氷帝カンタータ
第23話 クワトロ バトル
「がっくん、私オレンジジュースね。」
「自分で行けよ。宍戸、俺コーラ。」
「お前らふざけんなよ、さっきので最後だっつっただろ。」
「宍戸―、俺ココアがいい!」
「宍戸、ほら。ジロちゃん様の喉を潤おすために!走れ、シシド!」
「、じゃんけん。」
「ぶえー…。っち…仕方ないなぁ。いくよ?じゃーんけーん…」
「「ぽんっ」」
「よっしゃ、行って来い!」
「あー、もう!くっそー!」
怒りにまかせて机を叩きながら立ちあがると、膝を勢いよくぶつけてしまった。
悶絶している私を見てゲラゲラと笑う悪魔3人。
ガシャガシャっと、皆のコップをトレーに集めドリンクバーへ向かったけど
私の怒りは収まらない。じゃんけんに負けたこともムカツクし、膝が痛いのもムカツクし…
何よりこんな可愛い女の子が痛がってるのを見て当然のように笑ってるあいつらがムカツク!
もっとさー、例えば柳生君とかなら真面目な顔して心配してくれると思うんだよね。
いや、柳生君の素敵対応を氷帝の奴達に求めるのは酷だとは思うんだけどさ…。
もしこれが…宍戸が膝を打っていたとしたら、私なら真っ先に……
笑うな。
うん…、うん笑うわ。「大丈夫!?代わりに私が行ってくるよ!」とはならないな。
…自分のことを棚に上げて批判するのは私の悪い癖です。ぴよちゃんさまにそれで、こないだ怒られたばっかりじゃん。
そんなことを考えながら、無表情でドリンクを注いでいると、急に後ろから視線を感じた。
驚いて振り返ると、そこに居たのは腕を組んで仁王立ちするがっくん。そして、宍戸にジロちゃん。
「……何してんの。」
「いや、が腹いせに嫌がらせドリンクを作るんじゃないかと思って見張りに来た。」
「じゃあ自分で入れに来なさいよ!というか私の入れてきてよ!って、まずどんだけ信用ないのよ、私!」
「俺達も後から気付いたんだよ、あ、にドリンク入れさせちゃ駄目だって。」
「毎日毎日あんた達にドリンク作ってやってんのは誰だと思ってんの?」
「…はっ!マジだ…、え、じゃああの部活中に飲んでるドリンクにも何か…」
「あー、俺この前ちゃんに渡されたドリンク飲んで眠くなったー。」
「お…おい、ジローそれって…睡眠薬入れられてたんじゃねぇの!?」
後ろでぎゃあぎゃあ騒ぐ馬鹿3人を無視して、トレーにドリンクを置く。
それを持って振り返ってみると、私のことを変質者でも見るかのような目で見つめる3人。
っこ…こいつら、マジで言ってんのかそれ…。
「ねぇ、馬鹿なの?ジロちゃんが眠くなるのなんていつものことでしょうが!!」
「……あぁ、そう言われれば。」
「えへ、そうだねー。ちゃん鋭いっ!」
「の人間性から生まれた疑惑だから、これはもう自業自得だぜ。」
「何が自業自得だ!謝って。こういうことの積み重ねで人間関係って脆くも崩れ去って行くんだよ。」
「公共の場で騒ぐなよ。とりあえず席戻ろうぜ。」
いい加減このトレーをその頭にぶつけてやりたくなりましたが、私大人だから。大人だから我慢できるもん。
自分たちが騒ぎたてに来たくせに…!ここが部室なら即効で大乱闘の始まりなのに…!
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「ねー、(2)の問題解けた?」
「無理…、あーもう絶対無理!」
私達4人で、わざわざ部活後にファミレスに来ているのは何故か。
それは、今度の中間テストに向けて勉強をするためでした。
「皆で勉強したがる奴程、頭悪いねんなぁ。」
ドヤ顔で私達全員を敵に回す発言をした忍足はハブりました。
図星だからこそ許せん。馬鹿は馬鹿なりに頑張るんだから…!!
