「ねぇ、やっぱり私外で待ってるから…。」
「何言ってんのよ、可愛い後輩が一生懸命作ったお化け屋敷でしょ。」
「一生懸命作ってるだろうから行きたくないんだよ…!」
「…さん、意外なところに弱点あったんだね。」
校舎内の階段で、最後の攻防を繰り広げる私と真子ちゃん。
目的地は樺地のクラスがやっている「お化け屋敷」
ホラー好きの真子ちゃんは目が活き活きしてる。
そんなにホラーが苦手ではないという華崎さんと瑠璃ちゃんも
学園祭レベルのお化け屋敷なら大丈夫だよ、と
嫌がる私を必死に励ましてくれていた。
「あ、ここだ。うわー…やっぱり音楽室使ってるから広そうだね。」
「……なんかBGMが既に怖い。」
「結構人気みたいだねー、何組か待ってるみたいだよ。」
普通の教室ではなく、音楽室を仕様している時点で
何だかクオリティが高そうで不安になる。
…せめて、アダムスファミリーみたいなポップな怖さなら良かったのに
受付担当してる男の子のゾンビメイクがリアルすぎて心臓が止まりそうになった。
あと5分程で中に入れると説明を受けて
列に並ぶ私達。どうしよう。どうすればこの場を切り抜けられるのか…。
色々考えた挙句、そうだお腹が痛い作戦に出よう!
この秘技は、中々真偽を見極めにくいからきっと成功するはず…!
真子ちゃんの顔色を伺いながら、恐る恐る挙手をした、その時。
「「「っぎゃあぁああっっ!!」」」
「うわっ!なになに!?」
「…中から聞こえたね。」
大きな悲鳴が聞こえたと思ったら、その直後、
後ろのドアから女の子たちが飛び出してきた。
皆、涙目でお互いを抱きしめあって震えてる。
絶対無理だ。
「ちょ…ちょっ、何アレ…泣くほど怖いの!?」
「へぇ…どんな仕掛けがあるんだろうね。面白そう。」
「ねぇ、なんでそんなに怖いモノに対してアグレッシブなの!?
皆、大学生になって初めての夏休みにサークルの先輩と心霊スポットとか行って
調子に乗って地縛霊とか怒らせちゃって真っ先に身内に不幸が続いたりする典型タイプだよ!」
「あはは、ちゃん大丈夫だよー。ここは心霊スポットじゃないし。」
真子ちゃんにしがみつく私を優しく慰めてくれる瑠璃ちゃん。
しかし、そんなことではもう収まらないぐらい私の恐怖心は膨れ上がっていた。
「…人が怖がらせる系のお化け屋敷って、下手な心霊スポットより怖いんだよね…。」
「あー、まぁ積極的に驚かせに来るもんねぇ…。」
次はどの方法でこの場を切り抜けようかと真剣に考えていたその時。
最後尾にいた私たちの後ろに誰かが並んだ。
「あっ、先輩!」
「…え、ちょた!と、ぴよちゃんさま!」
「…どうも。」
「もしかして、このお化け屋敷に入るの?」
「はいっ!樺地のクラスなので!」
ニコニコと楽しそうなちょたと、いつも通り無表情のぴよちゃんさま。
…なるほど、樺地の雄姿を見に来たんだね…なんて可愛い友情なんだ…!
「お。日吉君に鳳君じゃん。」
「……どうも。」
「こんにちは!」
「ね、ねぇ。ちょた達も一緒に入ろうよ。」
「え、いいんですか?お邪魔じゃないですか?」
「そっ、そんなことないよね、皆!」
「うんうん、ちょっと嬉しいぐらいだわ。」
よし…っ、よし!これで少しは怖さが軽減されるはずだ…!
