氷帝カンタータ





第13話 エンジェルアタック





まだまだ1週間が始まったばかりの火曜日。
憂鬱な数学の授業を受けながら、くわっと口を大きく広げてあくびをしてしまう。
昨日、夜遅くまでダラダラと某世界的動画サイトを眺めていたのがいけなかったのかしら

1人暮らしなんてしていると、学校から帰った後は誰とも話さない時間がとにかく多い。
かといって独り言なんてしゃべってると、いよいよ本格的に寂しくなりそうだし
どうにか孤独を紛らわせるために、ついつい動画サイトを開いてしまう。

最近ハマっているのは、犬や猫の可愛い動画。
人間にデレデレと甘える可愛いペットを見ているとどうしようもなく心がなごむ。
そんな光景を見ているとついペットを飼ってしまいたくなるのだが、生憎アパートではペットが禁止されている。
はぁ、どうにかしてペットを飼えないかなぁ。
熱帯魚とかそのぐらいのペットだったら許されるかなぁ…、でも水槽の掃除とか大変そうだし…。
いっその事、蟻とかすず虫とかの昆虫を飼ってしまおうか。
いや、でもなぁ…土の中で飼ってると絶対小さい蝿とかが発生するんだよなぁ。

実現予定もない妄想を授業中に延々と繰り広げながら、フと校庭側に面した窓を覗いてみると
大きな木の下の木陰でいつものように爆睡しているジロちゃんが目に入った。

…気持ちよさそうに寝てるなぁー。
あんなところで寝てたら、起きれなくなってそのまま部活の時間になって
また、跡部が不機嫌な声で私に探しに行って来いとか言うんだろうなー、嫌だなー。

起こしに行くのは良いんだけど、とにかくジロちゃんは起きない。
普通に呼んだり、揺すったりするだけじゃ絶対起きない。
ジロちゃんに申し訳ないと思いつつも1回、顔面に水をぶっかけたことがあったんだけど
(あの時は私も夏の暑さのせいでイライラしていたんだと思う)
一瞬「ぶわっ」という声を発したかと思うと、またそのまま眠ってしまった。
その時、あぁ、ジロちゃんはもう限界だな、と感じたものだ。
疲れているのか、それとも睡眠欲が異常すぎる病なのか…わからないけど。

でも出来ることなら、私だって気持ちよさそうに寝ているジロちゃんを叩き起こしたくなんかない。
もうむしろ一緒にそのまま眠ってしまいたい衝動に駆られることもよくある。
ただ、そのまま一緒に寝てたらゾロゾロとテニス部員が探しに来て、もし見つかったりしたら
寝ている無防備な私の体に最低でもチョークスリーパーを仕掛けられるぐらいの仕打ちはされるはずだ。
誰とは言わないけど、お坊ちゃまのくせに無駄にプロレス技をかけたがるあいつに。


キーン…コーンカーン…コーン……



!何ボーっとしてんの、授業終わってるよ?」


チャイムが鳴っても教材を机に放り出したまま窓の外を覗いてる私に、
マイエンジェル真子ちゃんが声をかけてくれた。


「…うわ、本当だ。いや、ちょっとあそこのジロちゃん見ててさぁ…。」

「あー、芥川君また寝てるんだ。本当よく寝るよねー。」

「うん、ジロちゃんって真子ちゃんと同じで天使の一種じゃない?だからきっとよく寝るんだよ。

「長い付き合いになるけど、いまだにの思考回路がよくわからないわ、私。」


苦笑しながら、じゃあ部活行ってくるねと手を振って真子ちゃんは行ってしまった。
はぁ…部活…。窓の外を覗くとまだジロちゃんは寝ている。
恐らく授業中に、私のように窓からジロちゃんを確認していた女子は多いのだろう。
放課後になった途端わらわらと寝ているジロちゃんの周りに女子があつまり
1人、また1人と嬉しそうに写メを撮っている。

