ぐぅぅ…


暖かい日差しと静寂に包まれた部屋で、間抜けな音が響いた。
…そういえば、昨日の晩御飯は年越しそばしか食べてなかったな。
ボーっとそんなことを考えながら、もう一度手にした携帯の待ち受け画面を見ると
時間はもうお昼の1時を過ぎていた。

こんなにゆっくり寝れるのなんて久しぶりな気がする。
年末には、忘年会とは名ばかりのただ単に私の家で鍋を食べるという会が催されたり…
部室の大掃除だの、部誌の整理だの色々と忙しかったもんなぁ。

大掃除の時に、私が知らない昔のテニス部の写真アルバムが発掘されたんだよね。
今よりは少しばかり幼いジロちゃんやがっくんは本当に天使で、
今ではすっかりおっさん枠の代表格である忍足や跡部も随分可愛らしい顔をしていた。
もちろん1年生になったばかりのぴよちゃんさまも収録されていたので、
こっそり写真を拝借してコピーをしておいた。それが見つかって大問題になった。
そうそう、本当に跡部が警察に電話しようとするもんだから大騒ぎになったんだよね。
「私は無実だ、ただのファン心理じゃないか!」と訴える私を見つめる皆の冷たい目線、忘れない。

まぁ、そんなこんなで忙しかったなぁなんて考えていると
お腹が、今度は先程よりも大きな音で主張を始めた。


「…うぅ、ダメだ。起きてなんか食べよう。」


布団から思い切って足を放り出し、冷たい床へと這わせる。
ヒヤっとするその感覚に思わず足を一旦布団の中へ退避させた。

重い上半身を起こし、ベッドの下にやみくもに手を伸ばす。
お目当てのもこもこスリッパを探し当て、縮こまった足をもう一度地面へと降ろした。

布団を完全に取り去ると、すぐさまリビングへ向かい
命の綱である暖房のスイッチを入れた。あー、寒い。



「…まーじで、何もないよ。」



震える体を両腕で抱きしめながら、冷蔵庫を覗いてみるけれども
見事に何もない。
基本的に食材は使いきる性分がここにきて裏目に出てしまった。

冷蔵庫をパタンと閉め、取り合えずリビングの真ん中にあるこたつへと向かう。
この天国へ足を踏み入れるともう二度と出てこれなくなることはわかっていたので、
一瞬ためらったけれど、私の理性はそこまで強くなかったようだ。



「はー…落ち着く。テレビテレビっと…。」



1人暮らしの味方であるテレビの電源を入れると、
そこには正月番組らしい華やかな女性芸能人が写っていた。
何やら正月料理のリポートのようだ。
可愛い顔をしたアナウンサーが美味しそうなお雑煮を頬張っている。

催促するかのように、もう一度お腹がなった。



「……そうだ、お雑煮食べたい。」



折角のお正月なんだから、今しか食べれないものを食べたいよね。
思い立ったら即行動が信条の私は、普段なら考えられない機敏さで
こたつと決別し、早速買い物へ行く準備を始めた。




























「よーし…これで全部かな。」



スーパーにはさすがに人が溢れかえっていた。
お正月というのは、本当にどこも混雑するものだ。

今日はもちろん、明日も明後日も予定のない私は
もうこんな人混みに来るのは嫌だったので、取り合えず
お雑煮だけで3日間生き延びれるぐらいの材料を買ってみた。
おもちもあるからね、これで3日間ぐーたら過ごしてやる。