お化け屋敷は人数が多ければ多いほど、なんとなく恐くなくなるもんだし…。
それに、華崎さんや瑠璃ちゃんも満更でもなさそうだ。
この際、明らかに嫌そうな顔をしているぴよちゃんさまは見なかったことにしよう。
先輩のピンチを救ったと思って、泣き寝入りしてもらうしかない。
こうして、私たちは6人という強力なタッグでお化け屋敷に挑むことになった。
・
・
・
「これ見てー。ここのお化け屋敷のコンセプトが丁寧に書いてあるよ。」
少し列が進んだので前へ進むと、
廊下側の窓にずらりと貼られた説明書きが目に入った。
古びた紙に、血のような赤で書かれた文字。
「Haunted Room」のコンセプトは、テレビ局のスタッフ達が番組の企画で
とある洋館での不可解な噂を解明しに行く…というものらしい。
元々は貴族が住んでいたとされる洋館。
その一室で、夜な夜な女性の悲鳴が聞こえるらしい。
それを映像に収める為に、私達はビデオを片手に探索を進める…。
「リアルすぎるよ、文化祭レベルの設定じゃないじゃん!」
「うわ…どうしよう、ドキドキしてきた。」
「こっ、怖くなったの?真子ちゃん!今からでも遅くないよやっぱりやめ「超楽しそう。」
「あー!ダメな方だった!これはダメなパターン!もう後戻りできない!」
「お待たせしましたー、次の方は…6名様ですね。」
そしていつの間にか、私たちの順番が迫っていた。
その見た目とは裏腹に、ファンシーな声で説明を進めてくれる受付のゾンビ君。
手渡された小さなビデオカメラを一人が持ち運び、
洋館の中のどこかにあると言われる、貴族の宝石を見つけ出して
それを映像に収めなければいけないらしい。
中には様々な部屋が用意されており、
その先々でミッションをクリアしながら進めるタイプのお化け屋敷だそうだ。
「では、カメラをどうぞー。いってらっしゃい。」
「あ、じゃあ私がカメラ持つよ。」
「は…ははは華崎さん、大丈夫?怖かったら掴まっていいからね、私に…!」
「あはは、先輩が1番怖がってるじゃないですか。」
真子ちゃんの腰に巻きつきながら恐る恐る音楽室に足を踏み入れる。
・
・
・
「えーと、何だ?≪箱の中にある鍵を取れ≫だって。」
「箱ってこれかなぁ?」
「ど…どうみても怪しいよ、それ!瑠璃ちゃん危ない!」
「まだ始まったばっかりだし大丈夫だよ。」
薄暗い室内を、ぼんやりと気味の悪いシャンデリアの光が照らす。
一つ目の部屋は、普通の洋室っぽい感じで
アンティーク家具と古びた絵画が並んでいた。
そして部屋のど真ん中にある怪しすぎる箱。
柱のような形の台の上に置かれたソレには、
穴が開いており、中は見えないけれどおそらく
そこに鍵があるのだろう。
…だけど、とてもじゃないけど手を入れる気にはなれない。
「それより、先輩うるさいです。」
「ヒドイよ、ぴよちゃんさま!声出してないと怖いんだから仕方ないじゃん!」
「先輩に怖いものなんてないと思ってました、俺。」
「あるよ!私、一人の夜はぶるぶる寂しさでブルブル震える小動物系女子だって、この前1時間かけて説明したよね?!」
「あはは、あの時の向日先輩のドロップキック綺麗でしたよね。」
「伝わってない!結局全然伝わってなかったんじゃない!」
真子ちゃんにしがみついたまま喚く私を特に
気にする様子もなく、瑠璃ちゃんがおもむろに手を突っ込んだ。
その瞬間
バンッ
「ウオオオオオオオッ!」
「「「っぎゃぁあああああ!」」」
「っ、瑠璃!鍵取れた!?」
「とっ、とととと取った!!」
「うわああああ!!ヤバイヤバイヤバイ、あああああ足掴まれた今!」
瑠璃ちゃんが鍵を取った瞬間に、
私たちが入ってきた方のドアが開き、一人のゾンビが
全速力で私たちを追いかけてきた。
飛び上がって逃げ惑う私に、驚きながらもビデオで
ゾンビを撮影し続ける猛将華崎さん。
そして、冷静な真子ちゃんは瑠璃ちゃんと共に
次の扉を鍵で開けに行っていた。
ちょたとぴよちゃんさまも、少し驚きながらも
ゾンビの動きがあまり早くない所為か、
あまり慌てている様子はない。
「!みんな!開いたよ!」
「悪霊退散!悪霊退散っ!哀しき霊の魂よ、成仏したまえうわあああ!っ動いてる!動いてる!」
「ほら、さん行くよ!」
泣きながら錯乱する私の手を取って、
なんとか次の扉へと連れて行ってくれた華崎さん。
急いで扉をしめると、ドンドンッとその扉を叩く音がした。
「……リ…リアルすぎるよ、無理だよ!!絶対本物乗り移ってるって!」
