第1体育館の中央にどどんと設置された円形の舞台。
ポツンと置かれた司会台。
舞台の上部に360度見えるように設置された
3台の大画面はさながらライブ会場のようだ。

その舞台を取り囲むように、ひな壇型に設置された座席。
この巨大な学園の生徒全員が座るためには、普通に椅子を並べるだけでは
とてもじゃないけど収まりきらないので、こういうセットになっているんだと
去年真子ちゃんに聞いたような気がする。

専門の業者の方が設置してくれるライブセットのような会場を見て、
生徒だけじゃなく、学園も学園祭に相当力を入れてるんだな、と毎年思う。
実際に、今日学園祭に来ていた「氷帝学園関係者」の外来者の数が
毎年増えているのも、頷ける。

各クラスの先頭に置かれたプラカードに従って、
出席番号順に着席していく。
ざわつく体育館。



「…ヤバイ、ちょっと吐きそうなぐらい緊張してきた。」

「なんでよ、もう結果は出てるんだから。」

「ま…真子ちゃんはやっぱり冷静だよね…!もし入賞出来なかったらとか…思わない?」

「……大丈夫、やるだけのことはやったし。」

「そうだよ、それに俺めちゃくちゃ楽しかったし。」

「吉武君…。」


ぞろぞろとひな壇に着席する私と真子ちゃん。
男子と2列に並ぶと丁度隣あたりにくる吉武君が、得意の爽やか笑顔と共に私の肩をたたいた。


「そうだよね、うん!…確かに、お客さんがいっぱい入ってきてくれた時は
 すっごく楽しかった気がする。」

「でしょ?それでいいじゃん。」

「……でも、やっぱり勝ちたい。優勝したら絶対もっと嬉しくなれる。」

「なんだかんださんもテニス部なだけあって、勝利には貪欲だよな。」

「だよね、テニス部入る前はそこまで強気じゃなかったよ、って。」

「そ…そんなことないと思うけど…。」


クスクスと笑いあう吉武君と真子ちゃんに、少し恥ずかしくなる。
…私が勝負ごとに執着するのは、元々だと思ってたんだけど
ずっと一緒にいる真子ちゃんから見ても、変わったっていうなら…そうなのかもしれない。

テニス部という言葉に、つい皆の顔を思い浮かべてしまう。
……やっぱりテニス部員のクラスはかなりの強敵揃いだった。
結局、レギュラー陣のクラスは全部見て回ったけど
思い出してみても、どれもハイレベルなものばかりだった。


「まぁ、でも今年は激戦だろうね。部門優勝だけでも難しそうだし。」


腕を組んで、ぼんやりと真ん中の舞台を見つめる吉武君が呟いた。

この学園祭投票には2つの表彰がある。
1つは部門表彰。各部門ごとで1位を争う。
今年は、演劇・ダンス部門、喫茶部門、模擬店部門、縁日・ゲーム部門の4部門だ。

そして、その部門も関係なく投票数がトップだったクラスに贈られるのが
「学園祭最優秀賞」という名誉。
総合優勝すると、1年間学食無料の超プレミアパスと、トロフィーが手に入る。

今年は3年生ということもあって、優勝に向かって皆で走り続けた。
でも、それは他のクラスだって同じ。
どのクラスが優勝してもおかしくない、そう思える程細かなところまで気合が入っていた。


考えれば考えるほど、緊張してしまってギュっと真子ちゃんの手を握ると
少し苦笑いして握り返してくれた。







「さぁさぁ皆様!ついにこの時間がやってきてしまいました!
 氷帝学園祭のメインイベント、学園祭投票結果発表ー!」



会場内の照明が落ちて、舞台上のスポットが眩しく輝く。
司会台に立ったのは、開会式の時と同じ放送部部長の間中君。

体育館が歓声で揺れる。
何の誇張でもなく、本当にビリビリと揺れるような大歓声だった。


「それでは、今年が初めての1年生の為にも説明させていただきます。
 今回の総投票数は過去最多の5747票!学園祭に参加した全ての生徒の投票と、
 氷帝学園のOB・OG、そして現役生徒家族の外来者からの投票を合算した集計です。」