自宅へ帰り、アパートの階段を上っていくと
何やら声が聞こえる。
そっか、お正月だから親戚が来たりしてる世帯もあるのかなー
なんて考えていると…



「確か、ここだって聞いたんすけどねー。」

「間違ってんじゃねぇの?もう1回住所見せてみろぃ。」

「…寒い…、もう限界じゃ…。」

「おーい、いねーのかー?」



聞き覚えのある声だった。
一瞬頭の思考回路が止まった後に、
足が勝手に動き始めた。

急いで階段を駆け上ると、私の部屋の前に人だかり。
赤やら白やらの派手な髪の毛はもう絶対に見覚えがある。



「な、何してる…んですか?」



恐る恐る声をかけてみると、4人が一斉にこちらを振り返った。



「…さん!どこ行ってたんスかー!」

「よっ。あけおめ。」


パァッという擬音が聞こえそうなほど、顔の筋肉を緩めた切原氏が
こちらに向かって走ってくる。
大きなマフラーからのぞくその顔が、なんだかとっても懐かしい。

その後ろには、手をあげて挨拶をする丸井君と
寒そうにマフラーに顔をうずめる仁王君に、やけにトレンチコートが似合うジャッカル君。


「ど、どうしたの?」

「近くまで初詣に来てたんだよ。で、こいつがの家が近いって騒ぐからさ。」

「こないだメールに書いてた住所を頼りにはるばる来たんスよ!なのにさんいないし!」

「…もう寒くて死にそうじゃ。はよ入れてくれ。」


他の3人よりも明らかにテンションの低い仁王君が
消え入りそうな声で言うもんだから、
私は慌てて4人を部屋へと招き入れた。



































「う…っわー、ここがさんの家っスか!なんかいい匂いするー!」

「ちょ、切原氏!そっちは寝室だからダメだよ!」

「寒い…。」

「あ、仁王君こたつ入ってて?たぶんまだ暖かいから。」

「へー、お前料理とかするんだ。結構色々揃ってんじゃん。」

「うん、丸井君もお料理好きなんだっけ?」

「ブン太はお菓子専門だけどな。」



部屋へ入るなり、どこかへ走っていく切原氏に
真っ先にこたつへ潜り込む仁王君。
丸井君は興味深そうにキッチンを眺めているし、
ジャッカル君はソファに腰掛けてあちこち見渡しているようだった。

…なんか私の部屋に立海の皆がいるのって新鮮だな…。
あんまり部屋の中をジロジロと見られるのも恥ずかしいんだけどね。

…はっ!切原氏!切原氏はどこへ行った!?
部屋の中には誰にも見られてはいけないアイテムがたくさんだというのに…!
ゲームとか盗撮アルバムとか…自分で言ってて怖いな、どんな部屋だよ。



ガチャッ



「切原氏ー、あんまりはしゃいじゃ……おい。


おもむろに寝室のドアを開けてみると、
ちゃっかりと私のベッドの中でくつろぐ切原氏が居た。
ちょっと信じられない、いきなり女子のベッドに入るなんて…!

顔だけちょこんと出して毛布にくるまる切原氏は可愛いけど…可愛いんだけど…!
ここで許したらもう私はこの子に何も怒れないと思うんです!
為すがまま為されるがままに、何でも許しちゃいそうな気がするんです!


「…へへ、やっぱ女の子のベッドはいい匂いッスねー。」

「ちょっと…服のまま入っちゃダメでしょ、ベッドが汚れちゃうじゃん。」

「あ、心配しなくてもちゃんと脱いでますから。」

「ジャッカルくぅぅぅうううん!おたくの子なんとかしてくださぁああああい!」


ペロリと毛布をめくると、本当にパンツとTシャツだけになっている切原氏。
なんだその心遣い!そこまで心遣いできるなら勝手に人のベッドに入るなと言いたい。

ヘラヘラ笑うその姿がなんかもうムカつくのを通り越して可愛く思えてきた。なんだか怒る気力も失せちゃうよね。
とりあえず、タンスの上に置いたデジカメを手に取り、その様子をフィルムに収めておく私は中々心が広いと思う。
結局は可愛さが正義なのだな、と痛感しました。



「こら、赤也。何やってんだ。」

さんの寝室っスよ?テンション上がるじゃないですか!」

「ジャ…ジャッカル君、おたくの子はいつもこんな破廉恥なことを…?」

「悪いな、こいつ女と聞いたら見境ねぇから。」

「うぉおおい!何言ってんスか、ジャッカル先輩!やめてくださいよ!」


あらあら…お盛んなことで…。
うちの氷帝にはいないタイプのプレイボーイだわ、この子ったら。
まるで我が子を見守る母のような目で切原氏を見つめると、
プイっと顔を逸らされ不機嫌な表情のまましぶしぶベッドから出てきた。


