a noisy night

a noisy night
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少しずつ風が冷たくなってきた10月。

朝のホームルームが始まる5分前、私はいつものように
真子ちゃんや瑠璃ちゃんと昨日見たドラマの話で盛り上がっていた。

その時、ガラリと教室の扉が開く。
先生の登場に、皆がざわざわと席に戻り始めた。



「起立、礼。」


日直の三坂さんが号令を終えると、
ガタガタと椅子を引く音が響く。
そんな中、先生がプリントを配り始めた。



「えー、今年から生徒会主催の新しい学校行事が始まります。」



そう言って淡々とプリントを配る先生とは反対に、
教室内はクラスメイトの声で段々と騒がしくなる。

前に座っている瑠璃ちゃんからプリントを受け取ると、
そこには大きく「氷帝ハロウィンイベントの開催について」と書いてあった。



「え、ハロウィンのイベント?!すごく楽しそうだよね、ちゃん!」

「うんうん!今年が初開催って、なんか嬉しいね!どんなイベントなんだろう。」



先生が「えー、プリントは後ほど目を通すようにー」なんて言っているけど、
もはや誰にもその声は届いていない。
タイトルからして楽しそうなイベントに、私達のテンションは上がる一方だった。


改めてイベントの概要に目を通してみると、


・仮装自由(但し良識の範囲内のもの)
・有志による模擬店等有り(生徒会に直接申請すること)
・その他生徒会主催イベント有り


とのこと。

初めてのイベントだから、どんな雰囲気になるのかわからないけど……
ハロウィンに仮装が出来るイベントがこうして学校で開催されるのは嬉しい。
どうしても街中で開催される大人たちのハロウィンイベントに参加するのは
まだ少しハードルが高くて、今年は私の家でこじんまりと仮装パーティーしよっか、
なんて真子ちゃん達と話してたばっかりだし。

それに、開催時間は放課後の18時から。
段々と暗くなって、夜の雰囲気に包まれた校内は
学園祭の時ぐらいしか味わえない。

みんなが仮装して、夜の学校でワイワイするなんて
それだけでも何だか楽しそうだ。

「仮装どうしよう!」とか
「みんなでお揃いの買いに行こうぜ!」とか
教室中の楽しそうな声の中で、
私もどんな仮装をしようかな、なんて脳内妄想を繰り広げるのだった。





























「じゃあ明日の放課後、取り敢えず衣装売り場見に行こうよ!」

「そうしましょ、私も色々リサーチしておくから。」

「わかった、じゃあまた明日ね!」


朝のハロウィンイベント発表から、あっという間に放課後になっていた。
今日の昼食時間には、真子ちゃん・瑠璃ちゃん・華崎さんと食堂で
ハロウィンの仮装について話が大いに盛り上がった。
それは他の生徒も同じだったようで、食堂中がなんだかいつもより騒がしかった気がする。

結局短い昼休憩の間には仮装についての案はまとまらず、
私達は明日の放課後に一緒に衣装を選びに行くことにした。

ワクワクする気持ちのまま、手を振り部活へと向かう。
そういえば、テニス部の皆もきっとイベントに参加するよね。
皆はどんな仮装をするんだろう。
どうせ何着ても似合うだろうし、騒がれるんだろうなぁ。
元々ルックスの良い人間は悩むことなくて良いなぁ。
そんなことを思いながら、部室の扉を開いた。




「あ、先輩。」

「遅いぞー、何してたんだよ。」

「ゴメンゴメン、ちょっと真子ちゃん達と話してた!皆はハロウィンイベント何の仮装するか決めた?」


部室のソファに座り、携帯を弄るがっくんに
その後ろで立っているちょた。
いつもより少し遅くなってしまったことを謝りつつ、
さっきまでのハロウィンイベントの仮装話で心がフワフワしていた私は
すかさず皆にイベントの話を持ちかけた。


