氷帝カンタータ





番外編(4)





ドキッ★女だらけの大ぶっちゃけ大会〜!どんどんぱふぱふー!」

「わーい!ぴーひゃららー!」

「里香ちゃん、ぴーひゃららって…何それ可愛い!」

「えー、えへへそうですか?」

「……私、もう寝ていいですか。」

「駄目よ、璃莉ちゃん!今日は女子会するって言ったじゃん!」

先輩の強い要望で≪女子会≫っていう名称になりましたけど、つまり暴露大会ってことですよね!」

「だって私も女子会してみたい!あ、ちゃんとねーモコモコの可愛いパジャマ持ってきたよ!」

「あっ、可愛い!なんだか女子会らしくなってきましたねー!」

「……はぁ…、明日も早いのに元気ですね2人とも…。」


そう、今日は待ちに待った女子会!
この合宿中にどうしてもやりたかったんだよね、えへへ!
だってだって、旅行と言えば…就寝時間後に「ねぇ…みんな起きてる?」なんて聞くと
皆がぞろぞろ起きてきて…こっそり好きな人がどうとか、どんな恋をしてるとか…
そういう綿菓子みたいな、ゆるふわな時間を過ごすのが定番ですよね!
私にもそんな時間を楽しむ権利はあるはずですよね…!


「ねね、手始めにさ…璃莉ちゃんは好きな人いるのー?」

「なっ…なんで私からなんですか!」

「璃莉ちゃんの好きな人は、もちろん跡部さんでしょ?」

「ち、違うもん!勝手に決め付けないでよね!」

「…そっかぁ、じゃあこの跡部の秘蔵写メは封印しとこっかな…。」

「…一応見せてくれませんか?」

「…っぷふ、うん。ほら、どう?」

「っ…!か…っこいい…!」


携帯の画面を覗きこんで、口で手を塞ぎ目をウルウルさせる璃莉ちゃん。
そ、そんなカッコイイかなぁ…。
これ、跡部がサイゼリアでミラノ風ドリアを頼んだ時に
あまりの安さに、何か変なものが入っているんじゃないかと疑っている時の残念な顔なんだけどな…。

やっぱり恋は盲目なんだね。



「じゃあ璃莉ちゃんの携帯に送ってあげるねー。」

「い、いいんですか?ありがとうございます!」

「へへ、もー、可愛いんだからー!」

「ちょっ…やめてください!馬鹿にしないでくださいよ!」


あまりの璃莉ちゃんの可愛さに、つい抱きしめて頭をわしゃわしゃしてしまう。
物凄く嫌そうな顔で振り払われたけど、やっぱり女の子の感触は柔らかくていいなぁ、でへへ。



「あー!先輩、私も私もー!」

「あれ?里香ちゃんも跡部ファンだっけ?」

「違います!私もぎゅーってしてください!」

「えー、いいよいいよ!さぁ私の胸に飛び込んできなさい!」

「わーい!先輩好きです!」

「私もだよー!えへへー!」

「…何やってるんですか、女同士で…。」


呆れ顔で見守る璃莉ちゃんを横目に、
里香ちゃんと熱い抱擁を交わす。なんか妹が出来たみたいで、嬉しいなぁ。


「そう言えば、里香ちゃんは最近どうなの?切原氏とさ。」

「切原君ですか?別に…友達ですけど…。」

「でも最初私達が出会ったときさ、里香ちゃん切原氏のことが好きだったんだよね?」

「…そんな時期もありましたけど、どっちかっていうと憧れの方が強かったんですよね。」

「…切原君って結構、カッコイイよね。」

「だよねだよね。切原氏はカッコイイ時もあるけど、可愛かったりもするから最強なんだよねー。」

「でも…切原君って結構、女の子誰とでも仲良いしフラフラしてる感じだし…掴みどころないんですよね。」

「そこがまた良い気もするけどなぁ。里香ちゃんは、それが不安なの?」

「いや、というより前より距離が近づいた分そういう面も見えてきて…友達感覚になってきちゃった感じです。」


確かに、今切原氏のことを語る里香ちゃんは
先程の璃莉ちゃんのような明らかな乙女オーラを出していない。
普段の2人の会話を聞いていても、恋人っぽい感じでもないし…
どうなったのかなー、なんてぼんやり思ってたけどそういうことになってたんだね。


