を見据えたまま、かっこよくぴよちゃんさまに最後の言葉を投げかけてみたものの、
最早ぴよちゃんさまの返事は聞こえてなかった。
大丈夫、無事に研究室に戻って、またぴよちゃんさまの声を聞けばいい…!!


≪たまげた、恐竜だ!ティラノサウルスだ!≫


「う…嘘でしょ、ヤバイって…ビフあんた近づきすぎだよ!食べられるって!」


しかしそこは悪役ビフ。危険な恐竜を挑発するように、周りを飛び回る。
ビフを捕まえる目的がある私達は、もちろんビフを追いかけるのだけど、
運悪く恐竜に見つかってしまい、いよいよ食べられそうになってしまう。


「わあああああ!たべら…食べられるぅぅうう!」


心のどこかで、ドクの奇跡的な操作で食べられるのは免れられると思ってたのに…
恐竜の腹の中に食べられた私達は真っ暗闇につつまれた。聞こえるのはドクの絶叫だけ。
終わった…私はこのまま恐竜の腹の中で一生を終えてしまうのか、でもぴよちゃんさまがいるならちょっとは寂しくないな…

なんて考えていると、視界が急に明るくなった。


そう、助かったのだ。


「お…おおおおお!ドクゥゥゥウ!っさすがドク!」


しかし喜んだのもつかの間。
液晶にうつるビフが明らかに先ほどまでとは様子が違う。


≪助けてくれドク!早く!早く助けてくれぇえ!≫


「…やばい、ビフのデロリアンがエンジントラブルを起こしてるんだっ!」

「……そうみたいですね、ふふっ。」

「っく…、でもあんな奴でも助けなきゃ…!ぎゃっ…う…待ちなさいビフ!」


火の粉が飛び交うマグマの中をすり抜けながら、
私達は急降下していくビフのデロリアンに時速88マイルで衝突した。

その瞬間私は目を閉じ、隣のぴよちゃんさまに思いっきり抱きついていた。



≪やったぁああ!諸君は新型デロリアンの性能を見事証明した!≫


デロリアンの動きが止まったかと思うと、また聞こえてきたご機嫌なテーマソング。
そしてドクの歓喜の声。目をそっと開けてみると、そこは研究室で液晶の中のドクは飛び上がって喜んでいた。


≪行きたまえ、タイムトラベラーの諸君!その手で未来を作るんだ!≫



「はい!皆さん、お疲れさまでした!順番に降りてくださいね!」



まだ事態が飲み込めていない私は、ぴよちゃんさまに抱きついたまま呆然としていた。
係員のお姉さんの声にハっとしたと同時にぴよちゃんさまを見てみると、
顔を思い切り逸らして爆笑していた。……ぴよちゃんさまの爆笑なんて初めて見たよ、私。
























「…っく…お父さんお母さーんって……ふふ…。

「もう!しょうがないでしょ、本気で終わりだって思ったんだから!」

「…ふふ、俺はあんまりアトラクションの記憶がないです。先輩が面白すぎ…て…っく…。」


アトラクションを出てからも、私の情けない姿が忘れられないのか、笑いのツボにはまってしまったのか
ずっと笑い続けるぴよちゃんさま。

…でも、こんなに笑ってるぴよちゃんさま初めて見た。
どれだけ言い訳しても笑い続けるぴよちゃんさまを見て、私も段々と可笑しくなってきてつい一緒に笑ってしまう。


「ふ…あははは!ちょ…ぴよちゃんさま…笑いすぎだから…!」

「いや、先輩が……ふっ…生きてるって素晴らしい!とか……あはは…!」

「も、もういいって…くふふ…言ってんじゃん、やめてよ…ふふ!」




さぁ、次はどんな顔が見れるのかな。