「け、結構動きが本当のゾンビみたいだったよね…さすが前評判が良かっただけあるわ…。」
「それより…、次も中々…が叫びだしそうな…。」
「え?何が……うわあああああああっ!人が…人が死んでる…っ!きゅう…救急車っ!」
「いや、これたぶん作り物ですよね。」
次に入った部屋は、よく見てみるとお風呂場のようなところだった。
洋館らしいオシャレなバスルームに似合わない、血がべったりと壁に塗りたくられている。
そして、猫足の白いバスの中に横たわる遺体。
あまりにもリアルなその光景に、また心臓が締め付けられる。
しかし、次の扉に向かうためにはその遺体の横を通り過ぎなければいけない。
アレ?でも、またさっきみたいに鍵がいるんじゃ…
「…次の鍵はアレか…。」
「……ど、どこ?」
「その遺体の首にかかっているネックレスに鍵がついてますね。」
冷静に話すぴよちゃんさま。
確かに、よく見るとキラリと光る鍵が見える。
だけどアレを取ったら…きっと…
「…あの鍵を取ったら…絶対にあれ…起きあがるよね…。」
「や、やめようっ!鍵を取って進む方法は諦めて、そうだ、この扉を拳で突き破ろうよ!」
「そ、そんな…ダメですよ!みんなが作ったものですし…。」
「うっ……確かに、それはそうだ…。ええ…じゃあどうするの?」
「…取るしかないんじゃないかな?あの鍵。」
部屋の中がシンと静まり返る。
……皆、何かを言いたそうに顔を合わせる。
きっと言いたいことは、同じだと思う。
「「「…誰が取る?」」」
「わ、私はさっき取ったから…!」
「…このビデオ回さなきゃいけないから、私はパス。」
「…じゃあ残りの4人でジャンケンだね。」
「えええええええっ!い、いやいやいやいや私も無理だよ、心臓発作起こす!」
「…、私だってちょっとは怖いけど頑張るんだからさ。」
私の肩をたたいて微笑む真子ちゃん。
……そんなこと言われると、自分だけ…逃げれないじゃない…。
……あ、でも、そうか!
「こっ、ここは後輩の2人が行くべきじゃないかな!」
「え、俺ですか?」
「…後輩を犠牲にするつもりですね。」
「そ…そういう訳じゃないけど…、でもほら…お、女の子は怖がりだから…。」
「……何かイラっとする言い訳ですね。」
「ごめんなさい!じゃあ素直に言います、生贄になってください先輩のために!」
「あの、じゃあ…俺いきますよ。」
あまり怖がっていない様子のちょたが、笑って手を挙げる。
……カッコ良すぎるよちょた…!
私だけじゃなく、瑠璃ちゃんや華崎さんも、ちょたの勇敢な発言に
盛大な拍手を送った。照れたように笑うちょた、面白くなさそうなぴよちゃんさま。
「…し、失礼しまー…す。」
ゆっくりと遺体に近づいて、そろりそろりとネックレスをはずすちょた。
見ている私達も、自然と息を止めてしまう程の緊張感。
そして、ついに鍵がちょたの手に渡った時。
全員がその遺体の挙動に注目していたが、
それが動くことはなく、拍子抜けしていると
大きな物音と共に、部屋の天井から
ゾンビが文字通り「降ってきた」
「「「ぎゃあああああああっ!!」」」
「はっ、ははは早く、鳳君鍵を!」
「はいっ!……っ、あ、開きました!」
「みんな、こっちだよ!」
錯乱する私の目の前に立つ2人のゾンビ。
いつの間にか、握っていたはずの華崎さんの手が離れていたことに
余計に恐怖が増す。
そして瑠璃ちゃんの声が聞こえた時、
私の周りには誰もいなくて、次のドアを通り抜ける他の皆が見えた。
「まっ…まっでええええええ!」
「ちょ、!何やってんの、早く!」
「まっ…ちょ、どいて…どいてください、本当マジでお願いしますぎゃああああ!増えてる増えてる増えてる!」
部屋の隅に取り残された私を、どんどん追い詰めるゾンビ達。
驚きすぎたのか、恐怖からなのか、足が動かない私に
容赦なく近づいてくる怖すぎる顔のゾンビ。
真子ちゃん達の声は聞こえてるのに、動けない。
ああ、ここで…私は天寿を全うするんだ…
諦めにも似た境地で部屋の隅でうずくまっていると、
強く腕を引かれる感覚に思わず顔をあげた。
「何してるんですか、行きますよ!」
「っ…ぴよちゃんさま!」
「早く立ってください!」
「ちょ…ちょっと足が動かなくて…へへ…。」
「………っ本当に手のかかる人ですね。」
助けに来てくれたぴよちゃんさま。
迫るゾンビを掻き分けて王子様のように颯爽と現れたぴよちゃんさま。
わかります。乙女ゲームや少女漫画を研究しつくした私にはわかるんです。
客観的に見れば、怖くて動けないか弱い少女と、勇敢な王子…!
