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頭の中は君だらけ






「なぁなぁ、跡部!やっぱアレ、浮気だって!」

「だよね〜!ちゃん、顔めちゃ紅かったC〜!」


さっきから、随分嬉しそうにはしゃぐこの2人。
とっくに昼休みは終わり、放課後だというのに未だに話題は
昼に廊下で見たのことだった。


「何?浮気ってなんの話?」

「今日さー、昼休みにと知らない男が廊下で手繋いでたんだよ!」

「あれねー、ちゃんと中学の時から同じクラスのサッカー部の子だよー。」

「は?…いや、なんで跡部いんのに廊下なんて目立つとこで繋いでんだよ。」


部室で着替えを終えた忍足、宍戸が会話に加わり
より一層騒がしくなる。いい加減イライラしてるのが伝わったのか、
鳳が人差し指を口に当てて、出来ない先輩どもを抑えた。


「…跡部、なんか心当たりないん?」

「知るかよ。」

「で…でも、先輩が浮気なんて出来るとは思えませんし…。」

「またちゃんと喧嘩しちゃったんじゃないの〜?」

「…………。」

「…図星みてぇだな。」


呆れたような顔で、一斉に見つめられる。
居心地の悪さに耐えかねて部室を出ていこうとすると、
思いっきりジローに腕を引っ張られた。

机に無理矢理座らされたと思うと、
全員に囲まれる形になった。………尋問かよ。


「ほら、言うてみ。今回は暴力の方か?暴言の方か?

「…別に大したことじゃねぇ。」

「それは俺たちが判断してあげるから〜!」

「…あんまり覚えてねぇよ。確か…が手を繋ぐだの何だの言うから一蹴しただけだ。」

「……なんで一蹴すんだよ?繋げばいいじゃん。」


首を傾げる向日に、舌打ちをする。
…なんで、一々全部しゃべる必要があるんだ。

それに気づいたのか、鳳がフォローするように質問を変える。


「あ、あの。今まで先輩と手を繋いだこととかないんですか?」

「…別にそういうわけじゃない。……俺が廊下で他の雌猫と腕を組んでた、とか言ってたな。」

「……あぁ、なんか全部読めたわ。それを見たが、自分とは手さえ繋がんのになんでや、って詰め寄ったんやろ。」

「……知ってんのかよ。」

「知らんけど、大体予想つくやん。……でも、そこで繋げば話収まってたんちゃうん?」


………結局、話はそこへ行きつく。
それが、自分でも、よくわからないからこういう事態になってるというのに。

黙り込んだ俺を見て、やけに嬉しそうな顔をしたジローが口を開いた。


「…跡部、恥ずかしいんだねー。」

「アーン?んな訳ねぇだろうが。」

「じゃあ、なんで繋いであげないの?他の子だと大丈夫なのに。」


ニヤニヤとした顔で質問するジローに、また舌打ちをした。
何故かこの質問で一気に緊張の糸が切れたかのように、
周りの奴らもニヤニヤとしたり顔をしている。


「色々あんだよ。…あと、…は思ったことをすぐ口にするだろうが。」

「ん?うん、まぁな。脊髄と口の神経が繋がってんねん。考えることをせず口に出す一種の病やろ、アレは。」

「で、それが何で問題なんだよ?」

「…逐一実況してくんのもウゼェ。顔が赤いだの、ドキドキするだの…」

「顔が赤いって、跡部の?」

「…………。」


しまった、と思った時にはもう遅かった。
先程よりも、さらにニヤついた表情で、笑い始めた。
鳳までもが、肩を揺らして必死に笑いをこらえている。


「てめぇら…」

「まぁまぁ、跡部。わかる、わかるで。とおて手つないで歩くなんか、今更気恥ずかしいんやろ?」

「当たり前だろうが。」

「でもさ、じゃあがほかの奴と手つないでるの見て、跡部どう思ったんだよ。」

「腸煮えくり返ってるに決まってんだろ。」


あの光景を思い出しただけでも、今すぐこの机を蹴り飛ばしたい衝動に襲われる。
それほどまでに腹立たしい出来事だったというのに、俺がそれを伝えると
いよいよ堪えられずに、大爆笑が巻き起こった。
地面に転げまわってるジローと向日に、迷わずアイアンクローをかける。


「いてっいたいいたい!やめてって!」

「ごっ、ごめんごめん跡部!ぶふぅっ!あっ…あまりにも跡部が可愛すぎて!