「俺はクラスメイトと揃えて何かしようか…って話してました。」

「へー、いいじゃんいいじゃん!ちょたの仮装見るの楽しみだなー。」

「でもなんで急にハロウィンイベントなんやろな。」

「ほら、最近街中のハロウィンイベントに仮装して参加する生徒が多いからじゃない?」



着替えを終えて、がっくんの隣に座った忍足が言うと
机の上で本を読んでいたハギーが答えた。


「学校の目の届かない場所で、夜に出歩かれるよりは学校内に集めた方が問題が起こる可能性も低いでしょ。」

「あー、確かにそうかも!学校だと知り合いばっかりだし安心だよね。」

「でもさー、イベントって言ったって何するんだろうな。」

「ハロウィンなんて仮装して写真撮ってわいわいするだけで楽しいもんちゃう?」

「有志による模擬店もあるってプリントに書いてたよなー。」


宍戸がロッカーの中に雑に入れられた鞄の中から、
くしゃくしゃになったプリントを取り出し、机の上に置く。

その時、部室の扉が開き跡部が入ってきた。



「お、跡部。ちょうどええところに来たわ。」

「なんだ。」

「ほら、このハロウィンイベントってさ生徒会主催なんでしょ?模擬店とか出るの?」


机の上にあったプリントを跡部に見せながら言うと、
少しの間を置いて、「……あぁ。」と何かを思い出したように跡部が立ち止まった。



「テニス部で模擬店を出すぞ。申請は済ませてある。」



何でもない事のように言い放った跡部に、
部室内の時間が一瞬止まった。


……テニス部って、このテニス部?



「なんだよ、そんなの聞いてねぇし!」

「今言っただろ。」

「ど、どんな模擬店を出すんですか?」

「それはこれから全員で考える。」

「え、じゃあ当日はずっと店番ってこと?」

「そうなるだろうな。」


プチプチとシャツのボタンを外しながら
淡々と答える跡部に、戸惑う私達。

待ってよ、じゃあハロウィンの楽しいイベントの時間
私はずっとこのメンバーと一緒に店番なの?
真子ちゃん達とおそろいの仮装して校内を練り歩いて、
華崎さんの自撮り棒でインスタ映えする写真を撮りまくる計画はどうなるの?

思わぬ事態に頭が混乱し始める。



「ね、ねぇ跡部!私はその模擬店メンバーには入ってないよね?」

「入ってない訳ないだろうが。」


スルリとシャツを脱ぎながら、当然のように言い放つ跡部。
今は目の前の跡部が上半身裸な事とか、そんなことよりも
なんとかして真子ちゃん達と過ごすハロウィンイベントを勝ち取りたい、
ということしか頭に無かった。


「そもそも何でテニス部で出すことになったの?」

「初めてのイベントだからな。有志と言っても集まらない可能性の方が高い。
 そこで先週の部活会議で生徒会から依頼して取り敢えず今年は様子見で
 各部活単位で希望を募ることにした。」


ハギーが聞くと、着替えを終えた跡部は鞄から書類を取り出し、
ソファに寝ころぶがっくんを押し退け、そこに座った。

バサっと目の前に広げられた書類は数十枚で、
ハロウィンイベントの開催について跡部が色々と
手書きでメモを加え、紙自体がヨレヨレになっている。

それを見ると、このイベント開催のために
生徒会で相当頑張ったんだろうな、ということがわかるだけに
私はもう何も言えなくなってしまった。


「元はと言えば学園の生徒達の風紀を守るために学校側から発案されたイベントだったが、
 現生徒会長はこの俺様だ。ただのガス抜きイベントにするつもりは無い。」


跡部曰く、明日以降イベント概要を校内HPに掲載するらしい。

その内容はというと生徒会主催の仮装コンテストや、
当日校内のどこかに隠れている先生たちを見つけると
お菓子がもらえるスタンプラリーならぬハロウィンラリー等、
夏頃から生徒会の会議で色々と考えたイベントとのこと。



「仮装コンテストとか面白そうじゃん!」

「もちろん賞品も用意する、模擬店も同じだ。」

「え!模擬店も優勝とか決めるの?」

「ここは氷帝学園だぞ、当たり前だ。何時如何なる時もナンバーワンを目指さないと意味がねぇだろ。」

「まぁ、でもやるからにはその方が燃えるよな!」


跡部にソファから落とされたがっくんは、
床に座ったままバチンと拳を手のひらにぶつけ、やる気満々だ。

……不思議なことに"対決形式"だと聞くと、なんだかやる気が出てくるのは
私も、一応氷帝学園の生徒だってことなのかな。
他の皆もその気持ちは同じようで、
跡部の周りに集まった皆は口々に模擬店の案について話し合っている。