「そういう先輩はどうなんですか?彼氏、いるんですか。」

「えー、えへへー、彼氏いるように見える?」

「見えませんけどね。社交辞令です。」

「ひゃー、辛辣すぎてお姉さん涙出ちゃうよ!」

「でもでも、好きな人はいないんですか?この前は丸井先輩のこといいかもって言ってましたよね!」

「そ、それは里香ちゃんが罠に仕掛けたから誘導尋問的に言っただけであって…!」

「不二先輩じゃないんですか?英二先輩が楽しそうに言ってましたけど。」

「ちょっ…何それ!確かに不二君は王子様だけど…好きとか、そんなんじゃないもん!」

「えー。じゃあ先輩、不二先輩にもしチュー迫られたらどうします?」

「うっわ、ちょっと…里香ちゃんまだそんな破廉恥なお話しするには時間が早くない?まだよい子も起きてる時間だよ?」

「キスぐらいで破廉恥って…ップ。」

「あ、ちょっと今完全に馬鹿にしたでしょ璃莉ちゃん!」

先輩って意外と、こっち系は疎いですよねー。」




























「じゃあさ、じゃあさ!青学の乾君ってどうなの?」

「乾先輩ですか?またマニアックなところを…。」

「えー、乾君って何か声も素敵だし、磨けば光る原石って感じしない?」

「さすがです、先輩!きっちりチェックしてるんですね!」

「えっへへー。青学の皆はあんまり話したことない分、こう…妄想が湧くよね…。」

「えー…。あ、そう言えば立海の柳先輩って乾先輩と幼馴染なんでしょ?」

「あ、そうらしいね!柳先輩もデータマンだし…似てるとこあるのかも。」


女子会トークもだいぶリズムに乗ってきた。
私の部屋に敷かれた布団にごろごろ転がりながら、
誰がカッコイイだの、あの人はどんな人だの…
こんなトークが学生中にできるだなんて…思ってなかった…、嬉しくて泣きそう…!!


