「カメラOK!双眼鏡OK!、準備万端です!」

「準備万端のところ申し訳ないけど、ちょっと一旦抜けるわ。」

「えー!どこ行くの、真子ちゃん?」

「去年卒業した部活の先輩たちが遊びに来てるらしくてさ。呼ばれちゃった。」

「ま…マジか…!瑠璃ちゃんと華崎さんは委員会で抜けてるし…私、一人…!」

「ゴメン、あ。1回私たちのクラスに戻ってみる?誰か一緒に行ってくれる人いるかも。」

「うーん、どうしよっかな…。たぶん、ぴよちゃんさまの喫茶に行っても、
 ひたすらぴよちゃんさまを眺めてるだけだと思うから、別に1人でもいいんだけどね。」

「尚更誰か連れて行った方がいいって。」


自分のロッカーから取り出したデジタルカメラと双眼鏡。
この日の為に用意した装備で廊下に立ち尽くす私と真子ちゃん。

どうしようか迷っている時、真子ちゃんのポケットから着信音が鳴った。


「あ…やばっ…、ゴメン!また連絡するから!」

「オッケー、いってらっしゃーい!」


おそらく先輩からの着信だろう。
携帯を片手にパタパタと走り去って行ってしまった友人。

…さて、どうしようかな。

もうすぐぴよちゃんさまの店番の時間だし…。
誰かを誘ってる暇もないかもしれない。
まぁ、行ってみればぴよちゃんさまもいるし寂しくない…か!

真子ちゃんの忠告は聞き入れずに、
1人で「浴衣喫茶」へ向かおうとしたその時。

後ろからポンと肩を叩かれた。


「よっ、さん1人?」

「吉武君!佐竹君も。うん、あの、さっきまで皆といたんだけどちょっと用事があるみたいで…。」

「へぇー、そっか。俺たちも今店番代わってきたところ。」


吉武君と佐竹君は、同じクラスの爽やかイケメンボーイズ。
サッカー部のプリンスと名高いこの2人が一緒にいて、
さらに声をかけてもらえるだなんて、今年のラッキーポイントを全て使い果たしてしまったんじゃないだろうか。


「どうだった?クラス、盛り上がってる?」

「…うん、まぁまぁって感じ。」

「ほら、今年の喫茶って激戦だろ?だから、今からライバル調査しに行こうと思ってさ。」

「え、そうなんだ!私も今から2年生の浴衣喫茶行こうと思ってた。」

「なら丁度いいじゃん、一緒に行こっか。」


キラッと光る佐竹君スマイルに眩暈がする。
散々テニス部のメンバーを見てきているから、ある程度耐性はあるはずなのに…
黒髪正統派イケメンには太刀打ちできませんでした。
目の保養です、本当にありがとうございます。


「い、いいの?お邪魔して…。」

「あはは、さんっていつもは豪傑武将って感じなのに、変なところで気遣うよね。」

「え?豪傑武将?

「人見知りなんだよね?俺、初めて話しかけた時にさん全然目見てくれなかったもん。」


我がクラスの二大イケメンに挟まれながら歩く廊下は、まるでカンヌ映画祭のレッドカーペット。
まさに両手に花…!ああ、この瞬間を動画に収めたい…私の頭の上で繰り広げられる
2人の会話をレコーダーに録音してiPodのプレイリストに組み込みたい。



























「うわ、結構人多いな。」

「やっぱりこっちの喫茶店にも人取られてたんだよ。」

「さすが2年生…若い力が溢れてるわね…。」

「でもさ、変な言い方だけど浴衣喫茶って…単に和風の喫茶ってだけだろ?」

「な。何でこんな流行ってんだろ、メニューが相当いいのかな。」


目的地である「浴衣喫茶」の外観は、まるで江戸の茶屋だった。
文化祭らしい浮ついた雰囲気ではなく、正統派感が漂う素敵な喫茶。
入り口の前に広げられた赤い番傘。その下には、木の板に綺麗な字で書かれた
メニューが立っている。筆の力強い字だったり、入り口のドアに飾られた
風鈴だったり…細かいところまでこだわってるんだなぁ。


「2年生達に負ける訳にはいかねぇもんな、きっちり偵察していこうぜ!」

「うん、きっと何か秘密があるんだよ…なんだろうね…。」


5・6組程が待っていた列の最後尾について、色々とチェックをする私達。
良いところは素直に認めて、私達も改善していかないと…!
何よりまだ学園祭の時間は残ってるんだから…最後まで頑張りたい。

