さんは、今年のクリスマスはどこに行くの?」

「あ、24日はね毎年真子ちゃんと瑠璃ちゃんと「ゴメン、ちゃん!」

「……え、どうしたの瑠璃ちゃん。」


高校生になっても、中学の時と変わらないメンバーでお昼ご飯を食べていた時のこと。
いよいよ再来週に迫ったクリスマスを前に、華崎さんはなんとバイトを始めたらしい。
そんな話の流れでクリスマスについての話題になったんだけど、
急に瑠璃ちゃんが私の目の前で謝罪を始めた。


「……そのー…今年は、ちょっと…。」

「え?なになに?まさか彼氏がどうとか言い出すんじゃないよね、瑠璃ちゃん?」

「っひ…!あ、あの……」

「私達誓ったよね…中3の冬、私忘れてないよ。クリスマスは一生女子会して過ごそうねって血の誓いを立てたよね?

。瑠璃は最近いい感じの男の子に誘われたの、行かせてあげなよ。」

「…真子ちゃん……。」


…確かに、大切な友人に大切な人が出来るかもしれないチャンスだ。
……でも…でも寂しい…!瑠璃ちゃんをじっと見つめながらグルグルと考えていると、
ポンっと真子ちゃんに肩を叩かれた。


「あ、ちなみに私も今年はパスね。」

「ええ?!な…何!?なんで!?」

「私も誘われたの、野球部の奴に。」

「恐ろしい子…!そ、それじゃあ私が1人になっちゃうじゃん!」

「…っていうかさんは忍足君がいるじゃん。」

「そ、そうだよ!忍足君もきっと何かプランとか「あー踏んだ、地雷踏んだよみんな!!」


いきなり耳を塞いで大きな声で叫んだ私を、不思議そうに見つめる3人。
……っく…ダメだ…思い出したら、私の中に潜んでいる獅子が腹を食い破って暴れ出しそうだ…。


「……忍足君と何かあったの?」

「え、2人が付き合い始めて初めてのクリスマスだよね、今年?」

「じ、地雷だって言ってるじゃん!ぐいぐいこないでよ!」

「そんな…気になるよ!私達で良かったら話聞くよ?」

「瑠璃ちゃん…………うっ……。」


私の目を見て、ぎゅっと手を握りしめてくれる瑠璃ちゃん。
その温かさに思わず目が潤む。
そして私は、数日前に起こった出来事を語り始めるのだった。



























「…あー、ついに12月に入ったねー。」

「ほんまや。最近めっちゃ早く感じるわ。」

「おっさんになった証拠だねー。」

「うるさい。」


学校からの帰り道。
いつものように2人で私の家へと向かう。
なんとこの忍足は、私が想像していた30倍ぐらいは彼氏スキルが高くて
毎日帰り道は送ってくれる。
最初はもうなんだかそれがむず痒くて恥ずかしかったけど、
最近ではすっかり慣れてしまった。

傍から見ると友達の関係からさほど進展していないように見える私達だけど、
友達の時とは確実に違う「彼女」扱いに少し嬉しくなったりした。

だけど、人間とは恐ろしいもので上を見るとどんどん欲が深くなっていく。
高校生になった私達の周りにはカップルが溢れ返っていた。
私達より後に付き合い始めたカップル達は私達の横をどんどん走り抜けていくのだった。
日々耳に入るカップルたちの胸キュン話。
そんな話を聞くたびに、「よそはよそ!うちはうち!」と自分に言い聞かせていた。

でもその我慢も長くは続かない。
まずは目前に迫ったクリスマス。
2人で過ごすクリスマスは初めてだから、もしかしたら…
もしかしたら、少女漫画みたいに忍足がバイトして頑張って貯金したお金で
初めてのクリスマスプレゼントを買ってくれたりするのかもしれない…。
そしていい雰囲気になった私達はそのままイルミネーションをバックに……

初めての………




「……おい、。」

「わー!!まだそれは早いか!早いか、へへへ!」

「…何言うてんねん、いきなり。気持ち悪。」

「ねぇ、忍足!24日と25日のことだけどさ、2日の内1日は女子会なんだけど、もう1日はどこ行きたい?」

「……あー、ゴメン。その日無理やわ。」

「…24日も25日も?」

「うん。」

「はぁ!?え…なんで…?あっ!もしかして…バイト…あ、そっかこれは私に秘密なんだよね…えへへ。」

「バイト?」

「いや!何でもないよ!大丈夫、私結構こういうベタな展開も大好きだから!

