「ちょっとお腹空いてきたよねー。」

「うん、あ。ゴメン、ちょっと行きたい所あるんだけどいい?」

「いいよー、どこ?」

「…忍足の模擬店なんだけどさ。」

「あ、私も行きたいと思ってたー!」

「本当?良かったー。部活の時に、来ないとどうなるかわかってんのやろな等と脅されてて…。」


中庭の木陰で女子4人、チラシを見て次に行く場所の会議をしている時だった。
フと目に入った「あなたの☆お好み」の文字で、部活の時に熱心に忍足が宣伝していたのを思い出した。

模擬店部門は、中庭に集合しているため
店で売っている商品自体よりも、店の場所だったり、お客さんを集める工夫の方が大事だったりする。
その為、毎年中庭では激しいお客さん争奪戦が行われている。


「忍足、今年は自分が提案したメニューが通ったから張り切ってるみたい。」

「へぇー!ちょっと楽しみだね、あの忍足君が熱くなるなんて。」

「うん、何かいつもクールなイメージだもんね。」

「そうと決まれば早速行こうよ!忍足君のクラスだし行列出来ちゃってるかも!」


チラシを持って立ち上がった華崎さんに続いて、私達も階段へと向かった。

……確かにそう言われてみれば、忍足っていつもイベント事にはあまり熱くならずに、
要領良くこなしてるイメージがあるよなぁ。



























「甘くて美味しいパンケーキいかがですかー!」

「一口パスタランチ用意してます、どうぞー!」


中庭に一歩踏み出してみると、首から看板をぶら下げた呼び込み要員達で溢れ返っていた。
マスコットキャラクターっぽいうさぎの衣装に身を包んだ人なんかも居て、
ちびっこ達には大人気だ。


「やっぱり中庭は活気あるねー。」

「ね!学園祭って感じで楽しいよね。」


瑠璃ちゃんと真子ちゃんが、歩くだけでどんどん寄ってくる呼び込み隊。
その後ろで隠れるようにして進む私と華崎さん。


「…あれー…?忍足のクラスって3-Hだよね?呼び込みいなくない?」

「だね…。…ん?ねぇ、あそこの店やたらと並んでるけど…。」

「もしかして…アレが忍足君のクラスかな?」


なんだか模擬店らしくない外観。
他の模擬店に比べて、呼び込みも少ないようだし…
しかし、明らかに1番行列が長いのは何故だろう。

人混みを掻き分けて、なんとか模擬店に近づいた。



「うわぁ!なんかオシャレだね。」

「…なるほど、女子が滅茶苦茶並んでる理由がわかるね。」


腕を組みながら、頷く華崎さんに瑠璃ちゃん。
模擬店らしい派手な看板も、カラフルな装飾もない。

看板はヒノキ?のような木を使っており、
そこに慎ましやかに書かれた「あなたの☆お好み」の文字。

そして、店のスタッフの子たちは皆
白いシャツと、黒い腰から着るタイプのソムリエエプロンを着用している。
まるでオシャレなカフェスタッフのような衣装が、これまた学園祭らしからぬ感じだ。

「お好み焼き」をメインにする模擬店だというから、
てっきり頭にタオル巻いて、汗流して必死に商売しているのかと思ったのに…。


「なんか、可愛いよねー。」

「ねぇ、見て。メニュー看板に書いてる≪プチおこ≫って…めちゃくちゃ可愛い!」

「へぇー、一口サイズのお好み焼きかぁ…。種類も多いし気になるかも。」


すぐに興味を示す3人を見ていても分かるように、
この外観・商品は完全に女性をターゲットに絞った完璧な演出だと思う。

看板と同じく、木の板に描かれた手書きのプチおこイラスト。
種類は全9種類らしく、選べる楽しさがまたがっちりと乙女心を掴んでいる。


「取り敢えず並んでみよっか!」

「うん、私は明太ソースとコーンが気になるなー。」

ちゃんは?」

「うーん…、イカとブタと…なんか全部いけちゃいそうな気がする!」


わくわくしながら並んでみたものの、忍足の姿はない。
店の前で案内をしているのは、男女一人づつで…
お好み焼きを焼いているスタッフは結構いて…5人ぐらいかな?
だけど、その中にも忍足はいない。

店の奥側はパテーションで区切られているため見えないけど、
奥でも何か作業してたりするのかな?

