氷帝カンタータ





第22話 少年少女スプリング





その日は突然やってきた。

昼休みが終わった後、次の授業は移動教室のため私と真子ちゃんは音楽室へと向かっていた。
真子ちゃんが髪切りたいな〜、なんて言うもんだからどんな髪型が似合うかについて議論しながら歩いていると。


「お。お〜い!!」

「あれ、がっくん。早くしないと次の授業始まるよ。」


がっくんは次の時間確か、体育だったはず。
いつもこの時間に、音楽室の窓からがっくんの姿を舐めまわすように見ている私は知っている。
それなのに、着替えるどころかまだ制服で、しかもこんな場所にいるなんて。


「へっへ〜…。、聞いて驚くなよ?」

「何?あ、わかった。体操服のズボンとお姉ちゃんのブルマ間違って持ってきたんでしょ。
 大丈夫だよ、がっくんならブルマでも私はばっちこいだよ!

「わけわかんねぇこと言ってる場合じゃないんだって!俺さぁ……









 彼女できた。」















































「あ、そっかこれまだ夢の中のアレだ。うわ、今日はえらくリアルな夢だわ。」

「え…えーと、落ち着いて…?」


夢だよ、夢!よくあるよね、夢の中で普通に思考しながら動いてたはずなのに
ある瞬間はっと目覚めるのって。「え、あれ夢だったの?あ、だからいつまでたっても時間が進まなかったんだー。」みたいな。
目が覚めた後に「よく考えると現実であんなことあり得ないよな」って気づくパターンね。

いや、でも夢でよかった。


もし本当にがっくんに彼女なんかできたら!これ夢じゃないから!」





バチンッ



「…っ!……え?」

「ちょ…しっかりして!なんか目の焦点定まってないよ?!」


焦った様子で私の肩を揺さぶる真子ちゃん。
…痛い。真子ちゃんにぶたれた頬がイタイ。
確か、夢では痛みって感じなかったよね…?


「嘘でしょ…。」

「まじまじ!なんか結構カワイかったしOKしちゃった!先越してごめんな、〜!」



嬉しそうな笑顔で廊下を駆け抜けていくがっくん。
その場にへたりこむ私と、それを見て早く音楽室へ行きたいなという顔をする真子ちゃん。


……がっくんに、彼女?

いや、別に有り得ることだけど…考えたことなかった…。
心のどこかでがっくんは私のことが大好きで、将来は私と結婚するものだと思ってたのに…。
心のどこかでっていうより、もう全面的にそれを推し出してたし、信じてたのに…。

のび太君がどれだけしずかちゃんに嫌われる行動をとろうとも
タイムマシンで未来を見ると、やっぱりのび太君としずかちゃんは結婚しているように…
私とがっくんもなんだかんだで結ばれていると思ってたのに…!ちなみに根拠はないし、そんな予兆も全くないけど…!


「…、行こっか。」

「……真子ちゃん、私…。」

「まぁ、は向日君のこと気に入ってたもんね〜。ショックなのはわかるけど、いつかこういうことになるってわかってたでしょ?」

「わか…わかってない!いつか私と結ばれるとは思ってたけど…。」

「…私ね、のそういう無駄にポシティブな思考回路大好きだよ。


「う…真子ちゃぁああん!これ夢じゃないのぉおおお!夢だと言ってぇええ!」

「はいはい、大人になろうねぇ。っていうか、そんなガチで向日君のこと好きだったんだ?」

「……そう言われると、別にそういうわけではないけどさ…。でもほら、友達に対する独占欲ってあるでしょ?
 …彼女ができたら私とは遊べないじゃん…。それがちょっと寂しいだけ…。」






























「…何してるんですか先輩。」

「……ぴよちゃんさま。私はこのまま日差しに焼かれて灰となり、土に還りそしてこの木の養分となり、永遠に氷帝に息づくのです。

「日差しに焼かれたぐらいじゃ灰になりませんし、そこで野垂れ死んだら腐敗が進んで醜い姿になり、処分されるのがオチですよ。
 あと、こんなところで寝そべっている変質者がテニス部の関係者だと思われるのは迷惑なので早く起き上がってください。」