「……一応言うとくけど、彼女へのクリスマスプレゼント買うためにバイトするとかちゃうからな。」

「あ…そういう設定なんだね、ごめんごめん!サプライズなんだもんね、私ってばこういうところあるから…」

「めっちゃ腹立つわ、その顔。…すまんけど、ほんまに違うで。」

「……バイト先には行かないから、安心してね!」

「いや、普通にがクリスマスに興味あるとは思わんかったから友達と映画行く予定入れてもうた。」


ぐるぐる巻きにしたマフラーに顔をうずめながらしゃべる忍足。
……たぶん聞き間違いだと思うので、もう一度聞き返してみたけど
はっきりと「予定入れてもうた」と言った。


「…信じられない…なんで?なんで高校生にもなってクリスマスに男友達とまさかの2Days?……はっ!!

「…なんや。」

「………もしかして女の子なんじゃ…歯食いしばれ…!

「アホ、そんな訳ないやろ。クラスの三木と行くねん。」

「で、でもそんなの…映画なら私と行けばいいのに!」

「小さい映画館でしかやってへんマイナー映画やからな。、寝てまうやろ。」

「寝るか寝ないかは今関係ないでしょ!クリスマスというものに対する姿勢を問うてるんだよ!」

「…そんなにがイベントごと好きやと思わんかったわ。」


恋人が出来て初めてのクリスマスに、まさか一人になるとは思っていなかった。
確かに今までは彼氏がいなかったから、世間のハッピーイベントの際には必ず家でゲームの彼氏と過ごしてたけど
だからこそ、人一倍イベントごとに期待する気持ちは大きかったのに…!


「…今からでも三木君にお願いして別の日に出来ないの?」

「……ごめんって。」

「……はぁ……。わかったよ、もういい。」

「怒ってる?」

「忍足が今想像してる8000倍は怒ってる。私がサイヤ人なら地球ごとぶっ飛ばしてる。

「……夜やったらギリいけるかも。」

「夜?25日の夜ってこと?」

「…いけるかわからんけど、頑張ってみる。」

「…………友達には2日も捧げるのに、私にはほんの数時間しか割けないんだね。」

「それか、その次の日やったら普通にいけるけど。」

「そんなもんクリスマスじゃないじゃん!そんな理論がまかり通るなら毎日がクリスマスだよ!

「……ちょっと何言うてるかわからんけど」

「わかったよ!もういい!その数時間で絶対後悔させてやるから!
 三木君と観た映画の内容なんか全部吹っ飛ぶぐらいものすっごい…ものすごいクリスマスにしてやるから!」

「……楽しみにしてるわ。」

「覚悟しておきなさいよ!送ってくれてありがとうバイバイ!!

「はいはい、また明日な。」


いつの間にか辿りついていた私の家。
私はこんなに怒っているというのに、忍足はバカだからことの重大さが理解できていないのか
半分笑いながらヒラヒラと手を振っている。

……っくっそ……!絶対…絶対泣いて謝らせてやるんだから…!



























「……ということで、私のクリスマスはわずか数時間しかないんだ。」

「忍足君ひどーい。なんで友達優先するのかねー、クリスマスに。」


私が涙ながらに語った悲しい物語を聞いて、一緒に怒ってくれる華崎さん。
ああ…こうやって同調してもらえるのって想像以上に心が楽になるもんなんだね…。
そうなんだよ、酷いんだよ忍足は…!