はっはーん、切原氏はトランクス派か。素晴らしい。



ー、これ買ってきた食材、冷蔵庫に入れなくていいのかよ?」


キッチンで丸井君がスーパーの袋から野菜などを取り出し冷蔵庫へと移動させていた。
…さっすが、気が利くわね。これもなんか氷帝にはない素敵ポイントだわ…。


「あ、そうだそうだ忘れてた。今日はお雑煮を作ろうと思ってねー。」

「まじ!?」


急に両肩をガシっと掴まれ、キラキラした目で私を覗きこむ丸井君。
びっくりした私は壊れた玩具のように頭を縦に振り続けた。


「俺も食べたい!いいだろぃ?」

「あー、いいよ。材料結構あるから皆の分も作るね。」

「まーじッスか!さんの手料理食べれるなんて、今日は来てよかったー!ね、仁王先輩!」

「……寒い体には有難いの。」

「そんな大したもんじゃないけど…じゃあ取りあえず作りますか。」




























小さなこたつを囲んで食べるお雑煮は、1人で食べるよりもずっと美味しく感じた。
それに、皆がやたら褒めてくれるもんだから何となく気分もいいしね。
丸井君と切原氏に至っては、おかわりまでしてくれたし。
なんかいいよね、男子のこういう食欲旺盛な部分って!
料理好きとしては、ガツガツ食べてもらえるのがとっても嬉しかったりする。


「あー、まじさんのお雑煮美味しいッスよ!」

「…氷帝の奴は幸せもんじゃの。いつもマネージャーの手料理食べれて。」

「あいつらはねぇ、もう私が作って当然みたいに思ってるからね。」


最近では生意気にも味付けに口出ししてきたりするんだよ!あの小憎たらしい料理評論家達め!
と訴えると、まるで自分のことのように切原氏が怒ってくれた。


「贅沢ッスよねー!俺達もさんみたいなマネージャー欲しいぜ。」

「あれ?里香ちゃんってマネージャーじゃないの?」

「あー、あいつは微妙だな。まぁ幸村君が無理矢理マネージャー業と同じようなことやらせてるけど。」

「…幸村君に言われたらそりゃ断れないよね。でもいいじゃん、あんな天使みたいな子が居たら毎日幸せだわ、私。」

「まぁ、見てて飽きないしなアイツ。ただ料理は…びっくりするぜ?」


ジャッカル君が、変な含みをもたせた顔でそんなことを言うもんだから詳しく聞くと
どうやら里香ちゃんは料理だけは苦手らしく部活の時に作ってくる差し入れが中々の破壊力なんだとか。
でも、そうやって頑張って何かを作って持ってきたりするのがマネージャーらしくて可愛いよね。


「里香ちゃんが氷帝のマネージャーだったら…それはもう可愛がられることだろうと思うよ。」

「なんじゃ、は可愛がられてないんか?」

「まぁある意味可愛がられてるのかな?もう私よく感覚がおかしくてよくわからないんだけど、
 日常的にプロレス技をかけられたり、着替え中だろうがなんだろうが部室に突入されたり、
 挙句の果てに平気で一つ屋根の下で寝泊まりしたりする関係っていうのは可愛がられてるっていうのかな?


「……なんとなくだけど違うと思う。」


しんみりとした声でつぶやいたジャッカル君の声がやけに寂しく部屋に響いた。


「じゃあ立海のマネージャーと氷帝のマネージャー1日交換とかどうッスか?」

「おお、なんか面白そうじゃんそれ。」

「いいねいいね、今度幸村君に提案してみてよ切原氏。」

「お、俺ッスか?いやー…幸村部長にそんなこと言ったら何か勘ぐられそうだしなー…。」

が直接言えばええ、メールしとるんじゃろ?」

「あー…メールというか、幸村様がお紡ぎになるお言葉を私が有難く頂戴して日々を強く生きる希望を頂くというような関係かな。」

何言ってんのか、全然わかんねぇけど。



いつのまにか口に含んでいたチューインガムをプクっと膨らませて丸井君が苦笑いする。
いや、しかし今の私にはそういう説明しかできない…!


