氷帝カンタータ





番外編 素敵なハロウィン(1)





「あー、もうやめた!テレビつけていい?」

「私も調度飽きてきたところだったんだ!つけよつけよ。」


そろそろ日も落ちそうな時間。
我が家にはいつものように、お馴染みのメンバーが集まっていた。

英語の小テスト対策のために、最初は私とがっくんとジロちゃんと宍戸という
何とも頼りないメンバーで勉強をする約束をしていた。
しかし私はわかっていた。このメンバーで集まったところで
絶対勉強なんかできない。教科書を開いた5分後には1人が寝始め、1人がゲームを始め、
その流れでずるずるといつものおしゃべりが始まるところまで軽く予想できた。

これではいかん。明日の小テストで赤点とったら土日にペナルティで
補習を受けないといけないらしい。嫌すぎる。
なんとかこの時間を有意義なものにしようと思い、考えたのは「ストッパー役の誰かを呼ぼう」ということだった。

4人で協議を重ねた結果、暇そうな忍足が選出された。
でも、忍足だけだとまだ弱い。もう少し強力なストッパーが欲しい…。
そして選出されたのがハギー。
ハギーは怖い。
前に同じメンバーで勉強会をした時に、あまりにもダラける私達に対して、
「今、怒りゲージが30%ぐらいまできてるからこれ以上イライラさせないでくれる?」
と言いながら、真顔で私の鉛筆を真っ二つに折ったのだ。
30%で鉛筆…ということは、これ100%だと余裕でアバラ3本ぐらいもっていかれる…
怖くなった私達はその後真面目に宿題を終わらせましたとさ。


「…ねぇ、誰のせいでこんなノーリターンの無駄な労働させられてるかわかってるの?」

「ほんまや。テレビなんか見てる暇あったらはよ英単語覚えてくれ。」

「…きゅ、休憩したら覚えるから!5分だけ!」


そして今。
私の家に集まり勉強会が始まって1時間。
よほど皆補習がイヤだったのか、ものすごーく真面目に勉強していた。
忍足とハギーも私の質問に時折答えながら、自分の宿題を進めていた。

でも、1時間もぶっ通しで英語の勉強をしてたんだからそろそろ休憩が欲しい。
その想いはがっくんも同じだったようで、私達は
忍足とハギーを制止し、強制的に休憩に入った。


「今週末はいよいよハロウィンですね。」

「最近、日本でも随分浸透してきたイベントです。」

「各地で仮装イベントなども予定されているんですよ。」


がっくんがテレビの電源を入れると飛び込んできたのは
ハロウィンの話題だった。

ボーッとテレビを見るがっくんに、忍足。宍戸も調度キリの良いところまで終わったのか、顔をあげた。
休憩用のジュースをグラスに注いでいると、ハギーが手伝いに来てくれた。
ジロちゃんはというと、もちろんぐーすか寝ている。


「…なんか最近ハロウィンって流行ってるんだなー。」

「なんでも騒ぎたがるねぇ。」

「…あ、今映ったナースの姉ちゃんめっちゃ可愛いやん。」

「っつか、ハロウィンって結局何なんだよ?仮装大会か?」


すっかり集中が切れた皆がテレビを見ながら口々に話し始める。
宍戸の何気ない質問を受けて、忍足が早速携帯で「ハロウィン」を検索し始めた。


「えーと?…もともとは秋の収穫を祝い、悪霊などを追い出す宗教的な意味合いのある行事であったが、
 現代では特にアメリカで民間行事として定着し、祝祭本来の宗教的な意味合いはほとんどなくなっている。
やって。」

「ふーん。収穫祭ってことだったんだね。」


ジュースを配りながらハギーが呟いた。
…確かに私もハロウィンがなんなのかってあんまり知らなかったなぁ。


「…子どもたちが魔女やお化けに仮装して近くの家々を訪れてお菓子をもらったりする風習などがある。
 日本では近年、街中でのハロウィン装飾が見られるようになったほか、特に20代の成人による仮装・コスプレのイベントとして
 日本式にアレンジされたハロウィンが定着した。
……なるほどなぁ。まぁ結局楽しければええっちゅうことやな。」

