「あ、向日君のクラスのライブって13:00からだよね?」

「うん!きっと人気だろうから早めに行っとこうか。えーと…場所は、第2体育館だね。」


ここから第2体育館まで、3分ぐらいだから…時間は余裕。
瑠璃ちゃんが代表で持ってくれているプログラム一覧を確認して、目的地へと向かった。

がっくんのクラスは、某国民的アイドルのライブを再現するらしい。
ダンスの練習を敢えて中庭で行い、全校生徒の注目を集め、
ライブへの期待値を高める手法は、私の友人でもある学園祭実行委員会の田中君発案とのこと。…さすが。

部室で学園祭の話になった時も「俺たちのクラスが絶対優勝!」とがっくんは豪語していた。
ダンス・演劇部門は毎回激戦の為、部門優勝は困難とされているけれど…
でも、正直がっくんがアイドルの衣装着てアイドルスマイル振りまいて踊っているという事実だけで
優勝候補に食い込む気がする。想像するだけで、軽く意識が飛びそう。

それに、がっくんのクラスは中々ルックス偏差値が高いことで有名だ。
アイドル顔負けの天使・がっくん、それに氷帝の爽やか王子様の名を欲しいままにする田中君、
それに女子だって学年でも人気急上昇中のメンバーが勢ぞろいしている。
クラスの長所を生かしたプログラムが優勝への鍵とされている学園祭。
がっくんのクラスは敵ながら天晴な選択と言わざるを得ない。


「あ、受付が見えてきたよ。わ!可愛いー!」

「本当だー!アレ衣装かな!?」


第2体育館の入り口付近は、さすがにまだ演目の20分前ということもあってか比較的空いていた。
設置されている受付台にいたのは、がっくんのクラスの女子とみられる女の子3人。
アイドルの衣装を着て、笑顔で私たちを迎えてくれる。


「こんにちはー!コレ、ライブで使うので始まったら点灯させて下さい!」

「あ、ペンライト?うわー、本格的!」

「私ピンク色だ、真子ちゃんは?」

「黄色だー。」


ポキっと折ると点灯するらしいこのペンライトは、1人1本づつ配られるようだ。
皆で色を確認しながら体育館の中に入ると、度肝を抜かれるようなライブセットが組まれていた。

正面の舞台から体育館の中心へと延びるキャットウォーク。
中心は円形で360度客席に囲まれている。

数百人規模の会場のためか、ご丁寧に正面ステージの上部にはモニターまで設置されており
開演までの繋ぎのつもりなのか、中庭での練習風景のVTRが流れている。
チラっと映ったがっくんに軽く奇声をあげると真子ちゃんに注意された。

取り敢えず落ち着くためにも、一旦席に座ろうと
私たちに配られた整理券の番号を確認してみた。


「うわ!すごいよ、コレ最前列じゃない!?」

「わー、早く来てよかったねー!」

「なんか、こういうのちょっと嬉しいわよね。しかし…スゴすぎない?このセット。」

「ほら、イベント会社社長のお孫さんがいたじゃん。誰だっけ?」

「あー、なるほど。そういうことか…。」


真正面のモニターを見るよりも、舞台上に立つ人間の方が大きく見えるであろう最前列。
しかし、大丈夫かな…こんな距離からがっくんを直視して、私倒れたりしないかな…。


「……ねぇ、私が気絶したら助けてね、皆。」

「あはは!そんなに?」

「だって…ずっと私さ、がっくんはアイドルになるべきだって思ってたんだ。やっぱり神様が天使を作ったのは
 地上の汚れた人間、そう、私達をその輝きで救うためだって。 でも本人が頑なにその職務を放棄するの。」

「そんな気持ち悪い説得されたら普通に引くわ。」

「でも今日…やっと、大天使様の覚醒姿を…見れるんだよね…。」

「え…っと、ちゃん…なんか怖いよ…。」

「大丈夫、瑠璃ちゃん。私、この日のためにきっちり予習もしてきたんだ。皆は落ち着いて、私と一緒に
 がっくんを奉る動きと声がけをすればいいからね。」

「あ、それってもしかしてコールってやつ?アイドルのライブとかでよくあるよねー。」

「華崎さんも予習してきたの?」

「いや、弟が結構好きでさ。ライブ映像とか見るんだけど…わぁ、アレやるのか。楽しみになってきた!」

「へー!じゃあ私と瑠璃は知らないから、あんた達のを見てマネするね。」


そんな話をしている間に、段々と体育館の中も賑やかになってきた。
既に私達の後ろには何十人もの生徒が座っており、あっという間に満席御礼。
後ろの方では立ち見も出ているけれど、ライブって立ち見でも楽しかったりするもんね。






