過去最多投票という言葉に、心臓がキュっと縮まるようだった。
大きな歓声に、間中君が微笑みながら間を置く。


「まずは、部門毎に上位3位までを発表します。見事上位入賞したクラスには
 学園長より表彰状が授与されます。」

「そして、この2014年氷帝学園祭の頂点に立つ最優秀クラス…。
 部門の垣根を越えて、最も票数を獲得したクラスが今年のチャンピオンとなります!」



叫ぶように言い切った間中君に、また大きな歓声があがる。
3面の大画面に写された間中君のドアップを眺めながら、
真子ちゃんの手をさらに強く握りしめた。


また段々と歓声が静まってきたところで、
ゆっくりと間中君が息を吸った。











「…それでは、各部門発表にうつります。」



「ど…どどどどうしよう真子ちゃん、息が…!」

「っぷ、落ち着きなって。ほら、深呼吸。」

「…ふー………、うん…、吐きそう。」

「…そんなに自信無いの?」

「あ、ある!優勝できるって思ってるよ!」

「…じゃあ堂々としてなよ。」


バシッと私の背中を叩く真子ちゃん。
その一発で、不思議と緊張が収まった。

盛り上がる体育館の中で、真子ちゃんと目を合わせてそっと頷く。
……大丈夫、私たちのクラスを信じよう。
目をゆっくりと閉じて、もう一度深呼吸をした。


「まずは…縁日・ゲーム部門の発表からです!」



大画面にデカデカと映し出される文字。
部門内の全クラスのタイトルが表示されている。
その中に見つけた、テニス部の仲間のクラス。


「…宍戸達のクラスに、ハギー、樺地…ここも激戦だよね。」

「ね。カジノもお化け屋敷も面白かったし。」


この中で、どこかのクラスが笑ってどこかのクラスが涙を流すんだと思うと
やっぱり心臓が締め付けられるような思いだった。…それが勝負だとは、思うけど。



「…第3位!……2-B!HAUNTED ROOM!!」


わぁっと大きな歓声と拍手に包まれて、スポットライトが客席を照らす。
樺地のクラスが3位!下級生が上位に入賞するのは難しいって言われてるのに…
後輩の大活躍に嬉しくなって、バチバチと大きな拍手を送った。



「それでは、2-Bのみなさん舞台上へお願いします!!」



上位入賞クラスは、舞台上で学園長から表彰状を授与される。
代表者が1人受け取るのだけど、毎年クラス全員が舞台に上がり
その喜びをアピールする一種のパフォーマンスの場にもなっている。

歓声と拍手に包まれながら、ヨタヨタと舞台にあがる女の子や
それを支える男の子達。…嬉し泣きだろうか、女の子たちが目元を拭っている。


「…もらい泣きしそう。」

「あんた毎年それだからね。」


少し舞台からは遠い席なので、皆の表情はよく見えないけれど
大画面には映像部のビデオで撮影されている画像が映し出されていた。

その中でも一際目立つ大きな大きな樺地。
クラスメイトと楽しそうに整列する樺地につい衝動が抑えられなかった。


「樺地ー!!おめでとうーーー!」


拍手と歓声に埋もれて、間違いなく本人には届いていないだろうけど
心から祝福してあげたかった。



表彰状の授与が終わり、舞台上で皆で大きくピースサインをかかげる
フレッシュな2年生。会場全体がもう一度大きな拍手で見送った。









「続いて第2位の発表です。お子様やお母様からの投票数が圧倒的に多かったこのクラス!


 ……第2位!3-C、ガチンコ縁日クラブゥゥウウ!」





「あ!宍戸とジロちゃんのクラスだ!……って…うわ…!」


発表があった瞬間、大画面に映し出されたドアップのジロちゃんは
よだれを垂らし、宍戸の肩にもたれかかって爆睡していた。

この緊張感に似つかわしくない姿に、会場全体にドっと笑いが起こる。
焦ってジロちゃんの頬をぺしぺしと叩く宍戸に、さらに笑いが巻き起こった。


「…あ、起きた。ふふ、びっくりしてるみたい。」


目を覚ましたジロちゃんに、焦り気味に今の状況を伝える宍戸。
それを聞いた瞬間に笑顔で飛び上がる天使。
この一連の流れが大画面で流されて、体育館内は黄色い悲鳴に包まれる。


舞台上で表彰状を受け取る学級委員の根室君。
その周りにはワーワーと大はしゃぎで喜ぶクラスメイト達。
衣装の法被を羽織って、御神輿のように根室君を担いで
「お祭り」のように喜びを表現する3-C。
縁日クラスらしいパフォーマンスに会場は大いに沸いた。


「宍戸があんなに笑ってるの珍しい。」

「嬉しそうだねー、なんか皆楽しそう。」








「…いよいよ、縁日・ゲーム部門の優勝クラス発表です。
 女子・男子共にそのクオリティの高さに驚いたという声多数!





 
 3-B!カジノ×カジノが堂々の部門優勝です!」




大きな歓声と共に、会場内のスポットライトが一斉に3-Bを照らした。
ひな壇に座った皆は衣装を着たまま、背筋を伸ばして座っていた。

他のクラスのように飛び上がって喜ぶ訳でもなく、落ち着いた様子が
ハギー達のクラスらしいなと思った。


「…やっぱクールだよね、衣装の効果もあってめちゃくちゃ大人に見えるよ。」

「だね。あ、舞台に上がるみたいよ。」


整列して舞台に上がり、綺麗な仕草で表彰状を受け取る。
より一層大きな拍手が起こると、学級委員長が皆の一歩前に出た。


「…ん?なんだろうね。」


謎の行動に一瞬拍手が静まると、委員長の合図と同時に
全員が客席に投げキッスをした。


その瞬間に、丁度映像部のカメラが捉えていたのはハギーで
大画面に写る流し目のハギーに耳が割れそうな黄色い悲鳴があがる。
有能過ぎる映像部のカメラワークに私は大きな拍手を送った。


