氷帝カンタータ





夏空セレナーデ(3)





夏!眩しい日差し!蝉の声!





真夏のトロピカル☆アイドル



です!




合宿がついに始まります!

バスの中で跡部の怒りの爆心地にノー装備で突っ込んで、既に身も心もズタボロですがこんなことでくじけません!

だって、こんな素敵なところで夏休みが過ごせるんだから!


「すっ…ごー!何これ、こんなとこで合宿するの?!」


どこかの王様の別荘のような大きな大きな建物。
もっとこう…民宿みたいなのを想像していただけに、度肝を抜かれた。
さすが氷帝。さすが榊先生。

建物の周りは木々に囲まれていて、森の中にいるような感じ。丁度日差しを遮っているので、少し涼しく感じる。


「そっかはここ来るの始めてだもんな。」

「うんうん、今ね私超テンションあがってるから!」

「……でもな、ここお化け出るねんで。」






ピシッ




あ、今私のめくるめくドキドキ☆合宿ラブ(withぴよちゃんさま)のイメージ映像に大きくヒビが入る音が聞こえた。


「な…なんであんたはそういうこと言うかなぁ。」

「だってほんまのことやもん。先知っといた方がええやろ?」

「だ…大丈夫ですよ、先輩!お化けも先輩には敵わないですから!

明らかに落ち込む私の心を、ジャックナイフのような言葉でえぐりとる、ちょた。
悪気はないのがわかるだけに言い返せない…!

「わかった…じゃあちょたが私とずっと一緒にいてくれるよね?」

「え、それは…」

私の冗談に対しATフィールド全開の、ちょた。
そんな目を泳がせなくても……あわあわするちょたをこうやってからかうのもまた一興。


「ガタガタ言ってねぇで入るぞ。午後からは練習だ。」

「「「はーい。」」」


























合宿所から専用バスで5分ほどのところに10面もある広いコートが見えてきた。
ほぁー、これも氷帝の所有地なのか。
きょろきょろする私をよそに、さっさと準備体操を始める面々。
自由参加で募ったレギュラー以外の部員たちも約50名ほど参加している。
えらいえらい。この中から未来のレギュラー陣が出てくるのね。


初めてで、ここの構造がわからない私は、2年生の部員と一緒にマネージャー業務を行うことにした。
この子達は去年も来てるし、マネージャー業務も並行して行ってたみたいだからテキパキ作業できるのよね。


「あんた達はえらいねぇ。あんな先輩になっちゃだめだよ、お願いだから。」


ある一人の男の顔を思い浮かべながら後輩達を説得する私。
早めに若い芽を保護しとかないと、この子達がみんな跡部みたいになったら困るからね。

全員があんなセリフ言いながらテニスしてたら
氷帝学園が影でクスクス笑われるお笑い集団になっちゃうでしょ?

私はそれを危惧しているのです。



「僕、先輩のこと尊敬してます!」

「なっ!だめだめ、ぴよちゃんさまとか樺地とかちょたならともかく、3年生はだめ!
確かにテニスは上手かもしれないよ?だけどどう?跡部みたいに女の子をとっかえひっかえして気づけば学園に元カノばっか、
みたいなことになってみ?これ学生だからいいけど、社会に出たら間違いなく、ほぼ間違いなく左遷だからね。
マニラ支社とかにとばされるコースよ。


「あの、」

「あー、だめだめ忍足もだめよ。憧れるどころかもう目を合わせるのもだめ!
あんた達なんかちょっと可愛い顔してるから妊娠させられるかもしれないよ。」

「…僕は男で「関係ない!その油断が禁物なの!」

「は…はい。」

「まぁ、がっくんやジロちゃんに憧れるのはわかるよ?二人とも限りなく天使に近い存在じゃない?
 でもね、憧れちゃいけない最大の理由がある。知りたい?」

「…はい…。」

「二人ともね、お馬鹿さんなの。」


頭をこんこん、っと叩くそぶりで二人のおつむが普通の人よりちょっと弱いことを伝える。
相変わらず後輩君達は気まずそうな、逃げ出したいような顔をしているけど、
今言っておかないといつ言えるかわからないからね!
この合宿中に何かあってからじゃ遅いんだから!


