OMAKE 01











「ぴよちゃんさま、ハリーポッター好きなの?」

「別に…鳳が勝手に用意したのを着ているだけです。」

「そっかぁ、でもめちゃくちゃ似合ってるよ。」


部活を終えて、氷帝学園の校門前に再集合の約束だった。
念の為に早めに行ってみると、そこにはポツンと
魔法の国から飛び出してきたようなハリーポッターが立っていたのだ。

最後までハロウィンパーティーを嫌がってた癖に、
こうして1番最初に集合しているあたり、本当ぴよちゃんさまだなぁと思う。可愛い。


「あ、ねぇ!先に一緒に写真撮ってもいい?」

「嫌です。」

「大丈夫だよ、フラッシュ使えば暗くても写るからね。」

「嫌です。」

「わかった!じゃあ三千歩譲ってぴよちゃんさまのソロショット撮らせて。」

「………。」


あ!ついに目を逸らした!
ぐるりと私に背を向けて、これはもう「今後一切の会話を受け付けません」ポーズだ。
こうなってしまうと、もう何を言っても無駄…。
仕方ないか…。



カシャッ



「…今撮ったでしょう。」

「沈黙を肯定と受け取るタイプの人間で…。」

「………ッチ。」

「ま、また舌打ち!」



もう構うのも面倒くさくなったのか、本格的に不機嫌そうな顔で腕を組み始めたぴよちゃんさま。
何はともあれハリーポッター姿のぴよちゃんさまが
今日のハロウィン写真の1枚目に刻まれたことでテンションがぐんぐん上がり続ける私。
お互いの温度は対照的だけど、もうさすがに最近は慣れてきて不思議とそんな空気も居心地よく感じ始めていた。


「……寒くないんですか。」

「え?うん、このマントの裏が起毛になってるからあったかいんだ。」

「……ふーん。」

「この衣装はね、小悪魔をイメージしてるんだけどぴよちゃんさま的には何点ぐらいかな?」

「……それは衣装単体の話ですか、先輩も含めての話ですか。」


お。
意外と今日は話に乗ってくれるんだ。
普段のぴよちゃんさまの対応が塩対応を通り越して砂対応ぐらいなので
少しでも反応をしてもらえるだけで、心がウキウキしてしまう。


「じゃ、じゃあまずは衣装単体で…。」

「…………2点。」

「3点満点の話だよね?」

「100点満点です。」

「いきなりとんでもない低評価が飛び出して怖いよ…え…わ、私を含めると何点なの…?」


ま、まさかこの流れで
「う〜ん、やっぱり先輩というLOVE☆スパイスがプラスされることによって衣装が煌めいて見えるやっ★」とはならないだろう。
…どうやらぴよちゃんさまは小悪魔とかそういうのがお好みじゃないんだね…。
もっとなんか慎ましやかなタイプの方が良かったのかもしれない…失敗した…。

依然として腕を組んだままこちらを冷めた目線で見下ろすぴよちゃんさまが
ついに重い口を開こうとする。


「……………。」

「………。」

「…………。」

「……そ、そんなに採点集計に時間かかってる…?」

「………と……思います。」

「…え、え?何?」



小さな声で何か呟いて
プイっと目線を逸らされてしまった。

…ま、まさかちょっと…可愛いとか思ってくれたのかな…?

まぁ、いつもよりちょっと女の子らしい感じだし、
健全な男子中学生がこんな先輩の小悪魔スタイルを見たら
動揺してしまうのもわからなくはない、うんうん。



「…フフ、ぴよちゃんさま。もしかして可愛いなって思ってるのかな?」

「随分都合の良い耳ですね。そんなこと言ってもないし思ってすらいません。」

「照れ隠しなんだよね、それも!わかってるよ!」



大丈夫、まだセーフのはず!、こんなことじゃへこたれへん!

さっきから目線を合わせてくれないぴよちゃんさまの目の前に
無理矢理回り込み、渾身の上目遣いで「キュルン☆」と
少女漫画顔負けの擬音語でも飛び出しそうなポーズを決めてみると、

目の前の後輩の目は、私の予想に反して
何故か落胆したような色を帯び始めた。なんだ、暴れるぞ。





「なんというか……あまりにも服と先輩のベクトルが真逆すぎて…、その的確な表現が見つからないんですが…















 なんか…哀れというか……可哀想だと思います…。

















哀れ……



あはれ…?







「……今まで言われたどんな言葉より辛い……。」

「……見てて寒いです。

「そ、それはちょっと肌の露出が多いから夜風に吹かれて寒そうだなって…そういう意味だよね?」

「いえ、どちらかというと滑稽の意味です。」

滑稽!!!



思わずべしゃりとその場にへたり込む。

……哀れで滑稽な小悪魔ってなんだ…。
言葉のチョイスが鋭すぎてもう立ち上がれないよ…。



「今一度、自分自身を見直した方が良いですよ。」

「もう…もうたくさんです…申し訳ございませんでした…!」



私の心をいろはすのペットボトルぐらいぐっしゃぐしゃにしてやったのが嬉しいのか、
ぴよちゃんさまの目が丸眼鏡の奥で少し笑っているように見えた。

わかってたはずなのに…!何を期待してたんだ自分…!



「あ!先輩!日吉も、もう来てたんだ!」



大きく手を振りながらこちらへ走ってくる少し大きなハリーポッター。
やだ、めっちゃ可愛い…!!
キラキラとしたエフェクトがかかってるかのように煌めくちょたの笑顔。
急速に私の中のHPが回復していくのを感じた。



「ちょた!可愛いね、ハリーポッター!似合ってる!」

先輩も可愛い仮装ですね!」

「ほ、本当?」

「はい!悪魔の仮装ですか?先輩にぴったりですね。」

「うん、デーモンの方じゃなくてデビルの方ね。可愛い小悪魔の方。」

「小悪魔ですか、フフ。可愛いですよ。」



必死に訴える私を見て、余裕の笑顔で微笑んでくれるちょたに
思わずポっと頬が赤くなる。

こんな…こんな明らかな社交辞令でも今の私には効果バツグンだ…。



「……哀れな…。」

「……ぴ、ぴよちゃんさま何か言った?」

「…そうやって社交辞令に一喜一憂してる姿が情けないです。」

「え!社交辞令とかじゃなくて、本当に可愛いですよ?」

「……ちょた……You're my destiny…。」



思わず涙ぐんでいると、ぴよちゃんさまが何を思ったのか
意地になってちょたに反論し始めた。



「いや、可愛くない。」

「可愛いって!」

「そういう嘘は、むしろ残酷だぞ。」

「……日吉。」

「なんだ。」

「……日吉も可愛いって思ってるんだ。」

「はぁ?」

「恥ずかしいんでしょ。」

「え、そうなの?ぴよちゃんさまったら…」


思わぬ朗報につい身を乗り出してしまう。
私とちょたに迫られたぴよちゃんさまの目が一瞬揺れた。



「……っ近寄らないでください!」



バシッと腕を振り払われた私はべしゃっと地面に倒れる。



………昔の私ならこのまま泣いてたかもしれない。




だけど、今の私は違う。
日吉マイスター検定準1級の私にはわかってしまう。




「……今のは…照れ隠しの暴力だよね…ぴよちゃんさま…。」

「本当に素直じゃないなぁ。」



生暖かい目で見守る2人の眼差しに、
ついにキレてそのまま帰ろうとしたぴよちゃんさまを
引き留めるのは中々大変だった。







Happy Halloween!! -2016-