氷帝カンタータ





第16話 派遣ヒロイン(4)





「関東全体を覆う雨雲が、しばらく雷雨をもたらすでしょう。土砂災害に十分お気をつけください。」





「うーわ、まだまだおさまりそうにないねぇ、この雨と風。」

「…、大丈夫かよ。」

「……夜には止むだろ。」

「もし止まんかったらどないするつもりなん?」

「この様子じゃ止んだとしても、電車の復旧は見込めそうにないですね…。」

「跡部ー、やっぱりちゃん迎えに行ってあげようよー。俺、心配。」

「……っち、忍足。に連絡しろ。」

「……。はいはいっと…。」




























「あ、今ちょっと雨小降りじゃないスか?」

「ああ。今から出れば、赤也の家までは大雨に振られずに済みそうだ。」

「よっしゃ、だったらダッシュでいくぜぃ!」

「え!切原氏の家って近いの?」

「まぁ、ダッシュすれば5分ぐらいッスね。」


なんだかんだとありまして、結局切原氏のお家にお泊まりさせていただくことに決まりました。
初対面の人の、それも男の子の家に泊るなんて狂気の沙汰と思われそうですが
どうしてもこの子達が悪い子には見えないので、ついお言葉に甘えてしまいました。

だけど何かあった時怖いので、正直に榊先生には電話して
テニス部に見つかって、なんだかんだで今日は泊めてもらうことになりました。
と報告したら、ちょっと考えた後に承諾してくれました。

「男子の家に………まぁ…大丈夫だろう。いってよし。」

この「大丈夫だろう」というのが、何をもって「大丈夫だろう」なのか。
相手なら間違いを起こす気にもならないだろうから)大丈夫だろう」に聞こえて仕方ないんですがどうでしょうか。

まぁ、とりあえず先生の承諾も頂いたことだし、気兼ねなくお泊まりを楽しめるというわけです!
他校の友達って密かに昔から憧れてたんだよねぇ…。



「よし、じゃあ皆行こうか。」


幸村君が穏やかな声で皆に号令をかけると、丸井君が先陣を切って部室のドアを開ける。
雨と風は先ほどより威力は弱くなってるものの、まだまだ傘が手放せない天気だ。
皆がキャーキャー言いながら傘を斜めに持ち、飛ばされないように歩いてる。
立海のメンバーって見た目年齢の平均がめちゃくちゃ高い気がするんだけど
普通にはしゃぐ姿を見てると、あぁ私と同じ中学生なんだなって事を実感出来て…妙に親近感が湧いちゃった。

私も続いて外へ出た、その時。肩に軽い振動を感じたので、鞄の中を見てみると
ディスプレイに表示される「忍足」の二文字。



「……もしもし?」

『あぁ、。今どこや?』

「い…今?え…えーーーと…駅に向かって歩いてる!」

『さっきジローが電車止まってるて電話したやろ。』

「あ…あぁーそうなんだけど、まぁとりあえず駅で野宿しようと思ってさ!」

『お前、さすがにそれは難易度高いやろ。跡部が迎えに行ったる言うてるから、駅で待っとき。』

「ええええ!え!いや…いやー、えーと…あ!そうだ、あの私立海に偶然3歳の頃生き別れになってた友達がいてさ!
 その子の家に泊めてもらうことになったから、心配しないで!」

『…………。、何隠しとんねん。』

「は、はぁ?何も隠してないよ!とにかく、全日本乙女代表のちゃんを心配してくれるのはわかるんだけど、
 取り合えず大丈夫だから!明日の練習は昼から出ることになると思うけど、跡部に上手く言っといて!
 たぶん私が言うと1・2発背負い投げされるのは間違いないから、忍足が代わりに投げられてて!じゃっ!


ピッ



…ふー、危ない危ない。なんで今更迎えに来るとか言うんでしょうね?
もう私的にはほら、先生にも連絡してるし、切原氏にお世話になりますって言っちゃったし?
それに、ずっと疑問に思ってた切原氏のパンツの種類とか、仁王君の体毛の色とか確認出来るチャンスじゃないですか?

…違います、興味本位とかそういうのじゃなくてこれも立派な偵察です!
何の役にたつかと言われれば私の妄想を補充する要素にしかなりませんが、立派な偵察なんです!