「俺、昔トリックオアトリートしたことあるわ。隣のばあちゃんに飴もらった。」


オレンジジュースを一気に飲み干したがっくんが、
懐かしそうに小さいころの想い出を語る。


「いいなぁ、私そういうのしたことない。」

「でも、考えてみると面白いよね。仮装して家を訪ねて、強制的にお菓子巻き上げるイベントなんてさ。」

「しかもお菓子くれへんかったら悪戯してええんやろ?」

「悪戯ってどの程度まで許されるんだろうな?生卵ぶつけるとか?


宍戸の発言に、皆が一斉に笑い始める。
私は何故か、跡部の顔に生卵をぶつける想像をしてしまい
ものすごくツボに入ってしまった。めちゃくちゃやってみたい、ソレ。


ん…?跡部…。




そうだ!





「……ねぇ、今年はハロウィンやってみない?」

「アカンで。のコスプレなんか誰も見たないからな。」

「そうだぞ。やるならゾンビとかにしとけ、ゾンビ。」

「いいね、全身包帯巻いてれば今よりは可愛くなるかもね。」



一言「ハロウィンやってみない?」って言っただけで総叩きに合うってどうなんだろう。
よくもこのコンマ数秒の間に、ぽんぽん悪口が浮かんでくるね…。


「皆のご期待に沿えずに申し訳ないけど、私露出度高い衣装は事務所的にNGなんだ…。ごめんね!」

「需要ないから心配すんなよ。露出するもんもなさそうだしなゲフォッ!

「…オラ。立てよ。あんたが始めた戦争なんだから責任持ちなさいよ。」


、ノーモーションからのボディーブローは卑怯だぞ!」

「大丈夫か?宍戸。……あかん、リアルに痛いやつみたいやわ。」


つい反射的に繰り出してしまったパンチが的確に宍戸の内臓を貫いた。
ソファに倒れ込む宍戸を見ても、全然可哀想とか思わない。一線を越えた発言をした貴様が悪い。


「…で、ハロウィンの話だったよね?」

「そうだよハギー!私が言いたかったのは、皆で跡部の家とかにトリックオアトリートしに行こうってこと!」

「あ、それいいじゃん!跡部の家めちゃくちゃ美味しいお菓子とかありそう!」

「でもそれやったらやっぱり仮装しなアカンな。」

「…これ見て。米国のハロウィンで仮装されるものには、「恐ろしい」と思われているものが選ばれる傾向がある。
 ハロウィン夜は、この世とあの世の境目がなくなり、あの世の悪霊、死者の霊たちがあの世からこの世にやってくると信じられていた。
 人々はそれぞれ仮装して悪霊たちの目をくらまし、自分に乗り移らないようにしたとか
。…だってさ。」


ハギーが携帯で調べたページを皆に見せる。
食い入るようにその画面を見つめる私とがっくん。忍足が一言付け加えた。


「身の危険を感じて、思わずお菓子をあげてまう程の恐ろしい仮装やないとアカンっちゅーことやな…。」

「あ、見てみて!男子ウケするコスプレ特集だって。1位は…小悪魔かぁ!ダークな意地悪さに、キュートな企みが見え隠れ★
 …だってさ。いいな、私それにしよっかな!」

「おい、どつきまわすぞ。

「え、怖い。」


「そういうのが1番サムイんだぞ、

「そうそう。可愛い女子だけの特権でしょ。は…ほら、これにしなよ。」




そう言ってハギーが見せてくれた画面には

バレエ用の白いドレスを着た男性が写っていた。

画面を少しスクロールしてみると、



男性の大切な部分からとっても可愛い白鳥の首が伸びていた。





画像の全貌を見た瞬間に、笑い転げるがっくんに忍足。
さっきまでソファでうずくまっていたはずの宍戸も手を叩いて笑っている。
何も面白くない私は真顔でこの愚かな連中が爆笑する様を見守っていた。
あと5秒。あと5秒でお前ら片っ端からビンタしてやるからな。


