OMAKE 02









「で、選んだのがコレ?」

「そう!アリスのマッドハッターだよ!中々オシャレでしょ?」

「…まぁ、思ったよりは悪くないけど。」


ハロウィン前日。
部活を終えて、今日はハギーと一緒に家で鍋をつついていた。
いつものように私がキッチンで準備をしていると、
何も言わなくてもテーブルの準備をしてくれたり、
色々と動いてくれるハギー。がっくん達とご飯をする時より随分楽なんだよなぁ。


豆乳鍋の締めにうどんを入れて、それも食べ終わって
なんとなくテレビをぼんやり見ていた時。
そういえば昨日の晩に注文していたハギーの仮装衣装が届いたことを思い出した。


「…で、の衣装は?」

「フフ、秘密!当日のお楽しみだよ!」

「もったいぶらなくても微塵も興味ないから安心して。」

「本気で興味なさそうで辛い…。」


マッドハッターの衣装を袋から取り出して眺めながら、
特に私の方を見もせずに答えるハギー。さすがハギーだぜ。


「…どうせ魔女とか小悪魔とか、そういう無難なのでしょ。」

「……なんですぐバレるんだろう。」

が安直すぎるんだよ。芸人ならここで"実はフライドチキンの着ぐるみなんだ"、ぐらい言えないの?」

「芸人じゃありませんので……。」

「…面白くもなんともないね。」


テーブルに肘をつき、ハァと大きくため息をつくハギー。
っく……別に面白さを提供したかったわけじゃないのに
そんな風にいわれると悔しいと思ってしまうぞ…!


「…で、でも今回の衣装はちょっとね…フフ。」

「何?気持ち悪いな。」

「あのね、真子ちゃんから言われたんだけどね…。」

「うん。」

「私ってほら…普段あんまり露出とかしないでしょ?」

「誰も見たくないもんね。」

「うん…うん、ちょっと静かに聞いてて話。心折れるから。


口にチャックの動作をして、私の顔を見つめるハギー。
本当に…いつも油断してたらいつの間にかジャックナイフ持って殴りかかってくるんだから…。


「でね、そうだ。露出とかしないから、逆にそのギャップが良いんじゃないかって話になって…」

「……。」

「で、真子ちゃん曰く私はこんなゴリラみたいな中身にも関わらず胸のあたりは女性らしさの蕾を抱えてるんだよって。」

「………。」

「だからね!今回の衣装は、ちょ…ちょっとだけ胸元があいてる感じなんだ!」



自分で言ってて顔が真っ赤になる。
…こ、これは秘密にしておいた方が良かったか…
わざわざ隠し技を暴露することなかったよね…。

でも、もう言っちゃったもんは仕方ない。
開き直って務めて明るく、ポップに話して見たつもりだけど
目の前のハギーは睫毛1本すら動かさずに私の目を見つめている。


「……あ、もうしゃべっていいよ。」

「………あのさぁ。」

「は、はい。」

「日本国憲法わかる?」

「急に!?」

「公共の福祉に反することはしちゃいけないんだよ。」

「…私の胸元が公共の福祉に反すると…。

「不愉快に思う人もいるからね。」


思わずテーブルに倒れ込む。
公共の福祉に反する仮装なのか…私の仮装は…!