3人であれやこれやと意見を交わしていると、
一際大きな女の子たちの声が聞こえた。
何かと思って、後ろの廊下を見てみると


「……跡部だ。」

「わ、本当だ。…何かこっちに来てねぇ?」

「跡部のクラスも喫茶店だし、偵察に来たのかもな。」

「…いつもながらあの綺麗な喜び組も引き連れてるね。」

「派手だな…さすがキング。」

「あの、赤いキングTシャツ目立つもんな。」


ひそひそと目立たないように噂話をしていると、
予想通り跡部達が私たちのすぐ後ろに並んだ。

なんとなくだけど、「ここで見つかったら絶対面倒くさい」と思ったので
私は息を潜めて俯いた。佐竹君と吉武君が不思議そうな顔をしていたけれど、
取り敢えず…店内に入ってしまえば、死角につくことも出来るだろうから…!


「跡部様、何だか私たちのクラスの喫茶に比べると地味ですよね、ココ。」

「……なるほど、中々雰囲気が良いじゃねぇの。」

「アラ、跡部様は和風なのもお好みなんですね!私も好きです!」

「…しっかり偵察しとけ。優勝を狙うなら、後輩と言えど油断はするんじゃねぇ。」

「「「「はいっ!!」」」

「……ん?……おい。佐竹。」

「え?あ、久しぶりー。…跡部も偵察?」

「…まぁな。………おい、。何無視してんだ、てめぇ。


マズイ、気づかれた。
佐竹君が振り返ってしまったことで、完全に隠れる場所が無くなってしまった。

私の名前を跡部が呼んだ瞬間、喜び組の皆さんの空気が凍るのがわかる。
……こうなるからイヤなんだよ、跡部と公共の場で関わるのは…。
しかし、さすがに無視し続ける訳にもいかないので、強硬手段に出た。


「…プ、プライベートで来てるんで…。」

「アーン?何を勘違い芸能人みたいなこと言ってんだ、殴るぞ。

「口を開けば暴力沙汰…!どう思う?吉武君、これパワハラだよね?訴えられるよね?」

「え?え…ちょっと、わからないけど…。」

「…。お前のクラスは喫茶の4クラス中、現在3位だぞ。4位の1年と僅差だ。」

「えっ!な…何それ、なんでそんなのわかんの!?まだ集計出てないじゃん!」

「バーカ、俺様が各喫茶の前で人数集計させてるんだよ。優勝はもちろんAクラスだろうな。」


高らかに笑う跡部と、喜び組の女の子たち。
佐竹君に吉武君は少し悔しそうな顔をしていた。
……ということは、ぴよちゃんさまのクラスが2位なのか。


「……まだ、わからないでしょ。」

「決まったようなもんだろうが。精々頑張れよ。」

「……っく…!」


内容もそうだけど、言い方すらムカつく跡部に
いつもの癖で戦闘を仕掛けそうになったところで
私たちの入店の順番が回ってきた。

……命拾いしたな、跡部。
震える拳を押さえながら、私たちは現在2位の浴衣喫茶へと足を踏み入れた。




























「……嘘…でしょ…。」

「あー、なるほど!」

「意外に今年はこういう喫茶なかったもんなー。」

「佐竹君、吉武君…私がもしここで心臓が止まったら…
 真子ちゃん達には≪幸せな顔で眠ってた≫って…伝えてね…。」

「何か怖い。」



店内に入ってみると、そこは見事な和風喫茶だった。
みたらし団子の良い匂いに惑わされそうになったけれど、
それより何より、何故この2年生のクラスが激戦の喫茶部門2位なのかがわかった。

受付を案内してくれた女の子。
やたらとカッコよくて、宝塚みたいだなぁ…なんて思っていると
なんと、店内で食事を出している男の子が、皆浴衣を着ている。
髪の毛ももちろんウィッグ…なのかな、綺麗に結いあげて…。

そして、女の子は男の子らしいクールな色の浴衣を着て、
髪の毛も、江戸時代の色男風にキめている。





つまり、普通の浴衣を着ているだけの喫茶ではなくて
「男女逆転」の浴衣喫茶だったんだ。





心臓がドコドコと激しい音で暴れ始めた。
一緒に入った吉武君と佐竹君に最期の言葉だけを告げて、深呼吸をする。

…ここは男女逆転喫茶。
そして、このクラスはぴよちゃんさまのいるクラス。

もしも…いや、確実に…
ぴよちゃんさまも、浴衣を着て…女装しているはずだ。
私はそれを見た時、どうなってしまうのだろう。
想像するだけでも脳内に血がめぐりすぎて爆発しそうなのに、
実際に視覚で捉えたりしたら…