「でも、やっぱり柳君とか乾君に比べると切原氏ってだいぶお子様にみえるよね。」

「ですよねー、柳先輩とか真田副部長と一緒にいると余計ですよ!」

「単純に身長の問題じゃなくて?」

「いやー、やっぱり切原氏はなんていうか…大人というより、ワンコ系だよね!」


いつも人懐っこい笑顔で、話しかけてくれる切原氏を思い浮かべながらそう言うと
里香ちゃんがプっと噴出した。


「確かに!テニスしてる時はカッコイイんですけどねー…。」

「うんうん。まぁ、年上の私から見るとやっぱりまだまだだけどねー。可愛い弟にしか見えないもん。」

先輩も対して精神年齢高くないように思えますけど…。」

「そ、そんなことないよ!やっぱり私には乾君とか柳君みたいなアダルティな感じの人が似合うと思うもん。」

「へぇー。そういう人もタイプなんですね!」















「こら、赤也。そんなとこで何しとるんじゃ。」

「…………ちょっと飲み物買いに来ただけッスよ。」

「おう、俺にもおごれ。」

「……いいッスよ。」

「うわっ、珍しい。どうしたんだよ、赤也。」

「別に。ちょっと今、面白いこと思いついたんで。」





























さーん!!」

「切原氏、お疲れ様ー。今日も頑張ってたねー。」


午前の練習が終わり、選手達はお昼ご飯へ。
1時間休憩の半分はご飯を食べて、後の半分は皆各々好きな時間を過ごしている。

私はというと、早々にご飯を切り上げ
コート付近の倉庫でボールの数チェックをしていた。

そこに現れた天真爛漫な切原氏。
今日も大きなワンコみたいで可愛いなぁ、
なんて言うと、拗ねるだろうから言わないでおこう。


「どうせ、俺の腹チラばっかり見てたんでしょー。」

「ぐっ…み、みみみ見てないよ!もうそういうのは卒業したの!」

「へー。なんでッスか?」

「いや…なんていうか…、もう大人なんだし落ち着こうって…。
 手塚君が同い年って、改めて思うと自分の落ち着きのなさに絶望して…。

「いやいや、どこと比べてんスか!第一、あんな澄ましたさんなんか全然面白くないッスよ。」

「ふっふーん、切原氏ったら自分が置いてかれるのが寂しいんでしょー。」

「へ?どういう意味ッスか?」


私の隣にしゃがみ込み、ボールをお手玉のように弄ぶ切原氏。
きょとんとした顔で、こちらを覗きこむその大きな瞳が羨ましい。


「私が大人になっちゃったら、切原氏と遊んでくれる人がいなくなるから。」

「………。」

「でも安心してよ!切原氏は可愛い弟みたいなもんなんだからさ、いつでも遊んであげるからね。」

「…そッスか。」

「あ、そう言えばちゃんとスマブラ練習した?今度もう1回対戦しようよ。」

「…いいッスよ。結構あれから練習したし。」


ボールを弄るのに飽きたのか、立ちあがった切原氏は
倉庫の中へと入っていく。結構倉庫の中、埃っぽいからあんまり選手の子に入って欲しくないのになぁ。

そうこうしている内に、籠の中のボールも随分数が減ってきた。
あと少し…、その時。


「あっれー?さん、ちょっとこれ見てくださいよ!」

「んー、何ー?」

「うわ、すげぇ!これオオクワガタじゃね?!」

「え!ウソ!なんでそんなところに?!」


オオクワガタと言えば、日本で1番大きなクワガタ!
めちゃくちゃカッコよくて、いつかお目にかかりたいと思ってたけど
まさかこんなところで出会えるとは!でかした、切原氏!


ボールを放り出して、倉庫の中に駆け込む。
切原氏が覗きこんでいるのは古びたマットの山の裏側。
壁とマットの間に、オオクワガタがいるのだろう。


「切原氏、オオクワガタは飼育方法が難しいから私が責任を持って育てるね!決して横取りじゃないよ、これは!

「………ぶふっ。」

「えー、っていうかどこにいるの?ちゃんと見てたー?」


マットに座りこみ、必死に細い隙間を覗き込む。
しかし、倉庫の元々の暗さも手伝って中々目視できない。

ま…まさか、切原氏…既に採取したんじゃ!?

そりゃオオクワガタだもん、誰でも欲しいよ!
と思い、後ろを振り返ると何故か大笑いしている切原氏が。


「……何笑ってんの、まさか…どこかに隠したんでしょ!」

「……違うって。さんの余りの馬鹿さ加減に笑っちゃったの。」

「は?」


暗い倉庫の中で、見上げた切原氏の顔は
いつもの天真爛漫な笑顔じゃなかった。


くっそ、してやられた…。きっともうオオクワガタは切原氏の手の中にあるんだ…。
なんでもっと倉庫を見とかなかったんだ、私の馬鹿…!
悔しくてギリリと唇を噛みしめる。

マットにふてくされて座りこむ私が、
切原氏になんとか交渉しようと顔をあげると、







急に切原氏が覆いかぶさってきた。








「おわっ!…っつ…、ちょっと何?」

さんってほんと馬鹿ッスよねー。」

「ちょ、ちょちょちょちょっと待ってわかったからこの体勢はやめよう。」


マットの上に押し倒されているその構図に
体中から汗が噴き出す。全身の血が駆け巡る。

切原氏の意図はわからないけども、この体勢はヤバすぎる。
乙女ゲームで慣れ親しんだシチュエーションとはいえ、
実際に体験するには…まだ心の準備が…!!