「だからー、例えば幸村君から【おはよう、今日も良い天気だね】ってメールが来るとするじゃん?」

「そんなメール来るんですか、幸村部長から!?」

「そしたら、私は【おはようございます、ご機嫌いかがでございますか。こんな快晴の日にはつい幸村君の爽やかな笑顔を思い出します】って送るじゃん?」

「なんか宗教じみてて怖ぇよ!」

「っていうか、何か普通にラブラブじゃないっスか!ずりー!俺の方が先にさんとメールしてたのに!」

「ええ!!ラ、ラブラブとかそんな恐れ多い…!幸村君が慈善事業の一環として、庶民である私とお戯れになっていらっしゃるだけでしょ?

「…っていうか幸村に対する崇拝が尋常じゃないぜよ。」


5人でこたつを囲みながら他愛もない話に花を咲かせる。
フと丸井君を見ると、私のすぐ後ろをじーっと見つめているようだった。


「ん?何かある?」

「あれって…Wiiのマリオテニス?」

「あー、そうそう。氷帝のメンバーでよくやるんだー。リモコンも4つあるんだよ、やる?」

さーん、俺達にテニス挑んでくるなんていくらなんでも無謀じゃないッスかー?」


なんだかやけに嬉しそうな切原氏が腕まくりをして挑発している。
…まぁ、確かに。この子達は関東でいわゆる「最強」の軍団なんだよね?
ゲームとはいえど、テニスはテニス。そういうセンスは一般人の比ではないだろう。

だけどねぇ…私は積んできた経験が違うんだよねー。
今まで何百戦してきたと思ってるのよ!徹夜でリモコン振りまわして次の日腕が上がらなかったのは辛い想い出です。


「…ただゲームするだけじゃ面白くなか。何かペナルティつけよう。」

「…それは、があまりにも不利じゃねぇか?」

「ジャッカル君は本当優しいねぇ…、でも大丈夫だよ。私、負ける気ないからね。」

「おお!言うじゃん、俺の天才的妙技見せてやるぜぃ☆」

「俺だって、テニスと名のつくもんで負けるわけにはいかねぇ!」


俄然やる気の皆。やっぱりゲームはこうでなくっちゃねー。
大勢でやるからこそ楽しい!1人でやるより断然楽しいもん。
私も段々楽しみになってきて、いそいそとWiiの準備を進める。
その後ろでどんなペナルティにするかの会議が開かれていたなんて知らずに。

























「はーい、じゃあ対戦順はどうする?」

「それなんですけど…シングルス戦でいきましょう。」

「OK−、じゃあ誰からにする?あ、トーナメントにも出来るよ?」

「いや、俺達にいい案があってさ。対戦したい相手に直接挑戦を申しこむ戦国武将スタイルで行こうぜ。

「なんだそれ、聞いたことねぇわ!え…え?トーナメントで当たった人と…ではなく申し込まれたらその分だけ戦うってこと?」

「そうじゃ。面白そうじゃろ。」

「いや、でもそれだと優勝とか決めれないじゃん?何戦か決めとかないとさ。」


この子達がウキウキで喋ってるルールがもう謎すぎる。
何その戦国武将スタイルって、神奈川では流行ってんの?
全く理解できない私に、切原氏が嬉しそうな顔で説明を補足してくれた。


「そ・こ・で!さっき仁王先輩がペナルティって言ってたじゃないですか?」

「あぁ、罰ゲームのことね。」

「それです!罰ゲームは…負けたら身につけているものを1つづつ取る、という戦国ルールです!



……。



しばし脳をフル回転させる私。それを見守る皆。




「いや、戦国ルールでもなんでもないじゃん!ただの野球拳でしょ!?」

「あちゃー、気づいたか!でも面白そうだろぃ?」

「だからー♪さんが負け続けたら…ね!お正月っぽいでしょ!」

「いやいやいや…発想が破廉恥!誰か弦一郎さん呼んできて!全人類統括風紀委員の弦一郎さん早く来てぇええ!」

「……自信あるんじゃろ?なら問題ないぜよ。」

「で、でもでも……はっ、待って!ちょっと考える時間をちょうだい!」



場の雰囲気に流されてはいけない、!よく考えるのよ…全ての可能性を考えろ…

もし、もしも仮に私がこれで全勝すればどうなる?
つまり合法的に美少年の裸体を拝めるということでは…?!
裸体にするまで…今皆が身にまとっているもの…小物類もまとめてざっと5点程か…。
では、例えば私が集中的に丸井君に試合を申し込んでサクっと5勝すれば…!