「もうそろそろ始まりそうだね。」

「うん、じゃあペンライトつけちゃおっか。」

「えい!…おお、結構光るねー。」


私達全員がペンライトをつけたとほぼ同時に、体育館の中の照明が落とされた。
まるで本物のライブのように沸き起こる歓声。

すぐに流れた音楽は……これ、予習してきたやつだ!!

初めての体験に少し緊張するけれど…でも、がっくんのために…!
このライブを盛り上げるためにも、頑張るのよ


「あぁああああ!! よっしゃいくぞぉぁああ!!」

「ぶふっ!ど、どうしたの!」

「すっ、すごいさん!まるで男みたいな地声!!」

「怖い!ちゃん、怖いよ!!」



「「「タイガー!!ファイアー!!サイバー!!ファイバー!!ダイバー!!バイバー!!ジャージャーー!」」」
 


フと気が付くと、私たちの後ろの席にいた男子達もアイドルのコールに精通していたらしく
一緒になってペンライトを振り回し、必死にコールを叫んでいた。

隣の真子ちゃん達が軽く引くのを横目に、よくわからない興奮でめちゃくちゃ楽しくなってきた。
盛り上がる音楽に、激しいライト演出。内臓が震えるような地響きが伝わってくる。

そして、その盛り上がりが最高潮に達した瞬間。
パンッと照明が切り替わり、会場中央の円形ステージにスポットライトが当たる。
急いで後ろを振り返ると、そこにはグランドピアノと田中君。
まるで乙女ゲームから飛び出してきたようなキラキラのアイドル衣装に身を包んだ彼に黄色い悲鳴があがる。
音楽もなく、ただピアノの前に静かに座る田中君。少し緊張感が走るその状況に、悲鳴はすぐに止まった。

会場モニターには、どアップの田中君が映し出され
優しく微笑んだかと思うと、静かにピアノの鍵盤に指を下ろした。
いつも思うけど、田中君のあの笑顔は反則級だと思う。全女子がキュンとしたに違いない、今。

田中君らしい繊細な音色は、どこかで聞き覚えがある。
一瞬何かわからなかったけど、しばらく聞いていると
それがあの有名な曲のイントロだとわかり、じわじわと大きな歓声が起きる。

イントロが終わり、段々とピアノの音がフェードアウトしていくと同時に
また体育館内を色とりどりのライトが照らし始め爆音のアイドルソングが響いた。

中央ステージから正面ステージに視線を移すと、舞台そでからドンドン出てくる
眩い輝きを放つアイドル達。衣装の完成度もさすがで、歓声はますます大きくなる。


【♪カレンダーよりはやく シャツの袖口まくって♪】


可愛い振り付けと共に全ステージ上に広がり客席に笑顔を振りまく皆。
私は必死にがっくんの姿を探すけれど、たくさん一気に飛び出してきたもんだから
中々見つけられない。キョロキョロしていると、隣にいた真子ちゃんに肩を叩かれた。


、ほらあそこ。向日君じゃん。」

「え?どこど…っぎゃぁああああああああっっ!がっくううううううううんん!!!!」

「うるさっ!う、うるさい!」

「ど、どどどどうしよう真子ちゃん!!がっくんが、あんな可愛いアイドル衣装で…笑顔で…!!」

「わ、わかった落ち着いて。ほら!ペンライト振らないと!」

「はっ!そうだね!がっくううううん!!こっち向いてぇええええ!!!」


真子ちゃんが見つけてくれたがっくんは、ブラックを基調としたアイドル衣装に
ふさふさのファーをつけて、まさにアイドルだ。
私の席からはちょうどキャットウォークを挟んで反対側の正面ステージの最前列で踊るがっくん。
さすがに優勝候補だと自称してただけあって、全員の統率のとれたダンスもさすが。

ただダンスするだけでは、「アイドル」と言えない。
客席に向ける表情、パフォーマンス、全てに神経を張り巡らせて全力で夢を見せる。
キラキラとしたオーラで、会場全体を満たしてこそアイドルだと思う。

