「よーっし!じゃあ、第3班気合入れていくよ!」
「「「「おーっ!!」」」」
第3班リーダーの華崎さんの掛け声で、一斉に拳を挙げた私達。
ここは、教室の裏場。今はまだ第2班の子達が店番を頑張ってくれている。
一定時間ごとに交代をしているのだけれど、
速報によると今のところ私たちのクラスは喫茶店部門の中でも3位という
なんとも悔しい位置づけらしい。
でも、まだまだ学園祭は始まったばかり。
みんなで一生懸命準備したこの「アリスインワンダーランド!」を絶対成功させたい。
「さ、アリス女子は着替えOK?最終チェックお互いにしてねー。」
「わっ!瑠璃ちゃん、真子ちゃん…超可愛いよー!写真撮ってもいい?」
「や…やっぱり、これでお客さんの前に出るの…ちょっと恥ずかしいな…。」
「それより、。後ろのエプロンのリボン直してくれない?」
コテでクルクルと毛先を巻いた、ふわふわのヘアスタイル、そして
うっすらと中学生らしいお化粧をして、瑠璃ちゃんや真子ちゃんが、
なんだかいつもより5倍増しで可愛く見える。
主に私たちの班のヘアメイク担当をしていた華崎さんも、もちろん美しいアリスに変身していた。
私たちの喫茶店は、タイトル通り不思議の国のアリスをモチーフとした喫茶店だ。
教室の内外に鬱蒼と茂る木々を配置し、まさに「ワンダーランド」の雰囲気を作り出している。
もちろん、店員はアリスやウサギ、そしていかれ帽子屋やチェシャ猫と、バラエティに富んでる。
ありがちな設定だけに、どこかで工夫をしなければならない…と考えた私たちは、
とにかく装飾や、メニューにはこだわった。
お客さんが思わずワクワクするような、音楽に
絵本の中で見たようなお茶会の席、可愛いクッキーやティーポット。
幸い、うちのクラスは美術部や演劇部といった文科系クラブの女子が多かったので、
そのあたりに関しては、かなりの自信を持っていた。
しかし、問題は今年の喫茶店部門のラインナップ。
跡部・ぴよちゃんさま、という氷帝学園の女子を虜にする男子がいるクラス相手となると、
まず女子のお客さんはそちらに流れるだろう。
喫茶店という店の形式上、そう何軒もはしごする人はほとんどいない。
ということは、例えば学園の女子がほとんどその2店舗に取られた場合。
残されたのは、「男子」だ。
そこをピンポイントで狙っていくしかない、と決めた私たちのクラスは
男子の意見を聞きながら、確実な手法を色々と考えた。
そこで、この喫茶店でもメインとなるアリスの衣装は
男の子にデザインをしてもらった。
出来上がったデザイン画は、確かに女子が思い描く「可愛い」とは少し違って、
女子からすれば少し「恥ずかしい」ような感じだったけれど、
クラスの男子が大盛り上がりだった為、このデザインが通った。
定番のスカイブルーのスカートにフリフリの白エプロン。
スカートの丈は少し短めで、デザイン担当の西條君が「これがあれば男子は絶対来る!」
と豪語していた白いニーハイソックスとセット。
これがまた絶妙なセンスで、下品な程短くもなく、野暮ったくもない
微妙な丈に調整されている。ここは、西條君のこだわりが特に強かったところで、
学級会の時間に黒板にデザインを書き殴って、力説していたのをよく覚えている。
頭には、ぴょこんとウサギの耳のように跳ね上がった黒いリボンカチューシャ。
中に針金が入っているから、形も自由自在だ。
「はいっ!出来たよ、真子ちゃん。」
「ん、ありがと。」
「ね、ねぇちゃん。私の頭のリボン、変じゃないかな…?」
「全然!もう超可愛い、どうしよう瑠璃ちゃんのファンがまた増えちゃうね!」
「もう、そんなことないのに。ちゃんもアリスに立候補してほしかったなぁ。」
「…常々、自重しろという言葉をぶつけられているからね…、身の程はわかってるよ…!」
うちの喫茶は、ざっくり分けると、接客班と裏方班に分かれるのだけれど
私は真子ちゃんや瑠璃ちゃんとは別の、裏方班に所属していた。
主に、メニューの調理をしたり準備をする。
…自分としてはマネージャーという役職を活かして、動ける方がいいかなーと思ったのと
あとは、単純にあの可愛いデザインのアリス衣装を着こなせる勇気がなかった。
普段から、私はアイドル★なんて痛い発言をしているけれど、
いざとなると自重してしまう、完全なる内弁慶。
……でも、いいんだ。私は可愛い皆のアシストを出来れば。クラスが盛り上がればそれでいいんだ。
1人で、うんうんと頷きながら頭に三角巾を付け、Tシャツの袖をあげた。
「…よし、それじゃそろそろ班の入れ替え時間よ。」
第3班のリーダー華崎さんも、可愛いアリスに大変身して接客班を集める。
ウサギや、帽子屋に扮した男子が先頭になって店内へと出ていった。
それを見送って、私達裏方班も2班からの引継ぎを受ける。
……絶対に優勝目指すぞ!