なるほど、戦国時代らしい生きるか死ぬかのゲームじゃない。



…いやダメだ、じゃあもし私が全敗した場合は?
4人は…いや、ジャッカル君は違うだろうけど3人は面白がって集中的に私に戦いを申し込むはず。
そこで負け続ければ簡単に私の身ぐるみはがされちゃうよ!?いいの!?
そ、そんなまだ誰にも見せたことのない裸がこんな大勢の美少年の前で…難易度高すぎない!?

でもつまり彼等はそうまでして私にセクシーな展開を期待してるということか…!
なるほどこれもこの世にアイドルとして生まれ落ちた私の宿命なのかもしれない。
まぁ、負けても下着まででしょ。それなら…賭けてみる価値はある。


色々と考え込む私に3人がガヤガヤと野次を投げつける。
そんな騒がしい最中でも私の脳内損得カリキュレータはがつがつと計算を続けている。


色々踏まえた上で、出した私の答え。















最悪見られてもいいから、なんとかして皆の肉体美を拝みたい







おそらく危険なカケです。
むしろこの答えにたどり着く女子中学生はこの世に何人程存在しているのだろうか
と思いたくなるほど、思い切った解だけど…やるしかないのよ、



「よし、その勝負…受けて立ちます!」




































「……おい、マジかよブン太まで…!」

「っく…、なんだよお前!絶対裏技とか使ってんだろ!」

「あーーっはっはっは!あっらぁ?丸井君ってぇ、確か天才的なんじゃなかったですっけぇ?」

「っうるせー!くらえ!!」




丸井君の操るクッパが力を込めてコート奥から打ったスペシャルショット。
私の分身であるピーチがすかさずドロップショットで仕留める。
無謀にもコート奥から走ってくるクッパが哀愁を漂わせている。

私の隣にはがっくりとうなだれた丸井君。
上半身裸でゼェゼェ言いながら焦燥感に満ちた顔をしている。
その後ろでは、既にパンツ一丁のジャッカル君に仁王君がソファにででんと座っている。
彼らの隣で唯一服を着ている切原氏は真剣な顔でガタガタと震えているではありませんか。



「丸井君、丸井君。天才的だろぃ?

「っ…ああああ!ムッカつくー!!」



調子に乗って丸井君お得意のポーズと決め台詞をお見舞いしてやる。超気持ちいいです、今。
仁王君とジャッカル君は最初からWii初心者ということがわかっていたので、
いくらテニスとは言えど私の敵ではありませんでした。
2人ともさほど熱くなることなく、淡々と負けていた感じ。
鍛え抜かれた私のテニス妙技にあえなく敗退したふたりは、あっさりと身ぐるみをはがされたわけです。

そして今、私が連続で5勝した相手は丸井君。
彼は家にWiiがあるらしく、兄弟達とよく遊んでいるそうです。
だからなのか、自信があったようで…。まずは様子見と思って何ゲームかとらせてあげるとすっかり気分を良くしちゃって
ご機嫌なセリフとかバンッバン言ってたんですけど、
ちょーっと私が本気だしたらこんなもんですよ、ふはははは。

当たり前ですよね、私が今までどれだけの修羅場を乗り越えてきたと思ってるんですか。
テニス部な上にゲーマーでもあるがっくんや宍戸を幾度も幾度もねじ伏せてきたんですよ。
もちろん最初は難しかった…最初は負けてばっかりで…負ける度にジュースをおごらされたり…
負ける度に罰ゲームと称して、跡部の背中に「スケスケだぜっ!」と書かれた半紙を張るとか
(張る前に気付かれて痛い目に合わされたことも、今となっては修行の良き思い出です)

そんな私が、そこいらのボクちゃんとばっかり戦ってる素人さんに負けるわけないっちゅーんですよ!どやぁ!