「……例えだもん。ぴよちゃんさま辛辣すぎるよ、傷心の乙女に…。……あー、ね。今日は精神が辛いから部活休むって跡部に言ってて…。」

「そんなこと跡部さんが許すはずないでしょう。代わりに怒られるのは俺なんですよ、早く行きましょう。」



中庭の大きなメタセコイアの木の下でジロちゃんのように地面に這いつくばる私を、
部室へ向かう途中のぴよちゃんさまが見つけてくれた。いつもならこんな嬉しいことはないのに、
今日はどうにも力がでないというか、テンションが上がらない。
それだけ、「がっくんの春」イベントは堪えたということでしょうか。……うう。

じめじめと動かない私を、まるでお母さんのように叩き起こしてくれるぴよちゃんさま。
半ば引きずられるような形で部室に連行される。……せめて抱っこかおんぶんにしてほしいです。
ボロ雑巾のように市中引き回しの刑にされるのは恥ずかしいんです、年頃だから。







「岳人に彼女が出来たらしいんや。」



部室についてもソファでうな垂れ、動かない私を見て
当然のように跡部はブチ切れる。そして私の上に乗っかりバックチョークをしかけてくるけど
私は力なく技を受けるばかり。様子が変だと思ったのか、跡部は技をとき
より痛みの強いアイアンクローをお見舞いしてくれた。
はっきり言える、跡部の道徳心は成長する過程でどこかにポイ捨てしちゃったに違いない。


痛みを訴えながらも、いつもの元気がない私を見兼ねて
察しの良い忍足が口をはさんでくれた。
他人の口から聞くと、より一層それが現実のことだと思い知らされてさらに落ち込む…。っく…。



「…あ〜ん?だからどうしたんだよ。」

「それにショック受けてんねんやろ?は。」

「………うん。」

「えー、なんでなんで?ちゃんがっくんのこと好きだったの?」

「そりゃ好きだよ、いっつも一緒に帰ったり家に遊びに来たりしてたのにさ…もう出来ないんだよ。寂しい。」


ソファに駆け寄ってきた天使のようなジロちゃんが興味津津の様子で問いかける。
好きって聞かれると、素直にうんとは言えない。だって、狂おしいほど愛してる!とかそういうわけじゃないし…
こういう時の感情は何て言うのでしょうか。


「ふ〜ん…。それってでもただの友情じゃん?」

「……友情だけどー…、でもほんのり…こう、私的には性的な愛情もあったわけで…。」

「お前、それ日吉に対する気持ちと同じだろ?」

「いや、ぴよちゃんさまに対しては純度100%の性的な感情しかないよ。」

「やめてください。」

「……はつまり、岳人が他の人にとられたんが寂しいんやろ。」

「……うん。まぁ、そんな感じ。」

「しゃーないな。ほな、俺がおるやん。」

「……いや……、いや、まぁ…ね。うん、気持ちだけはね…受け取っとくっていうかね…。」

「何や、人が親切で言うたってんのに。」


すっかり興味を失った跡部はそそくさとユニフォームに着替え、ラケットの手入れをしていた。
そんな様子を見て、本当にこいつは自分のことにしか興味ねぇなぁ、なんて思っていると



バタンッ


「おいっすー!」

「…おー、噂をすれば。」

「何だよ、もう噂広まってる訳?人気者は辛いな!」


いつも以上に上機嫌ながっくんをみてさらに打ちのめされる。
…そんな…っそんな嬉しいか彼女が出来たことが!こっちはこれから遊ぶ人がいなくなるなぁ、なんて感傷に浸ってるっていうのに!

いつもなら可愛くて仕方ないはずのがっくんの笑顔。
でも、今日の私はそんな風に見れなかった。に…憎たらしくて仕方ない…!


「女が一人や二人出来たぐらいで喚いてんじゃねぇよ、くだらねぇ。」

「へっへーん、跡部も今彼女いないからって嫉妬してんだろー。」

「向日さん、おめでとうございます。彼女って誰なんですか?」

「おー、サンキュ。えーっと、女バレのキャプテン。」

「ぬぁ…っ!え、あの巨乳の子でしょ?」

「なんだ、知り合いなのかよ。」

「いや…しゃべったことはないけど…。」


女バレのキャプテンと言えば、すらっとした長身美人で巨乳のあの子しかいない。
うう…2人ともしってるだけに、やけに生々しく付き合ってるという事実が圧し掛かってくる。