「あはは、でもらしいね。」

「…私らしいって?」

「うんうん、その数時間でものすっごいクリスマスにするんでしょ?」

「不貞腐れないでその数時間にかける姿勢がらしい、ってこと。忍足君がびっくりするサプライズ仕掛けちゃいなよ。」

「あ、そうだ!私去年使ったサンタのコスプレ服あるから貸してあげようか?」

「う…っ…みんなぁ…!」


皆の温かい言葉に思わず涙目になってしまう。
本当は…心の中では、ちょっと不貞腐れてはいたけど…
でも、そっか。そうだよね。
皆が言うように、その数時間を濃密なものにすることで
一生忘れられないクリスマスに…なるかもしれないもんね!


「25日のお昼なら私、時間空いてるけど。」

「華崎さん…!え…それってつまり…。」

「私も誘われてるのは24日だし、お昼はの家で作戦会議でもしますか。」

「わぁ、いいね!私も25日は大丈夫だから参加してもいい?」

「……みんなが…皆が男の子に愛される理由が痛い程わかるよ…!天使や…天使がおるで…!」





































「よし!これであとは煮込むだけだよー。」

「…めちゃくちゃいい匂いする!これは忍足君も喜ぶね!」

、いちごの飾りつけこんな感じでいい?」

「ばっちり!真子ちゃんも皆もありがとう!」


そして25日。
お昼から集まった私達は、今日の夜に向けて準備をしていた。
何時に忍足が来るのかはわからないけど、
まずは私の得意分野である料理でぎゃふんと言わせてやりたい。
「こ、こんなおいしいシチュー食べたことあらへんでぇ!っくー!やっぱりクリスマスはと過ごすのが1番やがなでんがな!」
……っふ…ふっふっふ、見える。忍足が感動で涙を流す未来が見えるぞ!

ケーキももちろんばっちり。
みんなが手伝ってくれたおかげで、ものすごく美味しそうなホールケーキが出来上がった。
「あの時を選んでればこのケーキより甘いクリスマスを過ごせたんか…俺がアホやった、許してくれへんかいなぁ!」
そういうに違いない。這いつくばって地面を叩いて悔しがるに違いないぞ、ざまぁみろ!

あまりにも完璧すぎる準備に自然とニヤけていると、
私の部屋で何やら作業をしていた華崎さんからお声がかかった。



さん、はい!これちょっと着てみて。」

「……え?何これ!?」

「何って、サンタさんの服。」

「サ、サンタさんはおじいさんでしょ!?こんな破廉恥な短いスカートじゃないよ!」

「何言ってんの、サプライズじゃん、サプライズ。」


大きな声で慌てふためく私の様子を見に来た瑠璃ちゃんと真子ちゃん。
華崎さんが袋から取り出したあまりにも性的なコスプレ衣装を見て
真子ちゃんは大笑いしている。こ……こんなのいくらなんでも無理だろ…。


「そりゃ華崎さんはそういうキャラだからアリだけどさ、私は違うもん!」

「キャラとか関係ないよねー?」

「いや、絶対ある!これを着て忍足を出迎えたりしたら逆の意味で忘れられない悲しいクリスマスになる!」

ちゃん、クリスマスはちょっと積極的になってもいいんだよ!」

「………る、瑠璃ちゃん…もしかして瑠璃ちゃんも昨日…積極的になったの?」


瑠璃ちゃんは、いつもこういう場面で私と同じように恥ずかしがってるはずなのに
今日はやたらとプッシュしてくる。不思議に思って聞いてみると、
やっぱり顔を赤らめて笑っていた。


「えええー!もしかして…彼氏できたの!?」

「……えへへ、明日報告しようと思ってたんだけど。」

「良かったじゃん、瑠璃。」

「おめでとう!こうしちゃいられないよ、宴だ宴!!