このまま部活に言ったらどうせ部室に入った瞬間に「ジローを連れてこい」と命令されるに違いない。
そこで、よせばいいのに、反発して部活が始まる前に殴る蹴るの凄惨な喧嘩を繰り広げ体力を削られることが多々ある。
そうなるのも面倒くさいし…先にジロちゃん起こしてから行くか。

机の上に広げたままの持ち物をがちゃがちゃと適当にカバンに詰め込み、私は階段を駆け降りた。























「ジーローちゃん!」

「………zzz。」


ジロちゃんの寝顔パパラッチ隊も減ったところを見計らって、ジロちゃんを呼んでみる。
けれども、もちろんこんなことで起きる眠り姫ではない。


「はぁー…どうしよっかな。」


どうしてもジロちゃんを起こせなくって跡部に助けを求めに行った時。
跡部はジロちゃんの両足首をかつぎあげ地面を引きずるようにして部室まで運んでいた。
それでも部室に着くまで1回も目を覚まさなかったんだから、敵は相当手ごわい。

隣に座り込んで悩み続ける私に気づくこともなく、幸せそうな顔で寝ているジロちゃんはやっぱり天使だ。
その寝顔を見ているだけで、心が洗われていく気すらするよ…。

あれ。なんかこの寝顔…何かに似てない…?
……あ、あれか。

不意に昨日動画サイトで何十回も再生した可愛いわんちゃんの寝顔が思い出される。
無防備な寝顔がたまらなく可愛くて、ついお気に入り動画に追加してしまった、あのわんちゃんに似てる。


「…かわいー…。」


ほっぺたをぷにぷにつつきながら眺めていると、ジロちゃんがわずかに声をあげた。


「……んー……ん。」


お。今日はラッキーな日だ。
実力行使にでなくても、何かのはずみでジロちゃんが起きることがたまにある。


「ジーロちゃん!はい!部活の時間ですよ!」

「んー…あー、…ちゃんおはようー。」

「おはよう!あのね、ジロちゃん早くしないと跡部にまた怒られるよ?」

「……ふあー…、じゃあ行きますかー。」


むくりと起き上がり、制服のまま手ぶらで部室に向かうジロちゃん。
どうせ今日も一日中寝ていたのであろう。ジロちゃんの持ち物は部室に全部置かれたまんまのはずだ。


「…ねぇねぇ、ジロちゃんって犬に似てるって言われない?」

「犬ー?言われなーい。」

「えー、絶対似てるよー。ジロちゃんがペットだったらいいのになー。」


何気なく言ったその一言。別にわざわざ拾うほどの発言ではない。
つっこみ隊長忍足なら間違いなくスルーのその発言に、予想外に反応する人物が1人。


「俺がちゃんのペット?」

「うんうん、なんかいいよねー。淫靡な響きよね…ペット…げへへ。

「…いいよー?」

「……ん、何が?」

「俺がー、ちゃんのペットになってあげる!」

「あははー、じゃあいっぱい餌あげちゃーう。」


ニコニコした笑顔で、可愛いことを言ってくるもんだから
私はポケットに入っている1回溶けてまた固まった、いつのものかわからないチョコレート
大量にジロちゃんに渡してみる。


「…駄目だよ、こんな餌じゃ!俺もちゃんのパスタ食べたい!」

「パスタ?何それ。」

「こないだ、宍戸が言ってたもーん。ちゃんにパスタ作ってもらったって。」

「何やだ、あいつアイドルちゃんにパスタ作ってもらったことを自慢気に話してるわけ?」

「ううん、皆で本当にあった怖い話してる時にしゃべってたよ。」

なんでホラーなのよ!あい…っつ…、人の恩を仇で返しやがって…!」

「だからー、俺もちゃんの家行きたい!」

「あー、そういえばジロちゃん1人で来たことってないよね?」


部活終わりにがっくんやら忍足やらが私の家に来ることは多い。
もちろん私は誰でもウェルカムむしろ寂しいから来て!っていう状態なんだけど
ジロちゃんは部活が終わるといつも眠そうにしてるから、付き合わせるのも悪いと思い
いつも誘いそびれてしまう、っていうのが大きな原因だと思うの。


