8時、いつもと違う朝食

「今日はー、パンと目玉焼きとソーセージにしよ!」

「あれ?さん昨日はご飯でしたよね?」


合同合宿中の朝ごはん会場。
部屋まで誘いに来てくれた里香ちゃんと璃莉ちゃんと一緒に
バイキング形式の朝ごはんをチョイスしていた。


「いつもはご飯なんだけど、折角だからパン食にもチャレンジしてみようかなと思って!」


仕上げにホットココアでも飲みながらクロワッサンを食べたりしたら…
うん!なんかオシャレなマネージャーさんって感じがするよ!

ご飯派の2人と別れ、意気揚々と目玉焼きコーナーへ行くと、丸井君が並んでいた。
なんとここの目玉焼きコーナーには自分で調理するようのミニコンロと鍋が置いてあり、
熱々の目玉焼きを楽しめるようになっているのだ。


「丸井君おはよう。」

「はよー、目玉焼き?」

「うん、丸井君も焼くの?」

「おう、ほら。いい感じだろぃ?」


ちょいちょいと手招きをされたので、手元のフライパンを覗いてみると
透明の蓋の中でプリンとした美味しそうな目玉焼きが焼けていた。


「…あれ、これ下にハム引いてる?」

「うん、そこにあったハム取ってきた。」

「うわー!ナイスアイデアだね丸井君!私もそうしよっと。」


バイキング形式を最大限利用したナイスアイデアに思わず拍手すると、フフンと丸井君が得意げな顔をした。
慣れた手つきで蓋を開けパラパラと塩胡椒をする丸井君。
…なんか男の人が料理をするのっていいな。


「慣れてるねぇ。」

「ん?まぁな、家でもよく作るし。」

「そうなんだ、お料理男子だね!」

「ほいっと…どう?この目玉焼きの黄身の位置とか完璧だろぃ?」

「うわぁー…美味しそう…!」


出来上がった目玉焼きはハムもいい感じの焼け具合で、まさに完璧な仕上がり。
私も同じように作れるだろうか、と思っていると手元のお皿にするんと目玉焼きが落ちてきた。


「わ!…え?」

「やるよ、俺の天才的目玉焼きスペシャル。」


フライパンからスルリと私の手元へと目玉焼きを乗せた丸井君は、
もう一度油を引きハムを焼き始めた。
なんでもない感じで次の作業に移っていってるけど…


「え!いいの?もらっちゃって…」

「心して食えよ?」


そう言ってパチンとウィンクを飛ばす丸井君に頭がクラクラしてしまう。
か…かっこよすぎる…!
今まで体験したことのない「男前」な対応にドキドキしている間に、
手際よく片手で卵を割り、あっという間に次の目玉焼きを作り上げてしまっていた。


「ほら、冷めるだろぃ。早く食えば?」

「そうだね!じゃあ遠慮なくいただいていくね!ありがと!」


























さん、なんで目玉焼きの写真撮ってるんですか?」

「これね、丸井君が作ってくれたんだよ!めっちゃ美味しそうじゃない?」

「へぇ…上手なんですね。」

既にご飯を食べ始めていた里香ちゃんと璃莉ちゃんに合流して、
さぁ食べよう!…と思ったんだけどどうにも勿体なくて目玉焼きに手がつけられない。
取り敢えず記録に残しておこうと写真を撮っていると、隣でドンとトレーを置く音がした。


「まだ食べてなかったのかよ。」

「丸井君!いや…なんか勿体なくて取り敢えず写真を…。」


ただの目玉焼きだろぃ?と苦笑する丸井君は、隣でむしゃむしゃとパンを頬張り始めた。
なんか…やっぱり丸井君って…


「男前だよね…」

「…惚れた?」


思わず声に出てしまった感想に、
殴るでもなくニヤリと笑って余裕のある回答をしてくれる丸井君。
氷帝だったら間違いなく無視されるか正露丸を飲んだ時ぐらいの苦い顔で半径5m以上席を離されるだろう。


「丸井君ってやっぱりモテるよね?」

「まぁカッコイイからな。」

「私達の学年でも大人気ですよ!」

「そりゃそうだよね!いいなぁ…なんか丸井君みたいな先輩がいたら毎日キャッキャ出来そうだよね。」


豪快に、それでいて綺麗に朝ごはんをたいらげていく丸井君は
私と里香ちゃんの会話を聞き流す大人の余裕を持っている。
照れるでもなく、堂々とカッコイイからな!と言い切っちゃうそのスタイルが男前だ。


「じゃあじゃあ、丸井先輩はさんのことどう思いますかー?」

「り、里香ちゃん何いきなり!」

「んー?山賊…豪快な女マネ…総合的にゴリラだな。」

「ちょっとでもドキドキした私がバカだった。」

「でもさん胸もまぁまぁあるし…裸姿は完全に女なんです!」


「「「ぶっ!」」」



里香ちゃんのとんでもない個人情報流出事件に、私も丸井君もついでに璃莉ちゃんも飲んでたお茶を吹き出した。
そんなジャンプの見開きページで技名叫ぶぐらいのテンションで言われると恥ずかしいよ…!


「り、里香ちゃん何故今私の裸体についての話が必要だった…?

「…だって、なんか皆さんのこと男だーとかゴリラだーとか言うのが嫌なんです!
確かに私も最初はゴリラみたいに頼もしいなって思ってたんですけど…
昨日一緒のお風呂入ってる時にさんの体ずっと観察してたんです。
日に焼けてない部分の肌は白いし、胸だってもち「里香ちゃんありがとう気持ちは十分伝わったよ!」


壊れかけのレディオのようにしゃべり続ける里香ちゃんの口をなんとか抑えていると、隣からやけに視線を感じた。


「…ふーん。」

「な…何、丸井君…。」


目を丸くしてジロジロと私の頭からつま先までを観察する丸井君。
咄嗟に両腕で体を隠すように抱きしめる。


「ち、違うよ!全然そんな…私腹筋も100個ぐらいに割れてるしボディビルダーがつけてるような場所に筋肉とかつけてるから全然そんな…


何故か自分の体が女っぽいと言われると尋常じゃないほど恥ずかしくて、
よくわからない言い訳をしてしまう。すると、丸井君がポンッと手を叩いた。


「わかった。」

「…何がわかったの?」

「体がどうこうってより…雰囲気がNGなんだな。

NGって言った今?

「でも女友達とか女マネにするには最適な感じだし…自信持てよ!」

「その残虐非道なフォローでどうやったら自信が持てる?」



はははと軽快な笑い声を残して立ち去っていった丸井君の後ろ姿を見て呆然とする私に、
普段は可愛い顔した里香ちゃんが、ゲスな表情でソッと一言
「あんなこと言ってるけど…さんの裸を見たら絶対意見変わりますよ」
と斜め上すぎる解決法を囁いたので、私は初めて女の子に全力のデコピンを放った。