氷帝カンタータ





第24話 かぜのうわさ





「ん?、何書いてんの?」

「これ?ぴよちゃんさまの誕生日パーティー計画表!ついに明日だよ!」


1時間目が終わった後の休憩時間。
いつもは真っ先に真子ちゃんの机に飛んで行ってべったりな私が
今日は大人しいことを不思議に思ったのか、わざわざ私の席まで真子ちゃんが足を運んでくれた。
私はそんなことにも気付かずに一心不乱にノートに黙々と計画を書きこんでいたんです。罰あたりな私。


「へー、日吉君誕生日なんだ。」

「んふふ、そうなんだー。真子ちゃん、これを機に私はぴよちゃんさまに自分の気持ちを告白しようと思います。プレゼントと共にね!」

「え……え、ええええええええ!!



普段から大人っぽくて、私とは正反対の落ち着きを見せる真子ちゃんが
クラス中に響き渡る声で叫んだことに私を含め、皆が驚いていた。
まずい、この件に関して真子ちゃん以外に詮索されるのは面倒くさいと思った私は
勢いで真子ちゃんの口を塞いでしまった。
私の手のひらの下で息苦しそうにする真子ちゃんを見て、すぐに離したけど。



この時、私はもう少し周りに気を配るべきだった。


氷帝学園の中で圧倒的存在感を放つテニス部に関わる話題を


軽々しく口にするということはどういうことなのか。


さらにそれが、恋だの愛だのそんな浮ついた話の場合には


細心の注意を払うべきだったということを、後になって思い知らされる。


























「…は?マジで言ってんの、それ?」

「本当だって!私の友達の友達が聞いたらしいよ、さんが日吉君の誕生日に告白するって話!」

「…いや、ないだろ。はアレでも自分の立場をわきまえてるからな。この期に及んでそんな女みたいな行動するわけねぇ。

「もー!本当なんだってば!じゃあ宍戸君、確かめてみればいいじゃん!」









「…なんやて?」

「いや、俺の彼女が昨日話してたんだけどさ。さんが日吉に告白するって。」

「……ぶふっ、何やねんその罰ゲーム。そんなん日吉めっちゃ可哀想やん。

「え、さんと日吉ってそういう感じなの?…さん普通にいいじゃん。」

「お前はほんまのを知らんからそんなこと言えんねん。あいつが跡部にヘッドロックかけてる写メ見せたろか?悪魔やで。









「ぶふぉ!……ちょ、もう1回…なんだって?」

「だーからー、あのって女が日吉様に告白するらしいんだってば!長太郎君なんとか止めてよ!」

「いや…いや、それはたぶん…デマだと思う…よ?」

「なんで?」

「それは…だって、先輩だよ?……まず日吉が…受け入れないと思うんだけ…ど…。」








「ひっひっひ…っひー!ちょ…あんま笑わせんなって!」

「向日君、真面目に聞いてよ!本当なんだから!」

「バーカ、が告白なんかするわけねぇだろ!」

「なんでそんなことわかんのよ、だってあの子毎日日吉君の教室に行ってるんでしょ?」

「アレはストーカーみたいなもんなんだって。はヘタレだから告白なんかできるはずねぇし。」

「…ふーん。」

「第一、あいつ言ってたしな。ぴよちゃんさまの姿を見るだけでHPが回復していく気がする…!隠れて見てるだけで良い…!って。」

「……なんか、可哀想だねさんって。」

「知らなかったのかよ。」







「お。芥川ー。珍しいな、お前が1時間目から教室いるの。」

「……朝から嫌な話聞いたからね。」

「何?…あ、もしかして今噂のアレ?さんが…」

「そんなの噂に決まってんじゃん。ちゃんが好きなのは俺なんだから。」

「マジかよ!やるなー、さん…堂々と二股とは…。」

「だから違うって!ちゃんは日吉のことなんか地下アイドル的な存在ぐらいにしか思ってないの!毎日隠し撮りするだけで満足してるんだから。」

「……へー。」

ちゃんは変態だから、先輩という権限を使ってやりたい放題できる日吉をエロイ目で見てるだけなの!」

「いや…いや、それはだいぶマズクないか?さんそんな子だったんだ…。」










「……何だと?」

