氷帝カンタータ





番外編 Bon anniversaire!!〜うらばなし〜





「よしっ、おまたせーがっくん。行こっか。」

「…じゃなー、皆。」



いつもの日常。

まだ部室でダラダラするメンバーより一足先にを連れだした。
と2人で帰るのは慣れてるけど、今日は少し緊張する。


「てか、どしたのがっくん。今日やけに早いじゃん。」

「あー…、昨日借りた少林サッカーTATSUYAに返しに行くからさ。」

「うわ、懐かしい。私も見たい!今からがっくんの家で見ようよー。」

「無理、やだ。」

「…ナチュラルに誘えたと思ったのに。てかもうそろそろ家に入れてくれてもよくない?」

「だって入れたらなんか持って帰りそうだしな。」

「ほぁっ…え…え、何。がっくんって友達のことを盗人認定するんですか。」

「いや…何かゴミ箱のティッシュとか持ち帰りそう。」

「いやいや…それはいいじゃん、ゴミなんでしょ?私が有効利用できるならそれでいいじゃん。」

「うわー、今の突っ込むところなんだけど何だよその斜め上の発想。キモっ。

「えっ…あ、ああいや冗談だよ!」

「今更遅いわ。んじゃなー。」

「ちぇーっ。がっくんのケチ!じゃあ、また明日ねー!メールするねー!」

「いらねー。」



いつも分かれる曲がり角でを見送る。
ここで俺も帰路につくのが常だけど、今日は違うんだよなー。
テクテクと歩きながらiPodのイヤホンを装着するの後姿を見送り、
今来た道をダッシュで引き返す。



Sub:ミッションコンプリート!
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の帰宅を確認!
サイゼ集合!!!!




「…っと、よし。送信!」

【送信完了】の画面を確認して、俺はサイゼへと走った。
































「お疲れ、岳人。」

「おう。なんだよ、もうドリンクバー頼んだわけ?」

「安心しろって。お前の分も頼んでるから。」


いつもの若い男子バイト店員が、俺の顔を見て
当然のように席に案内をしてくれた。
さすがにこれだけ来てりゃ顔パスか。

いつもの特等席、ドリンクバーに近い角のテーブル席には
既に見慣れた顔ぶれがちらほら揃っていた。


人数が足りてないじゃん、と思ったけど
手にドリンクを持った面々がわらわらと席に戻ってきた。
ちゃんと全員集合してるじゃん。あんなに嫌がってたのにな、跡部とか。


「っていうか、何で今日は全員でサイゼなの〜?」


机に上半身をあずけてだらっと伸びるジローが面倒くさそうに言う。
…何だよ、ただ単に俺が皆でサイゼに行きたいから誘ったと思ってんのか?
侑士には事前に伝えておいたから、この会合の理由がわかってる様子だったけど
その他のメンバーはなんでここに集められたかがわかっていないみたいだ。