「模擬店のジャンルは何でもええんやろ?ほなやっぱり食事系ちゃう?」

「で、でもさ!折角このテニス部でやるんだから、テニス部らしい何かをしたいよね!」


忍足の発言が「たこ焼きかお好み焼きにしようや」と続きそうな危険性を察知して
思わず発言を遮った。隣の忍足をチラリと見ると、小さい声で
「テニスボールの色のたこ焼きやな……」とか言ってたので聞かないフリをした。



「テニス部らしい……ねぇ。跡部、他の部活は何するかまだわからないの?」

「サッカー部は遊戯系、バスケ部がお化け屋敷…今申請されてるのはそのあたりだな。」

「わぁ、ハロウィンにお化け屋敷楽しそうですね!」

「でもイベント開催までそんなに日数が無いですよね。大掛かりな仕掛けは難しいんじゃないですか。」


ぴよちゃんさまがそう言うと、さっきまで
「教室に遊園地作ろうぜ!ジェットコースタージェットコースター!」
とか言ってはしゃいでいたがっくん、宍戸、ジロちゃんがスっと黙り込んだ。
確かにぴよちゃんさまの言う通り、イベントまであと1週間と少し。

頑張れば出来るかもしれないけど、
無理なスケジュールで中途半端なものを作るよりは
簡単ではあるけれどしっかり世界観まで作りこんでクオリティを重視した作品の方が
良い評価を得られることは、氷帝学園の学園祭を経験してきた私達はよく知っている。


「ちなみに、その優勝はどうやって決めるの?学園祭みたいに人気投票するの?」

「いや、チケットの枚数だ。300円のチケットをより多く稼いだ模擬店の勝ち。」

「となると、値段高めでクオリティ高いもん出すか、チケット1枚で出来るもん考えて人数集めるかどっちかやな。」


人気投票で優勝を決める場合。
例えば同じだけお客さんが来て、同じ売り上げを稼いだとしても
投票数によって勝ち負けが決まる。
なので実は値段設定や客数について考えることよりも
いかにクオリティが高く、楽しく面白いものを作るかが重要になってくる。

でも売上で優勝が決まる場合は少し違う。
実は学園祭でも昔はこの方法が取られていたらしいけど、
どうしても出店場所で優劣がついてしまったり、
人気の出し物(お化け屋敷や食事系等)の方が必然的に客数が多くなったりして
結局どのクラスも同じような出し物になってしまうことが多く、
この方法は廃止になった。

ただ、今回は全クラスがほぼ何か出し物をする学園祭とは違って
有志の数組が模擬店を出すイベントなので
出店場所の問題や、出し物がかぶる心配などが少ない。
そのため、よりシンプルな売上対決にしたのだろう。


「原価が安いものって言ったら……わたがしとか、ジュースとかか?」

「まぁ、そうなんだけど何か普通だよね。」


ハギーにそう言われて、腕を組んだまま首をひねる宍戸。
恐らく宍戸自身も言ってみたもののしっくりこなかったんだろう。

うーん……クラス単位じゃなくて、テニス部で出し物をするんだから
よりテニス部の強みを押し出したものが良いと思うんだけど……。



「……このテニス部にしか出来ないことかぁ…。なりふり構わずチケットを集めるなら、
 跡部とか…、みんなとチケット1枚で写真が撮れます☆みたいなのとか……。」


ルックスだけはこの学園でもピカイチのテニス部。
その強みを活かすなら、男子票はこの際捨てて、学園の女子全員からチケットを
巻き上げられるであろう出し物にするのもいいかもしれない。


「……と思ったけど、それは流石に露骨すぎるよねアハハ………え…?」


良い案だと思ったけど、アイドルじゃあるまいし……
と思い、顔をあげてみると全員の動きがぴたりと止まっていた。



「……、中々ええこと考えるやん。」

「え、いや冗談だよ?」

「俺も結構良い案だと思う。例えば教室内をそれっぽいフォトスポットにして、
 衣装を用意して…かかるコストってそれぐらいだしコスパはかなり良いと思うな。」

「当日は学園の生徒全員が仮装してくる。生徒会のハロウィン市場調査では、
 仮装する奴の楽しみの1つは"仮装写真を撮影すること"だ。
 それを満たすため校内にいくつかフォトスポットは用意するが、
 俺様と写真撮影出来るとなればこれ以上のフォトスポットは無いだろうな。」