「次はさんの番でしょ、ほらわかったら早く着てみなよ。」


今日の夜のために買ったノンアルコールシャンパンを瑠璃ちゃんの祝勝会のために使おうと
すぐさま台所へ走ろうとする私を、華崎さんが鋭い目で制止する。

……これは着ないと終わらないパターンだな…。





「……ねぇ、やっぱりヤバイよ…私の身体のイカつさが如実にあらわれてるよこれ…。

「似合ってるじゃん、可愛いよ。」

「肩も寒いし風邪ひくよ……!せめてこの太ももは隠したい…スパッツはいてもいい?」

「絶対ダメだよ、そんなの肉の無いすきやきみたいなもんじゃん。」

「それは大問題だね…。えー……でも……いや、ちょっと恥ずかしいな…。」

「ふふ、忍足君きっと慌てちゃうだろうなぁ。こんなちゃん見たら。」

「ね。そろそろさん達も次のステップに進んじゃうかもね。」

「なにそのシティガールみたいな会話…!つ、次のステップとか…そ、そういうの期待してるんじゃないからね!」

「何言ってんの、私に散々ロマンチックなキスのシチュエーション語ってたじゃん。」


ニシシと笑う真子ちゃん。
瑠璃ちゃんも華崎さんもなんだか温かい目で私を見つめてるのが恥ずかしい。

……さ、さすがにこれはあからさますぎて忍足も引くんじゃないかな…。

でも…でも、もしかして本当に皆が言うように、1ミクロンでも女の子っぽい感じになってるなら
…いつも色気がないとか、子供と付き合ってるみたいとか言ってる忍足もちょっとは…意識したりするのかな。

鏡の前で、くるくる回りながら自分の姿を確認していると、変な事を考えているのがバレたのか、
皆の視線はさらに生温いものになっていた。

















「じゃ、そろそろ私達行くね!」

、頑張るのよ。」

「明日みんなで報告会しようねー。」

「皆本当にありがとう!…ほ、報告できるように頑張るからね!」


笑顔で手を振る皆を玄関で見送った。
ドアを開けると外の風が思ったより冷たくて、
思わず自分のサンタ姿を再確認してしまう。
ご機嫌なサンタ帽子までかぶって、準備は万端だ。

……ほ、本当に大丈夫か…。

ドアを開けた瞬間、不審人物だと思って通報されたりしないかな…。


「…いや、とんでもなくスゴイクリスマスにするためだ…!よし!」


パチンと両頬を叩いて部屋の中へと入る。
みんながいなくなった部屋は寂しく感じたけど、
壁一面に飾り付けられたクリスマスのリースやシールがキラキラと輝いていたおかげで
自然とテンションもあがってきた。

……でも、頑張って用意したからちょっと疲れちゃった。


ドサっとソファに倒れ込み、テレビをつける。
あともう少しでクリスマスは終わるけど、まだまだ世間はクリスマスムードだ。

…これが終わったらすぐに年末で…お正月かぁ…。


あーあ、1年って本当に早いなぁ…。









































ピーンポーン




ドンドン……ッ


ピーンポーン……



ピーンポーン


「っんがっ!……え……あれ…今…」


ピーンポーン


「うわ!はいはいはいはい!」


今、私寝てた!?何時!?
飛び起きてみると時計の針は23時を指していた。
そして鳴り響くインターホン。

急いで玄関まで走りながらも、
起き抜けで寝ぼけているからなのか、
ドアを開けたらそこに誰がいるのかなんて考えることもなかった。



「はい!!あ!忍足!」

「…………うわぁ…。」

「うわぁって何……な、に…うわあああああああ!

「ップ……ええからはよ入れてや。遅なってゴメンな。」

「ち、違うのこれは…!」


外はすっかり真っ暗だった。
開け放ったドアの先に居たのは忍足で、
ダウンコートのポケットに手を突っ込んで寒そうに震えていた。

自分の姿をすっかり忘れていた私は、
玄関に転がって精一杯小さく、丸くなっていた。
しかし、慣れているのかそんな私を気にすることも無く
部屋の中へと上がり込む忍足。

寝ぼけていた頭が段々と冴えてきた。
…い、今からクリスマスが始まるんだ…!


「…なんかいつもと違う恰好してるやん。」

「いや…これはほら…、古来から伝わる民族衣装であくまで宗教的な意味を持っていて…

「…なんかええ匂いする。」

「……あ!シチュー!食べる?作ったの!」

「めっちゃお腹空いてる。」


そう言いながら、こたつへと潜り込む忍足。
…やった!晩御飯食べてなかったんだ!