こんなに目立つメンバーでなんか出来るだけ行動したくないけど…
今日は重要なミッションがあるから集まったっていうのに。



「もうすぐの誕生日だろ。」



宍戸が持ってきてくれたコーラを飲みながら言うと、
皆の空気が一瞬止まった。なんだよその顔、おもしろ。


「…し、知りませんでした…。え、いつですか?」

「1週間後。のメールアドレスに入ってるじゃん、日付。」

「…あー、確かにそうだねー。」


滝が携帯を取り出して、ボーっと画面を見つめる。
その横に座っていた宍戸がやけに目をキラキラさせて言う。


「じゃあサプライズだな!何する、何する?」

「今まで先輩、俺達の誕生日…頑張ってくれてましたもんね。何か驚かせるようなことがしたいです!」

「かと言って、普通にケーキ用意して、わーおめでとー…やったらつまらんしなぁ…。」

「あー、思いついた!皆でちゃんにお祝いのチューしてあげるのはどう?」

「無理無理!何だよ、そのイタリア人みたいなイベント!」

「確かに、先輩は喜びそうですけど、ちょっと恥ずかしいですよね………あっ。」

「なんだよ、長太郎。」

先輩が喜ぶ…、ってことなら…日吉の隠し撮り秘蔵写真集とかどうですか?」

「殴られたいのか、お前。」



パチンっと両手を合わせて、嬉しそうな顔でそう言い放つ鳳に
俺の隣にいた日吉が間髪いれずに突っ込む。その顔は本気で嫌がってる顔だな。


「ええやん、は日吉大好きやしなー。」

「……先輩達は盗撮をされたことがないから、そんな呑気なことが言えるんです。」

「盗撮ったってアレだろ?寝顔とか、テニスしてるところとかだろ?」


宍戸がお気に入りのオレンジソーダを飲みながら面倒くさそうに言うと、
ガンッと叩きつけるような音が響いた。
びっくりして隣を見ると、持っていたドリンクバーのコップを片手に
今にも人を殺めてしまいそうなレベルの形相で日吉が睨んでいる。


「…シャワー室。」

「へ?」

「着替え中、食事中……俺がその気になれば訴えることも出来るんですよ。

「お…落ち着け、日吉。わかった!俺が悪かった!」

「……でも、先輩ってその日吉の写真を持ってどうしてるんですかね…。」

「あ、鳳知らねぇの?あいつの家のクローゼットの内側にA2サイズぐらいのポスターになって貼られてんぞ。」

「え〜、ちゃんキモーイ!」


ケラケラと笑うジローとは対照的に、どんどん青ざめる日吉。
…ご愁傷様だぜ…まぁ、好かれて悪い気はしないにしても
自分のポスターを毎日拝まれてるとか普通に怖いよな。

本当はクローゼットの内側だけじゃなくてトイレのドアの内側にも
貼ってあるけど(器用に写真入りカレンダーを作って貼っていたの気合いに感心した。)
それは内緒にしとこう。その方が日吉のため…、のためだ。


「まぁ、取り合えずその案は却下やな。……方向性をどうするか、やなー。」

「ああ、ウケ狙いな感じにするかどうかってこと?」

「せや。普通に喜ばせるのもなんか癪やしな。」

「なら、誕生日を知っていながら、何も祝わないっていうサプライズはどう?」

「悪魔かよ、滝。泣くぞ。」

「フフ、冗談。皆、いつもと話してるんでしょ?が喜びそうなこととかわからないの?」


端っこで頬杖をつきながら微笑む滝に、俺達は全員顔を見合わせる。
………が喜びそうなこと…。


「やっぱり日吉の「宍戸先輩。」

「ごめんって。怒んなって、シャレのわかんねぇやつだな。」


日吉の低い声にビビった宍戸が謝る。日吉…お前苦労してるんだな…。
俺も大概とつるんでるけど、日吉は一方的に絡まれてるだけだもんな…。
それでも何だかんだ、こいつはと上手くやってると思うんだけど。


「ねぇねぇ、跡部は〜?何かアイデアないのー?」


真ん中の狭い座席でずっと腕組みをしたまま目を閉じていた跡部に
ジローがつっこんだ。やっと突っ込んだか、もうこのまま放っておいてやろうかとも思ったけど
確かに跡部の意見はいつも的確というか…、バラバラになった意見をまとめてくれるもんな。

期待に満ちた表情で跡部に皆が注目した。



「……仕方ねぇ、特別に作ってやるか。」

「なになに?何を作るんだよ。」

「俺の等身大抱き枕だ。」

ブフーッ!!超いらねぇー!跡部、それ完全に仕返しだろ!」

「アーン?喉から手が出るほど欲しがるに決まってんだろ。」

「まぁ、確かに学校の女子に売りさばいたら軽く100万ぐらい儲かりそうやけど、相手はやで。」

「そうだC〜!それなら俺の抱き枕の方が絶対喜ぶよね〜。」


真顔でとんでもない発想をぶち込んでくる跡部はやっぱり面白い。
いつも2人を見ている俺達は、そのプレゼントを渡した後の跡部とのガチンコファイトまで想像できるっていうのに、
何でそれを渡したら喜ぶっていう発想に至るんだよ、跡部は…。


あー、でもマジで手詰まりだ。
普段「を喜ばせたい!」っていう発想がなさすぎて何も思い浮かばねぇ。
すでに空っぽになったコップをストローでずこずこ吸いながら、俺は隣に目をやる。


「…なぁ、日吉はなんかアイデアないのかよ。」

「……いつも食べ物の話ばっかりしてるので、たまには良いモノ食べさせてあげるとか、でいいんじゃないですか。」


面倒くさそうにそう言う日吉。

……食べ物?