「っうわあああああハギー!!ハギー素敵だよおめでとおおお!!」


思わず画面に向かって携帯のカメラを起動させたものの少し遅かった、くっそ…。

画面にうつるハギーや3-Bの皆は、先程のクールな顔を崩して
皆照れくさそうに笑っていた。
 




























「さぁ!次は毎年波乱を呼ぶ模擬店部門の発表です!」


一部門の結果発表が終わり、ざわつく体育館内がまた一段と騒がしくなった。
今年の模擬店部門は、例年に比べて出店クラスも多かった。
さらに、出店場所やメニュー等の工夫の仕方で投票数が大きく変わる「完全実力主義」の部門だ。

頭の中に最初に浮かんだのは、忍足のクラス。
少しだけとはいえ、手伝ったこともあって皆が模擬店にかける思いの熱さにも触れた。
それを思い出すと、やっぱり応援したくなってしまう。


「…模擬店部門はどこが優勝してもおかしくないよね。」


ポツリと呟いた吉武君に、私と真子ちゃんは振り返る。


「そんなに激戦だったの?」

「うん、噂では下級生の追い上げもすごかったらしい。」

「へー…。大体毎年3年のクラスは経験も知識もあるから有利なのに。」

「…でも、忍足のクラスは相当お客さん入ってたって聞いたよ。」

「そっか。…発表が楽しみだな。」


段々と騒がしくなる体育館内。
いつの間にか汗でびっしょりだった私の手。
他のクラスとはいえ、発表される度に全身に力が入ってしまう。








「それでは参りましょう!…第3位……驚きのダークホース登場!



 1-H!!軽食ピエトロ!!」







1年生のクラスが呼ばれたことで、体育館内が揺れる。
スポットライトに照らされて、放心状態の1年生達。

氷帝学園祭の部門表彰に1年生が選ばれることは、かなり珍しい。
毎年1年生は1クラスも入賞していないことだってあるぐらいだ。

真っ黒の虎視眈々Tシャツに身を包んだ1-H。
体育館内の大画面に写った男の子は口をぽかんと開けて、
女の子たちは溢れる涙を隠しもせず喜びに沸いていた。

驚きの番狂わせに会場の空気が変わる。


「…やっぱ模擬店部門は荒れるよね。」


真子ちゃんが静かな拍手と共に呟いた言葉に、ドキっとした。
……自分たちの「喫茶部門」にも1年生はいる。
まだ何も発表されていないのに、自分のクラスに置き換えて未来を想像すると
やっぱり不安な気持ちが少しづつ沸いてきた。


割れんばかりの拍手の中で、舞台上に立った1年生達。
泣きながら表彰状を受け取ってそれを大きく掲げた学級委員長。
皆、きっと自分たちが舞台上に上がるだなんて考えてもいなかったのだろう。

何をしていいのかわからなくて、モタモタと慌てる姿が可愛くて
少し笑ってしまった。







「波乱の模擬店部門、第2位の発表です!
 …なんと氷帝学園祭史上初の1票差でした!」



司会者の信じられない言葉に、会場が悲鳴と歓声に包まれる。
何千という投票数の中で1票差だなんて…。

まだ忍足のクラスは発表されていないこともあり、
心臓のドキドキが止まらない。
祈るように両手を握りしめて発表を待った。












「……模擬店部門第2位!