動けないなら仕方ないと、お姫様抱っこで…私を連れ去ってくれるんですよね、さぁばっちこい!!
「あっ、ありがとぴよちゃんさぎゃあああああ!いっ、痛い痛い!擦ってる!擦ってます!」
「動けないなら引きずるしかないでしょう、早く行きますよ!」
両手を伸ばして、万全受け入れ態勢だった私の手を掴まずに、
迷わず私の足首を掴んでズルズルと引きずっていく、ちょっぴりワイルドな王子様。
想定外の出来事に、さっきよりも大きな悲鳴をあげる私に
ポカンとしているゾンビ達。……っく…、世界ってそんなに甘くない…!
・
・
・
「…いよいよ最後の部屋みたいだね…。」
「うう…もういいよ、もう疲れたよ…!」
「が、頑張ってください先輩!あと少しです!」
既に神経が衰弱している私に、健気なエールを送ってくれる後輩。
瑠璃ちゃんの腕にしがみつきながら、いよいよ最後の部屋へと足を踏み入れる。
しかし、扉を開けてみるとそこは今までのような部屋ではなく、
丸い形のロビーのような空間になっていた。そして、そこから
3股に別れた先の見えない暗い廊下が伸びる。
……雰囲気が嫌すぎる。
ギュっと瑠璃ちゃんの腕を掴みなおす。
最後に入った私達の後ろでパタンと扉が閉まった。
そして、カチャっと鍵が勝手に閉まる音がした。
驚いて振り返った瞬間、ロビーの壁から
無数のゾンビ達が現れた。
毎回のことながら、逃げ惑う私達。
ゾンビの手から逃れるために、必死で走っていると
フと気が付いた。
アレ、みんな、どこに行ったの?
かすかに聞こえるみんなの悲鳴。
後ろを振り向いてみると、迫ってくるのはゾンビだけ。
いつの間にか離してしまった瑠璃ちゃんの腕。
「…っうわああああああああ!こないでええええ!」
迷路のようにぐにゃぐにゃとまがった廊下を走るしかなかった。
そして、行き止まりの場所に現れたドア。
迷わず開けると、中はベッドルームのような部屋。
天蓋付の古臭いお姫様ベッド。
そしてやっぱり暗い部屋の中。
でも今まではみんながいたけど、今は私一人。
恐怖どころじゃない、軽く漏らしそうだ。
いや、でもここで漏らしたら私は今後氷帝で生活できなくなる。
頑張れ…っ、大丈夫、作り物だから…学園祭だから…!
「……で、出口…、取り敢えず出口探さないと…。」
ゆっくりと足を進めて、フと立ち止まる。
…おかしい、この部屋出口がない。
ベッドの横のサイドテーブルでチカチカと光るライト。
その下に、ヒントの書いた紙らしきものがあったので読んでみると
≪残念!ここは行き止まりです!≫
部屋の雰囲気に似つかわしくないポップな字体で書かれたその文章を見て
へなへなと座り込んでしまう。……ま、またあの道を戻らないといけないのか…!