「確かに、って貧乏舌っちゅーか…安いもんで簡単に喜ぶもんなー。」

「あ、でもこの前1度でいいから高級フレンチとか食べてみたい!って言ってましたよ。」

「いいじゃん、じゃあプレゼントは≪氷帝メンバーと行く高級フレンチディナー≫にしたら?」

「滝、お前も来るねんで。」

「えー…、まぁいいけど…。」

「跡部〜、なんかお洒落なレストランとか知らないの?」

「…あるにはある…が、お前達を連れていけるような所じゃねぇな。」

「はい、出ましたーそれ差別だぞ!訴えるぞ!」

「ドレスコードがあるっちゅーことやろ?皆1枚ぐらいスーツ持ってるやろ、それでええやん。」

「お、おい…お前達のブルジョワ階級の常識で話を進めんなよ…持ってねぇよ、スーツとか…。」

「え、宍戸さん持ってないんですか?」

「っていうか、もぜってーそんなの持ってないと思う。」


机に突っ伏して泣き真似をする宍戸を、鳳が慰める。
このタイミングで言うのもアレだけど、俺もスーツとか…持ってねぇし…。

何よりの服装の方が心配だ。


「あー…いや、でもこの前のクリスマスにイオンで買ったドレスがあるじゃん。」

「あれ可愛かったですもんね。……あ、ちょっと俺ひらめいちゃいました。」

「何だよ…また変なこと言うと日吉に殴られんぞ…。」


パンッと手を合わせる鳳に、何も言ってないのに睨みを利かせる日吉。
それを察してか宍戸が牽制する。が、鳳はフルフルと首を振って話を続けた。


先輩のプレゼントですよ!皆で綺麗なドレスを買ってあげませんか?」


嬉しそうに言う鳳に、またもやポカンとする皆。
にドレス?待って、何か唐突な発想すぎてついていけない。


「…やるねー、鳳。いいじゃん、その案。」

「うえー、マジで?何か服とかって好みがあるじゃん?難しくね?」

「少なくとも、町に平気で≪Welcome to JAPAN≫とか書いてるTシャツ着てくるあいつよりは俺達の方がセンスええで。」

「ぎゃはは!何それ、その話聞いてねぇんだけど。」

「いや、この前の休みの日に今やってる恋愛映画見たかったから呼びだしてん。1人で観に行くのもアレやし。」

「おうおう、で?」

「まぁ、いくらとはいえ休日に男とデートなわけやん?ある程度の格好してきて欲しいやん?」


もうなんか展開見えてきてるけど、皆は黙って侑士の話を聞いてる。


「ほんで待ち合わせ場所に遅れて現れたがな…こう…手振っておまたせぇ〜とか言うんやけどな…。」

「超デートじゃん、付き合いたてのカップルみたいだな。」

「せやろ?でもめっちゃ蛍光ピンクのTシャツにデカデカと書かれてんねん、わけわからん文言が…。」

「うわ、目立つ色だな。」

「まぁ、出会いがしらに何や言うのもアカンかな思って普通に合流したんやけど…。」

「偉いじゃん、侑士。俺なら逃げるな。」

「……ほら、って結構歩くの早いやん?その時にな、見えてもうてんな…後姿が。」


はぁっとため息をつく侑士。何だよ、もったいぶんなよ。
皆がシンと黙るのを見計らったかのように、侑士が口を開いた。


「そこに何て書いてたと思う?小さく≪Welcome to Japan≫って書かれてるねん、裏も表もやで。めっちゃしつこない?