 3-H!あなたのお好み!!」




大画面に表示された文字に、目を見開く。


……1位じゃなかった。


すぐに切り替わった画面に映し出されたのは、
先程の1年生と同じように放心状態の皆。

でも、その表情が意味するのはきっと驚きでも喜びでもない。

1票差で負けるなんて…
悔しすぎて、私ならその場で泣き崩れるかもしれない。

裏場で必死に頑張る皆の姿が脳内でフラッシュバックして
つい涙がこぼれそうになる。


しかし、画面に映る皆は誰一人涙を流していなかった。
最初こそ真顔で放心していたものの、舞台に上がった時には
全員がやりきったような、すがすがしい笑顔だった。


学級委員長が表彰状を受け取ると、体育館が拍手に包まれる。


皆が一斉に礼をする。
丁度、司会台の隣に立っていた忍足に、司会者が唐突にマイクを振った。



「…クラスのリーダーだったという忍足さん、今の気持ちを率直にお願いします。」



司会者の突然の行動に体育館が一瞬シンとなる。
恐らく、何もアピールせずに舞台から降りようとするクラスの人たちへの
間中君なりの配慮だったのだろう。

相変わらず無表情な忍足に、会場全体が注目していた。



「…最後の学園祭をこのクラスの皆と頑張れて、ほんまに良かった。
 最高のクラスや。…ありがとう。」



どアップで映し出される忍足の顔は、今まで見たどんな顔よりカッコよく見えた。


こんな目立つ状況で、こんな熱いメッセージを語るなんて
普段の忍足からは考えられない。

それ程までに、この学園祭にかける思いは強かったんだろうと思うと
さっきまで抑えていた涙が溢れ出す寸前だった。


それは、忍足のクラスメイトだった皆も同じだったようで
先程まで笑顔だった女の子達は皆、声を上げて泣いて
男の子達も悔しそうに涙を拭っていた。


「…忍足君にあそこまで言わせるなんて、きっと良いクラスだったんだろうね。」

「…うん、本当に…皆、頑張ってて…。」

「順位は2位だったけど、きっとみんなの記憶には強烈に残ってるよ。」


袖で目元を擦る私の肩をぽんぽんと叩いてくれた真子ちゃんの言葉が
やけに頭に残った。






そして、続けて呼ばれた模擬店部門の第1位は
2年生のスイーツ×スイーツだった。

忍足のクラスと一票差で勝利した2年生達。

喜びが抑えきれず泣く皆に盛大な拍手が送られた。
吉武君が最初に言った通り激戦だった模擬店部門。
その衝撃的な閉幕に私の心臓はますます落ち着かなかった。

























「いよいよ後半戦です。お次は、氷帝学園祭の中でも人気を誇る
 ダンス・演劇部門の発表だぁあああ!!」



段々とボルテージを上げる司会者に、ますます盛り上がる。

ダンス・演劇部門はクラスの分母が最も多く、
今年は8クラスがエントリーしている。


「…アイデアの面白さで言えば鳳君のクラスだよね。」

「……でも、がっくんのクラスのクオリティも負けてなかったよね。」

「後輩に聞いたけど、今年は第2体育館のダンス部門の盛り上がりもヤバかったらしい。」


私は2つのクラスしか見ていないけれど、確かに噂では
今年の学園祭は体育館の集客率がとても高かったと聞いている。

この部門も、どこが優勝するのか全く予想がつかないだけに
発表を聞くのがなんだか怖い。



「この激戦の演劇・ダンス部門を制したクラスの発表です!
 まずは第3位…。圧倒的な演出力にOB・OGからの投票が伸びました!



 3-F!アナと炎の帝王!!」




3年生の3位入賞に、またもや体育館が沸く。
OGの先輩とこの舞台を見に行った真子ちゃんの話では、
炎の演出が本物の火を使っていたり、演劇部の子が多く在籍しているからか
演技のクオリティもかなり高かったそうだ。


上位入賞もうなずける、という真子ちゃんの評価を聞いて
見てみたかったなぁ、と少し後悔した。


舞台上には炎をモチーフにしていると思われる衣装をまとった
男の子が1人。学級委員長ではなく、その炎の帝王が表彰状を受け取とっていた。

劇中で使われたであろう、短いダンスパフォーマンスに
会場内の拍手はますます大きくなった。







「続いて第2位の発表です。こちらも大激戦!
 学園祭名物の舞台発表で新たな可能性を創りだしたこのクラスが2位でした!

 


 2-C!ザ・ラスト・シンデレラ!!」




大画面に映し出されたのは、皆で手を取り飛び回って大喜びする
可愛い2年生達。その中で嬉しそうに微笑むちょたの姿を見つけて
思わず頬が緩んでしまう。



「やっぱりちょたのクラスは入賞してたねー!」

「だね。演劇っていう枠を越えてたし、ワクワクしたもん。」


舞台上に上がる皆を見ながら、拍手を送っていると
何やらちょたが皆に囲まれていた。

演劇中に司会者をしていた子が、マイクを借り
ちょたに歩み寄る。

身近な後輩が何かをするのかも、という期待に
席から立ち上がりそうな勢いで舞台を見つめる。



そして、マイクを受け取ったちょたが
舞台の前まで歩み出て、目の前のカメラを見つめた。



「ありがとう、僕のシンデレラ。」



はにかんだような笑顔で、王子様になりきるちょたに
会場中の女子が悲鳴をあげた。もちろん私も例外ではない。

映像にキラキラした星のエフェクトがかかっているかのような
輝く笑顔。いつもは「俺」のちょたが「僕」って…!
ちょたの笑顔の破壊力をよく理解している、あのクラスメイト達に
私は盛大な拍手を送りたかった。





「ひっ…うおおおおお!!ちょたぁあああ!アッンコーッル!そーれ、アッンコールッ!

「ちょ、や、やめてよ恥ずかしい!」


立ち上がってアンコールを迫る私の口を押えて必死に取り押さえる真子ちゃん。
黄色い悲鳴に交じって、周りの席からの失笑が聞こえた。





「さぁ、盛り上がってまいりました!ここで栄えある演劇・ダンス部門の第1位の発表です!
 老若男女問わず幅広い層からの投票を集めました!まさに学園が誇る国民的アイドル!




 3-D!!HYT48の皆さんおめでとうございまーすっ!」





「がっ…がががががっくんのクラスだ!うわー!やっぱり…!」

「あれ、相当気合入ってたもんねー。」



スポットライトを浴びる3-Dの皆は、舞台で着ていたアイドルの衣装に身を包んでいた。
まさにアイドル、と言わんばかりの満開のスマイルを振りまく皆が
画面に映し出される度に、女子の悲鳴や男子の野太い声援が響いた。

アイドルの衣装を着ていることによって、また心臓が痛くなってきた。
がっくんは…、がっくんはどこにいるんだろう。

私の推しアイドルを必死に探していると、
不意に大画面に鮮やかなおかっぱ頭が映し出された。



「がっくうううううん!!おめでとおお!超絶くぁわいいっ!がっくぅううううん!



