「…起きろ………おい!起きろ、姫!」
「うわっ!……え……え、何ここ…。」
「姫、寝ぼけてんのか?はよ採掘いくで。」
目覚めると、そこは見慣れない家だった。
壁はレンガで出来ていて、パチパチと音を立てる暖炉まである。
あたりを見回すと、どうも見慣れた顔が並んでいる。
何が起こっているのかわからずにいる私の腕を
グイグイと引っ張るのは、跡部……跡部か…?
「一体何時間寝れば気がすむんだ。」
「……跡部……なんか小さくない?」
「……てめぇ……覚悟はできてんだろうな。」
「あーあ、跡部にそれは禁句だって何度も言ってんだろー?」
「がっくんも…なんで皆…そんな小人さんみたいに可愛いフォルムに……」
「白雪姫、そろそろ行かないと日が暮れちゃうよ。」
「白雪姫!?!」
ぴょこんとベッドに飛び乗ってきた、ジロちゃんっぽい小人さん。
そして間違いなく私の目を見て「白雪姫」と言った。
……え……ここって……
「白雪姫の世界に来ちゃったの……?」
「何アホなこと言うてんねん、はよ仕事の準備せぇ。」
「……え、白雪姫って働かされる設定だっけ?」
「白雪姫が1番力強いからな、俺達の採掘部門統括リーダーに就任したばっかだろー?」
「いや…そんな逞しい肩書もった白雪姫聞いたことないよ…ただただ可憐に鳥とかと遊ぶのが仕事でしょ?白雪姫は?」
「どうしたんですか?体調がすぐれませんか?姫…。」
「……どうせ仮病でしょう、もうその手には騙されませんよ。」
心配そうに私を見つめる3人の小人。
私の身を案じるように上目遣いでこちらを見つめるちょたに樺地。
そして、恨めしそうに私を睨むぴよちゃんさま。
「……どうしよう、可愛い…!!」
思わず3人まとめて抱きしめる。
まるでちょっと大きめのぬいぐるみのようなサイズの後輩たちに
母性本能を直接攻撃されてしまう……可愛すぎるよ……!
バタバタと足をバタつかせて、スポンと腕から抜けたぴよちゃんさまは
焦ったようにどこかへ走り去ってしまった。
樺地は照れたように大人しく抱かれているし、
ちょたは慣れっことでも言わんばかりに、穏やかに微笑んでいる。
「おい、白雪。お前、日吉に何した。」
「………可愛いから抱きしめただけですけど…。」
2年生2人を抱きしめていると、わらわらと近寄ってきた他のメンバーたち。
小さなジロちゃんやがっくんが玩具の木の枝でじゃれあっているのを見て
微笑ましい気持ちに浸っていると、
私の目の前にえらく憤慨した様子の跡部が立ちはだかった。
その後ろには隠れるようにしてぴよちゃんさまがいて、私を涙目で睨んでいる。
……可愛い……どうしよう、可愛すぎて何かがはじけとびそう……!
「昨日も一昨日もそれで怒鳴ったばかりだろうが…お前の頭の中はおがくずでも詰まってんのか。」
「……なんか……フフ……。」
「おい、何笑ってやがる。」
「いや……こんなに小さいと、跡部も可愛く見えるんだなと思って…。」
「……もう絶対許さねぇ。」
「あ!マズイ、侑士!跡部止めないと!」
「アカン、もう手遅れや。」
プルプルと小さな拳を震わせて、
ベッドに座る私に
周りの皆がハラハラした目で事の成り行きを見守る中、
私は今まで跡部に決して抱いたことのない気持ちが
じわじわと心の中に芽生えていることに気付いた。
「今日という今日は覚悟しろ、白雪!!」
ギュッ
「よーしよし、プリプリ怒ってる跡部も可愛いねぇ…ふふっ。
いだぁっっ!!!」
目の前に迫るミニ跡部を抱きしめて数秒。
脳天に信じられない程の痛みが走った。
「………どこだ、ここ……。」
「…今の1発で仕留めたと思ったがな…。」
「ちょ…っと待って、なになになに!怖い!」
目の前に広がる見慣れた天井。
私の目をまっすぐ見て、右拳を振り上げる跡部。
さっきまでの可愛い跡部とは似ても似つかない
凶悪な顔に、思わず後ずさりする。
「落ち着いて!私は白雪姫だよ!」
「あちゃー、今そういうボケはあかんと思うわ。」
「あと50発ぐらい殴れば、少しは正常になるか?」
「……わかった!今わかった!あれ夢だったのか!」
なんとか状況を把握しようと頭をフル回転させた結果、
さっきの白雪姫ストーリーは夢だったということに気付く。
……気づいたのはいいけど、わからない。
「……なんで私、跡部に怒られてんの?」
「あはは、やっぱり無意識だったんだ!」
「ジ、ジロちゃん、何?私何かした?」
「がまた部室のソファで居眠りしてるから、跡部が起こそうとしたんだよ。
デコピンしても起きないから、顔に落書きしようと思って覗き込んだら…」
「急に起きあがって、跡部可愛い〜とかなんか言いながら抱きしめたんや。」
「それで、跡部が照れてるんだよね〜。」
からかうように言ったジロちゃんを、ギロリと睨む跡部。
………ゲラゲラと笑うがっくんや忍足は、嘘を言っているような感じではないし
今の説明だと、跡部が怒り狂っているのも納得がいく。
…納得はいくけど、納得いかない。
「……質問いいですか。」
「なんだ。」
「私が跡部をギュっと抱きしめちゃった訳でしょ?」
「そうだよ〜。」
「…それはつまり跡部的には、専門用語で"ラッキースケベ"というものなのでは…」
ラッキースケベとは、
女の子とちょっとスケベな接触、または光景を目の当たりにするという大変幸運な事態である!!
つまり、跡部のリアクションとしては喜ぶのが正しいと思う!
その振り上げた拳が照れ隠しだとしても、もうちょっと赤面とかしてくれないと、全然可愛くない!
ということを力説した瞬間、
修羅の目をした跡部に、助走をつけてシャイニングウィザードをお見舞いされた。
私の身体は軽く3mは吹っ飛んだ。
新記録だとはしゃぐがっくんたちの賑やかな声が、悪魔の合唱に聞こえた。