3人寄れば文殊の知恵…!
だけど、そんな思いも空しく頭の悪い4人が揃っても何も生み出せませんでした。
漂う倦怠感と、もうどうでもいっか感。こうなることは予想出来てたんですけどね、いつものことだし。
宍戸なんかもうゲームし始めたし。いい年してファミレスでDSなんてやってんじゃないよ。
ジロちゃんは鉛筆握りしめながらウトウトし始めてるし。たまに机に頭ぶつけてるけど、それがもうたまらなく可愛い。
「がっくん。思ったんだけど、やっぱり跡部とか忍足とか…認めたくないけど頭の良い奴がいる方がよくない?」
「いーや、侑士は俺らのことを馬鹿にしてるからな。見返してやる、絶対!!」
鉛筆を天高く掲げ、やる気を見せるがっくん。
…がっくんもやっぱりさりげなく傷ついてたんだね、忍足の発言に。
「まー、跡部と忍足がテニス部の中では頭良いグループだとして…長太郎と樺地と日吉も普通に頭いいからな。」
DSの画面を見つめながら、宍戸が言う。
それを聞いて、思わず私とがっくんは顔を見合わせた。
…だって、忍足と跡部…それに2年生トリオが頭良いグループなら……
「待てよ、それだと後残ってんの俺らだけじゃん。」
「この中でなら、俺が1番だけどな。」
「はっ…ちゃんちゃらおかしいわね。どう考えても私でしょ。成績から見ても。」
「ない。が1番ってことは絶対ない。」
がっくんが真剣な顔で言うもんだから、私の中の何かに火がつきましたよ。
導火線の超短い爆弾に火がつきましたよ。
「いやいや…だって、じゃあがっくんこの前の英語の期末テスト何点だった?」
「…65点。」
「ぷふーっ!やーだ、そんなお粗末な点数で私に張り合おうと思ってたの?冗談はおよしくださいませ、おほほ!」
「じゃあは何点だったんだよ。」
「68点。」
「変わらねぇじゃん!何ドヤ顔で言ってんだよ!」
「変わりますー、3点の差は大きいんですー。」
不毛な言い争いをする私とがっくん、そしてDSをいじるのに夢中で既にこの話題から興味を失っている宍戸。
その時私の目線の端で何かが動いたと思ったら、ムクっとジロちゃんが起き上がっていた。
「…俺、いいこと考えた!今度の中間テストの点数で対決しよ〜!」
「……対決?」
「うん!この中で1位の人はー、最下位の人に何でもお願い事聞いてもらえるっていうのはどう?」
「何でも…?じゃあぴよちゃんさまの入浴シーンを隠し撮りしてきて、っていうのとかも?」
「うわー、きもっ!、それ犯罪者の発想だぞ。」
「ちょ…ちょっとした例えだよ。」
「いや、今目がマジだった。すぐそんな発想出来るってことはいっつもそんなこと考えてるってことだろ。
はただでさえ残念なのに、その上変態ときたらもう何か色々ヤバイぞ。」
「ちゃんが1位だったら、そのお願いもアリだC〜!」
いつのまにかDSを閉じていた宍戸に、さっきの眠気は完全に飛んで行った様子のジロちゃん。
がっくんも身を乗り出してこのジロちゃんの提案にノっている。
1位になれば…どうしても手に入れたかった…裸体写真が…
こ…、これはもしかしてチャンスじゃない?だってこの4人で戦うんでしょ?
忍足が入ってるならまだしもさぁ…
まず、ジロちゃんはお話にならないし(テストはいつも寝てるから)
宍戸もさほど頭がよくなかったはず…、で、がっくんは言わずもがな残念なおつむだし……
もらった、この勝負。
「よ…よーし!それノった!やろうよ、それ!」
「…バーカ、が1位になれるわけねぇだろ?まぁ、こんな勝ち試合逃すわけにいかないけどな。」
「宍戸、まさかお前1位になれると思ってんの?どう考えても無理だろ。っふ、俺が勝ってマック1年分奢ってもらう権を獲得するぜ!」
「え〜、ねぇ俺は俺は?」
「あー…まぁジローはまず寝ないことを1番に考えろよ。」
「そうそう。まぁどうせ寝るんだろうけどな。」
「ちょっと、ジロちゃんが可哀想でしょ!大丈夫だよ、ジロちゃん、寝てても可愛けりゃいいんだよ。」
「もー!俺だってちゃんとできるもん!」
ジロちゃんが最下位になるだろうな、ということは恐らく私を含めた3人の総意。
最下位が決まっていて、自分が1位になれるかもしれない勝負…なんて楽しいの!