キリッとした目で、ものすごく真面目な顔で言っている跡部。
心の奥底でそこはかとなくイラ…っとする気持ちが沸き上がったけど、
正直仮装した跡部達と写真撮影出来る、となればチケット確保は容易に出来る気がする。


「超たのしそ〜じゃん!ちゃんナイスアイデア!」

「え、そ、そうかな?へへへ。」

「そうと決まれば考えるんは仮装の内容やな。どないする?」

「withBにしようぜ!ジローと俺と宍戸で!宍戸ブルゾンな!」

「はぁ?!ブルゾンはお前だろ、髪型的に。」

「それぞれ好きな仮装するのもいいけど……フォトスポットにするぐらいだし、
 世界観は合わせた方が良い気がするけどねー。」


ハギーがそう言うと、跡部が静かに頷いた。
誰がブルゾンをやるかで揉めている3人は聞いていないようだけど、
確かに仮装だけじゃなくて、写真に写る背景にもこだわるなら
先にコンセプトを決めて、そこから考えていった方が良い気がする。


「んー、私なら面白いがっくんよりカッコイイがっくんと写真が撮りたいな。」

「なんだよ、じゃあは何かいい案あんの?」

「ベタだけどヴァンパイアとかさー、そういうカッコイイのが良い!」

「めっちゃベタじゃん、そんなのウケねぇって。」


私の提案をハッと鼻で笑うがっくん。
「なぁ、やっぱり逆に今ピコ太郎の方がウケんじゃねぇ?」
と真面目な顔で提案した宍戸には、ゲラゲラ笑いながら
最高に面白いじゃん!と騒ぎ立てている。納得いかない。

また少し騒がしくなった部室で、
ジっと腕を組んでいた跡部がパチンと指を鳴らした。
全員の視線を集めると、静かに口を開く。




「洋館だ。」

「……洋館ですか?」

「室内全体を薄暗い、不気味な廃洋館にする。」

「ええやん、ハロウィンっぽいし俺のクールなイメージに合ってるわ。」

「少なくともピコ太郎よりは良いんじゃない?」


ハギーがクスクスと笑うと、宍戸達はムっとした顔をして
何か言い返そうとしたけど、それを遮るように跡部が続けた。


「街中にあるチープなハロウィンフォトスポットなんかじゃなく、
 本物の洋館を再現する。庭の枯れ木、落ち葉、ジャック・オ・ランタン、
 シャンデリアに張り巡らされた蜘蛛の巣……生徒達が撮りたくなるような背景がいいな。」

「教室の窓にシールを貼って窓がひび割れた感じにしたり、キャンドルを置くのはどうですか?」

「ちょた、ナイスアイデア!雰囲気出ると思う!
 あとはさ、アンティークのソファとかあると、写真撮りやすくなりそうだよね!」

「古びた時計とか…、あとBGMもいるんちゃう?」



一つコンセプトが決まれば、どんどん湧き上がるアイデア。
きっと自分が仮装していたとして、廃洋館なんて
こじゃれたフォトスポットがあれば絶対写真を撮りたくなる。
間違っても場違いなピコ太郎とは撮りたくない。

どうやって家具や木を用意するか、
いつ作業するか、そんな話がトントン拍子に進んでいく中
ギリリと唇をかみしめている宍戸とがっくん。


「はい!はいはいはい!」

「……なんやねん、岳人。」

「その廃洋館ってのはいいけど、結局衣装はどうすんだよ。」


ブスっとした顔でそう言ったがっくんに、跡部は少し考えて
「各自コンセプトに合わせたもので考えろ。」と言い放つ。
その瞬間無邪気な子供のようにきらりと瞳を輝かせる宍戸達。
あぁ、これは絶対ピコ太郎で来るな、と思ったのは私だけじゃなかったようで
跡部に「但し、事前に審査する。ふざけたものは却下だ。」と釘を刺されていた。