その瞬間に席から立ち上がって叫ぶ私に真子ちゃんが深いため息をついた。
後ろの席の吉武君が、小さく「うわっ」と呟く声が聞こえたけど
その時の私には、画面でキラキラ輝くがっくんしか見えてなかった。

舞台上で表彰状を受け取り、アイドルらしく全員で輪になって手を繋ぎ
客席に向けてぺこりとお辞儀をする皆。

長い長いお辞儀に、拍手はどんどん強くなる。

そして、顔をあげた時にやっぱり有能な映像部は
ばっちりとがっくんのどアップを捉えている。

それに気づいたがっくんが、パチンッとウインクをすると
会場が沸いた。


黄色い声援が響いた。


私が椅子から後ろに転げ落ちた。




「っぎゃぁああああ!」


「ちょっ、!何暴れてんの!」

「うわ、びっくりした!だ…大丈夫?さん。」

「…アイドルは世界を救う…がっくんのウインクは世界中の人々を幸せにするね…。」

「いくらなんでも向日君に期待寄せ過ぎでしょ。」


思わず錯乱してしまったことを、後ろの吉武君や真子ちゃんに詫びつつ
なんとかどんどん早くなる鼓動を抑えた。

さっきのがっくんの笑顔もそうだけど、
いよいよ喫茶部門の発表が迫っているのも、動悸が止まらない原因だと思う。




























「やってまいりました、話題性NO.1の激戦区!喫茶部門の発表にうつります!」



大きな声援と共に、画面に映し出されたそれぞれの喫茶店名。
今年の優勝候補と言われる跡部のクラスに、大好評に終わったと噂のぴよちゃんさまのクラス。
そして、1年生のクラスだって十分上位に食い込む可能性はあるんだと、模擬店部門で証明された。


先程まで、大きな声援や拍手を送っていた私たちのクラスは
明らかに緊張していて、私の周辺は変に静まり返っている。


後ろで話していた吉武君も、隣の真子ちゃんも皆口を開かない。
あんなに暴れていた私も、金縛りにあったように体が動かなかった。




「今年は4クラスでしたが、その4クラス共に票数は大きく変わりませんでした!
 こちらも最後の最後まで勝敗がわからなかった、ドキドキの結果となっておりまーすっ!!」



耳をつんざくような大きな声援が聞こえる。
さっきまでは楽しく思えた間中君の司会が、今はこれ以上進めないで欲しいと思う。



「では参りましょう!喫茶部門の第3位……









 その意外性に魅せられた人が多数!完成度の高さが話題となりました!


 2-F!!浴衣喫茶ーっ!!」












「………っ、ま…真子ちゃ…」

「…だ…大丈夫。落ち着きなって…。」


3位が、ぴよちゃんさまのクラス。


この順位が意味するところに、全身から血の気が引いた。


跡部が言っていた、集客数でぴよちゃんさまのクラスは
第2位だと、あの時点では言っていた。

ということは、大きく客数が動いたということ?

まさか、私たちのクラス意外…1年生のクラスが追い上げて…


そこまで考えて息が止まりそうになった。
混乱する頭で、なんとか真子ちゃんの手を握る。
さっきまで余裕のあった真子ちゃんも、緊張しているのか
少し手が震えているように感じた。


舞台上に登場したぴよちゃんさまのクラスは、
皆にこやかで、楽しそうに客席に手を振っていた。


画面上に現れたぴよちゃんさまの、流し目に会場が大きく沸いている。
その大きな画面を見て、いつものように狂喜乱舞出来ない自分に驚いた。

ぼーっと会場内の拍手や声援を聞いていると、
ついに司会者が口を開いた。




「さぁ…、氷帝学園祭2014に於いて、1番の注目株だったと言っても過言ではない喫茶部門。
 残るクラスは3組。しかし、入賞出来るのは2組だけです!」




ラストを飾る部門の為か、やけに司会者が会場を煽る。
生殺しのような状態に、私たちのクラスはどんどん静かになっていった。









「……それでは発表いたします。喫茶部門第2位。
























 学園中の女子からの圧倒的な支持を得ました!誰もが認めるキング!
 