・
・
・
「んー…なーんか、入りが悪いのよね。」
第2班と入れ替わってから、30分程が経った。
裏方班としては、ある程度は忙しかったのだけど
接客班から見た感じでは、まだまだお客さんが少ないそうだ。
跡部クラスの偵察から戻ってきた吉武君や佐竹君は、
その盛り上がり具合と集客レベルを興奮気味に語っている。
「お客さんの層としては、男子が多いの?」
「それが、あんまりなのよ。今のところ多いのは、子供連れとか
うちのクラスの友達の女子グループとか…。」
「でも、他の喫茶に男子が溢れ返ってる様子もなかったけどなー。」
第1班だった吉武君と佐竹君は、もう自由時間だというのに
率先して他クラスの偵察班をしてくれている。
その2人もやはり顔を見合わせながら、首をひねっていた。
「…ちゃんと、校内の宣伝班もいるよね?」
「うん、一応ウサギと帽子屋の格好した森地君と西條君が行ってる。」
「んー、そうなのか…。なんだろうね。」
すっかり注文も止んで、手の止まってしまった裏方班。
そして、考え込む偵察班にリーダーの華崎さん。
…折角、頑張って作ったのにそもそも来てもらえないのは寂しいな。
色々と作戦も練って、上手くいくと思ったんだけど…。
何かが間違っていたのかな…。
「…あのさ、私ちょっと校内見回ってきてもいいかな?」
「え、うん。それはいいけど……。」
なんとなくどんよりした空気の中で、手を挙げると
華崎さんが不思議そうな顔をした。
偵察班の2人も、私の言葉を待つように視線を向ける。
「もしかすると、どこかのクラスでイベントとかやっててそこに取られてるのかなー…って。」
「…なるほど、もしそういうところがあれば、宣伝班向かわせて…。」
「うん、このままで終わらせたくないしね!出来ることがないか探してみよう!」
「…わかった!じゃあさんと、吉武君佐竹君にお願いする。店内は任せて。」
無言でしっかりと頷き、私達3人は教室を飛び出した。
自然と速足になってしまうのは、やっぱり焦りがあるからかもしれない。
・
・
・
「…特に変わったイベントしてるところはなさそうだねー。」
「うん、他に男子が固まってるような場所もないみたいだし…。」
「…っくそー、何が足りねぇんだよ…。」
佐竹君が大きなため息をついて、座り込む。
体育館周辺から中庭まで色々と駆け巡ってみたけれど、
解決策は見つからなかった。
模擬店で賑わう中庭周辺のベンチで、項垂れる3人。
フと顔をあげると、うちのクラスの宣伝隊男子2人が懸命に看板をかかげていた。
…来てくれたら絶対満足させる自信があるのに。
何が足りないのかな。
なんとか原因を考えようとしていると
隣のベンチに座った男の子2人の会話が聞こえてきた。
「あー、次どこ行くよー。」
「なんか食べたいな、喫茶とか行く?」
「喫茶かー、そういやさっきアリスの宣伝してたな。」
「コスプレ男子2人な。でもなんか…あんまり、そそられないんだよなー。」
「わかるわ。せめて可愛い女の子でもいればなー。」
「さっきチラっと廊下でそのクラス見たけど、なんか外観がめちゃくちゃメルヘンだった。」
「あー、確かにあれは男子同士では入り辛いよな。」
自分たちのクラスの噂話というだけで、体が強張ってしまう。
…そうか、そんな風に思うんだ男の子って。
……でも、あれ、なんかヒントになるかも。
私たちが狙っていた客層である男子があまり来ないというのは、
今となっては完全にどこかで予測がずれていたんだ、とわかる。
じゃあ、その男子がこない理由は?