呼吸を荒くして机に突っ伏す私を見て軽く引く2人。
見てはいけないものを見てしまったような感じで、
それとなく私から目を背けているのがわかる。


「…と、取り敢えずさん。何頼む?」

「え…と…、じゃあこのみたらし団子…セットで…。」

「だ、大丈夫?息が野生動物並に荒いけど…。」

「たぶん…大丈夫だと思います、死期は近いと思うけど…。

「あ、すみませーん。注文お願いしまーす。」


あ、でも爆発する前に…なんとかこのカメラで
ぴよちゃんさまの姿だけは収めたい…!
自分でカメラなんて構えられる気がしなかったので、
隣に座る吉武君に、なんとかカメラだけでも預けよう…。

無言でカメラを手渡す私に、何かを悟ったのか
しっかりと頷いてくれた吉武君はさすが、女子心がわかるイケメン選手権覇者。


「…………はい。」

「えーと、このみたらし団子セット2つとー…。」


かすかに聞こえる佐竹君の声。
注文してくれている最中も、なんとか心を落ち着けようと
俯いて深呼吸をする私の肩を、吉武君がゆっくりと叩いた。


「……ん?」

「…あ、あのー。たぶん、さんが息荒いのって…この男子…の件だよね?」


苦笑いしながら、注文を聞いてくれているであろうウエイターさんを指さす吉武君。
心臓が跳ね上がる。
ゆっくりと首を回すと、そこには



「……何してるんですか。」

「うっ………あ、…えっ……。」


紺色の綺麗な浴衣に身を包んだ、とんでもない美人が立っていた。
スラリとしたうなじに、アップにまとめた髪の毛。
そして、薄化粧なのにも関わらず存分に色気を含んだその目。

大聖女ぴよちゃんさまの降臨に、私は息が出来なかった。



「ぴっ…ぴよ…ちゃ……す、素晴らしい…!」

「……えっ!な、何、さん泣いてる!?」

「だっで…ぐすっ…こんっ…こんな美しいぴよちゃんさまが生きている間に見られるなんて…っ!」

「本格的に気持ち悪いですね。」



泣く先輩女子を凍てついた視線で見下ろして、
何の感情も持たない冷たい言葉で突き放すぴよちゃんさま。

……っなんという…ご褒美…っ!


「…さっさと何にするか決めてもらっていいですか。」

「あっ、ゴメンゴメン!吉武、どうするんだよ。」

「お、俺も一緒のでいいわ。」

「……では繰り返します。みたらし団子…」


パシャッ


「……みたらし団子セットを…」


パシャッパシャッ



「いいよ、いいっ!ぴよちゃんさま、目線下にお願いします!虫けらを見下ろすような感じで!お願いします!お願いしまごふぅっ!

……これでいいですか。



即座に理性を取り戻し、地面に這いつくばって
ぴよちゃんさまの素敵浴衣写真をカメラに収める私。

完全に不審者扱いをされているだろう。
店内の後輩たちがヒソヒソとこちらを見て心配そうに話す声も聞こえる。
お客さんの目も痛いし、今店内に入ってきたばかりの
跡部と喜び組の皆さんもドン引きの視線をこちらに向けている。



だけどっ!

だけど、今の私にはそんなもん関係あらへんっ!!


ただ目の前のぴよちゃんさまの視線が欲しい。
この女神に出会えた奇跡を逃したくない…っ
そんな一心で、必死に後輩の雄姿を写真に収める先輩のわき腹に
情け容赦ない右ストレートを食らわせるぴよちゃんさま。
揺るぎない…揺るぎないその冷たさが……好きだよ…!


「ちょっ、だ、大丈夫さん!?」

「ヤバイよ、ちょっと落ち着こう!ほら、座って!改めて聞くけど、頭は大丈夫?」

「い、至って正常です…。」


「…噂には聞いてたけど…、さん…相当だね。」

「颯爽と立ち去っていく日吉君も、中々慣れてるよな…。」


無事生還した私の、頭の中が狂っているんじゃないかと暗に心配する2人。
しかし、今の私はデジカメに収めたぴよちゃんさまの素敵写真だけで
あと5年は断食できそうな程、パワーをもらっていた。