でも、どんな勝負にも気は抜かないのが私の信条。全力でいかせていただきます。
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「跡部。ちょっとこっち来て。」
「あ〜ん?」
「い…いいから、早く!」
「…んだよ。」
部活後の部室。
あの勝負宣言以来、がっくんは部活後すぐに図書館にこもって忍足と勉強してるし
宍戸は、まさかのちょたに勉強を教えてもらってるらしい。恥ずかしくないのか、先輩として。
他の人がやりだすと、焦ってしまうのが私。でも、教えてもらえる人と言えば……
さすがにぴよちゃんさまや樺地に教えてもらうのは、なんというか年長者としてのプライド?が許さないし
そうなると、消去法で、いた仕方なく残ってくるのは…奴しかいないじゃないですか。
2人きりでも、普段はほとんど会話のない私達。
私は部誌を早く書き終えて帰ることに必死だし、跡部も黙々と部活のことや生徒会の仕事をしている。
どちらかが先に仕事を終えると、軽く声をかけて帰るだけ。そんなドライだけど、まぁやりやすい関係。
しかし、今日は私が声をかけたことを不審に思ったのか跡部が思いっきり眉間に皺を寄せてこちらを振り向いた。
私は自分の隣の椅子をポンポン叩きながら、ここに来るように促す。
軽く警戒態勢のまま近づいてくる跡部。…何か私ってそんな猛獣みたいな扱いされてんの、皆に?
「…これ。」
「……数学?」
「教えて。」
「……っは、こんな問題もわからねぇのかよ。」
「だ、黙って教えればいいのよ!」
ケラケラと嫌な笑い声を響かせながら、私のノートを覗きこむ。
あー…ムカツク。だから跡部に聞くのは嫌だったんだよ。
ちょたならきっと優しく、馬鹿にすることなく教えてくれたはず…
っく、宍戸にとられる前に先にとっておけばよかった…!
「…なんでいきなり数学なんだよ。」
「え?いや…中間テストに向けてちょっと…ね。」
「なんだ、ちょっとって。」
「別になんでもいいじゃん。」
「良くねぇ。俺様がわざわざなんかのために時間を割いてやるんだぞ、説明ぐらいしろ。」
いつのまにか横に座っていた跡部が、至近距離で睨みをきかせてくる。
……相変わらず無駄に綺麗な顔しやがって…。
まぁ、でも跡部の言うことにも一理あるか。理由もわからず何かをしろって言われるのは不安だもんね。
「…っく…、面倒くさい…!もー…、わかったわかった。…実はね…。」
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「なら、これは俺と忍足と…鳳の戦いでもあるわけだな。」
「え、いや、なんでそんな話になるの?」
「そういうことだろうが。……俺に恥かかせるんじゃねぇぞ。」
「…っふ、まぁ大丈夫よ。あの4人の中なら確実に私が1番だからね。」
「……じゃあ、まずはこの英語の問題。やってみろよ。」
急に真面目な顔で、目の前のテキストを開きだした跡部。
心配性だなぁ…大丈夫だって言ってんのに。っていうか英語はむしろ得意分野なんですけど。
鞄からメガネを取り出し装着した跡部は、まるで本物の先生みたいだった。ルックスが良い人は得ですね。
次の英文を和訳せよ
I am a stranger here.