意気揚々とシチューを準備していると、
突き刺さる様な視線を感じた。

フと忍足を見てみると、ばっちり目線が合ってしまう。


「……え、少な目にした方がいい?」

「いや、多めでいい。」

「…な、何?別に毒盛ったりしないから!」

「……なんでもない。」


























「ごちそうさま。」

「お腹いっぱいだー。…ってヤバイ急がないと!」

「へ?何が?」

「えーと…。はい!次はによるクリスマスソングの発表となっております。」

「ぶっ!……いや…、何それ。」

「何って、クリスマスパーティーなんだから歌があるのは当然でしょ!では、ミュージックスタート!」


コンポにあらかじめセットしていたCDを再生し、
その上に置いてあったマラカスを握りしめる。

こたつでくつろぐ忍足の前に立ち、
全力で歌う「恋人がサンタクロース」
あまりの必死さに、段々と笑いを堪えるような表情になっていく忍足。

≪こっいびっとがサンッタクロォース!背の高いサンッタクロォース!わぁたぁしのうーちーにー来るううう!≫

ジャジャンッ


フルコーラス歌い踊った私は12月とは思えないぐらいの汗をかいていた。
パチパチと乾いた拍手を送る忍足は「アホや」と言いながらも笑ってくれた。


「…はい、ありがとうございました。では続いて「まだ続く?これ。」

「…まだプログラム1番なんだけど…。」

「でももうあと5分で0時なるで。」

「ええっ!…しまった…い、急いで次にいかないと…。」

「次のプログラム、俺の時間にしてもええ?」

「へ?…い、いいけど…何歌うの?」

「歌はもうええわ。……それより、ちょっとこっち来て。」


いや…次の歌があるから早く歌いたいんだけど…
と思っていると、念押しをするようにもう一度忍足が手招きをした。

…仕方ない。あと5曲あるけど後回しにしよう。
観念して忍足の隣に座ると、何かごそごそと鞄を探り始めた。

…かと思うと、鞄から手を戻し
ボーッと何かを考えているような顔をして、
また鞄に手を伸ばす。

これを4回ぐらい繰り返したところで、私が無言でマラカスをもう一度握った。


「待て。また歌おうとしてるやろ。」

「だってこの時間がもったいないもん!」

「わかったから。……ちょっと目閉じとけ。」

「へ?はい、閉じたよ。」


やけに歯切れの悪い忍足が、小さく深呼吸をする音が聞こえた。
思わず目を開けようとすると
手元に何かを置かれたような感触があった。


「え?…え…何、これ?」

「………プレゼントやろ、どう見ても。」

「………待って、怖い。」

「何が怖いねん。」


だって…

何コレ、だって……この箱の形状はどう見ても…



「……あ…開けてみてもいい?」

「はよ、開けて。」


震える手で、その小さな箱を開けてみると

キラリと光る宝石がついた指輪が入っていた。




「…ゆ…指輪…?」

「…………はどうせこんなん好きやろ。」

「……………。」

「まぁ、そんな高いもんちゃうけど………うわ。泣いてる。」

「……っ……だって…!こん、こんなの…!」

「……あと、これ俺が作ってんけど。」


サラリと言う忍足。

……へ?

何?……手作りの指輪…?


「…嘘?」

「嘘ちゃうわ。昨日から泊まり込みで作っとってんぞ。」

「…昨日って……映画は?」

「……こういうサプライズが好きって言うてたんやろ。」


まさかあの忍足が、指輪をクリスマスにプレゼントしてくれるってことだけでも驚きなのに
さらに、それが手作りなんて…そんなロマンティックが止まらないようなことするキャラじゃないのに…

本人もそれは自覚しているのか、
段々と耳が赤くなってきていた。
恥ずかしそうに何もない方向を見つめる忍足の横顔を見ていると
また涙が溢れ出してきた。


「……嬉しくないんか。」

「…っう…嬉しいから…泣いてるんじゃん…ありがどお…ぐすっ…。」

「…ふーん。」

「私っ……うっ……私なんか、忍足が、映画を優先した当てつけに…うっプレ、プレゼント…」

「…プレゼントが何?」

「プレゼント……うんっ…うんこ型の貯金箱しか用意してないのにい゛…うわぁあああん!!