「あと、宍戸は…まぁ、3年生の中では1番模範的な先輩かな。」

「じゃ、じゃあ宍戸先輩みたいになります!」

「あー、でもあれだわ。宍戸はね、センスが壊滅的だ。昭和よ、昭和。だからそこは真似しちゃだめよ。」


一通り説明し終えて満足な私に、後輩君が申し訳なさそうに頭を下げた。
なに?そんな感謝してくれたの?


先輩すいません!僕たち、先輩のこと忘れません!!


意味不明な言葉を残し全速力で駆け抜けて行く後輩君達。
やだ、結構足早いじゃない。こりゃレギュラーどもを蹴散らすのも時間の問題ね。

さて、テニスコートに戻りますか!

両腕を伸ばし、気合を入れ直す。
そして、体を反転させると、










うわぁー☆















皆、なんで集合してるのぉ?







明らかにヴチギレのメンバーの顔を見た瞬間、脊髄反射的にたどり着いた結論。

「逃げないと殺られる」



ゆっくりと体を反転させ走り出そうとする私の腰をがっちりホールドしたのは


ちゃん、俺のことお馬鹿さんって言ったー?」


ニコぉっと微笑むジロちゃんの顔が怖い。
いつものジロちゃんじゃない、目が…目が笑ってまへん!!


…てめぇどこほっつき歩いてんのかと見に来てみれば…」

「あ、あの跡部さん、さっきのは違うんです、なんといいますか、
 跡部さんはすーっごくかっこいいからすーっごくモテモテなんだよーってことを、
 オブラートを10枚ぐらい剥がした状態で伝えただけで、悪意はないのよ、悪意は。」



だめだ、もう何を言ってもダメだと全員の目が語ってる。

わーお…曲がりなりにも美男達に見つめらてると迫力あるなっ!

クラクラしちゃう(恐怖で)




。」

「はい!」

「…妊娠させたろか?」

「…さぁせんっしたぁああ!」




今私に唱えることのできる呪文は「すいません」「許してください」
繰り出すことのできる攻撃は「平謝り」「土下座」のみ。



私の必死の謝罪に免じて、全員から一発づつ本気のデコピンを受けるという罰でなんとか死を免れました。




































一日目の練習が終わり、各自晩御飯までの自由時間が与えられた。
どうやら皆このタイミングでお風呂に入るそうだ。
そりゃ汗だくだもんねぇ。私も体がベタついて気持ち悪い。

あ、そういえば女子って私一人…?
ということはお風呂貸切?!

ひゃーーっほう!お風呂で泳ぐことが密かな夢だったんだよね!
そうとわかれば早いとこ入って長風呂しちゃお。


男風呂、女風呂の入口は想像していたものとはだいぶ違ってた。
普通は赤と青の暖簾がかかってるのを想像するじゃないですか?

そこには自動ドアが備え付けられており、更衣室には最新エアコンに大型液晶テレビが設置されている。
無料の自動販売機までついちゃってるんだよ。

すげぇ…中学生が使っていいレベルのお風呂じゃないよコレ…!
私…氷帝のテニス部に入って良かったと始めて心から感じています!