その点で言うと、このクラスのアイドル達は化け物かと思った。
全員が全力で楽しんでいる様子で、自然と笑顔があふれている。
もちろん演じる方が楽しんでいれば、客席も楽しくなってくる。


【ポーニーテール♪ほどかないで♪】


サビに突入する頃には、見事に体育館の中に一体感が生まれていた。
私はもちろん、後ろの席にいた男子達も瑠璃ちゃんや、華崎さん達も
このライブの熱にすっかり夢中になっている。


「みんな、スゴイね!本物のアイドルみたい!」

「ねっ!すっごく楽しい!」


隣にいた瑠璃ちゃんが、笑顔でペンライトを振ってるのを見て
なんだか私も嬉しくなった。そして1曲目が終わり、客席の照明が落とされた。
ぐるりと体育館を見渡すと、カラフルなペンライトの光に溢れていて…とても綺麗。











【♪あなたは 今日で まーや推し ほらチームD!!】


一瞬の静寂の後に、また爆音が響いたと思ったら
2曲目は私も予習の際に大好きになった曲の1つだった。


「あ、ちゃん!ほら、向日君こっち来たよ!」

「ほっ、ほんとだ!がっくうううううん!!大天使様ぁああああ!


この曲ではポジションチェンジをするらしく、
反対側のステージから、私たちの目の前まで走ってきたがっくん。

近くで見ると、その破壊力は半端なくて
少しだけ短めのシャツから見えるヘソチラに対する興奮と、
叫びすぎた為か、軽い酸欠状態になって眩暈がする。

しかし、この瞬間を…今のこのアイドルがっくんを目に焼き付けなければ!
必死にペンライトとうちわを振りアピールしてみるものの、
中々がっくんはこちらに視線を向けてくれない。

それもそうか、ステージ上から見たら近くの人より
遠くの方をよく見ちゃうって言うしね…!
だけど、ああ、もう、写真とか撮りたい…!でも、そんなことしてる暇はなくて、
がっくんの笑顔ひとつひとつから目を逸らせなくて…!

そんな感じで軽くパニくっていると、奇跡は突然に起こった。


「がっ、がっくん!!」


完全にがっくんと目線が合った。
舞台上で踊りながら、笑顔を振りまくアイドルがこっちを向いてくれた。

興奮しすぎて、両隣の真子ちゃんと瑠璃ちゃんの肩を揺さぶると
苦笑しつつ、良かったねと耳打ちしてくれた。

ど、どどどどうしよう、何かこのライブの雰囲気にのまれちゃって
心臓がドキドキしてる。今…私にアイドルスマイルくれたん…だよね…!


「がっくううううん!プライスレスウウウウ!笑顔プライスレスウウウウ!」


がっくんは、私の目の前がポジションだったようで
しばらくはそこで歌い踊った。私の声帯はこのままブチ切れるんじゃないかというぐらい叫んでいる私に、
時折苦々しい表情を向けてくれるがっくん。これは…これは絶対気づいている!










この曲は、いわばクラスメイトを一人一人紹介していくような構成になっており
一人づつセリフが用意されているのが特徴だ。

がっくんの順番が回ってくるのはいつだろうかと、ソワソワしていると
曲も終盤に差し掛かり最大の盛り上がりを見せたところで


超ド級の爆弾が落とされた。



【あなたは今日でがっくん推し♪ほらチームD!!】








【「もっと飛んでみそ?」】
















カメラ目線でバチコーンとウインクを決めたがっくんに
今日一番の悲鳴が上がる。


これまで、散々微笑みの爆弾を食らっていた私も堪え切れるはずはなく



「きっ…っきゃああああああああ!!