一斉に吹き出す俺達。あー…駄目だ、想像したら面白すぎる。
どんだけウェルカムしてんだよ。何の目的だよ。


「ふふっ…、はそれを何で着てたんだろう。」

「一応聞いてみたら、何かそのTシャツ買った頃に日本企業の海外流出?がニュースになってたらしくてな
 海外企業の日本誘致に力入れなあかん、って思ったらしい。

「…っく…。しがない女子中学生がそんな主張をTシャツでしたところで…そんな壮大な問題に踏み込めるわけないのに…。

「ブフーッ!もー…マジで、馬鹿だな…。面白すぎるだろ…、侑士もよく笑わなかったな。」

「いや、思ったより真面目に語るから…おう、そうかって…。」


さっきまでしかめっ面だった日吉も肩を震わせて笑ってる。
がいないところでする、の話しは本当いつも笑えるわ…。


「……っつか、そんなTシャツ着て来られたらたまったもんじゃねぇな…。
 鳳の案は採用だ。外に出ても恥ずかしくねぇ服買うぞ。」


半笑いで跡部が言う。
取り合えずこの時点で時間も遅かったのでこの日は解散する流れになった。

明日は買いだしだ。
































「なー、に似合う色って何色なんだろな。」

「…意外と色も白いし、ピンクとかベージュじゃない?」

「あ、あそこのお店とかどうですか?パーティーっぽいドレス多そうじゃないですか?」


俺達はぞろぞろと百貨店に来ていた。
男子中学生が制服姿で歩き回るのが珍しいのか、かなり目立ってる気がする。
そんな中でも堂々としてる跡部はやっぱスゲェな。結構もう恥ずかしいのに、俺。


「岳人、ちょっとこっち来てみ。」

「?なんだよ。」


明らかに場違いな店に入っていくもんだから、
入口手前で躊躇する俺…と、宍戸。

そんな俺達を見て侑士が手招きした。


「…ちょっと、そこ立ってみて?」

「うん。」


そう言って、手に持ったドレスを俺の背中に当てる侑士。


「ちょっ、なんだよ!」

「いや、岳人との背丈同じぐらいやからサイズ見ててん。」

「やめろよ、恥ずかしいだろ!」


いくらが男らしいからって、俺に女物の服合わせるとかやめろよな!
怒る俺に笑う侑士、にその他面々。
店員のお姉さんも笑ってる。………あー、本当恥ずかしい。


「彼女さんにプレゼントですか?」

「「「「違います。」」」」


ニコニコしながら話しかけた店員さんに、全員の声が揃った。
それに驚いたのか、少し笑顔が引きつる店員さん。


「えー…と、女の子のお友達ですか?」

「せやねん。これぐらいの身長の奴なんですけど、何がええですかね?」


俺の頭をポンポンと触る侑士に、殴りかかるけど軽くかわされる。


「今、お手にとっていただいているドレス、昨日再入荷したばかりのもので人気なんですよー。」

「へー…。でもね〜、お姉さん。ちゃんはお姉さんみたいに女の子って感じじゃないの!」

「どっちかっていうと…なんだろな、ゴリラみたいな…。」

「ええっ…。えー…そうなんですか…?」


さらに複雑な笑顔を浮かべるお姉さん。
いや、でもこのお姉さんを女とするならはとてもじゃないけど女ではない、と思う。
女の子?と表現するのも何だかむず痒い。
その思いは皆一緒なのか、どこか難しい顔をしている。

そんな沈黙を破るかのように、鳳が口を挟んだ。


「あ、あの。この女の子なんですけど…。」

「え?…全然可愛い子じゃないですか。きっとこのドレスもお似合いになるんじゃないですか?」


携帯の画面を見せて店員さんに詰め寄る鳳。
画面を覗き込むと、こないだ部活中に見つけたセミをが堂々と掲げている写真だった。
…こんな写真撮ってたのか。嬉しそうな顔してんな。

ニコっと微笑んだお姉さん。
俺達がこれ以上店を回っても選べるとは思えないし、これにしちゃおう
ということで全員の意見が一致した。


お姉さんに見送られながら店を後にする。
さて、帰るかーとまた店内を歩き始めたその時。



「…どうした、樺地。」


跡部のすぐ後ろを歩いていた樺地が、ある店の前で立ち止まった。
その後ろで話しながら歩いていた俺達も必然的に立ち止まる。

ボーっと立ちつくす樺地の視線の先には


「…なんや、この靴か?」

「か、樺地…。お前にこの靴は履けないと思うけど…。」

「俺じゃ……ありません…。」

「………か。」


樺地の隣に立って一緒に靴を見つめる跡部がそう呟いた。
…なるほど!俺、てっきり樺地がそっちの趣味もあんのかと思って焦った!
その思いは一緒だったのか、宍戸がチラっと俺を見て含み笑いで肩を叩いてくる。