「…あんな女神がいたんじゃ、うちのクラスも相当頑張らないとね…。」

「だよな。日吉君目当ての女子がわんさかいるし…。」

「でも、俺達も準備頑張ったしな!最後まで諦めずにいこうぜ。」


吉武君の力強い言葉に、私たちは顔を見合わせて頷いた。

…こういう青春っていいよね…。
普段は3人で行動することなんて無いからちょっと緊張するけど
良い思い出になる気がするよ。

いつもと違う環境に、ほんのり頬を染めていると
氷帝の空気読めない代表選手、跡部が隣のテーブルから
悪役のテンプレートみたいな絡み方を始めた。


「はっ、A組に勝とうなんて無駄な努力はやめておけ。」

「…何よ、会話に入ってこないで下さいー。」

「なぁに、この子跡部様に向かって生意気!」

「いつものことじゃない、あんた知らないの?この子は跡部様の捕虜なんだから。」

「誰が捕虜よ!いや…え、そんな風に思われてたの、私!?」

「そうよ。テニス部の捕虜としてキリキリ働いてるって、跡部様が言ってたもの。」

「間違いじゃねぇだろ。」

「っく…!全面的に否定できない節もある…けど!私はちゃんとしたマネ「店で騒がないでください。」


ついに全面抗争になるかと思われたその時、
割って入るようにして、ぴよちゃんさまがみたらし団子セットを運んできた。

女物の浴衣を着ているけれど歩き方は中々男らしくて、
それが無性に可愛い。跡部のことなんてまるで最初からいなかったかのように
頭の中が一瞬にしてぴよちゃんさまに持っていかれる。


「……はぁ、ぴよちゃんさま…とっても綺麗だね。」

「…全然嬉しくありませんが、どうも。」

「女装似合ってるね、俺も綺麗だと思った。」

「な。美人顔だしなー、日吉君。」

「………。」

「あ、2人もそう思ったの!?スゴイ、ぴよちゃんさま!男の子の目から見ても綺麗だなんて!」

「…さっさと団子食って出て行ってください、五月蝿いので。」

「………あっ、はい…。」

「さ、佐竹君大丈夫だよ!ぴよちゃんさまの毒舌は所謂ファンサービスとして捉えて「心の底からの言葉です。」


なんだか不機嫌な様子で私たちのテーブルを去るぴよちゃんさま。
まさか後輩にあんな高圧的な態度に出られるとは思っていなかったのか
びっくりして苦笑いする佐竹君と吉武君。

マ、マズイ…!
ここはきちんと訂正しておいてあげないと、ぴよちゃんさまが
小生意気な2年生として氷帝の中で生きづらくなるかもしれない…!


「きっと、ぴよちゃんさま女装するの嫌だったんじゃないかなー。」

「似合ってるのに?」

「うん、普段のキャラ的に…しなさそうだもん。」

「あー、でもクラスのテンションに合わせて渋々…って感じなのかな。」

「そうだと思う。そういうところ真面目で頑張り屋さんだから、ぴよちゃんさま。」

「へぇー。いい奴なんだね。」

「普段から変なさんが、さらに狂うぐらいだからいい奴なんだろうな。」

「おっ…お見苦しいところをお見せしました…!」


大きな声で笑う2人に、段々と恥ずかしくなってくる。
何とか赤い顔を隠そうと団子を頬張ってみる。
思った以上に美味しいその味に、びっくりした。












「跡部さん。」

「アーン?なんだ。中々似合ってるじゃねぇか。」

「…ありがとうございます。」

「で?仕事中だろうが、何の用だ。」

「…アレ、テニス部の人じゃないですよね。」

「…?…ああ、あいつのクラスメイトの佐竹と吉武だ。」

「やっぱり3年生なんですか。」

「それがどうした。」

「…いえ、やけに親しげだったので。先輩と親しいということは
 少なからず頭がおかしい人ということですから。」

「……はっ、先輩思いで感心だな。」

「跡部さんが想像しているような意味で聞いてるんじゃないので、勘違いしないで下さい。」




































「じゃあ、また後で!」

「うん、ありがとうー!」


ぴよちゃんさまの浴衣喫茶でみたらし団子を堪能した私達。
そろそろサッカー部の後輩たちの舞台発表の時間だということで、
2人は、第1体育館へと旅立っていった。

そろそろ、華崎さんと瑠璃ちゃんも戻ってくる時間なんだけどなぁ。
教室を出て、ロビーの椅子に座る。
窓から見える中庭の雰囲気は、まだまだ賑やかで楽しそうだ。
次はどこに行こうかな、なんて考えて携帯を開く。