テンションがあがりまくってどうしようもない私は、
早々に服を脱ぎ捨て誰も見ていないのをいいことにタオルも持たず素っ裸で飛び込んだ。


「うっわーーー!広い広い!」


こんな広いお風呂見たことない!ていうかあれは露天風呂?
きゃー、もうこれ…一人なのが超もったいない!!
とりあえず体を綺麗にして、お風呂タイムはあとでじっくり楽しみますか。

目の前のシャワーの蛇口をひねり、汗でべたついた体を一気に洗い流す。
気持ちいいー、なんか今私生きてる!て感じがする。





「あー、疲れたー!」

「俺ここのシャワーとーった!」

「ジロー風呂で寝なや、死ぬで。」



……めっさ声が聞こえるんですけど。
反射的に天井を見上げるとどうやら天井の隙間が少し空いてる。
人が登れる高さじゃないけど、声はあの隙間を通してよく聞こえるようだ。

あいつらに入ってるって知られたら色々面倒臭そうだし…大人しくあいつらが出るのを待つか。
一旦シャワーを止めて、だだっ広いお風呂の中にそっと入りこむ。


「あ!俺ちゃん誘うの忘れてたー!」

先輩はさっきお風呂より先に部屋で荷物片付けるって言ってましたよ。」






ごめんね、ちょた。


お風呂の誘惑に負けて、


先輩は今






隣のお風呂で鼻血を垂れ流しています。


やばい…やばいよちょたやジロちゃんが仲良くお風呂に入ってるなんて想像しただけで興奮してしまった。
健全な青少年(少女だけど)にこれは刺激が強すぎます、先生。


「ジロー、誘ったって一緒には入れねぇんだぞ?」

「えー、なんでー?」

「なんでって…あいつは一応、曲がりなりにも認めたくないけど女だろ!」


宍戸、マイナス10ポイント。
マイナス1ポイントごとに、男の急所を一発蹴る。絶対蹴ってやる。



「Cやで。」

「何が。」

の乳や。俺は見たことあんねん。まぁ黙っとったら女やのになぁ…。」


余計なお世話よ!何を自分の女みたいな口調で語ってんのよ恐ろしい!

っていうか私の話題から離れて!
なんかもう恥ずかしいし、ムカつくしどうしていいかわかんない!


「何言ってんのー、ちゃんはちゃんと女の子だよ!俺今日一緒に寝よーっと!」

「駄目だ。」

「えー!なんでなんで跡部!」

「何かあってからじゃ遅えんだよ。」

「…何にもしないからー。」

「お前が襲われるっつってんだよ。」


誰が襲うんだよ!!!!
中学生男子の寝込みを襲うほど飢えてないから!
跡部の私に対するイメージって、長州 力とかそういう男臭い男のイメージなんだろうか。
せめて女にしてください。


「そんなこと言って跡部が独り占めするつもりでしょ。」

「あーん?誰が何を独り占めだって?」

「だからー、跡部はいっつもちゃんのいるところに横入りしてくるじゃん!」

「……。」

「あかん、ジローあかんで。この顔は久々に見た跡部の怒髪天を衝く顔や。

「そうだよジロー言い過ぎだって!まるで跡部がのこと好きみたいじゃん、それだと!」

「そうなんでしょ?」

「ジロー…てめぇ覚悟しろよ」




ばしゃぁっ


「うわ、跡部ストップストップ!ジロー死ぬから!!」

「先輩落ち着いてください!!!」




















この一連の会話を聞いてしまった本人はどうしろと・・・?

まずね、私のことを女という大前提で話してる人が何人いたかわかりますか?

あんなにいっぱい男がいてたったの1人。

ジロちゃん以外は私のことをおっさんのようなものと認識して話してるんです。

花の女子中学生にあんまりじゃありませんか?

跡部があれだけ怒った理由もこれでつじつまがあいますよね。

決して「図星をつかれたから恥ずかしくてつい怒っちゃった☆」とかそんな生易しいものじゃない。

あの声は、ジロちゃんのことを侮辱罪で訴えかねないガチの怒りだった。

毎日怒りをもろに受けている私には声でわかる。

周りが止めなかったらまず間違いなくジロちゃんは温泉の底で帰らぬ人となっていたに違いない。


そんなに

そんなに私のことを女として扱わないなら

私にだって考えがあります。











全員後悔させてやるんだから!!!