今の会話を聞く限り、まずは宣伝のインパクトの薄さ。
…確かに私たちが1番こだわった部分でもあるメインの「アリス」ではなく、
その他の男の子たちを見ても、もしかすると良さは伝わってないかもしれない。
…つい店内にアリスを配置することばかりに気を取られていた。
そして、もう1つこだわった部分である外観。
……これは完全にミスだ。
絞った客層が男子なのにも関わらず、女子中心の準備班で可愛さをつきつめた結果
男子同士では入り辛いものになっていたんだ…。
「…っどうする…考えないと…!」
「ん?どうしたのさん。」
「……2人とも、ちょっと聞いてもらっていいかな。」
でも、ここで何もしなければ負けを待つだけだ。
原因がわかったんだから、一刻も早く対策をしなければ
私たちのクラスに未来はない。
賑やかな中庭のベンチで、3人だけの作戦会議を始めた。
「…すげぇ、さん。めっちゃ頭キレてるじゃん!」
「いや、たまたまさっき隣に座ってた男の子たちの会話が聞こえただけで…。」
「それでもナイスだよ!早速対策考えようぜ、早くしないと!」
「うん!まずは…宣伝からだよね!一旦あの宣伝班の2人も連れて教室に帰ろう!」
・
・
・
「…なるほどね、悔しいけど尤もな意見だと思うわ。」
「そうなの!可愛い女の子ならたくさんいるし、ちょっと店内は手薄になるかもしれないけど…
でも、今このタイミングで戦法を変えないと…!」
教室に戻り、早速リーダーに話をする。
やっぱりまだまだお客さんの数は少なくて、裏方には手の空いたスタッフがわんさかいた。
神妙な面持ちで何かを考える華崎さん。
「…わかった、宣伝班を変えよう。瑠璃と真子ちゃんに行ってもらう。
後は、美術部の4人娘も宣伝班として送り出すわ。」
「さ、さすがに一気に6人抜けるのは問題じゃね?」
「いや、この広い校内で目立つには出来るだけ広範囲で宣伝しないと。
確かに店内は手薄になるけど…それはまぁ、どうにでもなるし。」
顎に手を当てて、独り言をいいながら何やら考えるリーダー。
華崎さんは、とにかく頭がいいからこういう時本当に頼もしいなって思う。
「…問題は、男子が入りたくなる喫茶作り…よね。」
「うん…、でももう今更外観を変えるなんてことはできねぇし。」
「そういえば、跡部のところは跡部のライブで集客できてるんだよな。」
「それは、跡部様にしか出来ない方法だもん。………何か男子が飛びつくイベントがあれば…。」
うーん、とまた考え込む。
裏方班の皆も一緒に考えてみるけれど、中々いい案が思い浮かばず
やっぱりどんどん沈んだ空気になっていく。
……何かないかな…。
男子、男子…。んー、女の子と握手…違うな、アイドルじゃあるまいし…。
握手……手……。
「……あ。」
「…ん?何、さん。」
「……アリスに腕相撲で勝ったら、ドリンク1杯分無料プレゼントー!とかどうかな……な、なんちゃって、アハハ。」
つい口をついて出てしまった単語に、顔が赤くなる。
なんだ、腕相撲って…全然可愛くないし…!
特に反応のない皆の顔を見て、急いで取り繕う。
あー、こういうのちょっと恥ずかしいな…!
なんとか話題を私の提案から逸らそうと、焦っていると
華崎さんが、目線だけを私に動かした。
「……待って、それ…いいかもしれない。」
「……俺もそう思った。だって、そういう特典とかあればちょっと行ってみるか、って気になるし…。」
「それに、アリス相手に腕相撲だったら男子的には勝てるし、嬉しいし…いいことづくめだよな。」
「…ドリンクなら、お陰様で悔しいほどに在庫があるわ。あとお茶菓子に用意してたお土産用のクッキーも!」
「他の喫茶ではそういうゲーム的なことやってないだろうし…男子にはウケるかも!」
ポっと出た発言で、思いの外みんなの意見がまとまった。
よくやった!と私の両肩をバシンと叩いて、目をキラキラさせる華崎さんに、
私も何かクラスの役に立てたんだ、と嬉しくなる。
学園祭も時間的に折り返し地点。
遅すぎたかもしれないけど、今、ここにいる皆の顔を見ると
誰も諦めている様子はなかった。
「篠野君、田島君、すぐに宣伝用看板を作れる!?」
「任せて!」
「さん、1班・2班のアリスに連絡して協力出来る子探して!」
「わかりました!」
「宣伝班も今より増やそう!メインのアリス達以外は裏方班の手伝いに回って!」
「OK!」
テキパキと指示を出す華崎さんの大きな声は、不思議な力がある。
なんとなくだけど、これからお客さんがいっぱい来てくれそうな…
そんなポジティブな気持ちにさせてくれるんだよなぁ。
バタバタと皆が動き出す中、私は何故だかドキドキしていた。
……青春って感じ…するよ…!
これが成功したら…この作戦が上手くいったら、絶対みんなで打ち上げしようね!
なんて、場違いな発言をする私を見て、皆の笑い声が響いた。
・
・
・
「吉武君、中庭の方はどう?」
「アリス宣伝班めちゃくちゃ人気!かなり食いついてるよ!」
「…良かった、上手く喫茶まで誘導してね!」
「了解!」
ピッと、華崎さんが携帯を切った。
固まる私達裏方班に、無言でガッツポーズをする。
その瞬間、ワッと喜ぶ私達。
そして、廊下を覗いてみるとどんどん男子が集まってきていた。
「よし!まだ諦めないわよ!」
「「「「おーっ!!」」」」
もう一度、今店内にいるメンバーで円陣を組み
各持ち場へと繰り出す。
私が連絡した1班と2班の手の空いた子達も何人か戻ってきてくれた。
…大丈夫、きっとうまくいく!
