氷帝カンタータ





第3話 下着姿泥棒





なんかおもろい奴やんなぁ、って。






「ねぇ、忍足。なんか私に言うことない?」

「何が?別になんもないけど。」

「てめぇぇええ!薄情者!!」

「どうしたんだよ?」

「宍戸…聞いてくれるか心の友よ…。」

「…別に心の友になった覚えねぇけど。」

「あんたら全員薄情者か!…今日さぁ。私屋上に呼び出されたのよ。」



そう、あれは今日のお昼休み前だった。
今から真子ちゃんとのファンタスティックお弁当タイムが始まる!
学園生活で1番嬉しい瞬間が始まろうとしていた…

その時。





っている?」




ざわっ…




「…、大丈夫?呼ばれてるけど…。」

「う…うん、あれ30人はいるよね?

「私ついて行く。」

「いや、真子ちゃんもうすぐ大会じゃん。絶対だめ。」

「でも、あんな群れの中にを解き放てないよ…。」

「大丈夫!なんかあったら大声で叫ぶ!」

…なんか戦国時代みたいだね。よし、信じる。あんたなら出来る。」

「ありがと…!頑張ってくる!」



クラスの皆に励ましの言葉をいただきながら屋上へ…。
あぁ、もう何回目だろうかこれ。
前までは真子ちゃんファンクラブのアマゾネス集団だけでよかったけど、
マネージャーになってからというもの…
1日に2・3回はこういう軍団がやってくる。
何より性質悪いのが、今呼び出されたこのグループ。
いっつも20人以上連れてくるから、目立つんだよね…。

学校中を総回診状態ね、これ。























「あんたさぁ、どういうつもり?」

「どうもこうもないって、前も言ったじゃん!あんたらもマネージャーになればいいじゃん!」

「それが駄目だって言ってんのよ!テニス部は皆のモノなのよ!」

「少なくとも私のモノではないから安心して、私そんなに奴等に入れ込んでないから。」



「嘘つくな!ジロー様に抱きつかれてただろ!」

「長太郎君と親しげに話してるのも見たわよ!」



「た…確かに何人かお気に入りが居るのは認めるけど…それは友達だもん!」

「何が友達よ!そんなのわかってんのよ!」

「…ん?」

「あんたみたいなブスが相手にされるわけないでしょ!?あんたみたいなのが近くにいるだけでムカツクのよ!」






ブフッ…






ん…?なんか視線を感じるし気配を感じる…?

って…忍足!?

軍団が背を向けてる屋上入口の建物の上から忍足が覗いていた。
こっち見てる、こっち見てる。


目線で「助けろ」って合図を出してみるも、あいつは笑うばっかりで動こうとしない。
…とことん役立たない奴だよ!



「…ちょっとあんた、聞いてんの?」

「もういいじゃん、早くやっちゃおうよ。」


まぁまぁ、お嬢様達が物騒なことをおっしゃいますわ。
1人で喧嘩も出来ないくせに、この子達は群れるとたちまち調子に乗る。
そういえば、さっき人のことブスとかなんとか言ってたけど
…心のブスには負けないんだから。

「やっちゃうって何?全員で戦うの?」


「…あんたが野蛮なのは聞いてるからそんなことしない。」


「ふーん。で?どうしたいわけ?」

「こうすんのよ!!!!」







軍団が選択した方法は…




「きゃ…ちょ…い…いいいやぁあ!何すんの!

「いいから、早く皆やっちゃいな!昼休み終わっちゃうよ!」

「ちょ…服はあかん!制服はだめ!高いから!めっちゃ高いんだから!や…やめろぉぉ!!




私の身ぐるみを30人がかりで引っぺがすという山賊もびっくりの方法だった。
さすがにこれだけの人数にもみくちゃにされたら手も足もでない…!

っていうかこの学園の制服高いのにどうしよう!


