「わっ!ちょ、ちょっとちゃん大丈夫!?」

「あ、あんた白熱しすぎでしょ!」

「わが生涯に……一片の悔いなし…!」

「こんなところで!?学園祭で命散らすの!?」



がっくんのウインクは、絶対私の方を向いてた……。
これがライブではよくある客席側の現象だとは自分でもわかっているけれど…
目の前で暴発した最終兵器をまともに食らった私は、腰が抜けるような感覚に陥り
椅子の上に倒れ込んでしまった。

皆が心配する中、もう私に残されたHPはほとんどなく
ライブが終了するまでの間、魂ごとごっそり抜き取られたような廃人のような姿で
ただ一心不乱にペンライトを振る、食い倒れ太郎人形のようになっていたらしい。






























【「ありがとうございましたー!!それでは、退場口にて握手会を行っておりますので、お願いします!」】



あっという間に終演を迎えたライブは、異常な熱気に包まれている。
皆汗だく。一緒にライブを盛り上げた戦友として、後ろにいた男子生徒たちとは最後に固い握手を交わした。
真子ちゃんや瑠璃ちゃん達も、なんだかやりきったような笑顔。

そこで発表された、まさかの握手会にまた心臓がバクバクする。
すっかりライブに魅了されて、一種の魔法効果なのかがっくんのことを完全にアイドルとして認識していた私は
がくがくと震える膝を、必死に抑える。その姿が戦場に赴く武士みたいだと、華崎さんに笑われた。



「お、お疲れ様でした!」

「ありがとうございましたー!」

「あっ、あの、可愛かったです!」

「ありがとー!」


どんどん進んでいく握手会の列。
こんなところまで本物に合わせるだなんて、徹底してるな。

なんと出血大サービスで全員と最後に握手が出来るらしく
女の子たちとも固い握手を交わす。
皆笑顔が可愛くて、本当にアイドルだ…。

新井田さんと、三枝木さんとの握手を終えて前へ進もうとすると
先程私の後ろにいた男子生徒が、クラスでも1番人気であろうマドンナ、大江さんと長い握手を交わしていた。
なんだか、ものすごく話し込んでるみたいだけど…。

しかし、列の停滞を許さない「はがし隊」まで居るらしく
しゃべりすぎる男子生徒の肩を掴み、問答無用で前に進ませる。
こうして、私も無事大江さんと握手をすることが出来た。




あと3人…



あと2人…





「ありがとなー!」





次は…



「ありが……げっ!!」

「あ…っああああああ愛してます!」

キモッ!
お前、最前列で倒れてただろ!」

「ちょっ…と、突然の塩対応はやめてくれませんか!あ、ああああ握手してよ。」

「えー、別にいいけど。ほら。」


そう言ってぶっきらぼうに手を差し出すがっくん。
震える手でソっと両手で包み込むと、天使の温もりが直に伝わってきて色々ヤバかった。


「…はい、もう終わり。」

「あ、あのがっくん後で一緒に写真撮って?」

「ヤダ。」

「そ、そんな…!お願いしますこの通りです、キャッシュなら5万まで払えます!!

「怖い!キモイ、怖い!」


「はーい、進んでくださいねー。」

「が…がっくん!あ、ありがとう!感動とトキメキとほんの少しの優しさをありがとううううう!!」


はがし隊に押される私の叫びを聞いて露骨に嫌な顔をしたがっくんだけど、
すぐさま次に来た女の子にアイドルスマイルを向けていた。

わ…私にはアイドルスマイル…くれなかったよね…!!




