そう信じて、私はまた三角巾を巻き直した。
「…っ大変!アリスが足りない!」
切羽詰まった様子で裏方に飛び込んできた華崎さん。
新たな宣伝班を派遣してから約20分。
どんどん集まる男子達に、次は店内がバタつき始めていた。
「い、今店内にアリスは何人いるの?」
「全部で3人、とてもじゃないけどこの3人でウエイトレスも腕相撲もっていうのは厳しい…。」
新たに設置された腕相撲ゾーンは、ウサギといかれ帽子屋に扮した男の子達が
大いに盛り上げていた。クラスで彼女にしたいランキング堂々のV3を果たした
坂部さんが今は1人で腕相撲を頑張っている。
もちろんお客さんにはそれがとても好評で、列はどんどん長くなっていってる。
「…じゃあ、宣伝班のアリスを戻して…!」
「それも出来ないらしいの、すっかり外でお客さんに囲まれてるって…!
それに、盛り上がってる状況で今戻ってこさせるのはあまり得策じゃないし…。」
「……うう、どうしよう。せめてアリス3人は腕相撲に徹してもらって、私達裏方が食事運んだりしようか?」
「…………あ。」
「え?」
「…こんな簡単なことになんで気づかなかったんだろう、私ってば。」
急にケラケラと笑い始めた華崎さんが、いよいよ心配になる。
忙しすぎて壊れてしまったのだろうか、と駆け寄った私の腕をガチっと掴んだ。
「…裏方班の女子がいるじゃない。」
「……え?」
「さんに、七瀬さん、盛郷さんも!3人もいれば余裕だわ!」
「…え?」
また、目をキラキラと輝かせる華崎さんに名指しをされた私達は固まった。
……ものすごく嫌な予感がする。
「篠野君、今すぐ倉庫からアリスの衣装3着持ってきて!」
「わかりました!」
「ちょっ…いや、あの私たちは裏方班で…!」
「今1番人材が必要なのは、間違いなく腕相撲をしながら、ウエイトレスをするアリス。
もうつべこべ言ってる状況じゃないの、わかるよね。」
ギロリと睨まれた私たちは、首振り人形のようにコクコクと頷くしかなかった。
……っく…でも、…でもあの衣装を…着るのか…
まぁ、でも宣伝班みたいに不特定多数に見られる訳じゃないし…
私が、アリスの衣装を着たくない1番の理由である
テニス部のメンバーにも恐らく見られることは…ないと信じたい。
いや、そう信じ込むしか道はない。
ああ、神様。
私、もう何も望みません。
ぴよちゃんさまの裸体写真も、がっくんの使用済みタオルも望みません。
だからお願いです。絶対に最悪の結末だけにはなりませんように。
・
・
・
「ほら、これでどう?可愛くなったよ。」
「…え、えへへ、そうかな。」
倉庫で着替えを済ませ、華崎さんにヘアメイクを施してもらった私達。
目の前の全身鏡に自分を写してみると、
………思ったより悪くないんじゃない?
これも学園祭の浮かれたマジックの所為なのかわからないけど…。
よくデイズニーランドに行くと、何のためらいもなく
普段つけるには恥ずかしいような耳のカチューシャをつけちゃったりするような…
そんな感覚なのかもしれない。
いつものぼさぼさ頭+ジャージ姿の私に比べれば
少しは女の子らしく…なったかもしれない。
クルリと鏡の前で一周回ると、ふわっとスカートが広がった。
ほんの少し憧れていたアリスの姿に変な笑顔で笑っていると、
華崎さんが早くしろと叫んだ。
「いらっしゃいませー!3名様ですね!」
「お、マジでアリスがいっぱいいる。」
「へー、可愛いー!」
「うふふ、ありがとうございまーす。」
店内に戻ると、その瞬間からテキパキと動き始めた華崎さん。
元裏方班の私たちはというと、少しぎこちなくもあったけれど、
3人で無言で頷き、覚悟を決めた。
「よし…っ、頑張るぞ。…ふぅ、せーの……いらっしゃ「うっわ、なんだよその格好!」
神は死んだ
「お帰り下さい、そして今日の記憶は即刻お忘れになってください。」
「折角遊びに来たったのに、なんやねん。はよ入れてーな。」
「うわー、ちゃんマジ可愛E〜!写真撮ろ、写真。」
わらわらと店内に足を踏み入れるテニス部メンバー。
1人だけならまだ大丈夫だった。
しかし、「群れると騒ぐ」という最悪な習性を持ち合わせたこいつ達が
最悪のタイミングで、考えうる限り最も絶望的なメンバーで襲撃してきた。
ニヤニヤと頭の先から足の先まで見つめる忍足に、
ゲラゲラと笑い転げるがっくん、無断で写メを撮り続けるジロちゃんと宍戸。
「…っこの「さんダメ!お、落ち着いて!今はアリスだから!」
恥ずかしさも手伝って、つい暴力に走ろうとする私の腰に
同じ裏方班アリスの七瀬さんが飛びついた。
その心配そうな瞳を見て、なんとか冷静さを取り戻した私。
…うん、そうだ。今はアリスなんだ。
誓ったはずじゃないか、このクラスを絶対に成功させるって。
七瀬さんと手を取り合い、無言で頷く。
「…4名様ですねっ☆早速、ワンダーランドへご招待しちゃいますっ♪」
「「「「ぶふぅっ!!」」」」
キラリンと光る渾身のアイドルスマイルで対応すると、
即座に吹き出し床に這いつくばって笑い転げる4人。
…っく、我慢…我慢だ、…!
