氷帝カンタータ
第27話 あなたのお姫様
バタンッ
「春がきたぁぁあああ!」
部活後の部室に勢いよく飛び込むと、
そこには勢ぞろいしたいつものメンバーが。
まだみんな着替え中だったからなのか、
いきなり飛び込んできた私に批難を込めた視線が集中した。
でも…でもいち早くこれを伝えたくて…!
「うるさい、黙れ。」
「…なんやねん、。何持ってんねんそれ。」
シャツを脱ぎかけていた跡部が、顔だけこちらに向け
睨みを利かせてくるけど、そんなの今の私は怖くない。
相変わらず乙女もへったくれも関係ないような、私達。
忍足は上半身裸のまま近づいてくるけど、特に誰も何も感じない。もちろん私も。
「ちょっと皆見てよ、これ。さっき先生のところに資料持って行った時に職員室の前に置いてあったの。」
「なになに?…あー、これ校内新聞じゃん。いつもクラスで配られるやつだろ?」
「それ。でも私今までよく見てなかったんだよね。そのまま鞄に突っ込んでたから。」
「…前回の校内新聞って確か…。」
ぞろぞろと集まってくる男たちに、意気揚々と新聞を広げて見せる。
一面にはデカデカと印刷された跡部の横顔。
タイトルには、いかにもなフォントで彩られた「俺の・私の、推しメン☆ランキング」
「えー、何これ!俺見てなかったC〜!」
「ジロちゃんもね、もちろんランキングに入ってるよー。ほら。5位だって!」
「まじまじ?わーい!…あ、コメントも書いてるよ!」
机に広げた新聞を、食い入るように読む皆。
…ふふふ、これは絶対自分が入ってるかどうか見てるに違いない。可愛い奴達め。
ジロちゃんとがっくんがお互いを押しのけるように机を占領して、
その上から覗き込むように忍足と宍戸が眺めている。
ちょたと樺地はすっかり着替えを終えて、机の隣で待機。きっと先輩が読み終わるのを待っているのだろう。
なんていじらしい子達なんでしょう。
跡部はというと王者の余裕なのか、素知らぬ顔で着替えている。
そして
「私はね、ぴよちゃんさまに投票したんだよ。」
「えー!何でだよ、そこは俺だろー。馬鹿!」
「まぁ、がっくんでもジロちゃんでもちょたでもいいんだけどさ。
私はぴよちゃんさまを推していきたいの。次期部長としてさ!」
着替え終わってボーっと椅子に座っているぴよちゃんさまの方を見て、
グっと親指を立ててみるけど、予想以上に怖い顔で睨まれた。え、なんでや。
「……あのコメント書いたのはやっぱり先輩だと思ってました。」
ギリリと歯を食いしばるようにして苦い顔をするぴよちゃんさまは
もうこの新聞を読んでいたんだね。さすが真面目な生徒なだけある。
「…これちゃうか。≪いつも仏頂面の彼の、無防備な寝顔を見るとこの世に生まれた意味を感じます≫」
「うっわ、キモッ!絶対だろ、これ。」
両腕で体を抱きしめながら、震えるポーズをとる宍戸に
「あーあ、やっちゃった」みたいな顔で私を見つめる面々。
なんでだ…なんで匿名なのにピンポイントで当てられたんだ…
「え…えー、私じゃないよー。」
「…このコメントの所為でクラスの奴らに絡まれました。」
「…ど、どういう感じで?」
「寝顔とか見せる相手いんのかよ、って。」
「あー、確かにそう言われるとエロイ意味に取れんこともないな。」
「ちがっ、そ、そんなんじゃないって!ほら、部室で寝てる時の「やっぱりてめぇじゃねぇか。」
ゴチッ
背後からいつのまにか忍び寄ったNO.1推されメンに拳骨を食らわされた。