ますます撃沈する私に、いい加減キレた跡部が本気の拳骨を振り落としてきた。
…いつまでもこうしてるわけにもいかないし、起き上がるしかないか…。

それになんか、がっくんの幸せそうな顔見てたらもうなんか、それでいっかっていう気になってきたし。
うん。友達の幸せは祝福してあげないとね!もちろん妬む気持ちも7割ぐらい残ってるけど、
この気持ちもきっと時間が解決してくれるのだろう…。あ、なんか今の私かっこよかった…。

お母さん、はまた一つ大人の階段を上りました!まだシンデレラだった私はちょっぴり大人に近づけたよ!
ということを、この場にお母さんはいないので宍戸に報告したところ、可哀想なモノを見る目で見つめられました。くっそ、宍戸め。




























。行くで。」

「……え、どこに?」

「みなまで言うな…。傷心パーティー付き合ってやるよ、行こうぜサイゼリア。のおごりで。」

「っなんで、私の奢りなのよ!………まぁ、でもお腹すいたし行こっか。」


部活後、テニスボールを拾い集める私に近寄ってきた忍足に宍戸。
普段より少し優しいトーンに、内心気持ち悪いなっていう思いを抱えながらも
私を慰めようとしてくれる、彼らのその気持ちは素直に嬉しかった。


「え、何だよサイゼリア行くの?俺も行くー!」

「何言うてんねん。岳人は彼女おるやろ。」

「…関係ねぇじゃん。」

「いや、関係あるよ…。がっくんは女心がわかってないようだから言うけど…、
 彼女いるのに他の友達とばっかり遊んでたら彼女は傷つくよ!振られるよ!?その方が好都合だけどね、私は!!」

「……まぁ、そういうことだ。じゃな。」

「…っちぇ、なんだよ。つまんねーの。」


私の手を引き、部室へと足を進める宍戸。そして、何が楽しいのかニヤニヤと何かを考えている様子の忍足。
ポツンと残されたがっくんは、少し寂しそうだったけど。彼女が出来るってそういうことだよね。
いつまでも私達と遊んでたらダメなんだ。寂しいけど、慣れるしかない……うう。

































私は今、尾行をしています。
隣にいる忍足とジロちゃんから垂れこまれた情報。
「がっくんが彼女と映画館デートに行くらしい。」

がっくんに彼女が出来てから1週間。私は寂しさを徐々に乗り越えつつあったというのに、
私の乙女心を弄ぶことをライフワークにしているような、悪魔じみた連中に無粋にも掘り起こされてしまったのです。

デートなんて…そんなことを聞いたら黙ってられないっていうか…
がっくんが、どんな顔で≪彼氏≫やってるのかも気になるし…
悶々と考えていると、この情報を持ちかけた張本人である2人から悪魔のささやきが。


「俺らも映画館行って、偵察しよーや。」

ちゃんと映画見たーい!ね、行こう行こう!」

「……ま、まぁそういうなら仕方ないわね。」









「…あっ!ちょ、見て!あ…あれ、手つないでない?」

「………、映画館では静かにし。」

「で…でも…。」

「ほらー、俺がつないであげるから静かにするの。」

「いや、そういうことじゃ……!」


偵察って聞いてたのに、すっかり映画に集中してるこの二人は何なんでしょう。
忍足は私が買ったポップコーンの3分の2ぐらい、もっしゃもしゃ食ってやがるし、
ジロちゃんは私の手を握りしめながら、宇宙人が地球に別れを告げるという、意味のわからない場面で何故か涙ぐんでるし…

私はと言えば、そんなストーリーに集中することもなく
3列前に位置するがっくんと、彼女をずっと凝視していた。

暗がりでよく見えないけど、肘かけのところに置かれたがっくんの手に、彼女がそっと手を重ねるのが見えた。
………っく…なによその彼女の特権…!ちょっといい雰囲気になっちゃってさ…!