もしくは、忍足は今、店番じゃなくて学園祭を回ってるとか。
しまった、忍足の行動がどうでも良すぎて聞いておくの忘れた。

…まぁ、でも取り敢えず来店はして売り上げに貢献したんだからいいよね、きっと。











「…ね、ごめん。ちょっとトイレ行ってきてもいい?」

「いいよー、いってらっしゃい。」

「もし順番来たら、の分も買っておくね。」

「ありがと!」


列が長すぎて、少し待ち時間が長かった為か、もよおしてしまった。
この模擬店のすぐ裏の校舎にトイレがあるはずだ。
真子ちゃん達にお金だけ託して、急ぎ足で目的地へと向かった。




























「ふぃー…一件落着…。」


無事にトイレを済ませて、誰もいない校舎の廊下を歩く。
こちら側の窓際からは、模擬店の裏側が見えて、それもなんだか楽しい。

そこでフと、忍足のクラスが気になった。
…表からはパーテーションで見えなかったけど…裏でどんな作業してるんだろう。

なんとなく、本当に少しだけ気になっただけ。


しかし、その光景を見てしまった私は



激しく後悔することになった。





「……え、アレ忍足?」


窓ガラス越しに見える忍足は、
皆と同じカフェスタイルでスタイリッシュな衣装に身を包んでいるものの
頭にはタオルを巻き、手には漫画でしかみたことのないようなハリセンを持っていた。


「…やっ!………っと、……せっ!」


ガラス越しにかすかに聞こえる罵声。
そして、いつも奴と接触しているからこそわかる、
絶対に今絡むと面倒くさいであろうガチのお説教顔。

私は即座に廊下にしゃがみ込み、なんとなく息をひそめた。
……何か見てはいけないものを見てしまった気がする。

しかし、怖いもの程気になるのが人の心。
少しだけ、窓を開けて外で繰り広げられる修羅場をのぞいてみた。



「ほら、手止まってるんちゃうか!キャベツはな、こうやって切るんや!
 おばあちゃんの肩叩きとちゃうねんぞ、もっと腰から力いれんかい!

「はいっ!すいません!」

「悪いけどな、そんなちんたらしたソースの混ぜ方やったら日暮れてまうで!

「ごっ、ごめん!」


「…あー、聞こえるか?石川ちゃん。裏は材料OKやから来てくれる?」


トランシーバーのようなものを使う忍足。
その周りには一心不乱に材料を切り続けたり、泡だて器をかき回し続ける男子生徒。
明らかな地獄絵図に、私は心底震えた。


「忍足君、お客さんどんどん増えて…このままじゃ間に合わない!」

「何?…想定外やな…。」


表の焼き場から、裏へ回ってきた石川さんが心配そうに訴える。
…確かに、ここの模擬店は呼び込みもしてないのに人数が少ないなぁと思ってたんだよね。

皆、どうしたんだろうか。


「卓球部3人組はどこいった?」

「≪手首がイカれた≫という言葉を残したまま、行方不明です!

「…ッチ、卓球で鍛えとったんちゃうんか!ほな、店番してない奴ら呼び戻さなアカンな。」

「無理だ!俺、さっき片っ端から電話したけど、全員繋がらねぇ。」

「それに、5人ぐらい追加の食材調達に走らせてるし…!」

「…ど、どうしよう忍足君!さっき聞いた話だと、2年のスイーツ×スイーツにまだ売上負けてるみたい。」

「……落ち着きや、石川ちゃん。…取り敢えず、人手や…。表は大丈夫そうか?」

「えっと、中沢さんと舞川さんは熱さで倒れかけてて、実質3人しか…。」

「…それはアカン、石川ちゃん、ゴメンやけどすぐ2人連れて休憩行かせたってくれへんか。」

「だ、だけどそれじゃ焼き場がまわらないよ!」


……何やら物々しい雰囲気になってきた。

すっかり話に聞き入ってしまったけど…、ピンチっぽいな。
模擬店って、休む場所も無いし常にお客さん呼び込みながら、手を動かさないといけないから
大変とは聞いていたけど…。裏ではこんな苦労があったんだ。

