御題3:着衣水泳




この夏のうだるような暑さのせいだ。


氷帝学園も、世間の"節電"の波に乗って、クーラーの温度設定は28度と定められた。
昨年までは快適だった授業も、今年は地獄。
特に窓際の席の私は夏の太陽に照らされ、じんわりと汗までかいてくる始末。

…あと30分。
この暑さのせいでろくに授業に集中できない私はいつしか教室の時計ばかり見ていた。
あと30分で放課後。部活が始まれば、比較的涼しい部室へ移動できる。



3…2…1…


キーンコーン…カーンコーン…


「終わったぁ!よし、部室!」


チャイムと同時に部屋を飛び出す私の背中に、
榊先生の鋭い視線が突き刺さっていたなんて、その時は知らなかった。









「んー!やっぱ部室は天国だね!」

「ああ。あんな暑い教室で授業なんてしてらんねぇよな。」

「そう?俺は28度でも寒いぐらいやけどな。」

「忍足はちょっとおばちゃんの性質があるから、末端冷え性なんじゃない?

「失礼やな。」



部活が始まるまでの間、皆考えることは一緒みたいで
私が部室についた時には既に宍戸、忍足、そしてなんとぴよちゃんさままで居た。



「ぴよちゃんさまってなんか暑さに強そう。」

「…別に普通の人間なので暑いときは暑いです。」

「ふーん。アイスあげよっか?」


部室の冷蔵庫に密かに保管してあったアイスバー。
何本かしかないからこういう時ぐらいしか食べれないんだよね。


「もらいます。」


5本ある中から「小豆味」を選んでアイスを食べるぴよちゃんさま。
やだ、もう、可愛い。写真撮りたい。


「…、キモイで。」

「だって…だって私のあげたモノを食べるぴよちゃんさまがなんか…なんかハムスターみたいで可愛い。

「変なこと言わないでください。」


プイッと顔をそむけるぴよちゃんさまも可愛い!もうなんでも可愛い!





ガチャッ




、それとお前たちも。ついてきなさい。」


いきなり部室に現れた榊先生に、びくっと肩を跳ねあがらせるレギュラー陣。
さすが威厳のある顧問の先生。私にとってはちょっと変なピアノの先生って感じだけど
どうも皆にとってはそうじゃないみたい。
























「ここの掃除を頼む。プールサイドだけでいい。」

「…なんでプール?水泳部が使うんじゃないんですか?」

「プールの掃除は各部活の交代制になっている。部活が始まるまでにお前たち4人で終わらせなさい。」


それだけ言うと、榊先生はさっさと立ち去ってしまった。
…折角早めに来て涼みに来たのに、これじゃ余計暑くなっちゃうじゃん。


「災難やわぁ。プール掃除なんか暑くてたまらんわ。」

「…とりあえずさっさと終わらせようぜ。」

「そうだね。ぴよちゃんさまはもうデッキブラシ取りに行ってるし。」


本当に後輩ながら尊敬しちゃうよ、その順応力の高さ。
真面目なぴよちゃんさまと宍戸に対して、どうもやる気の出ない私と忍足。
こんな奴と同ジャンルに分類されるのは癪だけど、やっぱりこの暑さのせいで力がでない。


「あー、あっつい。目の前の水がすごく気持ちよさそうに見える…。」

入ったら?」

「水着じゃないし、無理だよ。」


暑苦しい制服はさっさと脱ぎ棄てて、Tシャツと短パン姿にはなったけど、
それでもやっぱり暑い。いっその事、忍足の言うように水着で過ごしたいぐらいだ。















先輩、ホース持ってきてもらえますか。」

「はいはーい!」


そんなこんなしてるうちに、さっさとプールサイドを磨きあげてくれたぴよちゃんさまと宍戸。
本当仕事が早い。私は全然手伝えてないから、せめて水で流すぐらいはお手伝いしよう。





「忍足ー!おっけー、蛇口ひねってー!」


10m先にある蛇口の忍足に向けて大きなオッケーサインを送る。
それと同時に手元のホースに伝わる水の波動。



「…よしきたきたきたぁってぶわっぁあああ!