「皆は呼ぶのに、なんで俺はつれてってくんないの!」

「ど…どうどう…そんな怒らないでよ、ジロちゃんいつも誘おうと思ったら眠そうなんだもん…。」

「じゃあ、今日は俺起きてるからー!」

「わ…わかったわかったから…そんなアイドルが全力で嫉妬するようなパーフェクト上目づかいはやめてください。」


私の何かが暴れ出してしまいます。暴れ鬼太鼓でございます。


約束を取り付けたジロちゃんは嬉しそうに部室へと入って行った。
しかしジロちゃんがうちに来るのか…
ふへ…ふへへ、なんかちょっと…今、彼女を初めて家に連れ込む思春期男子の気持ちがわかる気がするわ

























ー!帰ろうぜー。」

「おーう、すぐ着替えるから外で待っててー。」

ちゃん!!!」

「うぉう…びっくりした、どうしたのジロちゃん。」


がっくんといつものやり取りをしていると、私とがっくんの間にニョキっとジロちゃんが飛び出してきた。
どうやら今日は約束があったからなのか、眠そうではなくむしろ今はなんかご機嫌斜めな様子だ。


「今日は俺とおうちでペットごっこするんでしょ!」

「っちょ…ジロちゃん、なんかそれ語弊があるから大声で叫ばない!


「………おい、。ジローに何する気だ。」

「別に何もしないから!ジロちゃんがうちに晩御飯食べにくるだけよ。」

「………ジロー、油断すんじゃねぇぞ。特に背後にはな。

「だから!なんで私が取って食う側なのよ!」

「えへへ、いいでしょー。ちゃんのパスタ食べるんだよー。」


ぺろっと舌を出して跡部を挑発するジロちゃんだけど、それは全然挑発になってないと思う。
むしろ今から特攻に行く息子兵士を見守るような目で跡部がジロちゃんを見つめているのに気付かないですか。
…私ってどんだけ信用されてないのかしら。


「じゃあ、ジロちゃんもがっくんと外で待っててね。」

「いや!」

「……んん?」

「今日は俺が先に約束したもん!」

「…がっくんも一緒でもいいでしょ?あ、忍足もいるかも。」

「だめだめだめ!」


私は自分のことを決して精神年齢が高いとか、大人びているとかいう風には感じないけど
ジロちゃんを見ていると本当にお姉さんか、もしくは母親にでもなった気持ちになることがある。
特に、こういう駄々をこねるジロちゃんを見ているとこの子は将来大丈夫か、という気持ちになってしまう。


「皆で仲良くしない子にはご飯作ってあげません!」

「やだーー!」

「ジーローちゃん。がっくんとジロちゃんは同じ天使属性の仲間なんだから仲良くしないと私が萌えれないでしょ!

ちゃん何言ってんのか全然わかんないもん!ばか!!」


そう言って勢いよく部室から飛び出して行ってしまうジロちゃん…
あぁ…天使が1人羽ばたいて行ってしまった…などと考えていると、部室の外からがっくんと忍足がひょこっと中を覗いた。


「早くしろよ、。何やってんだよ。」

「あー…今日さ、ジロちゃんもうちでご飯食べる予定だったの。」

「…なんか今飛び出して行きよったけど。」

「うん、俺は大好きなちゃんを独占したいんだー!ぷんぷん!って出ていっちゃった。」

「脚色加えてんじゃねぇよ。バーカ。」


すかさず着替え終わった跡部がつっこみを入れる。
くだらないケンカに巻き込まれないようにさっさとカバンを持って部室から出て行ってしまう。
ジロちゃんもこのぐらいドライだったら楽なのに。
…いや、ジロちゃんが跡部みたいにドライだったら私の学園生活は一気に灰色になっちゃうな。それは駄目だな。