これは仕事、私はアイドル。そうだ、演じきるしかないんだ、もう…!
顔は笑顔で、右の拳を爪が食い込むぐらいに握りしめながら
私は4人をテーブルまで案内した。
「ヤバイわ、めっちゃ殺傷能力高いで、あのアリス。」
「明らかにのアリスだけ、他のアリスに比べて異質だろ…。」
「動きが完全にいつもの、ガニ股大股のちゃんだもんね〜。」
「の黒歴史決定だな。」
・
・
・
「ご注文はいかがいたしましょうかっ?オススメはこのアリス特製☆ラブベリージュース〜熱湯地獄篇〜だよぉ!」
「どこにもねぇじゃん、そんなサブタイトル!」
「うるさいわね、さっさとしてくれませんか。」
「うーわ、最悪やこのアリス。夢壊されたわ、クレーム入れたる、クレーム。」
小声でボソっと言った言葉に過剰反応して、ブーブー文句を垂れる忍足。
宍戸に至っては、俺はあの七瀬さんアリスが良かった等と無慈悲な発言をしたから
見えないところでみぞおちにパンチを放り込んでやった。
とにかく、このテーブルにさっさと料理を運んで、
帰ってもらいたい。この姿を見られてるだけでも、私のHPがガリガリ削られていく。
「んじゃぁねー、このミラクルティーセットにする!」
「おう、俺もそれでいいや。」
「よし、じゃあ皆それね。最後に、アリスと腕相撲して勝てればドリンク代無料になるので
頑張ってくださーい。」
伝票に殴り書きをしながら、マニュアル通りの言葉を投げかけると
ピタッと皆の動きが止まった。
「…ん?何?」
「…え、アリスと腕相撲って…も?」
「いや、今の時間はあの坂部さん。」
「よ、良かったー。と腕相撲とか、下手すると腕もってかれるもんな。」
「ほんまやで、なんでわざわざ金払ってまで罰ゲームせなアカンねんな。」
「でもでも、あのアリスちゃんなら腕相撲してみたいかもー。」
「せやな、めっちゃ可愛いやん。見てみーや、あの負けた時の顔がたまらんわ。」
「だったら、勝ち誇ってチャンピオンベルト掲げるボクサーみたいに拳掲げてるだろうな。」
ゴスッッ
「…注文は以上ですね、少々お待ち下さぁい☆」
木の机を殴った拳は不思議と痛くなかった。
ゲラゲラと机を叩いて笑っていた4人は、無言で私の営業スマイルを見つめていた。
…あいつら…好き勝手言いやがって…!
わかってるよ…そりゃ、私がこんな可愛い服着たって、所詮は
可愛い衣装着たメスゴリラにしか見えないって重々承知だよ!
しかし、そんなことで言い争っても仕方ない。
今は自分の気分で動いてちゃダメだ、皆のために…クラスのためにも…頑張る。
そう心に誓いながら、少しだけ女の子らしい歩き方を心がけた。
「なぁなぁ、アレさんだよな?」
「あ、お前も思った?なんかいつもとギャップありすぎて…、結構可愛くね?」
「おう。ってかさんさ、めちゃくちゃ動き良すぎて…」
「気になるよなー、あのスカートなー。マジでこの喫茶来て良かったわー。」
「…なんかさー、さっきからちゃん見てる奴多すぎるんだけどー。」
「皆わかってへんわ、は外見を着飾っただけのまやかしやのに…。」
「でもさ、ほら見てみろよ、アレ。」
ズコズコとドリンクを吸いながら、向日が指さした方向には
懸命に接客をするがいた。
「……俺たちにはあんなに笑顔じゃなかったC〜!」
「…普段一緒に居すぎて感覚麻痺してるけど、もしかしてってまぁまぁ可愛いのか?」
「いや、でもそれを認められるほど俺人間出来てない。」
「せやで、確かにメイクもしてあの衣装着て取り敢えず女子には見えるけど中身はや。」
「……そう言われると、途端にテンション下がるんだよなー。」
・
・
・
「いらっしゃいませっ!ご注文はいかがいたしましょうか?」
「おっ、可愛いアリスー。」
「かっ、かわっ…え、本当ですか?社交辞令とかじゃないですよね?」
「本当可愛い可愛い。ラッキーだよな、こんな可愛いアリスと話せてさ。」
段々と接客にためらいも無くなってきた時。
氷帝のOBっぽい先輩達から、嬉しすぎる言葉をもらった。
可愛い…、ということは、私もちゃんとこのアリスインワンダーランドの中で
アリスとしての役割を果たせてるんだよね…!