っち…こいつら…図ったな…。
「大体、こういう≪この世に生まれた意味≫とか言い出すのはしかいねぇって。」
「ねー、俺も今見てすぐこれがちゃんだってわかったC〜。やっぱりちゃんバカー。」
「も…もうやめて!恥ずかしくなってきた!」
「…でも、ジローのコメントも中々きっついこと書いてんで?」
「え、どれどれ?≪枕になってジローくんのよだれを一身に受けたい!≫」
がっくんが読み上げた後、何の合図もしていないのに全員が一斉に私を見つめた。
なんだこの冤罪裁判は。私は無実だぞ。
「これは私じゃないって!一人一票でしょ、大体!」
「…まぁ、そうか。しかし女子って考えることエグイなー。」
「え〜、可愛いじゃん!宍戸のコメントはねー、ちょっと馬鹿にされてるよ。」
ジロちゃんが指したコメントをよくよく読んでみると…
「えーと?…≪朝礼の時に、「西日が眩しいぜ」って言っていたのを見ました。先輩って馬鹿可愛いなって思いました。≫」
「ぶふーっ!宍戸超馬鹿にされてんじゃん!これほら、2年・女子って書いてるし!」
「なっ…う…うっせーな!わざとだよ、わざと!」
顔まで真っ赤にした宍戸に、みんな笑った。あー、本当おもしろいわこの新聞。
いつのまにか着替えも終えて、机に広げた新聞を囲む形になっていた。跡部もぴよちゃんさまも。
しかしこのデカデカと印刷された跡部に触れないわけにはいかないだろう。
「…跡部のコメントはさぁ、ちょっと引くレベルのが多いよね。」
「うん。これとか。≪跡部王国の住民税はいくらでしょうか≫」
「もう住むことは確定してる言い方よね。この子、1年にしてこのコメントって将来心配だわ。」
「こんなランキング、1位なんてわかりきってんのにやる意味あんのか。」
「…1位のあんたが言うと全男子から闇撃ちされるからやめといた方がいいわよ。」
それはもう嬉しそうな顔で、腕を組みながら言う跡部。
はいはい、あんたが1番ですよ。
だって実際票の半数以上が跡部なんですから。さすがというか何というか。
しかしこの結果にはやっぱり納得いかない。
私は机に肘をついたままボーっと跡部を眺めた。
確かに顔は良い。しかし中身はどうだろうか。普段は慈悲の欠片もない男ですよ。
たまに優しくなったりするけど、それはジャイアンが映画の中だけで優しくなるのと同じようなモノで
普段はそれはそれはもう王子様とは到底言えないような鬼の所業ばっかりですよ。
「騙されてるわ、皆…。」
「あーん?正当な結果だろうが。」
「いや、こんなヴァイオレンスな奴が1位になっていい訳ない。」
「お前に対してだけだろ。」
「ちょっと、やめてくれる?そのセリフだけ聞くとお前だけ特別だぞっ☆みたいで薄気味悪いから。」
「…いっ…ちょ!わかったわかった!ごめ…って…痛い痛い!やめて!」
「薄気味悪いのはお前の思考回路だろ。」
跡部が無言で椅子から立ち上がった時点で逃げるべきだったのに。
なんでこれだけ仲間がいて誰も私に注意喚起をしてくれなかったのでしょう。
こうして女子が痛めつけられている様をみて、全く意に介せずわいわいと談笑を続けるこの子達も
段々と思考回路がおかしくなってきてるんじゃないでしょうか。怖い、慣れって怖い。
恐らく私が新聞を眺めながら無意識に放った一言がまずかったのだろう。
全校女子憧れののNO.1推しメンにアイアンクローをかまされる権利はどれぐらい価値があるのかな、なーんて。
……っく、絶対いつか1位から引きずり落としてやる…!
