氷帝カンタータ
第6話 鬼さんこちら (後篇)
「ふんっふんっふーん♪」
「ご機嫌だね。何かあるの?」
「ちょっとね♪今日はテニス部でおもしろいものが見れそうなんだ!」
「へぇー。が最近楽しそうで嬉しいよ。」
「…そう見える?」
「うん。放課後になると元気になってるし。」
いってらっしゃい、そう言って教室の外までお見送りしてくれる真子ちゃん。
マネージャーになる前までは、放課後は真子ちゃんの部活の帰りを待って、一緒に帰るっていうのが日常だった。
やっぱりあの日々は楽しかった。だけど今は、あんなに嫌だったマネージャー生活もそんなに苦じゃない。
人を人とも思ってないような奴らだけど…案外居心地がいいのかも。
「ー!早くいくぞ!」
部活が待ちきれない、といった様子の人間がここにも1人。
これから始まる非日常の出来事にわくわくを隠しきれないみたい。
こんなに意気揚々と部活に向かったことあったかな?
いつもならこれから始まるドリンク補充に洗濯に掃除、器具磨き…
その他諸々の仕事を想像して、コートに近づくだけでナーバスになっちゃうけど。
今日は早く部活で皆に会いたくて仕方ない。
「おう、がっくん!にゃんにゃんパーティーの始まりだ!真子ちゃんいってきまーす!」
「はいはーい。………ニャンニャンパーティー?」
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「がっくん少佐、あそこにいるのは宍戸さんじゃないですか?」
「そのようだな隊員。」
「宍戸やっほー!元気?」
苦虫を噛み潰したような顔で振り向く宍戸。
対して、私たちの顔は"宍戸への期待"に満ち満ちていた。
「別に…」
「「ん?」」
「……あーっ、くそっ。」
「なになに宍戸さん、もう1回聞いていい?元気ですか?」
「…元気………にゃん。」
「「ブフォォッ!!」」
「あはっあははは宍戸可愛い!可愛すぎるよ!」
「ひぃーっ!おま…真顔でにゃんって…!!」
「うっせー!もうしゃべりかけんな!」
「「ん?」」
「…っ、しゃべりかけん、にゃ!!」
「「あはははははっっ!!」」
もー、腹イタイ…!楽しすぎる。我ながら最高の罰ゲームだわ。
早く跡部に言わせたくて仕方ない…!
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バターンッ
「ごきげんよう皆の衆!」
意気揚々と部室に入る"勝者2人組"
レギュラー陣の明らかなしかめっ面にもめげないんだから!
「ちょた、今日のお昼何食べたの?」
「今日ですか?えーと、焼きそばパンに…「Non!!!」
「…え?」
「おっと、ちょたがあまりにも忘れんぼさんだからフランス語がでちゃったよ。」
「今日は語尾に"にゃん"をつける罰ゲームの日だろ!」
がっくんが指摘すると、ちょたは「しまった」という顔をしていた。
どうやら本気で忘れてたみたいね。
でも、今日はまだまだ長いのよ…!そう簡単に帰すもんですか。
「や…焼きそばパンだったにゃん。」
「ごふぅっ…!か…かわいすぎる、ちょたそれは反則よ…!」
「、俺にも聞いてほしいにゃん。」
「………。」
「なぁなぁって、。俺が昼ご飯に何食べたか気にならんにゃん?」
「ならんにゃんって何よ!なんか…なんかノリノリすぎてキモイ!」
折角ちょたの「恥じらい顔+にゃん」という今日イチのご褒美をいただいたというのに、
忍足の萌えない、むしろ腹立たしい"にゃん"に全部持っていかれてしまった。
どうやら忍足にとってはこれは大した罰ゲームではなかったみたい。
皆に、にゃんにゃん言ってまわってるし。あれ可愛いと思ってんのかな。
「おい、樺地。練習始めんぞ、全員集めてこい。」
「ウス。」
「うぉーーっと、そこ。何普通にしゃべっちゃってんの?にゃんをつけなさい、にゃんを。」
「……ウス……ニャン…。」
か…樺地…!使い方は全然違うけど、その素直さが好き!