「ええやん、さっきのドレスと合うんちゃう?」

「いいセンスだね、樺地!じゃあ、俺ちょっとレジにいってきます!」

「…あ!待て、長太郎!」


靴を持ってパタパタと走り出す鳳を宍戸が呼びとめた。


「……の靴のサイズとかわかんなくね?」

「………あ…。確かに…。」

「そのサイズで大丈夫だよ。」


自信たっぷりにそう言う滝に、皆が視線をうつす。
…なんでそんなこと知ってんだろ。



「この前、と買い物に行った時に本人が言ってたから間違いないと思うけど。」

「滝さん、先輩と仲良かったんですか。」

「無理矢理連れて行かれたようなもんだけどね。自分のセンスが悪いって言われるから、俺に指導して欲しいんだってさ。」

「なーるほどな。滝、結構にズバズバ言うもんなー。」

「まぁ、楽だよ。何言ってもへこたれないし。」

「むしろちょっと嬉しそうだもんね〜、ちゃん。やっぱり変態だね〜。」


それを聞いて、また鳳がレジに走る。
…なんかめちゃくちゃいいプレゼントじゃね?これ。

がバカみたいに喜ぶ姿が目に浮かぶな。

































「すげぇもん見つけた!!!」


部室に駆け込んできた宍戸。
ドアに鍵をかけ、が帰ったことをを確認しているところから見ると
の誕生日パーティー絡みのことだろう。


「……なんだよ、うるせぇな。」


ソファに寝そべる跡部がそう言うと、
宍戸は嬉しそうに鞄からアルバムらしきものを取りだした。


「へへー、めちゃくちゃいいネタ見つけたぜ。見ろよ、これ。」


机に開かれたアルバムを、そこにいたメンバー全員が覗きこむ。
そこには、微妙に下手な文字で書かれた作文が載っていた。


「なんや、≪わたしのゆめ≫……?うわ、これの字か。」

「あいつの小学生の時の卒業作文!いいから、ちょっと読んでみろって。」















「……すごい、何かナイスタイミングというか…。」

「だろだろ?『わたしのたんじょうびに、おひめさまのどれすとくつをかってもらいたいです。』
 『そして、かぼちゃのばしゃにのってキラキラのおしろでおいしいごはんをたべます。』
とか、
 完璧作戦通りじゃね?俺達、いつのまにかの夢をかなえてやってたってことだぜ!」

「すごーい!よくこんなの見つけたね、宍戸!」

「おう、俺の友達が持ってたんだよ。どうせならこの作文通りのサプライズにしてやろうぜ。」

「……待って下さい、『さいごはおうじさまに、たんじょうびのうたをうたってもらって』の部分はどうするんですか。」


真面目なトーンでそう言う日吉に、皆がもう一度作文に注目する。
……確かに書いてあるな。



「……歌えばいいんじゃない?」

「ケーキの前でパチパチ手叩きながら歌うってのか?そんなダセェこと絶対しねぇぞ。」

「でも、鳳の誕生日の時跡部歌ってたやん。」

「あれはちゃんとレコーディング室だったからだろ。」

「いや……うん。歌う場所が大事なわけ?

「当たり前だ。ステージなら歌ってやらねぇことも……、ああ。あるじゃねぇかいい場所が。」


ニヤリと笑った跡部に嫌な予感がしたけど、
取り合えずパーティー予定のレストランに下見に行くことになった。















「うお、すげぇー…めちゃくちゃ眺めいいじゃん!」


跡部に連れてこられたのは某高級ホテル。
エレベーターで最上階まで上がると、お目当てのレストランがあった。
予約しているという個室に入ってみると、とてもじゃないけど
いつもサイゼリアに行ってるような俺達が落ち着ける場所ではなかった。

興奮する俺達に跡部が声をかける。


「おい、行くぞ。」

「え?どこに行くんですか?」

「行けばわかる。」













「どうぞ、こちらです。」


ガチャ




スタッフさんが開けてくれた部屋の中はめちゃくちゃ広かった。
宴会場?のようなところに舞台が設置されていて、
そこはスポットライトで照らされていた。……なるほどね。



「ここで歌うってことかよ、跡部。」

「あぁ、これぐらいなら歌ってやってもいいぜ。」

「………ふふっ、うん…ああ、そうだな。」

ちょ、…笑うなって宍戸…!跡部がやる気になってんだから!