・
・
・
「って、こっちの面はどうでもいいのよ!問題はこっち!」
やっと跡部のサンドバックから解放されて心身ともに疲れ果てた私は
当初の目的をやっと思い出した。跡部の話なんてどーでもいいのよ!…という言葉は心にとどめながら。
「え?あ、裏面は女子のランキングなんだー。」
「俺、仙道さんに投票したわ。」
「あー、あいつな。どうせ脚だろ?」
「ようわかってるやん、岳人。」
「…1位は染井か。まぁ確かに可愛い感じだな。」
「染井さん可愛いよねー、守ってあげたくなる感じがねー!私。女だけどわかるわ。」
裏面にはこちらもデカデカと印刷された染井さんの愛らしい笑顔。
こりゃ1位にもなるわ。投票数もかなり多くて堂々の1位である。
2位、3位…と続いていく中で、私がどうしても皆に伝えたかった核心に近づいていく。
「あー、俺が投票した女の子4位に入ってるC〜!」
「え、どれどれ?…ジロちゃん追川さんに投票したの!?」
「うん!抱きついたら気持ちよさそうでしょー?あの子!」
「っく…確かに…。あのナイスバディは確かに抱きついてみたい…ジロちゃん目の付けどころがさすがだね。」
「えへへー。日吉は誰に投票したの?」
急にジロちゃんがぴよちゃんさまに振るもんだから、
部室内の全視線が、隅っこで椅子に座って本を読み続ける彼に集中した。
「…投票してません。」
「えー、私じゃなくて?いいんだよ、恥ずかしがらなくて。」
「…先輩は俺に推されてると感じたことが1度でもあるんですか?」
本を片手に冷たい目線でそんなこと言わないで欲しい。
そして興味なさそうにまた本に集中しないで欲しい。
どうしてくれるんですか、この部室内の乾いた空気。
ちょっとぐらい先輩に夢を見させてくれたっていいじゃない。
涙目になる私を慰めるがっくんの手がいつもより優しく感じる。
私…わたし諦めへん…っ…っく…!
「…で、でもね!ほら!見てここ!目をかっぴらいて見て!」
≪75位… 3年:3票≫
「…うっわ、可哀想。75位とかもう載せなくていいじゃんな。」
「ちが…そういうことじゃなくて!この校内に私を推してる人物が3人もいるってことよ!」
「お前言ってて悲しくねぇのか。」
私に向けたこともないような憐みの目線を向ける、票数約400の男。
…そりゃ私はあんたの票数の0.7%ぐらいにしか満たないですよ…。
だけど…だけど健気に頑張ってる私を見てくれてる人が3人もいるというだけで
満足なんです、嬉しいんですほっといてくれ!
「…ほら、コメントも1つあるでしょ?」
「≪いつも笑顔。≫…えー、こいつ誰か他の奴と勘違いしてねぇ?」
「そやんなぁ。笑顔やったらどう考えても染井さんの方が素敵やん?」
「わかってないなー。例えば、綺麗な薔薇が好きな人もいれば、道端のたんぽぽが好きな人もいるでしょ?」
「お前まさか自分がそのたんぽぽだなんて寝言抜かす気じゃねぇだろうな。」
「…あんた喧嘩売ってんの?」
「だって、って…どっちかというと道端の雑草だもんな。」
「わかった、がっくんから仕留めてやる。」
真顔で椅子を立つと、ゲラゲラ笑いながら逃げるがっくん。
…人が喜んでるっていうのに、一々水を差しやがって…!
「…で、これを見せたかったのは何でなんだよ。」
「え?…いや、まぁ。私でも推してくれる人がいるんだよってことをあんた達にね…伝えようと…。」
「別にそいつらがのこと本気で好きなわけでもないやろし、不毛な喜びやで。」
「……待って、なんか今ピンときた。……え、これってつまりチャンスだよね。」
「お前、俺の話ちゃんと聞いとったんか。」
ぎゃーぎゃー騒ぐ皆を制止して、しばし脳内をフル回転させる。
…私のことを良く思ってくれてる人がいるっていうことは…
その人を見つけ出して、仲良くなればあわよくば彼氏が…出来る…!?
「…うわー、ちゃん馬鹿なこと思いついた顔してるー。」
「なっ…馬鹿なことじゃないもん!悪魔的閃きだよ、これは!ちょっと行ってくる、私!」
「どこにだよ。」
「……私の王子様を探しに。」
ピッと二本指を額に添えて、ウインクをしながら部室を飛び出した。
部室内から爆笑が聞こえるけど、気にしないんだから!
私は見つけ出してみせるよ、心やさしき青年を…!