やっぱり男の子は素直でなくっちゃね。
それに引き換え、跡部のこの顔。そんなイラついた顔しないでよ。
「罰ゲームなんだから仕方ないでしょ?」
「………。俺は一日しゃべらねぇぞ。」
「しゃべらないにゃん、でしょ?」
「……っち、お前ら早く準備しろ!」
「準備しろにゃん、でしょ?」
「跡部、もうこれは従わんと、たぶん一生付きまとってくるで、にゃん。」
「わかってるじゃない忍足。跡部に言わせるための罰ゲームだからね。」
「………。」
「ほらぁ。いっつも言ってるあ〜ん?も、にゃ〜ん?も一緒でしょ?」
「一緒じゃねぇ!」
頑なに口を閉ざす跡部。恥ずかしがり屋さんめ。
そんなことで今までの恨みが晴らされると思うんじゃないわよ…!
今日は絶対ににゃんにゃん言わせてやるんだから!
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「鳳、そっちだにゃん。」
「おっけー、任せてにゃん!」
ッガッシャーン、ガシャーンッ!
「何してんだ、。」
「あ…宍戸…。ごめん、ぴよちゃんさまとちょたのあまりの可愛さに悶えてた。」
あれは…あれは反則でしょ!
どうにもこらえきれない愛しさが爆発して、無意識のうちにフェンスに頭をぶつけ続けてたみたい。
ぴよちゃんさまは正直言ってくれないかと思ってたけど、やっぱり約束事には律儀なんだね…。
どっかの俺様野郎とは大違いだわ。
「岳人、ドリンクとってにゃーん。」
「侑士…なんか…ノリノリだな。」
「うん…なんかちょっと…怖いよね…。」
忍足に至っては完全に楽しんでる。
今まで隠してた性癖みたいなものがモロに表に出ちゃってる。怖い、怖いよ。
あんな中学生男子極力関わりたくない。
「ねぇ、がっくん。私やっぱり跡部に言わせないと気が済まない。」
「俺だって聞いてみてぇよ…ぶふっ、想像するだけで腹ちぎれそう。」
「ちょっとここは作戦会議ですわよ、がっくん参謀長。」
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「跡部、お疲れ様だにゃん!」
「何言ってんだお前気持ち悪い。」
…くそっこいつ…どつきまわしたい…!
だ…だけど我慢よ…、跡部ににゃんにゃん言わせるためには多少の犠牲は厭わない…!
「何言ってるにゃん?跡部もちゃんとにゃんって言うにゃん!」
「そうだにゃん、跡部。にゃんって言ってないのは跡部だけだにゃん。」
「向日…てめぇも頭焼かれたか。」
「…がっくん、こいつ自分が罰ゲームしなきゃなんないこと完全に忘れてない?」
「負けるな!俺らが言い続ければ絶対跡部だってつられて言うはずだから!」
「……今のところはそうは思えないけど…頑張る!」
そう、私達の作戦は至ってシンプル。
「口をついてにゃんって言っちゃった☆作戦」
周りがにゃんにゃん言ってればそのうち言っちゃうだろう。
という、なんとも可能性の低い地道な作戦…。
「跡部、今日はがっくんと私を跡部の家に連れて帰ってほしいにゃん。」
「断る。」
「いやって言われてもついて行くにゃん。」
「行くにゃん。」
部活帰り、スタスタ立ち去る跡部に遅れないよう必死にくらいつく私達。
周りのメンバーはもう呆れかえってるけど、そんなの関係ない!
跡部だけ罰ゲームしてないんだよ!?そんなこと許されるわけないでしょう。
私とがっくんだけでも、絶対に絶対に跡部の恥ずかしい姿を見てやるんだから。
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「てめぇら…いい加減にしろ!」
「いい加減にするのはお前にゃん。」
跡部のリムジンに滑り込み乗車、そして車内での攻防を重ねた末、ついに跡部の家まで辿り着くことができた。
幸い、今日は別荘の方に泊りこむらしく邪魔者は誰1人いない…
思う存分にゃんにゃん言うがいいわよ跡部!