あともう1つ大きな理由があるとすれば…

いつも氷帝テニス部という地獄の鬼も裸足で逃げ出す、獄の獄で生活してるからなんでしょうか…

たぶん立海の皆は意識していないと思うのですが…




なんか居心地がいいんです、立海。




あの、ほらなんていうかちょっと「女の子」扱いしてくれる感じ?

柳生君が当然のように「女性なんですから」って言ってくれる感じとか

切原氏が「俺だからいいッスけど、女がノコノコ男の家行っちゃダメっすよ!」って注意してくれる感じとか

丸井君からガムをもらったときに手と手が触れ合って「あ、わりぃ」とか言ってくれる感じとか

仁王君が「うちにも女の子のマネージャーがほしいのぅ。」とか普通に「女の子」って言ってくれる感じとか

弦一郎さんが話すときに一々ちょっと目を逸らしながら話す感じとか

柳君がさっき私が携帯で話してる時、さりげなく先に行かずに待っててくれる感じとか

幸村君が話しかける時に、優しくニコって笑ってくれる感じとか


















忘れかけてた「トキメキ」を思い出させてくれるんです、立海!




氷帝テニス部に入ってからというもの、私の「女子」としての尊厳は永らく道端にポイ捨てされている状態でした。


私が主張すればするほど、「女子」としての尊厳が失われていく絶望の日々でした。


心なきテニス部員達によって私は哀しきシンデレラとなったのです。可哀想ですよね、ね。


私は「諦めてた」んです。決して「望まなかった」わけではないんです…。



それがどうでしょう。立海でのこのヌルっとした感じの柔らかい扱いはまさに私が「望んでいた」ものではありませんか。










携帯をパタンと閉じ、私は柳君の元へと駆け寄る。

その時、そっと決意しました。














そうだ。なんとかして、私、立海の生徒になろう。


































「……。」

「どうしたんだよ、侑士?どこにいるって?」

「……立海で生き別れになった友達と再会してその子の家に泊めてもらうらしい。」

「う…嘘くせー…。」

「…なんか…年頃の娘が初めて彼氏の家に泊まりに行くときに両親に対してつくバレバレの嘘みたいな感じですね。

「うわ、長太郎めっちゃ的確な例えやわそれ。何となく鳥肌がたったんはその所為やったんか。」

「………でも〜、嘘だとしてちゃん誰に泊めてもらうつもりなんだろう?」

「立海のテニス部の連中だったりして。」

「……そんなことなってたら俺はもう今後テニスの大会には出られへん。恥ずかしいて出られへん。」

「…が他校でプロレス技かけてたり…、変態発言してたら…、ダメだ考えただけでゾっとする。」



「…えぇ、…はい。……はい、わかりました。」



ピッ



「跡部、誰から電話?」

「………。」

「…?どうしたんだよ。」

「監督からだ。





















 がテニス部員の家に泊まることになったらしい。」





「……あいつ…あれだけ言うたのに…いっぺんしばき倒さなわからんみたいやな、あのアホは…。

「…でも待て!も…もしかしたら立海のテニス部って言っても平部員かもしれないしな!
 俺達が大会で会ったりするのはレギュラーの奴らぐらいだし、最悪そいつらに知られなければいいんじゃね?」

「レギュラー全員で切原の家に泊まるらしい。」

終わったーーーー!!氷帝ブランド力が地に落ちた!あんな珍獣飼ってるって知られたら…。クソクソ!のバカ!」

「…っていうかさぁ、それって見ず知らずの男の家に泊まるってことでしょ?」
















「………いや、ジロー別にそこは心配するとこちゃうやん。」

「そうだぞ、ジロー。だぞ?そこだけは安心じゃん?」


「…で、でも心配じゃないですか?俺達は先輩の正体を知ってるからそんな恐ろしいことは考えることすらないですけど、
 立海のメンバーは今日会ったばかりなんですよね?先輩だって、しゃべらなければ…黙っていれば普通に女の子ですし…。」