がっくん達が私を見た時のあの失礼すぎる爆笑を思い出して、
少し涙ぐんでいると先輩たちが笑った。
「ねぇ、あの腕相撲って指名できるの?」
「え?いや、一応時間制ですけど…。」
「えー、俺は君と腕相撲したいんだけどなー。」
そう言って、私の手をギュっと握った先輩。
見ず知らずの男の人に触られるという経験が無さ過ぎて
一気に恥ずかしくなる。どんどん顔が赤くなって、どうしようかと焦っていると
握られた右手に衝撃が走った。
「…いでっ!…っつ…なんだよ、お前!」
「兄さん達、命知らず過ぎやわ。」
「そうだぜ、そんなヒョロヒョロの腕でと腕相撲なんかしたら1秒でKOだし。」
「ちょっ…な、何?」
いつの間にか私の右手を掴み上げる忍足に、
先輩相手にとんでもなく失礼な言葉遣いで、あることないこと吹き込むがっくんに宍戸。
ジロちゃんは何があったのか、私の腰にギュっと抱き付いて恨めしそうに先輩を見ている。
「ちゃん、大丈夫ー?この変なお兄さんに触られて気持ち悪かったよねー。」
「ジッ、ジロちゃん失礼でしょ!」
「…なんだよ、こいつら。」
「お前もちょっとは抵抗しろや、アホか。」
ポコンッと私の頭を叩いて強制的にテーブルから離れさせようとする忍足。
……もしかして、今の見てて…助けてくれようとしたのかな?
「…あの、お客さんの前だから…あんた達が私を大好きなことは十分わか「別にそんなんじゃねぇし、調子乗んなよ!」
「…いや、ふふ、わかってるよ。私が誰かに取られるのが「単純にこの先輩たちのか細い腕が心配だっただけだっつの。」
「……いい加減ちょっとは素直に「言っとくけどさっきから見とったらのアリスが1番キツイで。」
「うるっせぇぁあああっ!いい加減にしなさいよ!」
「ぐふぇっ、ギブギブ…!ギブや!」
フェイスロックをきめるアリスに、若干引く先輩達。
急いで止めに来た華崎さんに気付いて、何とか落ち着いた。
すぐに先輩達には謝罪して、その場を後にする。
裏場で華崎さんに叱られてしまった、もちろんテニス部の4人も一緒に。
「じゃあ、ちゃん。俺たち帰るけど、気を付けてねー!」
「自分いつもの癖でガツガツ歩いとったら、そのたくましい太もも丸見えやから注意しときや。」
「お、大きなお世話!…でも、まぁ、ありがと。来てくれて助かったよ。」
華崎さんにこってり絞られた後で、4人を廊下まで見送った。
まだ口々にムカツクことを言ってるけど、なんだかそれが全部
過保護なお母さんの小言みたいに思えて、ちょっと笑えてきた。
…なんだかんだ言って、売り上げには貢献してくれた訳だし。
取り敢えず、最後ぐらいは皆で決めたマニュアル通りの対応をしてやるか、と
スカートを広げて、御淑やかにお辞儀をするとまたゲラゲラと笑われたから、
シャイニングウィザードをお見舞いした。華崎さんに見られてなくて本当良かった。
・
・
・
「ちゃん、申し訳ないけど腕相撲係変わってもらっていいかな?」
「え、あ、うん!わかった!」
「一応、男の子相手だけどハンデはあるし…腕が痛くなったらすぐ言ってね。」
さっきまで腕相撲係で、大人気だった七瀬さんに裏場で声をかけられた。
…ついに回ってきたか、私の番が。
皆、可愛いから男の人も喜んで腕相撲してたけど…
私だったらガッカリされたりしないだろうか…
そんな不安がよぎったけれど、やるしかない。
案内された通り、腕相撲が開催されている場所に向かうと
既に何人かの列が出来ていた。
「さぁっ、お待たせいたしました!次のアリスの登場でーす!」
「、テニス部マネージャー!3年E組のリーサルウエポン、ついにお披露目です!」
盛り上げ上手な司会者男子2人に招かれて椅子につく。
パチパチと響く拍手に、照れながらもペコリとお辞儀をする。
……七瀬ちゃんの時は、E組の一輪の可憐なバラ、
華崎さんの時は、E組の才色兼備代表、なんていう素敵な肩書だったのに…
リ…リーサルウエポンって全然可愛くない…!