戻ろうとは思いつつも、事の顛末が気になりすぎてしばらく覗いていた。


「いいよ、石川さん。俺達が行く。」

「…那須君…!そんな…、もうキャベツの千切りのし過ぎで手首が上がらないって…。」

「女子が倒れてるのに助けに行かないなんて……男じゃねえだろ。な、忍足いいよな?」

「…せやな、スマンけど頼むわ。」

「おう。しかし、裏場がやばいな…。」

「…大丈夫や、俺と久遠の2人で…………。」



忍足のクラスって、全体的にクールなイメージだったんだけど
こんなにも熱かったんだ…。那須君カッコ良すぎるだろ、なんて思いながら
そろそろ戻ろうとした、その時。



ばっちり目が合ってしまった。




「………。」

「お…おっす!あの、ちょっと通りがかっただけで「頼む、手伝ってくれ!」

「…………え…。」


ガサガサと草むらを掻き分けながら窓際まで歩いてくる忍足。
いつもと違うその真剣な表情に、一瞬動きが止まってしまう。


「お願いや、しか頼れる奴おらんねん。」

「い、いやいや、私クラス違うし!」

「裏場やから大丈夫や、表には見えへん。」

「で、でも…真子ちゃん達と今…ちょうど忍足の店に並んでて…勝手に消えたら…。」

「わかった、俺が真子ちゃんには話しつけとくから。な、頼む。」


忍足が、ここまで私に頼み事をするなんて珍しすぎて、何故か心臓がバクバクする。
そ…そこまでこの模擬店にかけてるのか…。

普段の忍足なら絶対にしないような優しい目で、
必死に私の両手を握りしめる。その行動が心底怖かった。

…しかし、今の話を聞いていただけに、キッパリと断ることが出来ないでいる。
現に、忍足ともう一人の裏場担当らしい久遠君は、
こんな非常事態の話し合いが行われているにも関わらず
光を宿していない死んだような目で、次から次へとキャベツを切り続けている。怖すぎる。



「あ、あの…さん!本当に申し訳ないけど、私からもお願いします!」

「い、石川さんまで…!」


女の子にまで頭を下げられてしまったら、もう断れるはずがない。
渋々、首を縦に振った瞬間。忍足が窓越しに私の身体を持ち上げた。


「うわあああ!なになに!」

「校舎の出口まで行ってる時間がもったいないんや、行くで!」


子供のように、両脇から持ち上げられてあっという間に窓から外へと出てしまった。


……しかし、こんなに必死な忍足を見れたのは貴重かもしれない。



























っ!次はコレや!腕が上がらんようなるまで混ぜろ!」

どんな地獄!ちょ…ちょっと休憩を…」

「久遠見てみぃ!両手で2つのボールかき混ぜてんぞ!」

「もう人間技じゃないよ!っていうか、久遠君さっきからずっと≪妖精が見える…≫って独り言呟いてるよ大丈夫!?」


「口開いてる暇あったら混ぜんかい!どつきまわすぞ!