跡部も、さすがにここまでついて来られて半ば諦めている様子。
それをいいことに思う存分はしゃぐ勝者2人組。
「がっくん、これ見て!跡部の家にWiiがあるにゃん!」
「うわ、まじだ!やろーぜ、跡部!」
「あ〜ん?…俺様に勝てるとでも思ってんのか。」
「うわっ、ちょっとがっくん邪魔にゃん!」
「こそそっちじゃねぇって…あーーー!落ちちゃったにゃん!」
「てめぇら本当にやる気あんのか?」
ゲームをしてる時って、意識がゲームに集中しちゃうから
フと口をついて"にゃん"って言っちゃうかな…とも思ったけど、跡部はそんなに甘くなかった。
「……がっくん、敵は手ごわいわね。」
「うん…。これは長丁場になるぜ。」
「お前らの考えてることなんてすぐにわかんだよ。いいから、早く次やるぞ。」
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「ああー!もう駄目。眠い。もうゲーム飽きた!何時間やらせんのよ。」
かれこれ3時間は同じゲームを繰り返してる。
跡部に勝てないし、なんかもう目も疲れてきたし手も痙攣してる気がする。
「んー…俺も眠いー。…跡部泊ってっていいー…?」
「勝手にしろ。部屋は好きに使っていい。」
「がっくん一緒の部屋で寝よ「やだ、それはやだ。」
…っち、ちゃんと意識あるんじゃん。
私お泊まりって苦手なんだよねぇ、なんかいつもと枕が違うと寝付けなくて。
「もう俺は寝る。」
「俺もー…。ほんじゃな、。」
ガチャッ… バタン
「うぃーす…。」
部屋に取り残される私。この部屋にもベッドはあるし、ここでいっか…。
でもなんとなく…広すぎて怖いな。…屋敷には誰もいないらしいし。
なんか怖いっていう想像しちゃうと…
どんどんドツボにはまっていくっていうか…
寝れないよね。
ギィ……
「がっくん…ねぇ起きてる?」
「…んー、…なんだよー…。」
「お恥ずかしながら寝れないでやんす…。」
「…子供かよー…、もー……。」
面倒くさそうに布団を頭からかぶってしまうがっくん。
つ…冷たい!眠たいときのがっくんはこんなに冷たいのか、なんかショックだわ。
もう寝息を立てて寝ちゃってるし。どこでも寝れる単細胞はいいですねー、だ!
……あいつには頼りたくなかったけど、しかし…背に腹は代えられない。
コンコン
「……跡部?起きてる?」
「………。」
寝てるのかな?とりあえず叩き起こして夜通しUNOに付き合わせよう。
私だけ寝れないなんて、なんか悔しいじゃん。
「…ねぇ跡部UNOしよ、UNO。」
「…………。」
「トランプでもいいからー…起きてー…。」
「……ん…。」
「起きた?」
「う…眠いにゃん……。」
え?
「え…何?」
「んー……うるさい…にゃん…。」
ガタガタッ
…ふ…不覚にも可愛いと思ってしまった3秒前の自分を殴りたい…!
あまりにも唐突な跡部の発言につい椅子を蹴り倒してしまった。
何これ、寝ぼけてんの…?
っく…
跡部のくせに……!
「跡部?眠たいの?」
「………ねむい…にゃん。」
ーーーっっ!
あかん…これはあかんでぇ…!
いつものあの俺様な態度からは想像もつかない素直さ、それに寝顔の無防備さ…
違う!一時の気の迷いよ…、こんなことに騙されてはいけない!
あまりの衝撃に地面にゴロゴロ転がってしまった。
なんていうんだろう、なんかこっちが恥ずかしくなっちゃう感じ。
いや、でもこんな面白い跡部を独り占めするのはよくないんじゃないか。
とりあえず携帯を持ってきて撮影して皆に見せよう。
そう思い立ち、ドアの方へ向き直った瞬間
「……、何してんだ。」
「ううううわっぁあああ!……びっくりした、あんた起きてたの?」
「お前がうるさいから起きたんだろうが!人の部屋で何してんだよ。」
「……1人じゃ怖かったから一緒に「うす気味悪いこと言ってんじゃねぇぞ。」
…ゴスッ
あ…思わず壁を殴ってしまった。いけないいけない☆
やっぱりあいつは可愛くなんかない。
さっきのは錯覚だ、そうだ。
だってほら目の前にいるのは、心底嫌そうな顔で私を見る跡部。
女の子が…1人で眠れない☆って言ってるんだよ?
なのに薄気味悪いて何!?
女の子の鉄板のセリフじゃなかったの!?
少女マンガではこのセリフでイチコロだったよ!?
でもまぁ
誰も見たことない跡部を見れたのは、収穫かな。