「長太郎…、いくらなんでも心配しすぎだって…。」

「…案外先輩なら立海の奴らとも上手くやってるかもしれませんね。」

「……そんなの絶対許さないもん。跡部!ちゃん迎えに行こうよ!」

「…別にそんな心配することじゃねぇだろ。」

「もしちゃんが何かされてたらどうすんの!」

「落ち着けってジロー。お前の想像力の豊かさに俺は今驚愕してるぞ。

「ほんまやで。…取り合えずもう1回電話かけてみたるから、ちょい待ちーな。」

「ちゃんと俺にも聞こえるようにスピーカーにしてねっ!」



























PLLLL…



「……ん、。携帯が鳴っているぞ。」

「い…今それどころじゃ……っ!」

「…ふふ、蓮二出ちゃえば?【忍足】って、氷帝のテニス部だよね確か。」

「………なるほど。それはいいデータがとれそうだ。」









『おいお前何しとんねん!あんだけ見つかるな言うたやろが、覚悟できとんのやろな。
帰ってきたら地獄の強制ケツバット3時間パックやぞ!』


「………。」

『なんとか言え!ほんで、ほいほい敵の家泊まりに行くってどういうことやねん!
 アホかお前は!知性の塊まるごと生まれてくるときに胎内に置き忘れてきたんか!

「………。」

『……?』

「…なら今取り込み中だ。」

『……誰やねん、お前。どこやった。』

「……仕方ないな。の声だけでも聞かせてやろう。」






「…っあ、ちょっだめ…っぇ!やっ…やだって…あっ!」



ブチッ








「「「「…………。」」」」

「…………い、今のの声?嘘……だろ?」

「…間違いなく先輩の声でしたね。」

「あいつら…っ、まさか……!」

「跡部!!早く車出してよ!!ちゃんが!!」

「もう前で待たせてる。行くぞ。」


























私は今、立海テニス部員の切原氏の家にお邪魔しています。
中々大きな一軒家で、玄関入った瞬間にふわっといい匂いがした。なんか心地良い匂い。
立海のメンバーは切原氏のお家に何度も遊びに来たことがあるようで、
何の躊躇もなく階段を上がって切原氏の部屋へと足を運んでいた。

…うーん、なんかいいな男の子の部屋に入るって。
もしかしたらあんな本とかそんなDVDとかもあったりするのかな、とか考えると、あ、やばい涎だ。


さん、どーぞっ!」


笑顔で部屋に促してくれる切原氏が可愛くて仕方ない。
なんというか、女の子扱いされると、自然と自分自身も女の子らしくなれるというか、
氷帝に居る時の自分とは明らかに違う態度になってしまう。えへへ、一般的な女子って皆こんな生活送ってるんだなぁ。
……うらやましいなぁ。…はっ、いけないいけない!落ち込むんじゃない、!泣くんじゃない、


「赤也、アレやろうぜぃ、アレ!」

「あー、いいっスよ!どうせ俺には勝てねーでしょうけど。」

「俺ちょっと練習してきたから自信あるぜ。」


丸井君とジャッカル君がテレビの前の席を陣取り、切原氏がのそのそとビデオゲームの用意を始めた。
…あれは、64!!ということは、まさかスマッシュブラザーズ?それなら負けませんよ!


「ねぇ、ねぇ。何のゲームするの?」

「ゴールデンアイ007!最近俺らの中で流行ってるんスよ。」

「な…懐かしいー!私もやりたい!」

「お。お前も中々いける口だな。」

「へっへー、ジャッカル君には負ける気がしないわ、なんか。」

「失礼な奴だな。」


ゴールデンアイ007というのは、昔流行った任●堂64のゲーム。
プレイヤーはイギリス諜報機関「MI-6」の工作員、「007=ジェームズ・ボンド」である。
そしてこのゲームの面白いところは4人対戦が出来るところ。
1つのフィールドを4人が走り回って、他の3人を全員倒した1人が勝ち。

曲がり角からいきなり相手が現れたり、
現れた瞬間、爆弾を投げられたり、銃を発射したり…
なんともアメリカンでスリリングなゲームである。


「……赤也。雨に濡れたままの服を着ていると風邪を引くぞ。」

「なーんすか、真田副部長!それ、俺じゃなくてさんに言ってるんでしょ?」

「へ?私?」

「なっな…違う!」

さん、これ。着替えてくるといいよ。」

「あ…、ありがとう幸村君。」

「あ、幸村部長!何普通に俺のTシャツ渡してんスか!」


あぁ…もう何か今このまま天に召されてもいい…!!