 3-A!KING ON STAGE!!」























間中君の大きな声が体育館中に響く。

数秒間、体育館から声が消えた。



客席に集中するスポットライト、画面に映し出されたA組の座席。

まるでスローモーションのように思えたその瞬間。


放心する私の耳に、大きな声援がまた飛び込んできた。





跡部のクラスが、2位。







舞台へと向かうA組の皆が映し出される。
泣きながら歩く女子に、俯く男子。


そして、その先頭を歩く跡部。


大画面に大きく映し出された跡部の表情は
いつもと変わらず、自信に満ちていて一際輝いているように見えた。



会場内から自然と起こる、お馴染みの氷帝コール。




全生徒の氷帝コールに包まれながら、賞状を受け取る跡部。


俯くクラスメイトに、何か話しかけてから
舞台中央から一歩前に出た。


パチンッと鳴った跡部の合図に会場が静まり返る。



いつものようにキメ台詞を言うのかと思いきや、
クラス全員でゆっくりと礼をした。



滅多に見れない跡部からのお礼に、放心していた思考が引き戻された。
割れんばかりの拍手に見送られて舞台を後にしたA組は、
もう誰も泣いていなかった。










そして、もう一度静かになる会場。
後ろに座っている吉武君も、まわりの皆も誰1人言葉を発しない。

残された第1位の発表に、呼吸が荒くなる。




「……それでは、第1位の発表です。」



静かに言った間中君に、周りがシンとする。







「…今年の最有力候補を抑えての、大大っ大逆転勝利を飾りました!
 最後に怒涛の追い上げを見せたミラクルクラス!!














 3-E!アリス・イン・ワンダーランドが1位の栄光を掴みとりましたぁあああっ!」










手を握りしめて俯いていた顔をあげると、正面から
真っ白な眩しい光が差し込んだ。

固まって動かない私の横で、悲鳴を上げて飛び上がる真子ちゃん。

周りから聞こえる叫び声、座席が揺れる程の大きな歓声。



「……っ…うそ…。」



段々と震えはじめた体。
自分がどういう気持ちなのかわからないけど、
どんどん目から涙が溢れる。

さっきまでたくさんの表情を映し出していた会場の大画面に
口を開けて、呆けた表情で涙を流す自分が映っている。

その瞬間、隣にいた真子ちゃんが私を揺さぶり
後ろから吉武君が思いっきり背中を叩いた。



っ、やったよ!!私達…っ!」

「やった…!!E組が…!」


照明に当てられて、キラキラと輝く真子ちゃんの瞳に
涙が溜まっているのを見て、ついに大声で泣き始めてしまった私。

それを見て笑っていた吉武君も、そのほかの皆も
少しだけど泣いているように見えた。











「おめでとうございます!賞状が授与されます!」




代表の華崎さんが賞状を受け取ると、それを大きく掲げた。
その瞬間、舞台上にいた私たちは全員で手を繋ぎ大きくジャンプする。
笑顔で喜ぶ私たちに、惜しみない拍手を送ってくれる皆。

嬉しくて、客席に向けて大きく手を振っていると
この大人数の中で、ハッキリと跡部と目があった。

静かに拍手をする跡部を見て、何故かわからないけれどまた涙が溢れそうになった。



「おっと?おっと、これは?!」



まだ私達が舞台から降り切っていない内に、司会者の間中君が声をあげた。

ざわつく会場、意味がわからない私達。



「なんとっ!学園長が掲げているのは…最優秀クラスに贈られるトロフィーだぁーっ!」



嬉しそうにトロフィーを頭上に掲げる校長先生に、また大きな拍手が起こる。
舞台からまだ全員降り切っていない私たちは、どうしていいのかわからずその場で固まっていた。



「これを今、取り出したということは……学園長!?」



演技がかった司会で、学園長へとマイクを向ける。


「…おめでとう、3-Eが今年の最優秀クラスです。」



思わぬタイミングでの発表に、会場中で驚きの声があがる。

驚きすぎて、降りる階段から足を踏み外し転げ落ちた私。

1番最初に大きな喜びの声をあげた華崎さん。

それが合図と言わんばかりに、私たちはドタドタと舞台上へ舞い戻った。



































「それでは、これにて閉会式を終了いたします!皆様、本当にお疲れ様でした!」


全ての発表が終わり、体育館内に拍手が響く。
まだ夢見心地で、ふわふわしてる…気がする。

ぼーっと舞台上を見つめながら、司会者の間中君を見つめた。



「さて、明日の学園祭2日目は、順位も投票も、何も関係ありません!!
 学園関係者以外の、学外のお客様を招いてのお祭りです!」



「我が氷帝学園の最高のイベント、氷帝学園祭を存分に楽しんでいただけるよう…
 全員が氷帝学園の看板を背負って、精一杯頑張りましょう!」





少し声がかすれている間中君の、振り絞るような煽りに
私たちは大きな歓声を送った。
























 




「みんなーっ!いくよ、せーの!」


「「「「「かんぱーっい!!!」」」」」


閉会式後に、教室でちょっとした祝勝会が始まった。
ジュースを片手に皆で乾杯をする。

黒板には、美術部の女の子たちが書いてくれた
「やったね!大好きE組!」の文字。

まだ閉会式の興奮が冷めない私は、その文字を見るだけで
あと1時間ぐらいは泣けそうな程に涙腺が弱くなっていた。



ちゃん、やったね!」

「瑠璃ちゃん、お疲れ様!宣伝頑張ってくれたおかげだよ!」

さんのアイデアのおかげで逆転できたようなものだよね。」

「華崎さん…、うっ…何か華崎さんに褒められると…涙が…!」

「何でよ!もー、さんだけずーっと泣いてて恥ずかしかったよ。」


瑠璃ちゃんと華崎さんに囲まれて、また泣きそうになる。
あの時、的確に人員を配置して冷静に判断してくれた華崎さん。
そして、魅力的なアリス姿で学園中の男子を動員してくれた瑠璃ちゃん。