ただ、幸いなことに、ここはハズレの部屋だからなのか
追いかけてくるゾンビたちもいない様子だ。
怖いけど、少しだけここで時間が過ぎるのを待って
ほとぼりが冷めた頃に一気に駆け抜けよう。
混乱する頭でそんなことを考えた。
部屋の雰囲気にどうしても慣れなかったため、
目をつぶって必死に歌を歌って気を紛らわせる。
「ま…けないこと、投げ出さないこと、逃げ出さないこと、信じぬくことっ♪」
「だめにっ、なぁりいそうなぁ時!それが1番だいじぃいー」
歌っている内に気分が良くなってきて、恐怖が少し軽くなった。
その時は。
調子に乗って、目を開けてしまったことを本当に後悔した。
「………。」
「っっいいやああああああ!うわああああ!」
目を開けた瞬間、目の前に立っていたゾンビ。
今までのゾンビと違って桁違いに大きい。
腰が抜けそうになったけれど、野生の本能が働いたのか
気付けばドアを開けて、来た道を全速力で走っていた。
「ぎゃああああ!まっ、真子ちゃあああんみんなああああ!」
ボロボロと涙を流しながら叫んでみるけど、返事はない。
暗い廊下を足がもつれさせながら、一心不乱に走っていた為か、
絶対に転んではいけないタイミングで、盛大に転んでしまった。
「うっ…こ、来ないでください許してください痛いこと辛いこと以外はなんでもやりますからあああ!」
「…………。」
「ひっ…!」
転んで立ち上がらない私を、ゆらりと見下ろすゾンビ。
軽く心臓が停止しそうな程の恐怖に声を失っていると、
ゆっくりそのゾンビの顔が近づいてきた。
「…っぎゃ……っ…え…アレ?」
「……ウス…。」
「っか…樺地!!え、樺地でしょ!」
「ウス。……大丈夫、ですか。」
「……っう…うぇ…、か…樺地ー!怖いよ、怖すぎるよ頑張りすぎだよおおおお!」
「……ウ、…ス。」
「よがっだああああ!本気で…本気で≪ココニネムル≫ってなるかと思った…よおお…。」
あまりにも完成度の高い、ゾンビ姿。
一瞬わからなかったけれど、今までのゾンビと違って
全く脅かしてこないことが気になった。
そして、改めてみるとその体系になんとなく見覚えがあった。
やっぱり樺地だったことに、安心してしまったからなのか
ちょっと後輩に引かれる程涙を流す先輩、情けない。
「…膝……。」
「え、あー…ちょっと擦りむいてるけどだいじょ…」
「……失礼…します…。」
「おわっ!…えっ…え、あ、大丈夫だよ樺地!あの…」
「ウス。」
軽々と私を抱き上げる樺地。
恥ずかしすぎるお姫様抱っこをされて、さっきまでの恐怖はどっかに飛んで行ってしまった。
そして次に襲ってきたのは羞恥心。
…そ、想像していたよりも、…な、なんか恥ずかしい…!
そんな私を気にすることもなく、のしのしと出口に向かって歩いていく樺地。
チラリと顔を見上げると、普通にゾンビメイクがリアルすぎてまた心臓が止まりそうになった。
・
・
・
「あっ!!」
「樺地!良かった、先輩無事だったんですね!」
「あ、あああの樺地ありがと!もう、その…おろしてもらって…」
「ウス。」
出口で待っていてくれた皆。
どうやら私一人だけ、パニックになって別のルートに逃げ込んでいたらしい。
……あの時は、真剣にご臨終を覚悟したけれど
今になってみると、あのルートに行ってなければ樺地とも会えてなかったのか…。
と思うと、なんだかラッキーだ。そんな風に考えられるぐらいには、私の思考は落ち着きを取り戻していた。
「樺地、すごいな。メイクの完成度が高い。」
「本当だ!先輩、怖かったんじゃないですか?」
「そ、そりゃ最初は怖かったけど…良かったよ、樺地で…。」
明るい廊下で見ると、改めてリアルなゾンビ樺地。
皆は写真を撮ったり、まじまじとその顔を見つめたりと楽しそうだ。
「………先輩。」
「ん?何、樺地?」
「………驚かせて…すみません、でした。」
「え、いやいや!いいんだよ、それが仕事なんだもん樺地の!完成度高くてびっくりしたけど…。」
「………ウス。」
「私、こんなに怖いお化け屋敷初めてだよ。頑張ったね、樺地も、皆も!」
「……ウ、ス。」
「…あ、なんか樺地照れてる。」
「…珍しいな。」
少し顔を赤らめて、嬉しそうにうなずく樺地。
……ヤ、ヤバイ、可愛すぎる…っ!
珍しい光景に食いつくぴよちゃんさまとちょたに質問攻めにされて
さらに居心地が悪そうに照れる樺地を見て悶える気持ち悪い先輩でごめんなさい。
こんな光景を見れるなら…アレだけの恐怖を耐え抜いた甲斐があるな…。
そう思ってたのは私だけじゃないようで、フと隣をみると
真子ちゃんや瑠璃ちゃんも生暖かい目で3人を見つめていた。
バッチリとその光景を写真に収めていた抜け目のない華崎さんに、
後で絶対データをもらおう。
そんなことを思いながら、
突如として出現した天使たちのサンクチュアリを皆で見守った。
氷帝学園祭スタンプラリー★