・
・
・
「はー…やっぱ馬鹿だなー、。そんなの見つかるわけねぇのに。」
「やな。男子が何人おると思ってるんやろ。」
「…先輩なら血眼で見つけ出しそうな気もしますけど。」
「……なぁ、どうしたんだよ。長太郎。さっきから黙って。」
「…あ、…の…実は…。」
部室内に訪れる沈黙。
あまりにも切羽詰まった様子の彼の雰囲気に
全員が固唾をのんで見守る。
「先輩のコメント書いたの……俺なんです。」
顔面蒼白で告白する鳳に、全員が戦慄した。
「お…まっ、馬鹿!どうすんだよ!最悪婚姻届書かされんぞ!」
「…やってもうたな。は変なゲームで培った超絶ポジティブシンキングな脳やから…。
どんなボール球もチャンスと捉える剛腕バッターやで。終わったな。」
「そ…そんな…。俺、軽い気持ちで書いただけなんです…。」
「その1票が命取りなんだよ。諦めろ。」
「なぁ、跡部…。なんとか長太郎を助けてやれないか。こんなに震えてるんだぜ、こいつ。」
「……まぁ…、早くしねぇとあいつが罪無き男子を引きずって連れてくるかもしれねぇ。」
・
・
・
校舎内に戻ってきたのはいいけど、放課後ということもあって人数が少ない。
見つけ出そうにも、どういう方法で探せばいいのかわからない。
もう八方塞がりだけど…取り合えず動くしかない!行動あるのみ!
「こんにちは!」
「え!?…こ、こんにちは。」
たまたま目の前を通りがかった大人しそうな男の子に声をかけてみた。
名札から判断すると2年生の男の子だろう。
メガネをかけた優しそうな子だから、人見知りの私でも声をかけやすかった。
…しかし、呼び止めてみたものの、何て切り出せばいいのかな…。
「私のこと推してるんですか?」とか聞くのも完全に頭おかしい女だと思われちゃうしな…!
「えーと…。私のこと知ってる?」
「へ?…あ、あの…先輩ですよね?」
「え!!何で知ってるの!?」
苦し紛れに問いかけた質問に思わぬ返事が返ってきた。
びっくりして大袈裟なリアクションをとると、男の子はプっと噴出した。
「何でって…有名じゃないですか。」
「そ、そうなんだ…。なんか照れるね。」
「…それで、何か用があったんでしょうか?」
「あ…あー、えーっとさ。ほら。この前校内新聞の投票があったじゃん?」
「………。」
「あの投票で、私に入れてくれた人が3人いるわけ。これはミラクルでしょ?」
「………えーと…、なんで知ってるんですか?」
「…へ?」
この子、顔が真っ赤。
え…もしかして、
ミラクル引き当てちゃった?
・
・
・
「取り合えず校舎内探せ!」
「わかった!俺、東館見てくる!」
「じゃあ俺は西行ってくるね〜!行こ、樺地!」
「ウス。」
「手分けした方がよさそうだな。じゃあ跡部と長太郎はそっち頼む!」
「はよ行くで、日吉。」
「はい。」
「…っち、面倒なことになった。」
「すいません…俺の所為で…。」
「……これに懲りたら二度とあんな嘘書くんじゃねぇぞ。」
「…う、嘘ではないですけど…はい…。」
階段を上がり、廊下を走り回るけれど中々見つからない。
この校舎にはいないか、と2人が角を曲がった、そこに。
「…っ!待て、がいる。」
「え!……本当だ。あ、満川だ。」
咄嗟に隠れた2人が見たのは、
楽しそうに談笑すると男子の姿。
跡部はポケットから携帯を取り出し、全員にメールを送った。
≪南館2階 緊急事態発生≫
「へぇー!ぴよちゃんさまと同じクラスだったんだ!」
「はい。なのでよく先輩も見てます。」
「うわー、ゴメンね。騒がしくして…先輩として情けないよね…!。」
「何か日吉が全く相手にしてないのを見てクラスの皆も段々先輩を応援する雰囲気になってきてますよ。」
「……嬉しいような悲しいような…。」
「…あいつがに投票した猛将かいな。結構普通やん。」
「な。って変な奴に好かれる傾向あんのに。」
「…あ、話し終わったみたいだよ。」
心やさしき青年と別れて、上機嫌で後ろを振り返ると
廊下の先のコーナーからこちらを覗く男子テニス部ご一行様。
何やってんだ、あんた達。
「ちょっとー、覗き見?」
「が男子を無差別に仕留めて引きずってくるんじゃないかと思って、見張りに来たんだよ!」
「誰がそんなことするか!私をなんだと思ってんの?推され女子だよ?」
実際に私を推してくれた人物が、架空の人物じゃなかったことを先程の会話で証明できた。
ドヤ顔で皆を見つめると、ものすごく嫌な顔をされる。人の幸せを一緒に喜ぶことができないのは駄目な人間ですよ。
「あのね、さっきの男の子が投票してくれたんだって!」
「……ほんま奇跡的に見つけたんやな。強運だけは認めるわ。」
「あのコメントもさ、あの子のコメントだったんだってー!照れるよね、さすがにねーうふふ。」
私が頭をかきながら照れている仕草をすると、何故か凍りつく皆さん。
そ…そんなにおかしいか、私が推されることが!なんでそんな天変地異が起きたみたいな顔なんだよ!