「んー、どうしよっかな。」

「ほっといたら勝手に来るんちゃうの。」

「もー、俺腹減ったから早く行こうぜ!」

「…わかったー。」


ジロちゃんにはとりあえず後でもう1回電話してみよう。
約束してたのはジロちゃんなのに、悪いことしちゃったな…。
























「ふぅー…、ほなそろそろ帰ろか。」


カバンをぶら下げ、だらだらと帰っていく2人を玄関で見送ってからドアを閉めた。

結局、ご飯を食べ終えて、テレビゲームを終えてもジロちゃんはやってこなかった。
電話にも出ないし、メールも返事が返ってこない。
忍足やがっくんは甘やかすからいけない!とか鬼のような事を言うんだけど、そういうわけにはいかないよね。
もしもこれで明日からジロちゃんに冷たくされたりしたら…
あぁ、考えるだけで怖い。ジロちゃんがいないテニス部なんて鬼の巣窟じゃないですか。

時刻はただいま午後20:00。ちゃんとジロちゃんの分も材料買ってたのになぁ。
仕方ない、また明日誘ってみるか。


「…あ、トイレットペーパーなくなってる。」


しまった、今日帰りに買ってくる予定だったのにすっかり忘れてた。
まさか明日の朝までトイレットペーパーなしで過ごすこともできないので、
面倒くさいけど最寄りのドラッグストアまでひとっ走りするしかないか。


適当なサンダルをはいて、電気の消灯を確認し、ドアを開けると




ちゃん。」

「ぎやぁぁああああああ!……な…っジロちゃん!?」


そこには暗い顔をしたジロちゃんが立っているではありませんか。
いや…今のはマジで怖かった。ドアを開けたら人がいるなんて…トラウマになるよ。


「ジロちゃん…どこ行ってたの?」

「…がっくん達が帰るまで待ってた。」

「……どこで?」

「そこで。」


アパートの階段の踊り場を指差すジロちゃん。
ほぉ…確かに死角でうまく見えない場所になっている。


「…来てくれればよかったのに。」

「……だって。」

「…ふふ、なんかジロちゃん本当に犬みたい。」


他のペットにヤキモチ焼いて拗ねてる犬みたいで可愛い。
可愛すぎてこのまま昇天してしまいそう。


「……パスタ食べる。」

「うん、ちゃんとジロちゃんの分もあるからね。」


そう言った瞬間、キラキラの笑顔にコロっとかわる表情。
まるでわんちゃんだな。


「あ、でもちょっと買い物行ってくるからジロちゃん家でお留守番してて。」

「わかったー、いってらっしゃーい」







ガチャッ


「ただいまー…ジロちゃーん、ご飯すぐ作る…ね…」

「あ、ちゃんおかえり!」


玄関から廊下を抜けて、リビングに入ってみると…とんでもない光景が広がっていた。


「ちょ…ジロちゃん何してんの!?」

「えへへ、俺えらいでしょー!洗濯ものたたんであげてるの!」


確かに、ベランダに干しっぱなしだった洗濯もの達がリビングに広げられている。
俺えらいペットでしょっ、と天使のほほ笑みでぱたぱたと洗濯ものを畳んでいるジロちゃん。

いや…いや、ありがたいけど…ありがたいけれども!


「だ…だめー!下着とか恥ずかしいからだめ!」


今まさに畳もうと、私のパンツを掴みあげたジロちゃんの手から素早くそれを奪う。
まるでいきなり怒られた小犬のような悲しい目で私を見上げるジロちゃん。


「……俺、ちゃんのためにって思ったのに…。」

「ご…ごめんごめん!いや、超嬉しいよ!助かるけど!ちょっと恥ずかしかったの!」

ちゃんの下着なんか毎日見てるもん…。恥ずかしくないもん…。」

「……いや、私がね?私が恥ずかしいんだ…。っていうか毎日?」

「うん。俺が部活終わって寝てたらちゃんいつも勝手に着替えだすじゃん。」

「起きてたんかぁああい!!え、じゃあ言ってよ!」


どうしてもジロちゃんが起きなくて部室から出て行ってくれない時は、
待ってるわけにもいかないので、ジロちゃんがしっかり寝ているのを確認しつつ着替えることがある。
それが…起きていたとは…とんだ小悪魔!恐ろしい子…!!