「はぁ…、なんか燃え尽きたね…。」

ちゃんは異常だったよね。私、ちょっと隣にいるの恥ずかしかったもん。」

「え!?ご、ごめん瑠璃ちゃん!」

「私は、ライブもまぁ楽しかったけど、の錯乱具合の方が面白かったわ。」


体育館を出て、自動販売機に向かう私達。
取り敢えず、騒ぎすぎて水分が足りなかった。一刻も早くお水が欲しかった。

その時、ポケットで携帯が震えた。





From:がっくん
Sub:(無題)
-----------------------
水買ってきて!
ダッシュで体育館裏な。






「あ、がっくんからだ。」

「え、なになに?」

「お水欲しいんだって。丁度良かった、自動販売機前で。」


硬貨を2枚入れて、ボタンを押す。
…そりゃ、アレだけ踊って歌えば喉も乾くよね。

少し屈んで取り出し口から、500mlのペットボトルを取り出すと
いい感じの冷たさが手のひらに伝わってきた。


「ゴメン、皆。ちょっと体育館裏までいい?」

「いいよー、やっぱマネージャーだね。」

「うんうん。アイドルみたいな向日君にこうやって頼まれごとされるなんて、ちょっと羨ましい。」


華崎さんがニヤリとほほ笑む。
…確かに、さっきまであんなに大勢の女の子たちに囲まれていたがっくんと
体育館裏で落ち合えるなんて…そう考えるとドキドキしてきた。




























「おせぇ。」


体育館裏に、衣装のまま座り込むアイドル。
思わず地面にペットボトルを落としてしまった。

…かっ……



「可愛い…!」

「あー!何落としてんだよ、ったく。」


すぐさま走ってきたがっくんとの距離が近づく。
慌ててペットボトルを拾うと、私の手から奪うようにして
早速ゴクゴクと喉を鳴らし始めた。



「…ぷはっ!生き返ったー!」

「ドリンクとか用意されてなかったの?」

「今頃みんなで担任から差し入れてもらったジュース飲んでんじゃね?」

「え、がっくんは貰えなかったの?」

「ちげーし。…この水の代金!」

「……ん?」

「なんだよ。写真撮りたいって言ってただろ、自分で!」


少しブスっとした顔で、空になったペットボトルを突き返すがっくん。
……もしかして、わざわざ…抜け出して来てくれたの?


「が…がっくんは本当に、夢とトキメキを届けてくれる聖なる使者「撮らねぇなら帰る。」

「ちょっ、ままま!
待って!撮る、撮らせて下さい!」

「もー、早くしろよー。」

「ま、真子ちゃん!みんなも一緒に撮ろう!」


私の後ろで付き添いをしてくれていた3人にも声をかけると、
何だかニヤニヤして、中々こっちに来てくれない。


「あ、アレ?みんなも撮りたくないの?」

「え〜?いや、だってさんだけの特別ツーショットチェキ会なんでしょ〜?」

「ばっ、別に違ぇし!どうせ、は後で写真撮りたかっただの何だのゴネにゴネて、
 最終的には夜中でも家に押しかけてくるだろうから、事前に手を打っただけだよ!」

「んっふふ、いいから、いいから。ほら、並びなさいよ。」


がっくんの必死の抵抗もむなしく、なんだか生暖かい目で見守られる私達。
私は、目の前にいるがっくんの可愛さに夢中でそんなに気にならなかったけど
がっくんはその視線が不服だったらしく、ムスっとした顔をしていた。


「ほら、早く撮れよ。」

「え?アイドルがそんなポケットに手突っ込んで撮るとか、ダメだよ。がっくん。」

「は?じゃあどうやって撮るんだよ。」

「ハートマーク。」

「……は?」

「だから、私がハートの半分を指で作るから、あとの半分をがっくんが作るの。」

「ヤダ!なんだよ、それバカみてぇ!」

はぁ!?
アイドル舐めちゃダメだよ、がっくん!それとさっきのアイドルスマイル!
 私のHPを満タンの状態から一気に0まで削り取ったあの爆撃スマイルもお願いします!」

と2ショットでどうやってそんな笑顔作れるんだよ。」

「そこは!割り切れよ!仕事と割り切りなさいよ!」

「別に仕事じゃねぇし!」

「ほーらほら、もう向日君も照れてないで。取り敢えずの要望に応えとかないと、面倒なことになると思うよ。」


がっくんの両肩を揺さぶり迫る私を、やんわり止めてくれた瑠璃ちゃんと真子ちゃん。
アイドルとしてあるまじき舌打ちをして、仕方なく指をこちらに差し出してくれた。


「…早く撮れよ。」

「…へへへ、この写真ダイニングテーブルに貼り付けて、毎日がっくんと一緒にご飯食べるんだ。」

「マジで、発想がキモすぎ。」

「はい!ほら、撮るよ!チー……ズ!」


カシャっという音と共に、光の速さで指を離すがっくんはとんだシャイボーイです。
どんな写真になったか確認しようと、真子ちゃん達に走り寄ると
がっくんは、「じゃな。」という挨拶と共に、すぐに走り去ってしまった。


「あ。ありがとね、がっくん!」

「…ふふ、見てみ?。」

「え?ちゃんとがっくん笑ってた?」

「笑顔も笑顔、アイドルスマイルじゃん。」

「口では散々言っときながら…優しいところあるんだね、向日君。」

「いい写真だねー、ちゃんも嬉しそう。」



携帯の中でニッコリ微笑むがっくんと、鼻の下を伸ばす私。


その写真を見て、私はまたその場に倒れ込んでしまうのだった。



氷帝学園祭スタンプラリー★