「丸井君、疲れてるところ悪いけどそれ。脱いでね。

「……っくそ!はいはい脱げばいいんだろ脱げばー。」


ガチャガチャとベルトをはずしジーパンをポイっと投げ捨てる丸井君に
すかさず携帯を向ける私は、今あんなに優しかった立海メンバーから「変態!」と罵られています。
あれ、私何も悪くないのにこれはおかしい。



「何よー、先に言いだしたのは皆だよ?これが戦国Styleなんでしょ?」

「なんでちょっと発音いいんスか!うっわー…っていうかマジっすか!さんまだ何も脱いでないじゃん!」

「ふっふ、次は切原氏。あなたの番よ。」

「…まぁ大体さんの戦法はわかったんで。俺は一筋縄はいかねぇッスよ。」


ペロリと舌を出す切原氏の雰囲気がいきなり変わった。
…この子も氷帝のメンバーと一緒だな。ゲームでも、いざテニスとなると皆表情が変わるんだ。
確かに今までの試合を見られていたのなら大体の戦法は見破られているだろう。
だけど、私は負けない…!!


「絶対さんを脱がせてやりますから!」

「私だって絶対にパンツ姿で写真におさめてやるから!」




「……なぁ、これ他の奴が見たらものすごいカオスな状況じゃね?」

「真田が見たら卒倒もんじゃろな。」

「しっかし、強すぎだろぃ。」






































10分後。

そこにはコントローラーを握りしめたまま力なく横たわる切原氏がいた。




「……グスッ……結局1勝も出来なかった…。」

「うふふふ、ゴメンねぇ切原氏。潰しちゃって。」

「……ああああ!もう、捻り潰してぇ!」

「負けは負け。さ、脱ぎなさい。」

「……やだ。」

「やだじゃないでしょ!私は自分の秘密の花園をかけて戦ったのよ!?」

「だって結局1枚も脱がなかったじゃないッスか、さん!そんなのズルイ!」

ズルイもへったくれもあるか!勝負なんだから!ぬーぎーなーさーい!!」

「やめっ、やめてくださいよ!」


グズる切原氏のズボンを引っ張り床を引きずりまわす私に、
意地でもズボンのベルトを手放さない切原氏。
そんな様子を見て、他の3人は笑っているけれど私にとっては笑いごとじゃない。

こういう勝負で約束を守らないのは1番いけないんだからね!





それだけ騒いでいたもんだから、私達はまったく気付かなかった。











突然の来訪者に。

























「………、あんた何してんの?」







いきなりの声に驚いて振り返ってみると
スーパーの袋を持った真子ちゃんの姿。


……なんで真子ちゃんが?



「あれ?真子ちゃんどうしたの!?田舎帰ってたんじゃないの?」

「さっき帰ってきたから、お土産持ってきたんだけど…何この状況?ダメだよ、最近はそういうの普通に犯罪になるからね。」

「ちが、真子ちゃん違う………の……」




必死に言い訳をしようと真子ちゃんに駆け寄ったその時、
真子ちゃんの後ろからヌっと現れた人物に私は一瞬言葉を失った。







……なんでここに居るの?









さん、あけましておめでとうございます!」

「……やぁ、さん。どういうことか今すぐ説明して?」

「ひ…っ、里香ちゃん…に……ゆ、幸村様…。」

「えっ?!げぇ!ゆ、幸村部長何してんスか!?」

「里香と初詣の帰りに寄ったんだけど……何なのかな一体これは。

「なんか、の家の前で2人で待ってたみたいだから一緒に連れて入ってきてみた。」


真子ちゃぁあああん!やめてよぉぉおおお!
「グッ」じゃないのよ、何親指立ててやりきった顔してるの!
今最もこの惨状を見られるとマズイ人物の登場に部屋の空気は完全にフリーズした。



…えへへ、幸村君の笑顔が怖い。































その後、全ての状況を把握した幸村君にテニスを申し込まれ

一切太刀打ちできなかった私が

身ぐるみをはがされそうになったのはまた別のお話。

立海メンバーと過ごすお正月…生涯忘れられないものになりました。




立海ルート END