「……洗濯ものは私が後でやっとくから、ご飯にしよ?」

「うん!わーい、パスタパスタ!」


なんとか注意を他に逸らし、ジロちゃんのご機嫌をとる。
なんだか、本当に子育てしているママの気分だなジロちゃんといると…。



















「…すっげー!ちゃんこれマジおいC−!」

「あ…ありがとうジロちゃん!嬉しい…!」


忍足やがっくんはいつも特に感想も述べず食うだけ食って、「ちょっと塩足らんかったな」とか
「今日のはイマイチだな」とか平気で言いやがるからね!
なんだあいつら、『美味しんぼ』の読みすぎじゃないのか!
それが、どうでしょう。ジロちゃんのこの嬉しい反応!
こんな反応もらえるなら本当に毎日でもご飯作ってあげたくなるなぁ。



「はー、おいしかった!ごちそうさま!」

「お粗末さまでした。」


ご飯を食べ終えると、キッチンの流し台へ自分のお皿を運ぶジロちゃん。
やだ…ジロちゃんめっちゃちゃんと躾されてるじゃん…!
失礼ながら少々精神年齢の幼いジロちゃんのことだから、そんな良識ある行動をとれるとは思っていなかった。
ご両親の努力の賜物だね…お皿なんか放置したままゲームをはじめるがっくんに爪の垢を煎じて飲ませたいわ。


ちゃん、俺お風呂入ってもいーい?」

「いいよー、そこにタオルとか全部あるからねー。」

「はーい。」


どうやら今日は泊っていく気でいる様子のジロちゃん。
…別にジロちゃんのことを異性として意識してるわけではないけど、なんかやっぱりときめくよね。
そういえばがっくんが初めて泊って行った日も、私はがっくんを意識しすぎてドン引かれた気がする。

ええ。「年頃の男女が一つ屋根の下なんて…!」とか考えていた時期が私にもありました。
でも実際は、色気のあるムードに発展することなど皆無なんだよね。発展しても困っちゃうしね。






「ふー…いいお湯だった!ジロちゃん、牛乳飲むー…?…って、寝てる。」


ジロちゃんのすぐ後に、私もお風呂に入った。
ちょっと予想はしてたけど、案の定ジロちゃんソファで眠ってしまっていた。
時刻は22:00。明日は朝練で早く出なきゃいけないし、私もそろそろ寝よう。

ジロちゃんにそっと毛布をかけて、私は寝室へ向かった。

























ドンドンドンッ


「おい!…!あけろ!」

「ジロー!無事か!!」




「……うるさいなぁ。」


ガチャッ


!!ジローになにし…た…って、ジローじゃん。」

「しー。」


朝練の時間になっても一向に現れないとジロー。

昨日の悪い予感が的中したのかと、焦った跡部はテニス部全員引き連れての家を訪れた。
ついに恐れていた事態が起きてしまった…にジローがキズものにされた…

と、テニス部全員が考えていたのだが、ドアを開けたのはケロっとしたジローだった。


「…はどこ行きやがった。」

「まだ寝てるよ、ほらこっち。」


ジローに導かれるままに部屋に足を踏み入れる氷帝テニス部。
とりあえず、ジローの着衣が乱れていないことにホっと胸をなでおろす。


「………朝練にも来ねぇで堂々と寝てるとは…」


跡部が一歩踏み出し、手刀をの頭に振りおろそうとすると…


「だーめ!寝かしといてあげるの。ちゃんは俺のペットなんだから。」

「……ジロー、こんなゴリラみたいなペットでええんか。

「ゴリラじゃないもん!ちゃんはねぇ、キラキラしてる可愛いカナブンみたいな俺のペットなんだもーん。






カナブン…



あれだけジローに尽くして、ジローにデレデレの



当の本人であるジローに「カナブン」レベルの存在だと思われているのかと、






ジロー以外の全員が、幸せそうな寝顔を浮かべるに、今だけは同情を禁じ得なかった。