氷帝カンタータ





20:00 〜おやすみ〜





「いぇーい!また俺の一人勝ちー!」

「向日さんの使ってるキャラクターが強いだけなんじゃないですか。」

「日吉にプリンはまだ早かったんだって。大人しくリンクとか使っとけ。」

「…うーっ!はぁ。もうこんな時間か。……あれ。」

「あ。先輩、寝ちゃってますね。」

「どうりで静かや思たわ。」


大乱闘スマッシュブラザーズ大会。
第15戦目を終えて、気付くと時刻は20:00を過ぎていた。

就寝には早すぎる時間だが、明日も朝早くから練習がある彼等にとっては
十分遊びすぎた時間帯だった。



「…じゃ、そろそろ片づけちゃおっか。」

「いつもはがいつのまにか片づけてくれてんのになー、今日は疲れてたのかな。」

「跡部と結構バトってたしなぁ。疲れたんちゃうか。」

「こいつが一々突っかかってくるだけだろ。」


机の上に散乱した食器類を、滝が片づけ始めると
それに続いて後輩達も手伝い始めた。

さすがに、何もしないのは悪いと思ったのか
いつもなら手伝いをしないメンバーも
ゲームの片づけをする。


「ふわー…ぁ。俺も眠くなってきちゃったー。」

「あ、駄目だぞジロー。ここで寝たら、誰もつれて帰んねぇぞ。」

「んー…いいもーん、ちゃんの家に泊まっていくー。」

「ダメですよ、先輩。無断で泊まるなんて。」

「え?俺らいっつもこんな感じで寝ちゃって、朝迎えることとか結構あるぜ?」


向日の発言にぎょっと目を見開く後輩達。



「……一応、先輩も女子だと思うので問題があると思いますけど。」

「ぶふぅっ!ないない!だって何とも思ってねぇしな。」

「それはそうかもしれませんけど…。あ、でも先輩に彼氏が出来たりしたらこういうのも出来なくなりますね。」


何気ない鳳の言葉に、その場の空気が一瞬止まる。
当の発言者は鼻歌を歌いながら食器を洗う手を止めない。


「……いやー…出来ねぇだろ、そんなもん。」

「なんで?わからないよ。中学の間はなくても高校生になったら外部の子も入ってくるわけだし。」

「……中学の間はないとも言い切れねぇな。」


少しからかうような滝の発言に、意外すぎる跡部の返答。
またもや、その場の空気が止まる。



「なんでなんで?何か心当たりあるの、跡部?」

「…同じクラスにいる奴と随分仲良くしてんだろ。」

「ああ、あのサッカー部のやろ?結構最近一緒におるとこよう見るわ。」

「え…、も、もしかして既に付き合ってる…とかじゃ…。」

「それは無いと思うよ。そんなことになったらまず真っ先に俺達に自慢しにくるでしょ。」

「それもそうですね。」



大体の洗いモノも終わり、テーブルに布巾をかけながら滝が言う。
微妙な空気のまま、全ての片づけが終わった。



「……でもさ、何かこうして皆で遊べるのも高校生になったら無くなんのかな。」

「別に俺ら持ちあがりやねんから、そんなことないやろ。」

「俺達は1年間先輩と離れることになるので…寂しいですけどね。」


しんみりとした空気の中で、恥ずかしげもなく素直な発言をする鳳に
皆が少し笑った。


「…ずーっとこうして皆で遊びたいねー。」

「……でも、やっぱり先輩に彼氏が出来たりしたら…。」

「あ、じゃあええこと考えた。」

「何だよ、侑士。」

「この中の誰かが彼氏になればええんちゃうん?」
















































「……うん、まぁ…まぁその時はその時で考えようぜ。

「そ…うですね、別に今はその気配はないですし。」

「俺はパスだけどな。」

「ズルイぞ、跡部。俺だってこの環境は手放したくないけど生贄になるのは嫌だ。」

「………本当に、ぐっすり眠ってるみたいですね。先輩。」


普段なら、こんな会話をしようものなら
鬼の形相で飛びついてくるはずのマネージャー。
いつもの姿からは想像もできない、小さな寝息を立てながら
すっかり眠ってしまっているようだった。


その間抜けな寝顔を見て、それぞれ思う所があったのだろうか。
誰からともなくプっと噴き出すと、たちまち静かな笑いに包まれた。



「…行くぞ。」

「あ、待って。寝室ってどこだっけ?」

「え、あっちだけど運ぶのかよ?」

「いや、毛布。あのブランケットだけじゃ寒いでしょ。」

「…持って……きます……。」

「ありがと、樺地。」

「滝は優しいな、ほんま。」

「何言ってんの、忍足だって、さっき片づけてる時さりげなく落ちてたブランケットかけ直してあげてたじゃん。」

「…………それは言わんでええわ。」



程なくして樺地が持ってきた毛布をそっとかけ、
宍戸が慣れた手つきで、引き出しからこの家の鍵を取り出した。



「あ、でもその鍵…どうするんですか?」

「外から鍵かけて、ドアのポストから中に放り込んでおくんだよ。」

「いつも俺達そうしてるもんね〜。」

「なるほど…。本当、慣れてるんですね。」







「荷物、全部持ったか?」

「おう。よっしゃ、じゃあ行くかー。」

「んじゃな、ー!…て、あ。寝てんのか。」

「大きな声出しちゃ駄目ですよ。」

「何も言わずに出て行ったら起きた時びっくりするんじゃないですか。」

「……なら、メモでも書いとけ。」



跡部のアドバイス通り、机に置いてあったメモに
スラスラと文字を書く滝。


それをそっとソファの前にある机に置き、パチっと電気を消す。

小さな小窓から差し込む月の灯りがほんのり彼女を照らし出していた。









おやすみ、












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