「えー、何がわかったんスか?」

「いや…だから悪かったって!オオクワガタは諦めるから!」

「ぶっ、あはは!だーから、それが嘘だって言ってんの。」

「……へ?」

「っていうかオオクワガタでそこまで釣れるさんが、大人ぶってんのがウケる。」

「…な、何でそんなウソついたの。」

≪やっぱりぃ切原氏はなんていうかぁ〜、大人というより、ワンコ系だよね!≫

「………ん?」

≪年上の私から見るとやっぱりまだまだだけどねー。可愛い弟にしか見えないもん♪≫

「な…何言ってるの、切原氏。」



「…馬鹿なさんに、思い知らせてやろうと思ったんスよ。俺は弟でもなんでもない、男だってこと。」




私の手首を掴む手に、ギリっと力が込められ
近づく切原氏の顔は見たことのない男の子の顔だった。

遠くで、誰かの声が聞こえる。
こんな現場を見られたらマズイ。
下手すると謹慎処分とかになりかねない、合宿中にこんなこと。

グルグル頭の中で考えている内に
切原氏の顔は首元に近づき、一瞬で体中に鳥肌が立った。




「声出しちゃダメっスよ。」

「……っ!」

「…へへ、さんかわい「しゃぁおらっ!!」

「ぶふぇっ!」



一瞬だけ。
一瞬だけ切原氏がいつもの笑顔に戻った時。
ここが隙だと思い、全身の力を振り絞る。

切原氏の足を持ち上げ、膝十字固めに持ち込むと
あっさりとギブアップした切原氏。



「いってー……!マジでないわ、さん。」

「あ…あああああんたがないわ!何やってんの!?何しようとしたの!?」

「そんなの決まってるっしょ「言わなくていい、馬鹿たれ!」


バシッ


「いでっ、理不尽ッスよ!真田副部長より理不尽!」

「わ、訳を話しなさい…なんか悩んでるの?お姉さんに話してみなさい…。」

「……そういうのがムカツクんスよ!」


ソっと切原氏の両肩に手を置いて諭してあげようとすると、
キッと睨まれてしまいその手を払いのけられる。

……これが反抗期ってやつか…。少し寂しい気持ちになっていると、切原氏が続ける。


「…昨日、西郷達と話してただろ。」

「え?……あ、あああああ!ちょ、盗み聞きしてたのね!?」


一瞬考えて、全てが繋がった。
先程切原氏が呟いていた、どこかで聞き覚えのあるセリフ。
……信じられない、女子会は男子絶対禁制だというのに…!


「俺のこと、馬鹿にしてたじゃないッスか。」


プイっとそっぽを向く切原氏。
…どこだ、どこまで聞かれていたんだ…。
冷や汗がたらりと頬を伝う。


「ち、ちが…馬鹿にしてるんじゃなくて可愛いって…。」

「男として見てないってことでしょ。」

「何言ってんの、切原氏は十分男の子だよ。胸キュンを届けてくれる天使じゃない。」

「……意味わかんね。」

「だって、ほら…さ、さっきだって…実を言うとだいぶ恥ずかしかった…し。」

「………ふーん。」


ジトっとした目でこちらを見る切原氏。
…あああ、何だこの状況…。

居た堪れなくて、早く倉庫を出ようとすると
肩を掴まれた。



「…ドキドキしちゃった?」

「ぶっ…そ…そりゃそうでしょ!何よ、馬鹿にしたいならするがいいわ!
 二次元しか相手にしたことない陰キャラ野郎とでも言いたいの!?

「…へへっ。ならいいッスよ。」

「もう…一体何がしたいんだ、君は…。心臓に悪いからやめてよ…。」

「まぁ、でも俺はやっぱり、しゃぁおらっ!とか言う女の子はないな、って思ったッス。」




そう言って笑った切原氏の笑顔はやっぱりとてつもなく可愛かった。