「…妹が昨日家で騒いでたんだよ。なんか、あいつ日吉と同じクラスらしくてさ。」

「……で?」

さんが日吉の誕生日に告白するんだって。1年生まで知ってんぞ、この噂。跡部知らなかったのかよ。」

「誕生日…?っち、明日か…。」

「まぁ、今までさんが誰とも付き合ってなかったってことの方が驚きだけど。」

「…どういう意味だ。」

「いや、あれだけ男に囲まれてて…で、さんも普通に可愛い感じじゃん?なんで彼氏いねーんだろーって…。」

「お前は何にもわかってねぇんだな、あいつが普通?誰もいない部室でこそこそ男のレギュラージャージ漁る女だぞ。

「……へ、へぇー…。中々…痛い子なんだね。

「まず何より、俺様に惚れねぇ女が普通なわけないだろ。」

「…あー、ムカつくわー。まぁでも確かにそれは一理あるな。女なら皆お前のこと好きだろうし。」

「…しかし…その噂が本当なら…、なんとかしねぇと…。」

「何、跡部はさんのこと好きなわけ?」

「どうしてそうなる。有望な部員が1人いなくなるかもしれねぇんだぞ。心的ショックで再起不能になったら…。」

「…さんの告白ってそこまで破壊力あるんだな。」

「本能寺の変の渦中に居た時の織田信長ぐらいショックだろうな。」






























今日は朝からおかしかった。
まず俺が教室に入った時から、クラスメイトの目が不自然だった。

どこかニヤけたような、何かを言いたいような目を全員がしている。
かといって俺の勘違いかもしれないし、取り合えずスルーして席に着くと


「なぁ、日吉。あの先輩ついに…。」

「…?先輩が何かしたのか?」

「……へぇ、日吉知らねぇんだ。学校中の噂だぜ、今。」

「何がだよ、ハッキリ言え。」







先輩が、告白するらしいぜ。」










「…………誰に。」

「いやいや、お前だよ!ひゅーひゅー!おめでとー!」


クラスの中でも1番五月蝿い男子がはやし立てると、
それを合図と言わんばかりにクラス全員が口々に祝福の言葉を投げかけ、拍手を始めた。

……今、頭の中が整理できない。

先輩が俺に告白?
まさか。

確かに先輩は俺のことを気に入ってる節があるが、それは恋なんていう乙女じみたものじゃない。
どちらかというと…変態的な対象として俺を見ている。乙女というより、エロ親父のような。

今までに何人か告白されたことはある。
どの女子も、俺を目の前にしてモジモジと顔を赤らめ、
しゃべるのもままならないような素振りを見せる。

対して、先輩が俺に対してそういう素振りを見せたことは1度もない。
恥ずかしがっている先輩を見たのは…
先輩の携帯をチェックした時に、俺が着替えをしている写真を保存していることがバレた時ぐらいだ。
本気で怒鳴ってやろうと先輩を見ると、顔を真っ赤にして「えへへ、この時のパンツの色好きだなぁ。似合ってる。」
等と、意味不明の供述をしたので、容赦なく説教をした覚えがある。

そんな先輩が、俺に告白?どうせまた誰かがながしたデマだろう。


そう思っていた。





その時までは。




「やっほー!ぴよちゃんさま!」





いつものように先輩が教室の窓を開け放った。
…昼休みに来るのが定番なのに、何故こんな朝から?

教室中がざわついていた。俺と先輩をチラチラと好奇の目で見るクラスメイト。
廊下にいる他のクラスの生徒まで見に来ている。

それなのに先輩は全く気にしていない様子で。
……居た堪れなくなった俺は、先輩を別の階へと連れ込んだ。






「…何なんですか、朝から。」

「ごめんごめん!今日のお昼はちょっと準備で忙しくて来れなさそうだったからさ…!」

「準備?」

「うん、あのね!明日、部活が終わったら私の家に来てね。」

「……何故ですか。」

「うふふ、いいからいいから。ぴよちゃんさまのこと、ずっと待ってるからね!」



何が楽しいのかニコニコと話す先輩。

……まさか本当に…?そう言われてみると、心なしかいつもより先輩の顔が緊張しているように見える。
今こうやって明るく話しているのは緊張を紛らわせるためなのか?