待ち受け画面に速攻で設定した、美人ぴよちゃんさまの写真を見て
1人だということも忘れて盛大にニヤけてしまう。

この…この不機嫌そうな視線と、美しい鎖骨…。

間違いなくこの画像は家に帰ってハードディスクに保存した上で
プリントアウトするレベルのお宝画像だ。



「…1人でそんな顔してると、通報されますよ。」

「ひぇっ!……びっくりした、ぴよちゃんさまかぁ!え、もう着替えちゃったの?」

「店番は終わりましたから。」


気配もなく目の前に立っていたぴよちゃんさま。
さっきまでの浴衣姿ではなく、クラスTシャツの「下剋上Tシャツ」に着替えて
すっかりいつも通りだ。


「今からまた学園祭見て回るの?」

「ええ。丁度さっき鳳から連絡がありました。」


同じように待ち合わせをしているのか、隣の椅子に腰かけるぴよちゃんさま。
…さっきの女装も素敵だったけど、やっぱりいつものこの可愛い髪型もいいな。


「ふーん、そっかぁ。私も次はどこに行こうか迷ってるんだよねー。」

「………さっきの人達とですか。」

「ん?ああ、あの2人は元々別行動だよ。今頃体育館じゃないかな?」

「……そうですか。」

「知ってる?あの2人ね、サッカー部のプリンスさまって言われてるんだよ。」

「…まぁ、確かにそういう雰囲気でしたね。」

「ねー、カッコイイよねー。」

「…先輩が、バカみたいに鼻の下伸ばしてる姿が滑稽でしたね。」

「ええええっ!う、嘘、私そんなだらしない顔してた?」

「はい。バカみたいでした。」

「2回言う!?2回言うってことは相当だったんだね!」


携帯を弄りながら、面倒くさそうに答えるぴよちゃんさま。
自分のことを客観視した時に、そんな…そんなだらしない顔してるなんて思わなかったから…


「ど…どうしよう、キモイって思われてないかな。」

「思われてるでしょうね。地面に這いつくばってた時点で予想できたことじゃないですか。」

「ああああアレは、あまりにもぴよちゃんさまが可愛かったから仕方ないよ、共犯だよね!」

「勝手に巻き込まないでくれませんか。」

「……クラスの中での可愛いアイドルポジションが…。」

先輩のクラスのことは知りませんが、もし本当にそのポジションなんだとしたら相当危ないクラスですね。」

「ねぇ、心なしかいつもより辛辣じゃない?!そんなに女装辛かったの?」


ザクザクと私の心をロンギヌスの槍で刺しまくるぴよちゃんさまに
ついに声をあげると、相変わらずの無表情だった。


「…あの2人も、どうせ馬鹿にして笑ってたんじゃないですか。」

「え、何を?私を?」

「…あの馬鹿げた浴衣姿ですよ。……随分楽しそうに3人でコソコソ話してたじゃないですか。」


急に、ぴよちゃんさまがそんなことを言いだすものだから目が点になってしまった。
なんだか拗ねたような表情で、俯くぴよちゃんさま。
……何の話だろうか。


「2人ともぴよちゃんさまの浴衣姿、綺麗だねーって言ってたよ?」

「…男なのにそんなこと言われても全く嬉しくありませんけど。」

「…ぴよちゃんさまさ。きっとクラスの団結っていうか…クラスのためを思って女装してるんだろうなーって思ったんだけど、違った?」

「…………。」

「嫌なことでも、皆の為に頑張れる子なんだよーって自慢したら2人とも感心してたよ。ふふ。」

「………別にそんなことないですけど。何勝手に勘違いしてるんですか。」

「ごっ、ごめん!ぴよちゃんさまマイスター認定試験準1級を持つ私の予想だったんだけど、違った?」

「違います。何ですか、その気持ち悪い資格。


フイっとそっぽを向いてしまったぴよちゃんさまは、ご立腹の様子だ。
…女装はデリケートな問題だったのかな…あんなに綺麗だったけど、
きっと心の中で色んな葛藤があったんだろうな…。
いっその事ぴよちゃんさまが、跡部ぐらい自分大好き人間だったら楽だったんだろうけど…

なんとなく気まずい空気になってしまった。



「おーい!お待たせ、日吉!」

「あ、ちょたー!」

先輩?わぁ、一緒だったんですか?」

「うん、たまたまぴよちゃんさまとここで会ってね。」

「行くぞ。」

「え?あ、先輩は?」


ちょたを見るなり立ち上がり、そそくさと立ち去ろうとするぴよちゃんさま。
…なんか微妙な空気からの別れだけど、…どうやら怒っている様子ではないし、大丈夫か…。


「あ、私は友達待ってるから。いってらっしゃい!」

「そうですか、じゃあ…って、日吉!待ってよ!」


スタスタと歩き去るぴよちゃんさまに、追いかけるちょた。

…いつ見ても微笑ましい後輩たちに、また自然と頬が緩んでしまう。












「どうしたんだよ、日吉!」

「………。」

「…なんでそんなに顔真っ赤なの?」

「…っ早歩きしたからだよ!」

「そ、そっか。」

氷帝学園祭スタンプラリー★