氷帝カンタータ





第5話 鬼さんこちら (中編)





まずはかくれんぼの基本。





「とりあえず動こう!この階段の先は何があるのかな?」




まるで結婚式の披露宴会場さながらの螺旋階段。ありがちな赤絨毯が敷き詰められている。漫画でしか見たことないよこんな家…。
その上はどうやら二階につながってるみたいで、長い廊下が続いている。




「…一体どれだけ部屋があるんだろ。」



見渡す限りのドア、ドア、そしてここにもドア。
まさか1つ1つ開けてる暇はない。制限時間内に全員見つけないと…
考えただけで恐ろしい。


「嫁入りまでこの純潔は守り通してみせる…!」



とりあえず、作戦で勝負。
馬鹿正直に見つけてたら日がくれちゃうわ!






スゥ…








「きゃぁああああ!誰かぁああああ!!!」






バタンッ


バタッバタッ






「何があった?!」

先輩無事ですか!」

「………。」





「宍戸、ちょた、樺地みーーっけ。」




「っっ…汚ぇぞ、!」

「…あ、罠だったのか…!ひどいです先輩!」

「………ウス。」



ごめんね、時間がないの!
3人は絶対出てきてくれると思った…!
かくれんぼマスターとしては、考えられない程卑怯な手を使ったけど、仕方ない。

ぶつくさ文句を言いながら彼等は1階の牢屋部屋へ。
でも、女の子の悲鳴を聞いて駆けつけてくれるのがたったの3人って…


悲しいわ。敵は手強いようね。








「…んん?よく見ると絨毯の毛並みが乱れてる箇所がある。ふっ、さすがにあの短時間で足跡までは消せなかったようね。」


第16町会のかくれんぼエンペラーを舐めんじゃないわよ。



ガチャッ




まずはこの部屋。
うーん、なんかでも見知らぬ部屋っていうのはどうも不気味ね…。
特に跡部邸は広すぎて、なんか…お化け屋敷みたい。人の気配もないし。
物音もしない…でもこの部屋には足跡がのびてたから誰かいる…はず……ん??



スゥ…

ズゥ……




「寝息?」




バッ



「やっぱり……」


そこには安らかに眠るジロちゃんの姿。どうせどっかで寝てると思ったけどまさかベッドとは。もうちょっとひねりなさい。



「ジーロちゃんみっけ。えいっ。」



ぴろりろーん♪


証拠として写真撮影。後で見つかってないとか言われたらイヤだからね!


「許せ友よ…!君のことは忘れない…!」























「さーて、そろそろ跡部見つけとかないとね。あいつだけは絶対なんかやらせないと気が済まない。


毎日あいつに殴られたり、技かけられたりしてるんだから…私のことを女とも思ってやがらない…!許すまじ!


「ここが自分の家だとしたら私はどこに隠れるだろう…。」



まず部屋の中っていうのはないな。
安易すぎて逆に見つかりやすい、だって部屋の中は外に比べて断然隠れられる範囲が狭い。

で、屋敷外はルール違反になってるから…



トイレ…とか?











「う…うわぁ、これトイレなのかな?なんかキラキラだし、何故か男女別だし。」


やっぱりここはテーマパークなんじゃないだろうか。
だって普通は家のトイレが男女別なんてことはないよね?


「まぁ、いいか。よし!おーい、誰かいるー?」




シーン…


「む…。男子トイレには気配なし、か。まさか女子トイレ…?…そんなわけないか。」



とりあえずちょっと用をたしてから出発しよっと。
これから長い戦いが始まるんだしね。
そう思い女子トイレに足を踏み入れた。






ガチャッ


バタンッッ








なんか



見えた。







今便座に座ってる何かが…






ガチャッ






「もう見つかってもうたー。完璧や思たのになぁ。」

きぃぃやぁああ!!あ…あんた……!なりふりかまわなさすぎでしょ!ここ女子トイレよ?!」

「裏かいたつもりやったのに、なかなかやるやん。」

「怖い…あんたが怖いよ、私は。誰か女の人入ってきたらどうするつもりよ。」

「けーへんって。今日は貸し切りやからなぁ、この家。」


ヘラヘラ笑いながら女子トイレを後にする忍足。
あいつ…ずっと女子トイレの便座で真面目な顔して座ってたのかな…。
本当怖かった、一瞬幽霊かと思っちゃったよ。

































「さて…後は、がっくんにぴよちゃんさまに…跡部か。」



どうしても跡部だけは最後にまわしたくない。
出来るだけぴよちゃんさまを最後に見つけて…罰ゲームから救ってあげたい…。
だって私はぴよちゃんさまに借りがあるから。
まぁ、でも…


「恥ずかしがりながら罰ゲームをするぴよちゃんさまも…いいかもね…ふひひ。」


あぁ、妄想が膨らむ!