っていうか…
あんな真面目な顔して、とてつもない暴言吐いたなハギー…。

日本国憲法て……




「フ……フフ……。」

「何。」

「いや…なんか今の面白かったなと思ってさ。……でも不愉快に思う人もいるってことは…」

「……。」

「ハギーはどう?不愉快に思う?」

「思わないと思う?」

「愚問でした、すみません。…ハギーそういうの興味なさそうだもんなー。」

「…別に無い訳じゃないけど。」

「え?!」

「うるさい、耳元で大きな声出さないでよ。」


テレビのチャンネルをザッピングしながらソファにもたれるハギー。
今…なんか結構重大な発言が飛び出した気がする…。


「え…あの…ハ、ハギーも普通に…あの女性の胸部とかに興味…ございますの…?」

「…普通無いほうがおかしいんじゃない?」

「………なんか恥ずかしくなってきた。」

「ねぇ、女性のカウントの中にを含めないでくれる?」

「じゃあ、私はどこにカテゴライズされているのでしょうか…。」

「動物。」

「動物……。」



ハギーが普通の男子のように、そういうコトに興味がある。
それだけで私の胸は正体不明のドキドキに襲われていた。

な…なんか最近、ハギーのことを心のどこかで
女友達的な感覚で見てたからなのだろうか…。

でもそうだよね…ハギーもお年頃だもんね…。
そんなことを考えていると、何かが顔に出ていたのか
こちらを振り向いたハギーにものすごく嫌そうな顔をされた。



「……もしかしてハギー…好きな子とかいるの?」

「なんでそんなこと動物に話さないといけないの?」

「認識が酷すぎて話が出来ない…!」>

「動物って言っても猫とか犬とかじゃないからね。牛とか豚とか家畜寄りだから。

「…………。」

「…………。」

「…っく…じゃ、じゃあ私が今ここで胸を放り出して迫っても全く動じないってこと?」

「………やってみたら?」


苦し紛れに放った言葉に、後から恥ずかしさが襲ってくる。何言ってんだ私…。
しかしハギーはいつもと変わらない心の読めない表情で、サラリととんでもない回答をぶち込んでくる。


にそんなこと出来る訳ないじゃん。」

「…っで、出来る!」

「ふーん、じゃあ早くしてよ。」



もう一体自分が何と戦ってるのかすらわからない。

ただ目の前のハギーは涼しい顔をしているのに、
自分がこれだけ真っ赤で一人で汗だくなのが悔しいだけなのかもしれない。

売り言葉に買い言葉で、思わず制服のシャツに手をかけると
一瞬ハギーの目がギョっとしたように見開いた。


でも、ここまで来たら止まれない。


「……ふんっ!!」




勢いに任せてブチブチっとシャツのボタンがはじけ飛ぶ。
その瞬間、ハギーの手で強制的にシャツを閉じられた。


「……何してんの、馬鹿なの?」

「だ、だってハギーが…。」

「………っていうか……ブフッ……何なのそのサイヤ人みたいなシャツの開き方…。


コロコロと床にはじけ飛んだボタンの音が響く。
そして、こらえきれないとばかりにハギーが笑い始めた。

無残にも引きちぎられたシャツ。
……今日は下にキャミソールを着てたんだった。



「……なんか…虚しい……。

「くっ……ふふ…いや…、ゴメン。俺も言いすぎた。」

「いや…なんか今私頭おかしかった…、ごめんなさい。」

「…シャツ貸して、針と糸は?」


泣く程笑ってるハギーが目元を拭いながら、私に手を向ける。
……そ、そっかボタン縫い付けないと…。


「ボタンつけてくれるの?」

「つけないと着て行けないでしょ。」

「……ありがと!」


まだ笑いが収まらない様子のハギー。
シャツとボタンを縫い付けながら、時折思い出したように噴き出した。


「ねぇ、もう忘れて本当に!ごめん!」

「ふふっ…だって…あんなの初めて見た。」

「なんか…本能がここで負けられない!って言ってたんだよ…。」

「まさに動物じゃん。…あ、ごめん糸切バサミ貸し……て……」


ソファに座って膝にシャツを置き、
スルスルと糸を通していくハギーの手元は
本当に器用で、見ているだけで面白かった。
私は裁縫苦手だから…尊敬しちゃうなぁ。

そんなことを思いながら隣に座ったハギーの手元を覗き込んでいると、
ピタと彼の手が止まった。



「…あ、ハサミね!ちょっと待ってて。」

「……。」

「ん?」

「……上、なんか羽織ったら。」

「へ…でも、ハギーにシャツ渡してるから…」

「別にこのシャツじゃなくても、他にパーカーとか何かあるでしょ。」

「う、うん。わかった。」



確かに、キャミソールのままだと部屋の中とはいえ肌寒い。
冷えは大敵だよ!って毎日言ってるもんなぁ、ハギー。
…改めてハギーの女子力の高さを見せつけられてしまった気がするよ。


寝室のドアの隣にかけてあったパーカーと
タンスの上にある裁縫道具を持ってハギーの元へと戻ると
少し不機嫌そうな顔でこちらを睨んでいた。


「…早く着て。」

「はいはい、冷えは大敵だもんねー。」

「…………。」

「あ、これハサミ!本当器用だよねー、ハギーは。女子力が爆発しちゃってるよ。」


自分に無いものを持っているハギーに尊敬の念をこめてそう言うと
さっきよりも厳しい目をして私の手からハサミをふんだくった。


「…………本当、動物並にバカ。」

「日々精進して人間目指しまっす!押忍!」

「うるさい。」




Happy Halloween!! -2016-