「いや…え?あいつが?」
「そうそう。満川君って言うんだってー。あんな感じの優しい男の子いいよね…。」
部活でささくれだった心を癒してもらうには、今流行りの癒し系男子がいいのかもしれない…。
そう考えると、満川君がより一層素敵な男の子に思えてきた。…これが恋の始まりなのかしら!
「バーカ、んな訳ねぇだろ。」
「………うっさいわね、こうやって巡り合えたのも奇跡かもしれないじゃん。」
「あいつは嘘ついてんだよ、そう言わなきゃお前に殴られると思ってな。」
「いやいや、そんな感じじゃなかったもん!っていうか、それまるで私が脅迫したみたいでしょ!」
「…っ、あの…、先輩!」
「バカ、やめろ長太郎!」
「死ぬ気か!落ち着けって!」
「…ちょっと、さっきから何なのよその不愉快なやり取りは。」
なぜか緊張した表情のちょたが前に出てきて、何かを言おうとする。
それを必死に止めようとする面々。…私は一体何だと思われてるのかしら。
「下がれ、鳳。」
「…でも…っ。」
「。あのコメントを書いたのは俺だ。」
「嘘つかないでよ、跡部に笑顔なんて見せたことないもん。」
「殴られてぇのか、てめぇ。」
「それはこっちのセリフです!そんなに私が喜んでるのが許せない訳!?」
あー、もうちょっと本気でムカついてきた!
ちょっとぐらい私が喜んでもいいじゃん!
一緒に喜んでくれるぐらいの器の大きさはないの!?
「…3票だろうが。あいつだけじゃねぇ、投票したのは。」
「………本気で言ってる?」
「憐みの一票だ。」
「……っく…!何よ、もー!私のトキメキを返しなさいよ!」
「うるさい、調子乗ってんじゃねぇ。」
「…跡部って、私の笑顔を推してたんだ。」
「黙れ、行くぞ。」
興味なさそうに言い捨てた跡部に続いて、
ゾロゾロと歩くみんな。
はぁ…さっきまでの気分が一気に急降下だよ…
跡部があんなコメント書いたなんて、思うわけないじゃないですか?
ちょっと…いや、ちょっとじゃなくかなり怖いじゃないですか。
あれを跡部が書いてるとこなんて想像したら。
「ほらほら、ちゃん行くよ〜。ちゃんに彼氏なんて出来るはずないでしょ?」
「…ジロちゃん、最近辛辣になってきたよね…私への対応がね…。」
「良かったじゃん、氷帝NO.1に推されたんだぜ?!」
「絶対好意からじゃないもん、跡部の投票は!きっと≪票数1票≫とかにして私を晒すつもりだったんだよ!」
「よくわかってんじゃねぇか。」
「離してがっくん、私ここで怒らなかったら自尊心が保てない!」
「お、落ち着けって!ドンマイドンマイ!」
・
・
・
「なぁ、ほんまに跡部が投票したん?」
「んな訳ねぇだろうが。」
「…俺をかばってくれたんです…よね…。」
「あそこで長太郎が自白してたら間違いなくテンション上がったの生贄だもんな。」
「でもさ、あの後が小声でやっぱりあいつ私のことそういう目で…とか言ってたぜ。」
「今すぐここにを連れてこい。やっぱりあいつは体で教えるしかねぇ。」
バタンッ
「さー!今日も元気に頑張るわよ!」
嘘とは言えど跡部に笑顔を褒められたと、強引に脳内変換した私は
今日も元気に笑顔で部室に飛び込んだ。
そんな私の笑顔が奪われる5秒前だったなんて知らずに。