「じゃあ早速俺達は飾りつけの材料買いに行こうよ!日吉、樺地。」

「ウス。」

「裏方作業なら当日はそんなにすることもないしな。」


私達3年生の輪から少し離れたところで、早速準備の計画を立てている2年生達。
フと耳に入った言葉が引っかかり、思わず声をかけた。



「ぴよちゃんさま達も衣装着て写真撮るんだよ?」

「嫌です。」

「え!?え、今そういう話でまとまってたんじゃないの!?」

「先輩達はたくさん撮りたい人が居ると思いますけど、俺はそんなに……なので当日は受付とかしますよ!」



そう言って爽やかに笑うちょたに、後ろで腕を組んだまま
仮装なんか絶対しないぞという強い意志を含んだ目でこちらを睨むぴよちゃんさま。
樺地はというと、ちょたと同じ意見なのか隣でコクリと頷いた。



「何言ってんの!?むしろ2年生がいなかったら売上半減どころか……模擬店優勝なんか夢のまた夢だよ!」

「俺ほどではないにしても、日吉達もまぁまぁ人気あるんちゃうか?」

「そうだぜ、俺よりは少ないだろうけど協力はしろよな。」



思わず立ち上がって叫ぶと、忍足とがっくんが私に加勢した。
ちょたや樺地と肩を組み、「まぁ頑張れよ。」なんて上から目線で励ます2人の
その自信はどこから湧き上がってくるのかわからないけど
私がちょた達の立場だったら忍足の腕を振り払って正拳突きしてると思う。


 
「少なくとも私はチケット30枚買ったとしても全部2年生と一緒に撮るために使うよ!」

「なんでちゃん!俺と撮るんでしょ〜。」

「ピコ太郎のジロちゃんよりヴァンパイアのぴよちゃんさまと撮りたい!」

「俺は1枚も撮りたくありません。」

「待て、ヴァンパイアの仮装をするのは俺だ。1番似合うだろうが。」

「え!?跡部は洋館に巣食う蜘蛛男とかじゃないの?」

「っ気持ち悪いこと言うな!」

「なぁ、黙っとったけど俺もヴァンパイアにしよう思ててん。っていうかそれしかないやろ?」

「いや、2年生がヴァンパイアトリオした方が絶対良い。
 忍足は売れないたこ焼き屋を3年続けて志半ばで自分の作ったたこ焼きの火傷で亡くなってしまった
 哀れな浪速の商人の浮遊霊とかそういうので良いと思う。」

「あ、あの!俺達は本当に受付で良いので……。」

「受付は私がするから!お願いだから仮装して下さいそして私と写真を撮ってください。」

先輩、土下座やめてください!」


部室の真ん中で後輩3人に土下座する私、
そしてヴァンパイアは俺だ論争で騒がしい跡部達、
3人でピコ太郎のダンス練習をしている宍戸達、
どうしようもないほどカオスな部室内。


そこに、突然大きな音が鳴り響いた。




バンッ





「ねぇ、さっさと決めないと進まないでしょ?
 もう仮装は全員ヴァンパイア、2年生も強制参加。
 受付はで飾りつけ衣装その他買い出しは全員で。
 わかった?」




苛立ちを露わにしたハギーの一声に全員が静まり返る。
わかったと言わなければ目で殺される、そのぐらいのオーラがあった。



「わかった!っていうかそれがいいよ!ヴァンパイア一族ってことで、
 みんな微妙に衣装は変えてさ!廃洋館っていうコンセプトにも合ってるし、ね!」

「せやな。2年生も、優勝のためには1枚でも多くチケットもらわなあかんねんから観念し。」

「だから嫌で「わ、わかりました!少しでもお役に立てるよう頑張ります!」


鋼鉄の心を持つぴよちゃんさまの口を咄嗟に塞ぎ、朗らかに宣言したちょた。
この状況でこれ以上拒否してもどうにもならないと悟ったのか、
ちょたの手を払いのけながらも、ぴよちゃんさまが今日何回目かわからない深いため息を吐いた。



「跡部はどう?それでいい?」

「……あぁ、悪くない。後はどれだけクオリティを高められるかだ。
 今日からイベントまで部活後は毎日準備だ、わかったな。」




一切まとまりのないこのメンバーで
どこまで出来るか、既に不安だけど……

こうして私達のハロウィンが始まったのだった。