…改めて考えてみると、あの跡部やぴよちゃんさまのクラスに勝てたのは
きっと人の流れとか、運もあるんだろうけど…きっとこのメンバーじゃないと
勝てなかったんじゃないかな、なんて思う。



「お、最強のアリスさんコップ空いてるじゃん!」

「ほら、どんどん飲んでー。まだまだジュースあるし!」


その時、横から私のコップめがけてどぼどぼとジュースを流し込む
佐竹君と吉武君が現れた。「最強のアリス」の言葉に、皆が笑う。


「あ、ありがと!」

「明日も頑張ってね、今日はゆっくり腕休めてさ。」


ニコっと笑う佐竹君に、一瞬固まってしまう。


「……いや…、明日はまた元通り普通に喫茶だよね…?」

「まさか!私達は優勝クラスなんだよ?明日は、入り口にトロフィー飾って
 "君は倒せるか!ワンダーランドの腕っ節自慢アリスに挑戦しよう"っていう看板立てて
 ガンガンお客さん呼ぶからね!」

「腕っ節自慢アリスって全然語感が可愛くない、嫌だ。」

「あはは、なら大丈夫よ。明日も頑張って。」

「真子ちゃん…!で、でも…今日は一応学内だったからいいけど、
 見ず知らずの学外の方に、そういう可愛くない部分は晒したくないというか…」

「大丈夫だって、さんの魅力はその力自慢だろ?

「そうそう、可愛い部分は他のアリスに任せてさ!


爽やかな笑顔で私の両肩を叩く吉武君に佐竹君は、
遠まわしに、いやダイレクトにディスってますよね。

そんな笑顔に騙されないぞ…!



「でも、裏方が…」


皆に囲まれて、いよいよ私がパワータイプアリスに仕立て上げられようとしていた。
何とか抗議しようと声をあげたその時、森地君が教室の入り口で私を呼んだ。



「おーい、さん。跡部来てるぞ。」

「へ?」



「跡部」の2文字に、全員が入り口に注目する。
そこには、腕を組んで不機嫌そうに仁王立ちする跡部がいた。


……まさか、「優勝おめでとう」とか…
あの跡部がお祝いに来てくれたの…かな…?