可笑しな先輩をじっと見つめていると、先輩はボンッと聞こえそうなほど顔を赤らめた。
…耳まで赤くなってる。なんだ、これ。いつもの先輩じゃない。


「あ、あのあの…じゃ、じゃあ明日ね!待ってるからね!」



そう言って走り去る先輩。


…………嘘だろ。






























「皆、お疲れ様ー!」


バタンッ





「……行ったか。」

「行ったな。」


ついに今日がきてしまった。
部室を足早に立ち去る先輩を、部室の窓から確認する向日さんや宍戸さん。

俺は部室の真ん中に座らされて、先輩達の尋問を受けていた。


「…日吉、思い当たる節はないんか?」

「…というと…?」

にバックブリーカーくらわせたとか、そんなんや。そうでもないと告白なんていう嫌がらせしてくるわけないやろ。

「…先輩に手を出せるわけないでしょう。返り討ちにあうだけですよ。」


忍足さんが真面目な顔でそんなことを聞いてくるもんだから、つい笑いそうになってしまう。
先輩の告白は「嫌がらせ」なのかと思うと、何だか先輩が可哀想になってきた。


「…でも、なんか先輩は全く噂について知らない様子でしたね?」

「ああ。あんな噂流れたら、俺らの前でギャーギャー騒ぎだしそうなもんなのにな。」

「いたって普通だったよな。日吉への接し方も。」


やっぱりあの噂はデマだったのだろうか。
先輩達の言うように、確かに今日の先輩はいつもとなんら変わりなかった。
昨日のあの赤面顔は一体なんだったのか…。



「…そろそろ行かないとマズイんじゃないですか?」

「あ〜ん?どこにだよ。」

「…え。……皆さん、先輩の家に来るように言われてないんですか?」

「…何それ、初耳だC〜。」



その瞬間、確かに部室の空気が凍った。
目の前に座る忍足さんの目はメガネから飛び出してきそうな程見開かれ、
向日さんや宍戸さんに至っては、漫画のように口をあんぐり開けている。

ソファで寝転がっていた跡部さんは手に持っていた雑誌を床に落とし、
鳳と樺地は何故か直立不動でこちらを見つめている。

その中で1人、俺の目の前に来て睨みをきかせているのが芥川さんだ。



「……どういうことか説明してよ。」

「説明も何も…、部活が終わったら家に来るようにと言われたんですが。」

「あ…あかん、行ったらあかんで日吉!お前…綺麗な体では帰ってこれんくなるで!」

「お…おおおお落ち着け日吉、深呼吸だ…!大丈夫、怖くない!俺達が守ってやる!


目に見えて焦り出す先輩達が面白くて、つい笑ってしまいそうになるのをなんとか堪えた。
…1人の女子がこんなに大勢の男子を震撼させるなんて…先輩はやっぱり凄い。

先輩達は口々に行くな、と言う。もちろん俺も、出来れば行きたくない。
…もしも、もしも先輩に告白なんてされたら…どうしていいかわからない。

付き合う?俺と先輩が?そんなこと考えたこともない。
先輩のことが嫌いなわけではない。だけど、先輩はマネージャーで…何となく…皆のモノというか…。
このテニス部員の中の誰か1人が先輩と付き合うなんていうのは、どうしても考えられない。

あれだけ毎日先輩とベタベタしている芥川さんだって、
毎日のように一緒にいる向日さんだって、彼氏ではない。



……でも、例えばもし先輩にテニス部員以外の彼氏ができたら?
今までのようにテニス部員と遊んだり、毎日俺の教室に来たりするのだろうか?