「あーっはっははは!はっずかしー、ずっとその格好でいればー?」


キャハハハハ……






バタン…








……。まぁ、100歩譲って制服を剥ぎ取られたことは私の力不足だから仕方ない。
屋上だったら誰にも見られないし、全校生徒が帰ったのを見計らって教室までダッシュすれば体操服がある。

でも、そんなことより何より許せないのは…




「おおおおおおおしたりぃぃぃぁああああ!でてこいやぁあああ!」

「ブフッ…ヒィー…もうほんま、笑かさんといてや、…笑いこらえるの必死やったわ。」






こいつに下着姿に剥かれる様子を一部始終見られていたことだ。







「あ…あんた途中で助けなさいよ!!!女の子が身ぐるみはがされてんのよ!?」

「いや、まぁ別にのなんか見てもしゃぁないけど、とりあえず屋上で下着姿の女の子見てみたかってん。

「降りてこい。一旦降りてこい、どつきまわしたる。

「おー、怖。でも強いなぁ。」

「何がよ!」

「普通の女の子やったらあんな人数に服脱がされて下着姿にされて、さらに男に見られてたらもう学校来られへんで。」

「あんたでよかったわよ。これがぴよちゃんさまとかだったら、もう恥ずかしくてお嫁にいけないとこだったわ。」

「………ふーん。」



気のない返事で、ぴょんっと建物から飛び降りる忍足。
もっと…もっと早くそうしとけば未然に防げただろう…!
何が悲しくてこんなところで裸族みたいな真似しなきゃなんないのよ!




「なんで日吉やったら恥ずかしいん?」

「はぁ?好きだからに決まってんでしょ。もう愛っていうか、なんだろう愛を飛び越えた段階かな。

「ほんで俺やったら恥ずかしくないん?」

「なんでだろう。なんかあんたに下着姿見られてるって思うと、恥ずかしい☆っていうより…ムカツク…かな…。

「…のくせに生意気やな。」

「な…なに…ちょっと、近寄らないでよ。」



ジリジリと屋上の柵まで追いつめられる。
な…何?なんかちょっと本格的に怖いんだけど。
目が…目が笑ってまへんで忍足さん…!





バタンッ



!大丈夫!?」

「ま…!真子ちゃぁあん!うわぁああああん!」

「やっぱり…!ほら、体操服!さっきあいつらが制服持ってるの見たから、もしかしたらと思って…。」

「よかったぁ、真子ちゃんさすがだよぉ!」

「…で、忍足君は何してんの?」

「別になんもしてへんよ?見物人。」

「真子ちゃん、こいつです。この変態野郎を逮捕してください。」






















「…っていうことがあったわけよ。どう思う、心の友よ。」

「だから友じゃねぇけど。…まぁ…とりあえず、お前強いな。

「そこじゃなくて!忍足の非道な振る舞いについてよ!私は榊先生に告訴することも辞さないわよ。

「それは堪忍。」






屋上で寝とったら、女の子がぞろぞろ入ってきて
その輪の中にがおった時は、どうしよか思たけど…

あいつ全然怯えてないし、むしろなんか闘志満々で怖かったぐらいや。


まぁ、そこで助けてあげればよかったんやろうけど、
今後俺がいつでも助けてあげられるわけちゃうし。

「氷帝テニス部のマネージャー」という肩書きを手に入れた奴達が
同じ目にあって俺達にすがりついてきたことは何回もある。
俺達も鬼じゃない。求められれば助ける。そうすると、難しいことに、勘違いする女の子は多い。
マネージャー業に支障が出るレベルにまでなったら、そこで終わり。
跡部が一言辞めろと告げて、また新しい子を探す。

そんなことの繰り返しに段々うんざりしてた時に現れたのがや。

こいつに賭けてみたかった。
この屋上での出来事はそれを見極めるのにうってつけの機会やった。



結果は期待以上。ますます興味が湧いた。


さすがに下着姿を俺に見られて恥ずかしがるかと思ったら
あいつ仁王立ちで怒鳴り散らしとったわ。
傍観してたこと謝ろう、という気もどっかへ消し飛ぶような剣幕で。
あんな小さいくせに、どんだけ強いねん。
なんか全然女の子ちゃうやん、雷神みたいな奴やん。


でも、日吉がどうとか、俺はどうとか、そんなん聞いとったら
いくらとはいえ、俺のプライドが傷ついたわけや。


ちょっとこらしめたろうと思ったところに…

真子ちゃんが来てもうてんなぁ…。惜しかったなぁ…。






「…ちょっと、あんた何ニヤついてんの?」

「…え?あぁ、ごめんごめん。」

「ちょ…こいつやっぱ全然反省してない!宍戸!どうにかしてやってよ!」

「俺を巻き込むなよ、早く部室行かないと怒られんぞ。」

「っくっそー、跡部にも言いつけてやるんだから。」

「どうせ跡部でも俺と同じことしとったって。」

「………まぁ確かに。なんだよこの部活は!本当あり得ない!」








やっぱりおもろいわ。楽しみが1つ増えた。