「さっきの穏やかな懇願はなんだったんだ!詐欺よ、詐欺!」


「よし、石川ちゃん。スマンけど、裏場まで来てくれるか?材料できたわ。」

「その明らかな扱いの差が腹立つんですけど!」

「やかましい!ほら、次はネギや!さっさか手動かさんかい!」

「あんた後で絶対殴り倒してやるから!!」




まさに地獄絵図。


さっきまで、「わ〜い、どのプチおこにしようかな〜☆」なんて楽しく友達と話していたのに

何故私は今、こんなブラックすぎる労働環境に置かれているのでしょうか。

響き渡る罵倒、隣を見れば意識を失いながらも働き続ける屍のような同僚、

何故か優遇される他部署の可愛い女の子たち。

忍足曰く、「裏場は戦場やから、女の子は入れへんってクラスで決めたんや。」とのこと。

規約違反です、誰がどう見ても私が可哀想です。労働組合に訴える覚悟は出来ています。







しかし、私も久遠君ももちろん手を動かしているけど
忍足はそれよりもっと動いている。
汗を流しながら、食材を切り刻む忍足は部活では見たことのない顔をしていた。

それに加えて、次々とトランシーバーから聞こえてくるヘルプの声。
どうやら、食材調達班と焼き場班への全体指示を出しているのは忍足1人のようだ。


「……ねぇ、っていうかこの食材さ、前日までにある程度用意できなかったの?」

「……今朝になって、食材の発注係が数間違えてたことが発覚したんや。」

「えっ…マジで…。」

「午前中だけで底ついてまうぐらいの少なさでな。発注係の女の子、泣いてたわ。」

「…修羅場だね。」


目線はネギに、手は必死に動かしたまま。
少し落ち込んだような声で話す忍足。…そんなトラブルがあったんだ。



「…今日まで必死に知恵絞って考えた模擬店や。…正直、何やってんねん思ったけど。」

「…まぁ、ね。」

「うちのクラスすごいねんで、第一声で咎めるどころか、直ぐに誰が追加の調達に行くか言うて班決めとんねん。」

「へー、さすが冷静だね。」

「…全員のゴールが一緒なんや、模擬店部門で優勝するっていうな。そこしか見てへんから、つまらんミス責める時間がもったいない、言うてたわ。」

「……いい話だなー。」

「せやから、俺も…柄にもなく汗水垂らしてんねや。」


チラリと隣を見ると、嬉しそうに笑う忍足。
……良いクラスだな。心温まる話を聞いたおかげで、心なしか体力が回復したような気がした。

























「お待たせ、忍足!これ、追加食材!」

「おう、お疲れさん!今のところ、ちょっと落ち着いてるからどんどん準備していこか。」

「忍足君、休憩行ってきて?ずっと仕切ってくれてありがと!」

「後は第2班の俺たちに任せろ!」


ついに久遠君が、泡だて器を混ぜながら一人で笑い始め、
私の手首が、ついにご臨終となったその時。


大きな袋をたくさん抱えて、裏場へと飛び込んできた忍足のクラスメイト達。
何故か別のクラスの私がいることに、びっくりしながらも一瞬で事態を理解したようだった。

先程まで、委員会や部活の発表等で店番を抜けていた子達も一気に戻ってきて
店番の人数が倍ほどに増えた。……これで一安心かな。

さすがの忍足も、意識が朦朧としていたのか
千切りのリズムに合わせて陽気に六甲おろしを歌い始めた時は、いよいよこの模擬店もヤバイなと思ったけど…
なんとか大丈夫そうだ。


「…そうか、ほな悪いけどちょっと休ませてもらうわ。第1班全員一旦出させるけど、何かあったらまた呼んで。」

「忍足君、ありがとう!ゆっくり休んできてね!」

「…、行こか。」

「う、うん!」

さんも、本当にありがとう!さんのクラスの売り上げにも絶対貢献しに行くから!」

「本当?ありがとう、待ってるね!」


あまり関わったことのない忍足のクラスだけど、
思わぬタイミングで繋がることが出来た。

感謝の言葉に思わず頬が緩んでしまう。……なんとかなって、良かった。













「…ほら、お礼や。」

「うわー、珍しい。」


店を離れて、人も少ない校舎のロビーに座る私達。
手伝った報酬として、≪プチおこ全9種類盛り≫を皆からプレゼントしてもらった。

丁度お腹も空いていたし、一緒に食べるかということで落ち着いたのだけれど
珍しく、忍足が私にもドリンクを買ってきてくれた。
冷たいお茶のペットボトルを受け取って、無意識に自分の頬に当てる。


「…気持ちいいー。」

「火扱ってるから、暑かったもんな。」

「でもさ、あの勢いなら模擬店部門優勝も、十分有り得るよね。」

「優勝するに決まってるやろ。」


当たり前のように言い切って、自分たちの作ったプチおこに手を付ける忍足。
私も釣られてイカ味を口に運ぶと、じんわり優しい味が広がった。


「んーっ!おいひ!」

「さすが石川ちゃんが焼いてくれたお好み焼きや…。」

「ねっ!焼け具合が最高だね。」

「……しかし、ちょっと熱くなりすぎたな。」

「へ?なによ、今更。」


お好み焼きを頬張りながら、急に暗い表情をする忍足。
さっきまで夜叉のように過酷なデスマーチを押し付けてきてたくせに…
キツく言い過ぎたと反省するなら、もうちょっと早く反省して欲しかった。
と切実に思う。