「フ…フフ…ダメですよ、向日先輩笑っちゃ失礼です。」

「てめぇも笑ってんじゃねぇか、鳳。」

「あ、ちがっ!す、すいません!ちょっとその喧嘩を想像したら、心がほっこりしちゃって…!」

なめてんのか。


「もう、1年経ってんのにある意味スゴイな。」


笑いすぎて涙が出たのか、それを拭うような仕草をする忍足。
いい加減、面倒くさくなってきて次こそは本当に部室を出ていこうとしたその時。

丁度ドアが開いた。


「おーっすー……って、あ、跡部。」

「………。」

「お、来たな浮気者。」

「ちっ、ちがっ…!」

「…おい、お前ら。さっさと準備しろ。」

「へいへーい。……んふふ、ちゃん見たよー。」


俺の顔を見て青ざめる
それを無視して部室を後にする。

扉を閉めるときに、ジローが嬉しそうに
に詰め寄るのが見えた。




























「だっ、だから違うんだって!アレはタイミングが悪かったの!」

「ほな、ちゃんと跡部が納得するような理由があるんか?」

「……っ…て、ていうか!なんでこんな尋問されなきゃなんないの!?」



跡部が出て行ってすぐに、私はソファに連行され
あっという間に囲まれてしまった。
明らかに好奇心だけで動いてるに違いない皆。

こんなに身近なスキャンダルに高校生なら飛びつかないはずがない。のもわかるけど、
その対象が自分となると、急に居心地が悪くなるもんだ。


「だってー、見たでしょ?跡部ね、ちょー怒ってるよ!」

「え……、え、やっぱり怒ってた?」

「当たり前じゃん。浮気現場直接見てんだからな。」

「勘違いなの!あ、アレは…。その、昼休みに真子ちゃんたちに、ちょっと…喧嘩のことで相談してたら
 悪ノリで、手繋いでもらえないなら、吉武君に繋いでもらいなよーって…なって…。」

「吉武…ああ、その相手か。っていうか、そもそもなんでそんなに手を繋ぐだの何だので喧嘩になるんだよ。」


呆れた顔でそういう宍戸に、また心の奥にフツフツとあの時の怒りがわいてきた。


「…ウザイって言われた。」

「は?誰に?」

「跡部に…。わ、私とも手を繋いで欲しいって言われたら、接触を試みるなとか言われて…。」

「っぶふ、ふふ…う、うん。で?」

「他の女の子とは平気で腕とか組むのにだよ?で、それを問い詰めたらルックスが良い子はいいんだって!」

「……そ、それはちょっと言い過ぎですね。」

「でしょ?彼女なのにさ…。…っていうか、なんでみんな笑い堪えてんの?」

「い、いや…ごほっ…。まぁ…お前もあの跡部の彼女1年やってんねんから…わかったれや。」

「わからないよ!手すら繋いでもらえないんなら、彼女じゃないもん。……やっぱり真子ちゃんの言う通りなのかな。」


怒りの方向がどんどんわからなくなって、
ついにはお昼休みにきいた真子ちゃんのセリフを思い出して
少し沈んできた。俯く私に気が付いたのか、ちょたが優しく聞いてくれる。