何この待遇、何このふわっふわした空間!
こんな天国に近すぎるテニス部ってあったんですね!
テニス部全員が悪の枢軸みたいな偏見を持っててすいませんでした。
は心を入れ替えます。ですので、神様。どうか私を少しでも長くこの立海テニス部に関わらせてください。








バタンッ


「よっし!着替え完了です!ゴールデンアイやろう!」

「………うわぁ。」

「え、何うわぁって。丸井君、何うわぁ、って。」

「プリッ。…Tシャツがでかすぎてなんかエロイぜよ。」

「こら、仁王君。女性にそういう言葉を使うんじゃありません。」








エロイ…?






「ええええええ!え、私が!エロイ!?」


やっだ、私…今、皆のセクシーシンボルになってるわけですか…?!

そ…そうですよね!これが女の子の通常の扱いですよね!
彼の部屋で大きめのTシャツ1枚☆とか、そりゃエロティックな雰囲気出ますよね!そりゃ、出るわ女の子だもん!
まぁ、実際はTシャツに短パン履いてるので、別にエロくもなんともないはずなんですが。

勝手にがっくんのTシャツを身にまとってみたり、ぴよちゃんさまのジャージを羽織ったりしたときは
2人ともものすごい勢いで私の身ぐるみを引っ剥がそうとしてたから、なんか感覚が麻痺してました!
「3回洗って返せよ」と冷たい目でがっくんに言われた時の悲しい思い出も今全部忘れ去りました!知るかもうあんな奴ら!


「…やっぱり赤也1人にしなくてよかったな。」

「…うん、蓮二の言うとおりだね。」

「け…けしからん!女がそ…そのように肌を露出するな!」

「え…これで露出て…弦一郎さんはイスラム教徒だったの?

「…真田はむっつりスケベじゃのぅ。」

「なっ!」



バチーンッ




「ちょ!げ…弦一郎さんそんな渾身の平手打ちしなくても…!仁王君無事?」

「…いつものことじゃ。」

「あーあ。っていうか、マジでさん1人で来てほしかったッスよ。」

「赤也っ!!何を言っとるんだ、お前は!」

「弦一郎さんって頭の血管が1日に何百本も切れてそうだね。心配になってきたよ、私は。」


まるで弦一郎さんがキレるのを楽しんでいるかのように、皆口々に言葉を発する。
それを見てニコニコしてる幸村君に、慣れっこと言わんばかりの冷静な表情で傍観する柳生君に柳君。
仁王君はニヤニヤしながら、弦一郎さんを弄れる機会を今か今かと狙ってるし、
ジャッカル君は呆れ顔で、丸井君と切原氏が率先して弦一郎さんを挑発してる。


「そーだ、さん、アレ!さっきのやってくださいよ!」

「…さっきの?」

「あの女達にかけてたプロレス技!」

「あ…あぁ、バックチョーク?え、何、切原氏って意外とマゾなの?」

「いやぁ、正直おいしいっしょ。女の子にあんな風に密着してもらえるのって。」

「……本当に赤也1人にしなくてよかったな。」

「全くその通りですね。破廉恥な…。」


「えー、やっだぁ切原氏ったら思春期なんだからぁ☆じゃあ特別に本気のバックチョークをお見舞いしてあげるね☆


な…なんか楽しい!何ですか、この思春期満開春色イベント!

プロレス技なんて、かけるのもかけられるのも日常茶飯事で、主に痛みしか感じないもんだから
男女の密着とかそんな目で見たことはなかったけど、確かに…確かにおいしいのかもしれない。
ただ、私は跡部にくっつくのも忍足にくっつくのも全く嬉しくはないので気付かなかっただけなのかもしれない。

でも…でも、今は切原氏から「密着して」って言ってきてるようなもんだよね!
これ…、これ合法ですよね?逮捕されないよね?大丈夫だよね?

ひゃっは!飛んで火に入る夏の虫ぃいい!




ギリッギリッ



「おわ、これマジで密着ス……ね……っ、え、あれ…?げ…げほっ…うっ、ちょ……!!!