「………お前……。」

「だって…だって、そんなサプライズする…気配なかったのに!忍足が!」


喧嘩した勢いで買ってしまった最悪のプレゼントに、さらに涙が止まらなかった。
「金運アップしそうだし大丈夫っしょ!」と軽く考えていた過去の自分にラリアットしたい。
2日間もかけて一生懸命…こんな可愛い指輪を作ってくれた彼氏に…
うんこ…うんこって………

そのまましばらく地面に這いつくばって泣きわめく私を見て、
忍足は心底可笑しそうに笑うのだった。





























「…思ってたより綺麗なうんこやん。」

「そうなの!金色でピカピカだから、金運がアップするんだって!」

「俺は指輪、はうんこ。……愛情の差があらわれてるわ。」

「ごめんなさい!マジでごめんなさい!」

「……他で埋め合わせしてもらわな割に合わんわ。」

「あ、あと一応その貯金箱を置くミニ座布団も買ったんだけど…」

「いらん。」

「…ッスよね、すいませんっしたっ!」


ソファに踏ん反り返る忍足に頭をあげられない。
普段ならこんな屈辱的な構図に耐えられないけど、さすがに今日は心の底から反省してる。
床に正座で反省する私に出来ることは、ただ平謝りすることだけ…!


「…………。」

「えーと…よ、良かったら今からコンビニでアイスでも買ってきましょうか…あ、もちろんハーゲンダッツね!」

「……まぁ、ここからの眺めが結構ええ感じやから許したってもええけど。」

「眺め?何言って………っ!」


突然優しい声でそう言った忍足を見上げると、
ニヤニヤとした表情でこちらを見ていた。

その視線の先が何なのかに気付いて思わず立ち上がってしまう。


「セ、セクハラ!」

「なんや、俺のために着てるんやろ?その服。」

「ちが……わ、ないかもしれないけどだからって性的な目で見るのはNGだから!

「どんな目で見ればええねん。」

「……初孫のお遊戯会を見るおじいちゃんみたいな目線で…。」

「普通にエロい目で見てるけど。」

「ひっ…!や、やめて!アイドルとしての私が汚れる気がする!」

「お世辞や、アホ。っていうか、わざわざそれ買ってきたん?相当勇気あるな、自分。

「似合ってなくて悪かったわね!は、華崎さんが貸してくれたの!」


ソファに座ったまま頭の先からつま先までじっくり見つめられる感覚に
思わず身体が熱くなりそうだった。
や…やっぱり、彼氏補正をかけた上で似合ってないんだ…。
皆といた時は、まだちょっとテンションがクリスマスでおかしくなってたから良かったけど、
冷静になってみると、なんか女の子アピールしてるみたいで恥ずかしいな…。


「…いや、まぁまぁ似合ってるんちゃう?」

「最初この姿を見た時に、あんたがうわぁ…って言ったの忘れてないからね。」

「あれは…遅くなったから怒ってるやろなぁ、思って行ったら想像以上にテンション高い恰好やったからびっくりしただけや。」

「…ふ、ふん!言い訳だよ、そんなの!」

「じゃあ逆に、俺がどんなリアクションすると思ったん?」

≪ひえぇ!間違ってえらい可愛らしいサンタさんの家に来てしもたでんがなぁ〜!って…かーい!可愛すぎるやろがーい!≫
 ……みたいなひょうきんな感じが良かった。」

「いや、そんなクソおもんない台詞言われて嬉しいんか?あとお前は関西弁二度と使うな。

「だ、だって!…こんな恥ずかしい恰好わざわざしてるんだから、お世辞でも可愛いとかさ…
 彼氏なら言ってくれたっていいんじゃない?」

「…ほな、率直な感想言おか?」

「うっ…な、なるべくオブラートに包んだ感じでね…。言っとくけど、私だって人並みに心が傷ついたりするからね。」

「普通に脱がしたい。」

「ちっ、ちちち違う!私が望んでるのはそういうセンシティブさの欠片もない言葉じゃないの!」

「……そんだけ誘っといて、よう言うわ。」

「う、わぁっ!っちょ…っと…!」


ソファから立ち上がった忍足に、あっという間に抱きしめられてしまった。
ヤ…ヤバイ…恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい…!