「何か言われたんですか?」

「……情で付き合ってるんじゃないかって。別れても、部活が一緒だし気まずいだろうから…って。」

「「「「それはない。」」」」


真顔で声をそろえられると驚くじゃない。
相変わらず穏やかに微笑むちょたとは反対に、
なんとなく空気を尖らせている気がる忍足やがっくん。


「え…え、ない?ほ、本当?絶対?何、それ何比?当社比何%で確信してるの?」

のおかしい日本語は放っとくとして、それはないで。」

「そうだよ。っつか、もしかしてそれ言われて、じゃあ吉武の方がいいかも〜って浮気したのかよ。」

「ちっ、違うもん!そんなこと…思ってないけど、わ……私だってちょっとぐらい彼女らしく扱われたいと思っても…いいじゃん。」


いい加減悔しくて涙が出そうになる。
ここで泣くのは嫌だから、必死にこらえていると
それを見ていた忍足がわざとらしく大きなため息をついた。


「…が傷ついたんはわかった。せやけど、跡部はお前よりもっとガラスのハートなん知ってるやろ。」

「どこが!超合金記憶形状ハートだよ!仮にも彼女にあんな暴言吐けるなんてさ!」

「今日、あの光景見た後、跡部めっちゃ怖かったんだからな!」

「……あ、あの光景って、廊下で…?」

「そうだよ〜、さっきだって腸煮えくりかえるって言ってたC〜」

「や…っぱり怒ってるんだ…。」

「でも、それを言いたくないんや跡部は。なんかに夢中なのが恥ずかしいんやろ。」

「ねぇ、その後半の文章の意味がよくわからないんだけど、とてつもなく私に失礼じゃない?」


「とにかく!さっさと仲直りしろよー。跡部はあんなんだから、。お前から謝るしかないって。」

「えええええ!なんっ、なんで私が…、私だって怒ってるんだから!」


うっかり綺麗に丸め込まれるところだったけど、私だって…怒ってるんだから。
1回ぐらい跡部から謝ってもいいと思う。暴言を吐いてごめんなさい、こんなに可愛い彼女がいて
僕は本当に天下一の幸せ者だなぁ、はっはっは、ぐらい言ってくれれば私も素直に許せる気がするのに。
そんなセリフを言う跡部がいたら、迷わず総合病院に連れていくけれど。

そんな私の思いを知った上で、みんなはそれがベストな方法だと…思ったのかな。


「……私が謝ったら、なんか負けたみたいじゃない?」

「勝ちも負けもあるか。どっちかというと謝った方が勝ちやろ。広い心で受け止めたりーや。」

ちゃん、頑張ってね!部活の後一緒に帰りなよ!」

「えええ!気まずい気まずい!ちょっと、とりあえず1週間ぐらいじっくり煮込んで…」

「バカ、すぐ謝った方が良いに決まってんだろ。跡部の機嫌がずっと悪いままなんて勘弁。」


ケラケラと笑いながら、部室を後にするみんな。
一人置いて行かれた私も、すっかり遅れてしまった仕事を始めるのだった。












































部活後。

着替えを終えた私は、一足先に部室を出た。
跡部を誘わなかったことに、まわりの皆がこれでもかという程目を見開いて
何かを訴えかけてきたけど…あ、あんな皆に見られてるところで言うのはなんか嫌だった。

なので、取りあえず私は部室の外で待ち伏せをすることに決めた。
跡部が出てきたタイミングで捕獲する作戦だ。

このミッションはタイミングと運が命…。
跡部がうっかり他の誰かと出てきてしまったら全てが水の泡…。
だけど、かけるしかない…!
草むらから部室の外で待つこと5分。
跡部以外の皆は揃って出て行ってしまった。

…なんで、出てこないんだろう。
なんか中でしてるのかな?
でも今日は特にまとめる書類とかもなかったはずなのに…。


まるで泥棒のように忍び足で部室に近づいて中を覗いてみると、
何やら一人でじっと携帯を見つめている跡部がいた。

アレ…は、メール?でも打ってるのかな?

頭を抱えながら、真剣に携帯と格闘する跡部をぼんやり眺めていると
鞄が震える感覚があった。


「え……あ…、え、まさか…。」


急いで携帯を取り出すと、確かに跡部からのメールが届いていた。
あの素直じゃなくて、俺様何様の跡部が…きっと謝ろうとしてるのだろう。
直接謝らないところが、本当にあいつらしいけれど、
それでも、あの姿を見てしまうと微笑ましい言うかなんというか。

そういうちょっと可愛いところが、私は結構好きだったりする。

その場にしゃがみ込み、ニヤつく頬を押さえながらメールを開いた。















Sub:(無題)
From:跡部
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謝罪も言い訳もなしに
帰るとは、大した根性だな


神経の
図太さだけは
尊敬だ