「……こんなとこで歌う方がよっぽど≪だせぇ≫と思うんですけどね、俺は。」

「おい、日吉!皆の意見を盛大に代弁してんじゃねぇよ、もうちょっと大人になれよお前は!」


一瞬焦ったが、舞台の方へと歩いて行く跡部はそんなこと聞こえてないようで
ホッと一安心。ジローは嬉しそうに跡部についていってるし、樺地も鳳もキラキラした目で舞台を見つめてる。

日吉はというと、自分があの舞台で歌わされる危険を察知したのか
すぐさま宴会場から逃げ出そうとしたけど、侑士と宍戸に見事に掴まってた。南無…。


「よし…。おい、練習するぞ。」

「練習?…ハッピーバースデートゥーユー、って歌うだけじゃん。」

「バーカ、お前達が出てくるタイミングとかあるだろ。」

「なんや、もう跡部の脳内では出だしソロで決まってるんやな、その言い方。」

「もうなんでもいいです…早く終わらせましょう。」


げっそりとした顔で力なく言う日吉に少し同情したけど、
こうやって俺達が結集して何かをする…なんて、昔じゃ考えられなかったな。
別に、仲が悪かったとかじゃないけど…。

が来てからやっぱり跡部は変わった。
主にが跡部を弄り倒すからだと思うけど、オーラが変わったんだよな。
それに、こんなに跡部てバカだったんだって思ったのもつい最近な気がするし。

嬉しそうにマイクを握り締めて集合をかける跡部を見てそう思った。
しぶしぶ歩いて行く皆の顔を見てると、案外本気で嫌がってるように見えないのは俺の気のせい?


































「じゃあ、ジャンケンな!」

「よーっし!俺絶対勝つC〜!」


誕生日当日。

の家の目の前で、スーツ姿の俺達はじゃんけんをしていた。


≪誰がこのプレゼントをに持っていくか≫
誰も積極的に手を挙げなかった為、じゃんけんとなった。



「「「「じゃん!けん!」」」」


「「「「ぽん!」」」」」






「………。」

「あー!ズルイズルイ、日吉の独り勝ちじゃん!」

「…ほら、行って来い日吉。」

「……わかりました。」



あー…負けちゃった。

……いや、…いやっ別に負けてもいいんだけど。
自分が持っていきたかったとかじゃねぇけど…さ。



「…俺が行きたかったなぁ…。」

「じゃあ長太郎最初に立候補すれば良かったじゃねぇか。」

「…だって、先輩達も皆行きたそうな雰囲気だったじゃないですか…だから…。」

「は、はぁ!?別にお前、俺達はそんなことねぇよ、なぁ!」

「……まぁ、のビビる顔は見たかったけどなぁ。」

「だって…、日吉はあのドレスを着た先輩を1番に見れるんですよ?」

「………うん、まぁそう言われるとやっぱどうでもいいなって思うわ…。」

「どうしてですか!」

「俺も行きたかったC〜…、跡部もでしょ?」

「んなわけねぇだろ。」

「またまた〜。だって、それならじゃんけんに参加しないはずじゃん?意地っ張りー。」

「ジロー…。」

「や、やめとけってジロー!跡部は本当のこと言われると怒るんだって!」

「向日…てめぇもか。」




「……さま…ねぇ!…」






一触即発の空気を引き裂くように聞こえたの声。


皆がそちらに向き直る。




カツカツと音を鳴らしながら階段を下りてきた






中々、似合ってんじゃんそのドレス。






そして、嬉し泣きをするを見て思った。





喜んでくれて良かった、って。もっと喜ばせたい、って。






その思いは同じだったのか、いつもより皆の笑顔が優しくなっている気がした。











fin.