そんな私を気にすることなく、1人目の対戦相手が椅子についた。
軽くお辞儀をして、ガシっと手を組み合う。
相手はたぶん1年生の男の子。
やっぱり、知らない男の子とガッチリ手を組むなんて、慣れてなさ過ぎて
ちょっと恥ずかしいけど…勝負事だもん、頑張らないと。
「では、アリスにはハンデが与えられます!はい、30度傾けてー…はい、ここからのスタートです!」
…なるほど、これがハンデか。
あと少し倒せば勝てちゃいそうなその距離に、ますます闘志が湧き上がった。
きっと、アリスとしては可愛く負けるのが正解なんだろう。
でも…、こんな時に私の勝負ごとに対する変なポリシーが邪魔をした
「それではいきます!レディー……ゴォッ!!」
・
・
・
「おい、3-Eの喫茶なんかめちゃくちゃ人気らしいぞ!」
「え、アリスのとこ?なんで?」
「何か、男子相手に28連勝達成してるゴリラみたいなアリスがいるらしい!」
「マジかよ、なんだそれ。」
「誰が最初に勝てるかって、めっちゃ盛り上がってんだよ、行ってみようぜ。」
「…跡部さん。今、走って行ったの…」
「ああ、E組って…のクラスだな。」
「何か人気のようですね、さっきまでは閑古鳥が鳴いてたらしいのに。」
「……行くぞ。」
「はい。」
「おーっと、ついに…っついに35連勝!」
「誰も敵いません、まさにキングオブアリス!力技で捻じ伏せる最強アリスの爆誕だぁぁ!!」
「ちょ…森地君、も、もうちょっとメルヘンな雰囲気の感じでいくのは難しいかな…?」
「この勢いを止められる男子は現れるのか!?さぁ、次の方どうぞ!」
いつの間にか、男子がわんさか並んでいる。
なんと、あっという間に連勝記録を更新してしまったらしい。
確かに皆、強い。
強いんだけど、アリスに与えられるハンデが大きすぎて負ける気がしない。
こんなに連勝してたら、皆気を悪くするんじゃないかと思ったけれど
途中で吉武君から聞いた情報によると、
噂が噂をよんで、どんどん男子がこの喫茶に集結しているらしい。
だから、なんとか全勝目指して頑張ってくれ!
いたいけなアリスに、滅茶苦茶な望みを託して走り去った吉武君。
段々と腕も疲れてきたから交代もしたいけど…
でも、取り敢えず出来るところまでは頑張ろう。
気合を入れるために、水を飲みフーっと深呼吸していると
急に歓声が上がった。
「え、何………うー…わ…。」
「よぉ、。随分滑稽な恰好してるじゃねぇか、罰ゲームか?」
「お…おおおっと、これは!氷帝のキングだぁああ!」
「テニス部では毎日のように高度なプロレス技が繰り出されているという、
名プロレスラー同士の世紀の対決!ついに記録ストップなるかー!?」
「ちょ、ちょっと森地君、女子の名誉に関わる捏造はやめてください…!」
「先輩は、裏方じゃなかったんですか?」
「ぴ、ぴよちゃんさまも来てたの…!っく…これは…仕方なくって…。」
「いいから、早くしろ。1秒で仕留めてやるよ。」
ドカッと椅子に座る跡部に、それを後ろから見守るぴよちゃんさま。
ゴキゴキと手首を鳴らす跡部に、さすがに冷や汗が流れる。
……こいつは、絶対本気でやる奴だ。
今までの男の子は、なんだかんだ最初は女子相手だからと
気を抜いてくれていた。そのおかげで開始直後に速攻で捻じ伏せることが出来たけど、
跡部の辞書に手加減の3文字は載ってない。こいつの容赦無さはヤバイ。
「…なんだ、ビビってんのか?」
「そ、そんな訳ないでしょ。」
既に机の上に腕を置いて、挑発する跡部。
…絶対に勝てると思ってるその顔が憎たらしい。
「…?お前、メイクしてんのか。」
「え?…え、ああ、ちょっとね。」
「……ふーん。」
「……何。」
「…お土産でもらった不細工なマトリョーシカにそっくりだ。」
「森地君、今すぐゴングを鳴らして。こいつの腕ごとへし折ってやるわ。」
腕をセットすると、ギリッと握られる手のひら。
ギャラリーから黄色い悲鳴があがる。
すぐ目の前にある跡部の顔は、不敵に微笑んでいた。
………絶対に負けない。
キっと睨み付けると同時に、森地君の手のひらが触れた。
「それでは、ハンデをセットして…いきます。レディー…ゴッ!!」
ゴングがなった瞬間、沸き起こる歓声。
でもほとんど頭に入ってこなかった。
必死に手首をねじ込んで跡部の掌を押し返すけれど、
やっぱりさっきまでの男子達とは全然違う。
ピクリとも動かない膠着状態。
段々と汗がにじんでくる、必死になって腕ばかり見ていたけれど
フと跡部の顔を見てみると、ばっちりと目が合った。
綺麗な青い瞳に一瞬心臓が止まりそうになる。
…こ、こいつ笑ってる…。
「…もう、いいか?」
「え…。」
まるで子供の遊び相手をしているような、余裕の笑みで
そうつぶやいたかと思うと、一気に右手が変な方向に曲がった。
「…っ!!」
「……へぇ、粘るじゃねぇの。」
ギリギリと私の腕を倒す跡部に、また会場が沸く。
司会の森地君の興奮気味の声だけが頭にガンガン響いた。
「…っ…たっ…。」
連戦の負荷がここになってかかってきた。
もう手首に力なんて入らなくて、なんとか腕の力だけで耐えている。
手首と地面との距離はわずか2cm程。
問答無用で力を入れる跡部に、負けたくないという思いだけがどんどん強くなる。
キっとせめてもの抵抗で跡部を睨むと、少しだけ驚いた顔をしていた。
「…は、やく諦めたほうがいいんじゃねぇか?」
「……っ、そんなの…無理…だよ…っ!」
「……。」
ここで負けたら、なんとなくこのクラスまで負けてしまう気がした。
誰にもそんなこと言われてないし、ただの私の意地だったけど
それでも、諦めたくなかった。
汗もダラダラだし、涙目になるし、周りからみたら
絶対今、私ものすごい形相してるし…
でも…最後まで…!