……がっくん今どんな顔してるのかな。















「すっげー面白かったな!」

「…えー、そうかな?向日あーいうの好きなの?」

「面白かったじゃん、特にあの…。」

「そんなのいいから、早くご飯行こうよ。私お腹すいた。」

「…おう。何食う?」












「ちょ、早く!見失うよ!」

「えー、もう俺感動しちゃって、がっくんとかどうでもよくなってきちゃったー。」

「俺も。何か腹もいっぱいやしなぁ。あいつら今からディナーでも行くんやろ?」

「それは、あんたが私のポップコーン全部たいらげるからでしょ!!
 途中で忍足に取られないように反対側に置いたのに、手伸ばして食うしさー!まじで何なの!」

「アホやな、。映画館で食べるポップコーンは2人で共有すんのがモテる秘訣やで。」

「共有してないじゃん!私、出資しただけで3粒ぐらいしか食べてないしね!」


館内から出ると、がっくんと彼女がどんどん人混みにさらわれていく。
そんな2人を見失わないように必死になってるのは私だけで、
既にミッションに飽きているこの2人は、目の前のゲームセンターを見て目を光らせていた。



「…ダメよ、がっくん追わなきゃ。」

「そんなんもうええやん、それより、これ。見てみ。」

「…なに?…うっわ!あのゲーム新作入ってんじゃん!」

「あー、これちゃんが好きな格闘ゲームだ。」

「そうそう!えー…やばいな、やりたいなぁ…。」

「…これ以上カップルの邪魔すんのは野暮っちゅーもんやで、。」

「………うう。仕方ない…か。」


目の前の誘惑に耐えきれず、そこでがっくんの調査は終了した。
がっくんはがっくんの幸せを追いかけてください…!
私も…私も自分の幸せを追いかけるよ!

我慢できなかった私は、吸い込まれるようにゲーセンへ。
























「…っていうかデートでサイゼリアって…。」

「いいじゃん、サイゼ。あー、美味かった。腹いっぱい。」

「あ、ねぇ。向日。プリクラ撮ろう。」

「あ?あー…いいけど。」

「ほら、早く入ろ?」

「…うわ!ちょっと待って、このゲーム…!新作だ!」

「……えー、何それ?」

「知らねぇの?ゲーセンで人気沸騰して家庭用ゲームにもなったやつだよ。うわー、やりてー…!」

「……向日って本当ガキだね。」

「うっせ。」

「いいから、早く早く。」
















「いっけー……!ちゃん……!」

「……すっげ…!」




プリクラはゲーセンの2Fにあるらしい。
いつもくるゲーセンだけど、2Fなんて行ったこともなかった。
逆に、こいつは1Fなんて行ったこともないし、あの新作ゲームも知らないらしい。

……あー、早くプレイしてぇ。今抜け出したいぐらいだ。


そわそわしながらエレベーターを上っていると、ある地点から1Fの格闘ゲームコーナーがちらっと見えた。
…うっわ、すげぇ人だかり。そりゃ新作だもんな、人気あるよなー。

……あれ?あの人だかりの真ん中にいるのって…



「……!?」

「え?……あー、あれテニス部のマネじゃん?ははっ、何アレ。」

「……と、侑士にジロー。」

「あの子って本当変わってるよねー。」

「………。」





何だよ。

の奴。約束したのに。





「ねぇ、がっくん!今度これ新作でるらしいよ!」

「マジか!絶対行かないとな!」

「うん!約束ね!ゆ〜びきりげ〜んま〜ん、嘘ついたらちゃんに裸を見〜せる♪ゆ〜びきっ……」

「いや、きらねぇぞ!そんな指きりあるかよ、キモッ!」






「…ぇ、ねぇ!何してんの向日、行こうよ。」

「え?…あ、おう…。」



もう一度、達の方を見てみるとが人だかりの真ん中で
高々と両手をあげてガッツポーズをしていた。
見知らぬゲーマー達が、皆に向かって拍手をしているのを見ると
また連勝記録塗り替えでもしたんだろうな。






楽しそうだな。



俺も楽しいはずなのに。




あいつらなんか毎日見飽きてるはずなのに。





























ある日の部室にて。


「ねぇ、ぴよちゃんさまも今日来るでしょ?」

「何のことですか?」

「ほら、これだよ。≪魂からの解脱会〜傷心のを皆がちやほや慰めてくれる会〜≫

「何ですか、その怪しい宗教団体みたいなタイトル。


それからまた1週間後。ようやく私も、普通にがっくんと話したりできるまで回復しました。
根気よく励ましてくれた(主に慰めるという理由にかこつけてご飯を奢らされたりしてただけだけど。)忍足やジロちゃん、
そして皆のおかげです。友達っていいもんだなぁ、と少しだけ思いました。

今日は、そんな私の復活祭を兼ねて、家でパーティーという名のぐーたら会を開くことになってました。
知らない間に。忍足主催で、開催地は私の家なのに今日までそんな会があるのを知らされていませんでした。
怖い、私が聞かなければ無断で人の家を開催地にしようとしてた忍足怖い。