そういえば、閉会式の時もやけに優しい笑顔で拍手してたし…

皆に見守られているのが、何となく恥ずかしくて
少し俯きながら小走りで向かった。






「…あ、跡部。あの…何?」

「……何?じゃねぇだろ。」

「…え、あの…うん。ありがと、正直優勝出来たのは「何寝ぼけたこと言ってんだ。」


もじもじと感謝を伝える私に、頭上からいつも通りの
不機嫌な声を浴びせる跡部。つい反射的に臨戦態勢に入ると
おもむろに首根っこを掴まれた。


「ちょっ、な、何よ!」

「お前だけなんだよ、来てねぇのは!」


まるで粗大ごみのように、廊下を引きずられていく私を見て
憐みの目で静かに手を振るクラスメイト達。

納得出来ずに暴れると、跡部の口調はますます強くなった。



「だ、だから何のこと!?」

「毎年学園祭後のゴミ拾いはテニス部全員出席だろうが。」

「……え?」

「…まさか、優勝したクラスは免除になるとでも思ったか?」


ハンッと鼻を鳴らして生意気に笑う跡部に、
ぽかんと口を開けてしまう。

いや…いやいや…


「そんなの聞いてないよ、テニス部になって初めての学園祭だよ?」

「…………。」

「え、昨日のミーティングでも誰からも聞いてないけど…。」

「………。」


無表情のまま私を見下ろし、スタスタと歩き始めた跡部。
……こいつ…、絶対自分の非を認めないつもりだな…。


「っていうかー、跡部部長がそういうのって連絡すべきじゃないんですかー?」

「………。」

「確かに知らずにジュース飲んでた私も悪いですけどー、でも知らなかったんだしぃー。」

「………。」

「ぷふーっ、まぁ誰しも勘違いってありますもんねー、私は心が広いから「殴るぞ。」

「はい、うん。ゴメン、ちょっと調子乗った。」



眉間に皺を寄せまくった跡部が、ナチュラルに私の胸倉を掴んだ。
理不尽だ。積極的に怒らせに行く私も悪いけど、跡部だって悪い。言えないけど。


























「おっせーよ、!何してたんだよ!」

「もうほとんど拾ってもうたで。」

「ご、ごめん!でも私知らなくて…。」


跡部に連れられて校庭に行くと、テニス部のメンバーが
大きなゴミ袋を抱えてせっせとゴミ拾いをしていた。


「あ…そうですよね、先輩はテニス部のゴミ拾いって初めてですもんね。」

「えー!そうだっけ?なんか俺もっとちゃんと一緒にいた気がするのにー。」

「…あー、言われてみればそうだよな。」


帽子を脱いで、Tシャツの袖で汗を拭う宍戸が笑いながら言う。
その後ろからゆっくりと歩いてきたハギーが、珍しく私を見て笑った。


、優勝おめでとう。」

「…あ、ありがとう!へへ。」


それにつられて、次々におめでとうの言葉をかけてくれる皆。
普段滅多に聞けない、皆の素直な祝福がなんだかくすぐったかった。



「いいなー、1年間学食無料ー!俺、狙ってたのに!」

「…でも、本当にスゴイです。かなりの得票数だったみたいですよ。」

「そ、そうなんだ…。うん、ありがとう。」

「でもなー」


褒められることに慣れてなさ過ぎて、上手く返せない私。
それを見て、忍足がやけにニヤニヤしていると思ったらついに口を開いた。


「あの閉会式の画面に映ったは傑作やったで。」

「あー!俺も見た!馬鹿みたいな顔してたぞ、!」

「ちょっ…あ、あれは感動で…!」

「…鳩が豆鉄砲食らったような顔してましたね。」


クスクスと笑うぴよちゃんさまに、カッと顔が熱くなる。
ひ…人の感動のシーンを笑うなんて…!


「あと、気づいてないと思うけど総合優勝発表された時に
 舞台から転げ落ちてたでしょ、1人で。あの時パンツ見えてたよ。」

「えっ!そ、そんなポロリ騒動が…!?恥ずかしすぎる!」

「…幸い画面には映ってなかったけどね。」

「良かったわー、そんなもん映ったら体育館で暴動起きるで。


笑うハギーに、大袈裟に胸をなでおろす忍足。
フツフツと沸いてくるこの雰囲気に対する怒りを
なんとか抑えようと、自分の心を落ち着ける。

大丈夫、ほら思い出そう。

優勝した時のあの感動、真子ちゃんの涙…みんなの笑顔…!
うん、大丈夫。心が穏やかになってきた。
みんな、私負けないよ。こんな誹謗中傷なんかに…

深く息を吐いて、なんとか笑顔を作り出す。


「…ま、まぁ取り敢えず皆の祝いたいっていう気持ちは嬉しいよ!ありがとう!」

「ほとんど、以外のアリスのおかげやと思うけどな。」

「な。まぁ、ある意味珍しいけどな。こんないかつい姿のアリス。

ちゃん、明日もアリスするのー?」

「…うん、そうなっちゃうみたい。」

「やめとけって!悪いこと言わないから!」

「そうだよ、アレはまじでキツイぞ!



貼り付けたような笑顔で立ち尽くす私の肩を
がくがくと揺さぶる宍戸とがっくん。



……大丈夫、私にはあの感動的な思い出があるから耐えられる…。



「今日はまだええけど、明日は学外の奴ら来るねんで。」

ちゃんの服可愛くて面白かったし、注目されちゃうかもね!」

「でも、噂ではこの優勝は先輩の力技が大きく影響したんですよね?
 じゃあやっぱり明日も、同じようにアリスをしないと…」

「アホ、そういう意味ちゃう。俺らはまだのこと知ってるからええけど…
 学外の奴らは女か男かは知らん訳や。ほんで、男にも負けへんアリスがおるって噂になってみ?
 絶対、あれは男なんちゃうかって思う奴が出てきて、下手したらクレームになるかもしれへん。」

「心配ねぇよ、今日の時点で父兄からそういう話は出てた。
 まぁ、ある意味性別不明の謎のアリスってことで注目され「言い残すことはそれだけかぁああ!!」




楽しそうに笑う跡部に不意打ちで掌底をぶちかましたところで、
即開戦されたガチンコ対決。

度重なる罵倒についに堪忍袋の緒が切れた私の頭の中には
閉会式での輝かしい記憶なんて、木端微塵に吹き飛んでいた。

軽く吹っ飛んで立ち上がった跡部が、ゆらりとこちらに向かってくるのを見て
そそくさと立ち去る裏切り者達。

自分から仕掛けておきながら、マジで逃げたい。

助けを求める私を無視して、ゴミ拾いへと戻る皆の背中を見ながら
地面に沈められる。



「いっ…たいいたい!ごめんって!不意打ちはごめん!やめて!すんません!」

「…調子乗りやがって…。」

「ちょっ、げほっい、いつもより比較的力が強い!痛い!


ギリギリと私の首を締める跡部。
何度もタップして、やっと解放される。

地面に大の字に寝そべる私を、上から見下ろすこいつは
マジで1回悪魔祓いとかに行った方がいいと思う。絶対悪魔に脳が支配されている。



「……俺様のクラスに勝ったんだ、明日は情けねぇパフォーマンスするんじゃねぇぞ。」

「………う、うん…?…ありがと。」





満足気に頷いて、ゴミ袋を引きずっていく跡部。
……なんだ今の、跡部なりのエールか何かなの?

力で沈められた後に言われても、全然素直に心に響かないけれど
あの摩訶不思議思考回路アドベンチャーの跡部らしくて、少し笑ってしまった。



……私にとって最後の氷帝学園祭。



最後まで精一杯楽しもう。




学園祭投票結果!

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