力を振り絞って腕全体で、跡部を押し返すと
まるで嘘みたいに軽かった。
一瞬の隙を見逃さずに、そのまま最後まで押す。
跡部の手の甲がバチッと床についた。
「だああらっしゃぁああああどんなもんじゃぁああい!」
思わず反射的に亀田兄弟のような雄たけびと共に拳を振り上げた。
「……す、…すごい…逆転!逆転勝利です!」
わぁっと、今までで1番の歓声があがる。
勝てたという事実が嬉しすぎて、私は見守っていてくれたクラスメイト達と
飛び上がって喜んでいたけれど、フとみるといつのまにか2人とも消えていた。
ますます湧き上がるギャラリー。
…あの跡部に勝ったとなれば、どんどんお客さんが集まってくるだろう。
……でも。
一旦、10分休憩を森地君に申し出ると快く許してくれた。
並んでいる男の子たちに一言謝って、私は教室を飛び出す。
・
・
・
「跡部!」
「………アーン?」
やっぱりまだ遠くには行ってなかった。
ぴよちゃんさまと2人で歩く後ろ姿を見つけて、思わず駆け寄る。
「…あの、あ、ありがと!」
「…何がだ。」
「その…わざと負けてくれたんでしょ。」
「………。」
「…喫茶部門のライバルだから、余計に必死になっちゃって私…。」
「……。」
「跡部は絶対容赦なく腕を折るつもりでかかってくるだろうと思ってたんだけど、でも…違った。」
なんとなく、跡部なんかに素直に御礼を言うのが恥ずかしくて衣装のスカートをギュっと掴む。
目の前の跡部とぴよちゃんさまは特に何も言わずに、じっとこちらを見ているだけだった。
「…きっと、これでどんどん挑戦者が増えると思うし、その、本当ありがと。」
私が想像していた以上に大人だった跡部に、
心からの感謝を伝えたかった。直角に頭を下げて、最大限の感謝を伝えると
頭の上から、思いもよらない言葉が降ってきた。
「…別にわざと負けた訳じゃねぇよ。」
「……え、そうなの?でも、じゃあ何で急に力抜いて…。」
「お前の形相が必死過ぎて力が抜けたんだよ。」
「……ん?」
「マトリョーシカがぷるぷる震えながら鼻息荒くしてるの見たら、笑っちまうだろ。」
思い出し笑いをしながら、肩を震わせる跡部に、
つられてクスクス笑うぴよちゃんさま。
そして、勝手に感動の良きライバルストーリーだと勘違いして
跡部に精一杯の感謝を送っていた自分。
は……恥ずかしすぎる…!
確かにあの時物凄い顔をしていたであろう、必死な自分を思い出すと
もう今すぐにでもこの場から逃げ出したかった。
「……っ、っく…へ、変な顔で悪かったですね!バーカ!
跡部なんか一生私に腕相撲で負けたという不名誉な烙印を背負って生きていけばいいのよ!」
…く、悔しい…!
ちょっとでも跡部を見直した3分前の自分に喝をいれてやりたい…!
完全に小物臭の漂う悪口を吐きながら、走り去る私を見て
2人はまだ笑っていた。
「……跡部さん。」
「なんだ。」
「…俺は見てました。」
「…アーン?」
「先輩が負けそうになった時に、一瞬涙目で跡部さんを睨んだ時…」
「………。」
「顔を赤らめていましたね。」
「誰が。」
「跡部さんが。」
「………バカじゃねぇのか。」
「俺の目はごまかせませんよ、ハッキリとその瞬間跡部さんの腕から力が抜けてました。」
「うるせぇな、お前の勘違いだ。……それを言うなら、日吉。」
「…なんですか。」
「最初に店内でを見つけた時、明らかに動揺してたな。」
「……してませんけど。」
「ッハ、のあの衣装を舐めまわすように見てたじゃねぇか。」
「だっ、誰が舐めまわすように見るっていうんですか!言いがかりはやめてください!」
「はいはい、わかったわかった。」
「ちょっと…、間違っても先輩に変なこと言わないでくださいね。」
「図星だって認めてるようなもんじゃねぇか、バーカ。」
「っく…!!減らず口を…!」
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