「いや、裏場はまぁ男子しかおらんしな…ある程度言うても大丈夫やろうけどな…。」

「そういう男女差別社会じゃ通用しないからね。気をつけなさいよ。」

「せやけど、表の焼き場行った時にな…ちょっと焼くのが遅くてトロトロしてる子がおってな。」

「…まぁ、普段焼かないから慣れてないんじゃないの?」

「つい、こう、関西人の血が騒いで言うてもうたんや。」

「なんて?」

≪遅い仕事やったら牛でもできんねんぞ!≫って…。」

キツすぎるだろ!あんた普段フェミニストの癖に…意識手放し過ぎでしょ…。いや…え、女の子泣かなかった?」

「ちょっとびっくりしてたけど、頑張る、言うてたわ。」

「ねぇ、その子テニス部のマネージャーに勧誘しようよ、見込みあるよ!」


私の声は聞こえていないようで、一人で懺悔を始める忍足。
…まぁ、あの状況だったから熱くなってしまうのも仕方ないと思うんだけどね。


「…っていうかさぁ、皆気にしてないと思うよ?」


ハフハフとお好み焼きを頬張りながら、何気なくつぶやくと
やっと忍足が私の目を見た。


「…みんながみんな、みたいに図太い神経してる訳ちゃうねんで。」

「それがクラスの恩人に向かって言う言葉かどうかもう一度考えてごらん。」


「…大丈夫かな、細崎さん。」

「…その細崎さんとは話してないけどさ、さっき帰りに焼き場の女の子達に挨拶したんだ。」

「…へぇ。」

「でさ、一応マネージャーとして忍足の今後のクラスでの立ち位置が気になったから焼き場の子たちに言っておいたんだ。」

「………。」

「随分口汚い罵声とか聞こえたと思うけど、それだけ真剣ってことだから…って。」

にしては気の利いたフォローやな。」

「…でも、皆笑ってたよ。忍足が怒鳴ってたことの怖さより、一生懸命になってくれたことの嬉しさの方が大きいんだって。」

「………なんてええ子達なんや。」


事実を淡々と伝える私に、感極まったのか目頭を押さえて泣きまねをする忍足。

「ネギが太すぎるやろが、雑や!お前の腹とちゃうねんぞ!などと、
およそ好意で手伝ってくれている恩人に言うセリフとは思えないような毒舌だったのに…
何で評価が上がるんだ、納得いかん…。


「これだけ手伝ったんだから、優勝したら何か御礼してよねー。」

「ああ、ええで。1日デートでどうや。」

「ねぇ、御礼って言ったでしょ私。……あ、ぴよちゃんさまと1日デートなら嬉しい。」

「…そういうところが可愛くないねん。クラスの女の子たちやったら飛び上がって喜ぶで。」

「どこから湧いてくるんだ、その自信。怖いわ。」

「世話になったから出血大サービスで言うたってんのに、アホやわ。」


ゴクゴクと私に買ってくれたはずのペットボトルのお茶を飲む忍足。
…だって忍足とデートとか、なんとなくだけど面倒くさい気がする。


「…まぁ、でもほんまに感謝してる。」

「………ん。」

やからこそ、女子やと思わずにキツイことも言えるし」

「………ん?」

「どれだけ怒鳴っても、それ以上の勢いで返してくるのが安心するし」

「………。」

「泡だて器で必死にかき混ぜてる姿なんか、阿修羅みたいやったし…」

「………。」






「さすが俺らのマネージャーや、思たわ。」







なんだろう、この素直に喜べない感じ。
褒めるの下手すぎるだろ、いや、これ絶対褒めてないな。


何か引っかかるものがあったけれど、
いつになく素直な忍足に、なんだか照れてしまう。


机で頬杖をついて、怖いほどに穏やかな目で私がお好み焼きを頬張る姿を見つめる忍足。


それがなんだか怖かったので、照れ隠しのつもりで取り敢えず眼鏡を奪って放り投げたら
容赦なく正拳突きをされた。

氷帝学園祭スタンプラリー★