「ん〜…何、うるさい〜…。」

「あ、ジロちゃん起きた!?助けて、皆が私に卑猥なコスプレさせようとしてるんだよ!性的な目で見られてるんだよ!」

「おい、変な言い方すんなよ!っつかこれ見てたら結構色々面白い仮装衣装あるんだなー。」

「仮装……あ。ハロウィンの話ー?俺も参加したいC!」

「ジロちゃんもそう思うよね!皆で怖い仮装して、跡部の家に金目のモノ巻き上げに行こうってイベントなんだよ!

「お菓子でしょ。それだとただの犯罪者だよ。」


ジロちゃんが目覚めたことで、さらに賑やかになる我が家。
まださっきの画像がツボに入ってる様子の忍足と宍戸を無視して、
がっくんと一緒にコスプレ画像を探す。
ハギーも自分の携帯で何かを探しているようだった。


「ジロちゃんジロちゃん!私、絶対ジロちゃんに似合うと思う仮装見つけた。」

「えー、何なに?」

「見て!この羊さんの着ぐるみ!めちゃくちゃ可愛いよー!」

「えー、なんか普通じゃん!全然怖くねぇよ!」


私が見つけ出した画像を皆に見せると、すぐさまがっくんから厳しい声があがった。
…でも、この着ぐるみ着たジロちゃんとか…絶対可愛いよ…!
悪魔もあまりの天使オーラに逃げ出すはずだよ…!


「た、確かに怖さはないけど……そこは…じゃあ、口に生のラム肉を咥えるとかで微調整できないかな?」

「怖すぎるよ。」

「俺はなんでもE−からちゃんに任せる!」

「え……え、マジで?いいの?」

「ジロー危ないぞ。に任せたら最悪全裸とか指定されるかもしれないぞ。」

「がっくん私を何だと思ってるの?」

「あ、じゃあ俺いいこと考えた。」


段々と雑談が長引いて、グダグダし始めたところで
ハギーがポンと手を叩く。


「俺たちの衣装はが考えて、の衣装は俺達で考えるのはどう?もちろん費用は各人で出すって感じで。」

「絶対ヤダ。」


珍しく楽しそうに話すハギーに期待した私が馬鹿だった。
こんなのどう考えてもイジメの始まりでしかない。


「あはは!いいじゃんいいじゃん!、俺に任せとけって!可愛いの選んでやるから。」

「絶対嘘だ!大体さっきだって変な白鳥の衣装プッシュしてた人に任せられる訳ないでしょ!」

「でも、ジローに羊の衣装着せるチャンスだぞ?」


唐突に話にカットインしてきた宍戸の発言に一瞬場が静まる。
……っく…、確かにそう言われてみればまたとないチャンスだよね、これ…!


「せやで。岳人にアイドルの衣装着せても「わかった、それでいこう。」

「おい!変なのは着ねぇからな!」

「何言ってんの、これは契約でしょ?私だってハイパービッグリスクを背負って挑む勝負なんだよ?」

「あ、でも一応ルールね。基本は怖いモノってことにしようよ。」


そうじゃないと、ハロウィンじゃなくてただのコスプレ大会になっちゃうし。
とハギーが付け加える。…な、なんだかハギーが意外にノリノリで嬉しいな…!!


「わかった!じゃあハロウィン当日までに私が代理で衣装発注しておくね。」

「ほな、俺らはの衣装を用意しとけばええんやな。」

「なんか楽しみになってきた!跡部びっくりするかなー。」

「私も本格的なハロウィンって初めてだからワクワクするよ!」






こうして、地獄のハロウィンの幕が上がった。