あまりにも強すぎた水の勢いに驚いて、ホースをうっかり手放してしまった。
ホースから出た水がはじけ飛んだ、その先には



「………。」





う…うわぁ…ぴよちゃんさまが水浸し…。


「ご…ごめん!すぐタオルとってくるから!」


ぴよちゃんさまの凍てついた視線が痛い…!
慌ててプールサイドから駈け出そうとした私に、

さらなる災難が待ち受けていた。



!危ない!」



ツルンッ




バシャァァンッ



「…っぶへぇっ!!」

「…ぶふ、だっせー。何やってんだよ。」

「……それもこれも忍足のせいじゃん!どんだけ蛇口ひねってんのよ!」



ごめんごめん、ヘラヘラと笑いながら手を振る忍足。
っく…どうしようもなくイラつくけど謝られると手出しできない…!


「先輩、掴まってください。」

「ん…ぴよちゃんさまありがとう、やっぱりぴよちゃんさまはいつでも私の王子様だね!

「うわぁ……うわぁ。」


心底気持ち悪そうな顔で私を見つめる、宍戸。
こいつ…!助けようとするどころか私の淡い乙女心を踏みにじる気か!


「何がうわぁよ!宍戸もこのぐらいの優しさを見せてくれたっていいじゃん!」

「……だしなぁ。」



やっぱり…やっぱり3年レギュラーなんて嫌いだ!
私の心のオアシスは2年生だけなんだから。



「よ…っと!ありがとねー!」

「いえ…。………!」

「そうだ、もうどうせびしょ濡れだし、このまま私ホースで水まいちゃうよ。」


ぴよちゃんさまは先戻って身体拭いてきて?

ぴよちゃんさまの身体を気遣ってそう声をかけてみるものの、どうも返事がない。
なんか…なんか一点を見つめてフリーズしてるけど、大丈夫?


「………、それ。服。」

「ん?……う…うわぁ、ご…ごめん…。


宍戸に指摘された先を見て、思わず謝ってしまった。ぴよちゃんさまがフリーズしてた原因はこれなんだろうか。
少女マンガにお約束の、キャッ☆ブラが透けて見えちゃってる!状態。
こんな日に限って柄物のブラなんかしてきたもんだから、くっきり透けちゃってる。













「お前ら、いつまで掃除してんだ早くしろ。」

「うわー!俺もプール掃除したかったし!なんで誘ってくれなかったんだよっ、!」



タイミングの悪い時にゾロゾロと…



「ってなんで濡れてんだよ!…さては勝手にプール入っただろ。」

「……!!!!せ…先輩、よかったらこれ、あの俺の、ジャージですけど、どうぞ!」



ひどく赤面したちょたが自分のジャージを押しつけるように差し出してくれた。
な…なんか、そんなに意識されるのも逆に恥ずかしいな。




「あ…ありがとう!ちょっと借りるね!」

「え?なんで、なんで?」


無邪気ながっくんが私を上から下までじろじろと見る。
その上でジャージを貸してくれたちょたに詰め寄り、何故ジャージを貸したのかと問いただしている。
ちょ…もうこれセクハラじゃない!?


「そ…その、服がぬれていたので…。」

「…ああ!下着が透けてるからってこと?」

「…あの…はい…。」

「なーんだ!別にの下着なんか見えても見えなくても気にすること「うぉりゃぁあああ!」



ドボーンッ




「…ぶはぁっ!な…何すんだよ!」

「失礼極まりないがっくんに制裁です。」

「そうやで岳人、見れるもんはのモンでも一応は見とかな「そりゃぁあああああ!」




バシャーンッ




「…ブッ!……何してくれてんねん。」

「この変態野郎!そしてさりげなく私の大切なボディの悪口を言うな!!

「てめぇら…何遊んでんだ!部活がはじま「おりゃぁああああ!」




ドバーーッン



「あ…」

「…ップハッ!……てめぇ何してくれてやがる。

「ご…ごめん、なんか流れで押してしまった。

「…………。」




ザバァッ…



「え…え、ちょごめんって跡部!!」


プールから上がった跡部が無言で私の手首を尋常じゃない力で掴む。
そのままプールサイドまで追いつめられた私は


「ちょ…やめ…う…うわぁあああああ!



跡部に腰から抱えあげられた私はそのままジャーマンスープレックスの形でプールへとダイブ。


…ゴフォォッ!ちょ…鼻から…水が…!」

「まだやで、。」

「覚悟しろよ、!」

「ぎゃぁあああああああいやぁああああああ!」



どこからか忍び寄ってきた忍足とがっくんに今度は2回連続で投げ飛ばされた。


こいつら…まじで私をプロレスラーかなんかだと勘違いしてるのかな?







今年初めてのプールがこんな想い出なんて…!!