いや、それは彼氏が許さないだろう。
それに、先輩はああ見えて硬派なところがあるから、他の男にふらついたりはしないだろう。



…そこまで考えて、俺はフと朝のことを思い出した。




「うふふ、いいからいいから。ぴよちゃんさまのことずっと待ってるからね!」

「あ…あのあの、じゃ、じゃあ明日ね!待ってるからね!」













「…俺、行ってきます。」

「なっ!何言ってんだよ、日吉!アマゾンの密林に裸で突入するようなもんだぞ!自殺行為だぞ!


初めて見る赤面した先輩の顔。

……もしも、告白されたら。



それはその時考えよう。

その時の自分の気持ちで考えればいい。



「待ってるからね。」



約束を破るのは、流儀に反する。




























ピンポーン…




「あ!ぴよちゃんさま、来てくれたんだねー!入って入って!」

「……はぁ。」

「ほら、見て!昨日徹夜で飾り付けしたんだよー!」




促されるままに手を引かれ、見慣れた廊下を通り抜けリビングに入ってみると

そこには壁一面に飾られた紙作りの花と、「HAPPY BIRTHDAY」の文字。




「…あ、そういえば俺…。」

「え、今日誕生日だよね!?もしかして間違った!?」

「いえ…あってます。色々あって自分でも忘れてました。」



部屋の中には何故かQueenの「We will ROCK YOU」が大音量で流れていた。
何で臨戦態勢なんだ。先輩が以前「この音楽聞くと腹の底から力がみなぎってくる」
と、プロレスラーのようなことを言っていたのと関係あるのだろうか。

そして、机の上には所狭しと先輩の手作りらしき料理が並べられている。


ボスッ


「はい!」

「……何ですか、これ。」

「誕生日の主役の帽子だよ!さー、パーティー始めよう!」



無理矢理かぶらされた、馬鹿みたいな三角帽子。
色違いの三角帽子をかぶって、馬鹿みたいに笑う先輩が言う。

つられて俺も笑ってしまった。













料理も全てなくなり(思った以上に美味しくて、少し先輩を見直してしまった)
先輩も俺も、テレビを見ながらダラダラしていた。

その時、フと思いだしたのは例の噂話。

……一体、いつ告白してくるんだ?

そんな素振りを全く見せない先輩に対して、何故か緊張し始める俺。



「…先輩、俺そろそろ帰ります。今日はありがとうございました。」

「え、あ…っ!あの、ちょっと待ってぴよちゃんさま。」







くるか。








「…何ですか?」

「あの…ね…私……!」




「突入ー!!」



バンッ!



「なっ!」

ー!やめろー!お前は完全に包囲されている!」

「そうやで!大人しく地面に手をついて伏せろ!」

「日吉、無事か!早くこっちに来い!」




先輩の言葉をかき消すように、けたたましい音が部屋に響いた。
びっくりして後ろを振り返ってみると、玄関からわらわらと入ってくる先輩達。

何故か全員段ボールで作った盾を片手に入ってくる。
……警官の真似ごとか何かだろうか。



「ちょ、何よあんた達!」

が日吉に爆弾発言して再起不能にしようとしてるって聞いたから来たんだよ!」

「はー?!何よ、爆弾発言って!」

「……隠そうとしても無駄なんだよ。てめぇ…日吉に告白しようとしてたんだろうが。」


















「……何のこと?」













演技でもなんでもない、本当にわからないといった様子で先輩は顔を歪める。
………それは、こっちが聞きたい。



「……学園中で噂になってますよ、先輩が日吉の誕生日に告白するって…。」


泣き出しそうな顔をした鳳が先輩に話しかけると、
先輩はこの前見たような真っ赤なゆでダコ状態になっていた。


「な…ななな何よ、それ!何でそんな話になってんの!?」

「知らねぇよ!俺、それ聞いた時怖くて寝れなかったんだぞ!」

「何でがっくんが怖いのよ!っていうか怖いってなんだ!