「簡単簡単!跡部は知らないかもしれないけど、私英語が1番得意だからね。」
「……で?答えは?」
「私はここでは変人です。」
バチッ
「いっ…痛い!あんた…今平手打ちした!?女の子に!?」
「黙れ、何が英語が得意だ!そんなわけのわからねぇ例文出てくるわけねぇだろうが、テストに。」
「わ、わかんないじゃん!っていうか、それ以外の和訳なんてないでしょ?!」
「……もういい、次だ。次。」
次の文章を和訳せよ
The price of rice falls.
「ん…んー…あ!わかった!」
「………。」
「米王子が「待て、なんだ米王子って。」
「へ?いや…ここにprinceって…。」
「priceだ!よく読め!おっ…前…、今までどうやってテスト乗りきってきたんだ?」
「し、失礼な!いつも平均60点はあるもん!」
「60点なんかで満足してんじゃねぇ!俺が60点なんかとったら恥ずかしくて引きこもるぞ。」
「あ、あんたとは違うもん!いいの、これで満足してるんだから。」
「駄目だ、俺が教えたのにお前が馬鹿みてぇに米王子なんて言ってたら…俺まで馬鹿にされるだろうが。」
米王子は…米王子はただの見間違いなのに…!
そこまで怒ることないじゃん…!っていうかいつのまにか手に握ったその握り拳は何なんですか。
まさかまた容赦なく体罰を与える気ですか。子供は叱って伸びるんじゃない…褒めて伸びるんだよ…!
「お前のどこに褒める要素があるんだ。いいか、これから放課後は毎日残って勉強だ。」
「えー、駄目駄目。明日は夕方のアニメで「わかったな。」
「………ふぁい…。」
どうなんですか、これ。
普通女の子の胸倉掴んで、男の子が睨みながらすごむことってあります?
胸倉掴まれてそんな凍てついた目されたら頷くしかないじゃないですか、くっそ。
跡部なんかに頼むんじゃなかった…!こういうとこ変に負けず嫌いというか…何でも自分が1番野郎だから…!
その日を境に、中間テストまでの間毎日跡部が私の家についてきて
遅くまでスパルタ教育を施すという事態に発展しました。
真子ちゃんに話すと、良い家庭教師が出来てよかったね、なんて笑っていたけれど…
家庭教師だなんてとんでもない。家庭教師が問題を間違えた生徒に膝蹴りをかましますか…?
前に教えた問題が解けないからって、アイアンクローをおみまいしますか…?
そんな幾度にも渡る抗争を乗り越え、
ついに決戦の日がやってきた。
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「…じゃあ、全員答案を出せ。」
中間テストが返ってきたその日。
私達4人は部室に集められ、跡部・忍足そして2年生トリオに囲まれていた。
各々が自分の答案用紙を跡部に提出し、それを見て跡部が私達に順位を発表するという流れだ。
……勝ってる自信があるとはいえど、中々緊張の瞬間ね…!
「ふっふっふ、マジで今回は自信あるわ私!」
「そんな余裕こいてられんのも今のうちだぜー?俺も過去最高記録出たからな!」
「甘いな、宍戸!俺も侑士と勉強したところがバッチリ当たってたからな。」
「ねーねー!俺はちゃんと起きてたんだよ、エライでしょー!」
「うふふー、ジロちゃんえらいえら〜い!でも、ゴメンね、私が今回はいただくわ。」
4人で正座をしながら、口々に自分が如何に点数が高かったかを自慢し合う。
…どうせ、皆点数が良かったと言っても精々70点そこらでしょ…!
ニヤつく口元を押さえながら、裁判官の跡部を見ると
思いっきり私を睨んでいた。
え、え…何その地獄の底からフルマラソンしてきたみたいな恐ろしい目は…
私が…何かしましたか…。あ、わ、わかった…あまりにも点数が良すぎたから…!良すぎたから感動してるんだね…!ね!