「まぁまぁ、日吉。がついにショックから立ち直って新たな人生を歩み出せそうなんや。」

「大袈裟ですね、たかだか失恋ぐらいで。」

「っぐ…し…失恋じゃないもん…。」

「ちょ、やめろって日吉。またがうじうじぐだぐだ言い出したら鬱陶しいだろ。」

「し、宍戸さん言い方がキツイですよ!さ、先輩、いきましょう。」

「ぐす…っ、今日は飲むぞー!」

「飲むって、ちゃんウーロン茶と牛乳しか飲まないでしょ〜。」




バタンッ





「………なぁ、跡部。」

「…何だ。」

「彼女と居る時って、楽しいものなのか?」

「………。」

達と居る時より…楽しいはずだよな?」

「…お前は楽しくねぇのかよ。」

「………わかんねぇけど…、彼女といるときに達が遊んでるの見たりすると、
 すっげぇ悔しいっていうか、俺も入りたいって思う。」

「……ふーん。」

「今も…俺、最低かもしれないけど…彼女さえいなきゃ…、皆と遊べるのかなって……。」

「…そうすりゃいいんじゃねぇの。」

「え?」

「好きなようにしろよ。お前…、ずっとそうやって楽しくもねぇ女と付き合って時間無駄にする気か。」

「……。」

「……っち。…行くぞ。」































ピーンポーン…


「…はいはーい。」


ガチャッ


「うっわ…、跡部!あんなに嫌がってたのに来てくれ………え?がっくん?」


ドアを開けてみるとそこに居たのは跡部。庶民感あふれるこのアパートに、この男の無駄に派手なオーラは相変わらず似合わない。

無言で腕を組んで仁王立ちする跡部、の後ろに隠れているのは、見間違うはずもない、がっくんだった。


「ちょ…がっくん、どうしたの?彼女置いてきちゃったの?」

「…別れた!」

「………は?」


ニカっと笑顔で答えるがっくん。あ、こんな笑顔久しぶりに見た。やっぱり可愛い。
……って、そうじゃなくて…。


「だから別れたんだよ!もう彼女なんていねーの!」

「……っ皆!緊急事態です、集合してください!
 えー…諸事情により今日のこの会合は急遽≪傷心のがっくんを慰める会〜フラレたぐらいでくよくよすんなYO!〜≫に変更します。」


「フラれたわけじゃねぇし!俺さー…やっぱり、まだ友達とつるんでた方が楽しいって気づいた。」

「……っう…、が…がっくぅぅううん!ゴメン、最低なこと言うね!別れて良かったぁああああ!

「本間に最低やな。」














なんだかんだあって、跡部とがっくんも加わりいつものように皆でぐだぐだする会になっちゃいました。
…皆でいるのも楽しいけど、やっぱりがっくんが欠けると、何かが足りない気がしてたんだよね。


「…なぁ、。あのゲーム新作出たの知ってる?」

「…あ!そうだがっくんと約束してたのに…私ね、先プレイしちゃったんだ、ゴメン!」

「……約束やぶったな。」

「ゴ、ゴメンって!でも、ほら見て!家庭ゲーム用の新作仕入れておきました〜!フゥ〜!ドンドンパフパフー!」

「ナイッス!!早くやろうぜ!」

「そうこなくっちゃ!」









「…なぁ、。」

「んー?ダメだよ、負けてるからってリセットボタン押したら罰金ね。」

「……デートでサイゼリアってなしだと思う?」

「はー!?絶対ありでしょ!タラコソース シシリー風はこの世で1番美味しいパスタだよ!?」

「……っぷ…。だよな、っはは!」

「な、何。どうしたの。」

「いや…っふふ、はやっぱ女じゃねぇなって。」

「おい。ゲームで負けてるからってそういう精神的攻撃してくるのやめてくれる?」







「…俺なぁ、思うねんけど。」

「………あ〜ん?」

「岳人があーやってとつるんでる限り、あいつに彼女できへんと思うわ。」

「……だろうな。」

「そら、ゲームで盛り上がれてサイゼリアなんかで満足する女おらんで。
 なんかとおったら、どんどん女心がわからん男になっていくと思うねんけど。」

「…まぁ、あいつにはそれがお似合いなんじゃねぇの。」

「……っふ、せやな。」