「……ほな、今何言おうとしててん、。」





忍足さんがそう言うと、部屋が一気に静まりかえった。
先輩に向き直り、真っすぐに先輩の顔を見つめると

恥ずかしそうに、赤面しながら、喋り始めた。




「…ぴ、ぴよちゃんさまに…プレゼントが…あって。」

「…プレゼント?」

「そう…。こ、これ。」

「……ありがとうございます。」


テレビの横のラックから取り出されたピンク色の紙袋。
それをおずおずと俺に差し出す様子を見て、不覚にもよくわからない気持ちがこみ上げてきた。

俺の為に、わざわざプレゼントを買ったのかこの人は。
跡部さんのときも、宍戸さんのときもわけのわからない誕生日プレゼントだったと聞いた。

だけど、誕生日にモノをもらえるのはやっぱり少なからず嬉しいことなんだな。
無表情を必死に保ちながら、紙袋を開けてみると




「……何ですか、これ。」

「え、えっと……うさ耳付き着ぐるみセット…。」

「………。」

「あのね、聞いてぴよちゃんさま!違うの!私は純粋にぴよちゃんさまがこのうさぎの着ぐるみを着たら可愛いだろうなぁって思って…
 ほ、ほら見て!うさ耳と、着ぐるみと…このおしりのとこにしっぽまでついてるんだよ!超可愛くない!?」

「取り押さえろ。」



「ちょ、やめ…何なのよー!」

「うるせぇ!の変態!」

ちゃん、そんなの俺が着てあげるのに!」



うさ耳を持ち、立ち尽くす俺の目の前で
先輩は跡部さんをはじめとする皆に取り押さえられていた。

まるで強盗犯が捕まるときみたいに、四肢を押さえつけられている先輩。
「違う!私は悪くない!」と叫ぶ姿が、犯罪者のそれとソックリだなと思った。




結局あの噂はなんだったんだ。
少なからずとも真剣に先輩のことを考えた時間が急に無駄に思えてきて、何だか腹立たしくなってきた。
紙袋の中にうさ耳を戻そうとすると、中にもう1つ、大きな手紙が入っていた。


「…何だ…?」









ぴよちゃんさまへ


生まれてきてくれてありがとう

今までタイミングを逃して言えなかったことを言います。

ずっとずっとずっとぴよちゃんさまに助けられたこと忘れません。

あの時からぴよちゃんさまは永遠に私の王子様です。ありがとう。

これからもずっと
ぴよちゃんさまの専属カメラマンとして
仲良くしてね

P.S.
ついにぴよちゃんさまアルバムが完成したので
複製品を一つプレゼントします






…もしかしって告白ってこのことか?
助けられたことって……俺が初めて先輩と出会った時のこと…?
……今までずっとそんなこと覚えてたのか…?

変に真面目な先輩のことだから、ずっと機会を見計らってたのだろう。


…ありがとうを言いたいのは俺の方です、先輩。
時々、というかほぼ毎日先輩にうんざりすることばかりだけど
テニス部に新たな楽しさを見出せたのは先輩のおかげです。


目の前で取り押さえられながら悪態をつき、
そのたびに先輩たちに罵倒されている先輩を見て

つい笑みがこぼれてしまった。
誰も気づいてないようだけど。

やっぱり俺は、何だかんだ言ってこの人のこういう所が気に入ってるのだろう。


誰かに見られないように、ニヤける顔を隠しながら
紙袋の中のアルバムを取り出し開いてみると、




そこに映っていたのは隠し撮りのオンパレード。



身に覚えのない寝顔の写真に付け加えられた≪寝顔も綺麗なぴよちゃんさま♪≫というコメント。
部活後にタオルで汗を拭く写真に付け加えられた≪このタオルは今でも大切にしています≫というコメント。

ページをめくってもめくっても、おぞましいコメントと共に現れるのは隠し撮り写真のみ。

スっと深呼吸して、頭を整理して、やはりこの人はこういう人だと再認識し、



俺はアルバムを床に叩きつけ、自分の頬を叩いた。







風の噂を聞いた時、一瞬でも、先輩との未来を考えた自分を戒めるように。