「どうかな、切原氏?えへへ、男の子に後ろから抱きつくなんて、恥ずかしいっ☆てへっ」

「う…ぅぁ…ギブ!!げっほギブギブ!!」

「もー、そんな照れなくてもいいじゃん切原氏!もうちょっとこうして、本気で赤也が死ぬから勘弁してやってくれ。」


丸井君にソっと肩を叩かれて、切原氏を開放してみると
…なるほど、本気で落ちる寸前だったようだ。え、ごめんなさい。


「っげっふぉ…うっ……。」

「…どうやら、本気で赤也に何かされたら仕留める力があるようだね、さん。」

「え…ええー☆、女の子だからわかんなーい……。」

「随分今更な猫かぶりじゃな。」

「いや…うん、なんかゴメン切原氏…。ちょっとテンションあがってました、ごめんなさい。」


床にうずくまる切原氏を見て急に罪悪感がわいてきた。
もしこれが跡部なら…跡部が床にうずくまってゲホゲホしてたら私は泣いて喜ぶのに。
それなのに、あいつはいつも私の攻撃なんてものともせずその10倍の力でやり返してくるからなぁ…。

って、だから悲しいことは考えなくていいんだって。


「…っていうか、お前赤也がここまで苦しむ技を女子にかけてたのかよ。」

「……別に…、ちゃんと手加減したもん。」

「……批判している訳ではありませんから、そんな顔をしないでください。」


丸井君が余りにもどん引き顔で、あの胸糞悪い記憶を掘り起こすからつい…プイっと顔をそむけてしまいました。
だって…私、悪いことしたって思ってないですから。
確かに暴力に訴えたのは大人げなかったかもしれないけど、口で言ってわかるような相手じゃなかったもん。
あそこで無視してたら、里香ちゃんがどうなってたかわからないもん。


「…そうッスよ。俺、あの女がバット振りあげた時、正直迷ったんスよねぇ。止めに入るかどうか。めっちゃ痛そうだし。」

「………。」

「でも、さんは俺がそんなこと考えてる間に動いてたっしょ?アレでヤられちゃったんスよね、俺。何、こいつかっこいい!って。」

「私もあの現場を見ただけで、さんがどういう人間なのかよくわかりました。」

「まー、そうじゃなかったらこんな風に泊まらせたりなんてしてないだろぃ。」

「ふふ、弦一郎がこんなに心開くのも珍しいもんね。」

「え、弦一郎さん心開いてたの?私には1ミクロンの隙間もない程に扉はびっちりと閉ざされているように感じたんだけど。

「………女子が暴力を振るうのは賛同出来んが、その勇気と根性は認める。」

「うわぁ、超お前に言われたくないよ状態。」

「…俺は暴力は振るっとらん。制裁を加えているだけだ。」


ドヤ顔で腕組みしながらそう言う弦一郎さんが、なんかあまりにも異次元思考すぎてつい笑ってしまった。
それにつられて皆がドっと笑いだす。

よかった、皆本当に良い人ばっかりだ。
女の子扱いしてくれるとか、そういう面だけじゃなくって。
ちゃんと私のことを認めてくれてるっていう皆の表情、言動が本当に嬉しかった。









「…っさ!そろそろゴールデンアイやろうぜぃ。」

「そうだね!今日は徹夜だね!」




























「ちょ…っま、う…うわああああ!!出た!!やめてぇえええ!

「へっへーん!見つけた!」

「つーか、赤也チートすぎだろぃ。何だよ、その武器。」

「あー、やべぇ。俺画面見すぎてなんか酔ってきたわ。」



ゲームを初めて約1時間。
切原氏はめちゃくちゃ強いし、ジャッカル君も普通に強い。
見事にカモにされていた私は、生まれながらの負けず嫌い体質が災いしてついついゲームにのめり込んでしまった。


「っくっそ!…一旦休憩休憩!」

「あー、ブン太先輩負け疲れたんスか?」

「うっせ。」




「…あ、そう言えばさっき柳君、なんか私に話しかけた?ごめん、ゲームに夢中で聞こえなかった。」

「………いや?気のせいじゃないか?」

「そっかぁ。…あー、今日はなんかすごく楽しいな。」

「…俺もすごく楽しみだよ、ふふ。」



少し離れた場所で緑色のクッションを抱えた幸村君が、そう言って私に微笑んだ。
……何その可愛さ倍増アイテム!もうたまらんっ!
まだまだ夜が楽しみだよ、ってことですよね?…っくぅ、萌え死んでしまうぜ…!
















あぁ、神様。






この至福の時間をもっと味あわせてください。





欲を言うなら、一生この素敵なテニス部の中でふわっとした、女の子らしい生き方をさせてください。






嫌です、もうあんなスパルタプロレス団体みたいな群れに戻るのは嫌なんです……!!















…しかし、そんな願いが叶うはずもなく。