「はよ発表しーや、跡部。」
「………1位…。95点。」
「「「なっ!!!」」」
1位の点数が発表されたと同時に声をあげたのは、私の聞き間違いじゃなければ
私と、宍戸と…そしてがっくん。
…ということは…
「わーい!やっぱり俺が1番!勝った勝ったー!うれC〜!」
「……う、嘘でしょ95点!?ジロちゃんが!?な、なんで…!」
「……何でって…ジローは普通に頭ええやん、起きてたら。」
椅子に座った忍足が飄々とした態度で答える。
え…いや、そんなこと聞いてませんでしたけど。何その特殊能力。なんでこのタイミングで発動しちゃうわけ?
「う…嘘だろ、俺絶対1位だと思ってたんだけど…!」
「わ、私も…。え、じゃあこれって後は最下位の人の発表を待つだけ?やだ、何その地獄イベント!」
「ねぇねぇー!じゃあ俺のお願い先言っとくね!最下位の人はー、1週間俺の抱き枕になることーっ!」
「ねぇ、跡部。私が最下位だよね?ほら、私0点だったじゃん?
あー、悔しいわー。悔しいけどでも仕方ないから抱き枕になるしかないわー、悔しいわ―…。」
「なっ、何いきなり手のひら返してんだよ!いや…いや、まぁ別にが最下位になりたいならそれでいいけど!」
「お…おう、俺は死んでも嫌だし…。よ、よしこの勝負はが最下位ということで…。」
「馬鹿なこと言ってんじゃねぇ。勝負の世界にそんな八百長許されるはずないだろうが。」
出たよ、変な所で真面目な名言放り込みやがって…!
いいじゃん、私も皆もハッピーじゃん、win-winの関係じゃん!こんな素晴らしい大団円ないじゃん!
私を始め、どうしても抱き枕罰ゲームを避けたい宍戸とがっくんも口々に不平を洩らす。
それを一喝した跡部が、ついに最下位の人物の名を発表した。
「最下位…74点…。向日。」
「げええええええ!なっ、まじで!?何で!?70点越えたのに!?」
「っく…馬鹿!がっくんの馬鹿!なんでそんな微妙な点数なのよ!」
「…え、何点?」
「…76点。」
「はぁ!?2点差かよ!宍戸は?」
「俺は80点!お前らの下々の争いとはレベルが違ぇんだよ、レベルが!」
「さすがです、宍戸さん!勉強した甲斐ありましたね!」
その場で泣き崩れるがっくんに、1位の喜びに浮かれるジロちゃん。
1人で悦に浸っている2位の宍戸と
心底勉強しなきゃよかったと後悔する私。
だって…だって、最下位なら1週間も合意の上でジロちゃんの抱き枕という名誉に与れたんですよね…!
勉強しなければ…跡部に教えを請うこともなかったし……
目の前で…怒りのパワーで爆発しそうな跡部にいつかのように胸倉を再び掴まれることも
なかったんですよ…ね……。
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「ぎゃああああ!キモイ!やめろ、ジロー!」
「がっくん負けたんだから、大人しくしなきゃだーめー!」
「やめっ…ちょ…意外と力強い、ジロー!むっ無理無理!助けて!」
「…がっくん、ちっこくて抱きつきやすーい♪」
「いや…っ、いやだああああ!やめろぉおぉおお!ヤバイ、鳥肌ヤバイから!ちょ、!何ボーっと見てんだよ!」
がっくんに抱きつき、足を絡めて文字通り抱き枕にするジロちゃん。
それを嫌がりながらも、意外と強いジロちゃんの力に抗えず涙目で助けを求めるがっくん。
部室で繰り広げられるそんな光景を見ながら、
私はジっと…ソファでその様子を眺めていた。
「……忍足。」
「なんや。」
「なんか…私、新しいモノに目覚めそうだわ。」
「やめとき。それ以上変態なったら、取り返しつかんで。」
こんなに萌える光景が見れたのは少しでもテスト勉強を頑張ったおかげですね。
私が最下位になっていたら、この新しい境地には出会えなかったはずだもん。
あの発表があった日にはペナルティとして跡部に思い出すのも 腹立たしい暴力的制裁を加えられたけど…
…少しは跡部にも感謝してやるか。
私はポケットからそっと携帯を取り出し、心のフィルムと共にその光景を納めるのであった。