なんとか心臓の鼓動の回数を減らせないかと
小さく深呼吸をしてみたりしたものの、
そんなことでどうにかなるような衝撃じゃなかった。

抱きしめられたまま、ソファに倒れ込む。
目の前まで近づいた忍足の顔に、顔面から一斉に汗が噴き出すような気がした。


「え、え…!」

「…っていうかご褒美くれてもええんちゃう?俺、結構頑張ったと思うねんけど。」

「何が!?何!?」

「…もう忘れたんか。部室で…が岳人達と話してるの……聞いとったんや。」


がっくん?唐突に飛び出してきた天使の名前に
頭の中はさらにクエスチョンマークでいっぱいになった。

その表情を見て察したのか、ため息をついた忍足が語りだす。


≪忍足はいつも余裕の顔してて悔しい!≫

「……へ?」

≪皆みたいに愛されてるっていう確証が全然ない!恋人っぽくないんだもん≫

「ちょ、ちょっと……。」

「…俺は結構可愛がってるつもりやってんけどなぁ。」

「……えっと…。」

はアホやから、ベッタベタなクリスマスが好きなんやろなぁと思って…
 だからわざわざカップルだらけでクソ恥ずかしい指輪工房で1人で指輪なんか作ってきたんや。」

「………へへ…。」

「何笑とんねん。」

「だって…嬉しいなと思って。ありがと。」


目の前で不満げに口をとがらせて語る忍足が急に可愛く思えてきた。
…そうだよね。こんなデカくてもっさりした男子が1人で指輪作るなんて…
どう考えても恥ずかしいのに…私の為に…。


「……褒美は?」

「…だ、だからハーゲンダッツ買ってくるって…」

「…俺はが何したら喜ぶか考えてプレゼントあげたけど、
 は…この状況で俺がハーゲンダッツで喜ぶと思うんか。」

「……っ……。」


抱きしめられたまま、至近距離で囁かれると
どんどん頭の中が混乱する。
なんか生暖かいような笑顔でじっくり見つめられるのが恥ずかしいやら悔しいやらだけど…

でも、もしかして……


「……め、目閉じてて!」

「嫌や。」

「嫌や!?空気読んでよ!

「……まぁ、さすがにハードル高いか。」

「…っ…。」

ケラケラと余裕の表情で笑って、
ゆっくりと瞼を閉じる忍足。

私はというと、緊張のあまり段々と息も荒くなり
汗もたくさんかいている気がした。

フと、自分の指に光る指輪が目に入る。

……忍足も…こんな嬉しいプレゼントをくれたんだから…
覚悟を決めるしかない…!よし…よしっ!大丈夫だ!いけ、



















「……ねぇ、大丈夫?血止まった?」

「…ほんまにお前だけは…雰囲気ぶち壊すための自動プログラムか何か体に埋め込まれてるんちゃうか。」

「ご、ごめんって…!なんか勢いつきすぎて…!」


精一杯の愛を込めたクチヅケのつもりだったけど、
愛情が重すぎたのか、思いっきり口からぶつかってしまい
鈍い痛みが走った瞬間、目の前の忍足の唇から血が流れていた。

ポカンと目を開ける忍足に、悲鳴をあげる私。

あんなに幸せだったクリスマスが、
まさか血塗られた記憶で終結するとはお互い思っていなかった。

なんとなくシンとする室内。
なんかもう…残念すぎるプレゼントとか、力任せのチューとか…


「ふ…っふふ…。」

「……っふ、笑ってんちゃうぞ。」

「忍足だって、笑ってるじゃん…あはは!」


色んな事があったクリスマスだけど
目標通りきっと忘れられない、ものすごいクリスマスになった気がする。

珍しく笑顔の忍足を見ながら、そんなことを考えた。