「トイレと部屋以外…といえば…キッチン?」


キッチンは確か1階って聞いたな。
2階は一旦置いといて、1階行ってみるか。







「う…っわー!何ここ、ホテルの厨房みたい!」


よくテレビでやってる潜入番組で見たことある風景。
バカでかい冷蔵庫や、キレイに取り揃えられた調理器具。
ピカピカに磨かれた床に、年季の入ったコンロ達。



一見隠れるところはなさそうだけど、ここはかくれんぼ会長の私の腕の見せ所。
人間っていうのは、物を探すときについ下とか自分の頭より下の範囲で探してしまう。
だから、隠れるときには出来るだけ上に隠れると見つかりにくい。

このポイントを知ってる人は、こんなオープンスペースの厨房でも
十分に隠れる場所を見つけられるはずだ。


ただ、ここの冷蔵庫や器具はバカでかい。
ちょっと踏み台がないと上は覗けないぐらいの高さだ。



「んー…あ、この箱でいいか。…よい…っしょ!」






「いない…か。 ちょっと深読みしすぎたかな?」



んー、あとはどこだ?隠れられる場所といったら…
冷蔵庫…はさすがに凍え死ぬよね…。

あ、でもこんなでかい厨房だったらおいしい肉とかあるんじゃない?
今なら誰も見てないし…お持ち帰りし放題じゃない!?



…ちょっともらっとくか。




「後で跡部に報告すれば大丈夫っしょ!」



ガチャッ





















「………あんたバカ?」

「………お前なんでこんなとこ開けやがった。」

「肉を…いや、げふんげふん…。まさかこんなとこに隠れてるバカはいないだろうなぁって開けたら…ぶふっ。

「…寒い…。」

「そりゃ寒いわよ!ここ何度だと思ってんの?!早く出なさい!」



髪の毛のわずかな水分が凍りかけてる…。
何なの、こいつ本当にバカなのかな?
いや…確かにあんなとこ隠れる奴いないと思ったけど…

忍足といい跡部といい…このかくれんぼにどんだけ身体はってんのよ!



「…勝ったな…。」

「は?」

「……制限時間は…あと…15分だ…。」

「…あと2人よ、見つけれるもーんだ。」


裸踊りをするのはあんたよ、跡部…!




























最後の2人…本当どこにいるのよ…。
もう、1階も2階も思い当たるところは探したけれど、どこにもいない。
体力的にも時間的にも、もう走り回ることはできないし…。




「山を張るしかないか…。うーん……でも…どこ?」




…だろ……!
……すげ………
ハハハ!……





なんか牢屋がえらく盛り上がってるな。
そりゃまぁ、6人もいれば話もはずむわ。





……ん……?





「…っそうだ、1つ見てない部屋があるじゃない!」







バタンッ






「「「「「「あ」」」」」」




「ぴよちゃんさま、やるわね。」

「……あと15分は帰ってこないと思ったんですけどね。」



灯台もと暗し。
これには一本とられた…!まさかここに戻ってきてるなんて、大胆じゃん。



「うわー、じゃあ罰ゲームなしは岳人だけかぁ。」

「まだわかんねぇだろ。こいつが向日を見つけられない可能性だってある。」

「いや…見つけてみせる!見てなさいよあんた達、日ごろの私の恨みは相当深いわよ!

























叫んで飛び出してきたはいいけど、正直他にはもう検討がつかない。
むしろがっくんはちょっとおバカさんだから、ルールを破って外に出ちゃってるかもしれない…。
でもその場合だと私はセーフになるし、そんなことはないと思うんだけど…。



んー…。

思い出せ……。



がっくんが行きそうなところ…。





いや、







がっくんだけが行けそうなところは…?









「…そう言えば飛ぶのが得意だったよね…。」


かくれんぼの原点に立ち返って、上を向いて探そう。
そしたら何か見えてくるかも…って………






「い……いたぁあああああああ!!!」








玄関の入り口の天井からぶらさがっているシャンデリアの上に、彼は居た。
いや…これ…少なくとも地上10mの場所にあるんですけど、どうやってのぼったの?




「う……っ、くそくそっ!あと3分だったのに!」

「あ…危ないがっくん早く降りてきなさい!」

「別に、こんなのすぐ降りれるっての!」



ひょいっと2階の廊下に飛び降りるがっくん。思わず目をつぶってしまった。
だって少なくともシャンデリアから廊下まで5m近くあるんだよ?


……やっぱり氷帝テニス部は尋常じゃない。

























「さぁって!んっふふ〜♪何してもらおっかな!」

ちゃ〜ん、あんまり難しくないのにしてほしいC〜!」

「ん〜、そうだよねー。やっぱり、簡単にできて面白いのがいいよね?」

「何かいい案があんのか?」

「岳人、自分はやらんでええからってえらい嬉しそうやん。」

「当ったり前だろ!すげぇ楽しい。




罰ゲーム組は皆死んだような目で覇気のない顔をしている…
今までどんな罰ゲームやらされてきたんだよ…



んー、あんまり無茶な罰ゲームでも面白くないしなぁ…
やっぱり跡部が普段やらないようなことをやらせたいっていうのが第1条件よねぇ…




「あ。」





思いついちゃった。









「明日1日、全員語尾に」














「にゃん(はぁと)ってつけること!」








(つづく)