御題2:抜き打ち持ち物チェック




「おい、。修正テープ貸せ。」

「………先輩なら、教室に忘れ物したとかで出て行きましたよ。」



部活後、いつものように跡部さんは大量の書類と睨めっこしながら仕事をしていた。
あれだけ疲れる部活の後に、まだ仕事ができるなんてやっぱり跡部さんはスゴイ。

そして、いつもならここにもう1人。
俺達と同じぐらい疲れてるはずなのに毎日毎日部誌や、部室の掃除をこなしている
跡部さんと同じぐらい尊敬している俺の先輩がいるはずだった。

しかし、先ほど部室を飛び出して行ったばかりで今はここにいない。

それを跡部さんに伝えると、軽く舌打ちをして立ちあがり、
ゴソゴソと先輩の鞄の中を漁りだした。


「ちょ…跡部さん、いいんですか?!」

「何がだ。」

「いや…勝手に人の鞄を漁るなんて…。」

「ダメなわけねぇだろうが、あいつのモノは俺のモノも同然だ。」

「でたー、跡部のジャイアン思考。」

「気をつけや、何出てくるかわからんでの鞄やし。」


部室の端でラケットの手入れをしていた向日先輩と忍足先輩が笑う。
そんな様子をオロオロと見つめる俺は、先輩達に意見できるはずもなく…

仕方なく宍戸さんに助けを求めてみた。


「…宍戸さん、止めた方がいいんじゃないですかね?」

「何で?別にいーじゃん、の鞄だろ?」

「そ、そんな…プライバシーっていうものがありますし…。」



「あー、腹減った。なんかお菓子持ってねぇかなぁ。」



言ってるそばから、向日先輩まで当然のように鞄を漁り始めた。
…もう俺が何を言っても止められそうにない。すいません、先輩…。


「あったあった!アルフォート!これ俺大好きなんだよなー。」

「俺にもちょーだいや。」

「えー!がっくん俺にも俺にも!」

「はいはい、ほらよ。んー…やっぱアルフォートは最高だわ。中々いいセンスしてんな。」


まるで自分のモノのように、皆に配る向日先輩。
みるみるうちにアルフォートは姿を消し、最終的には全部食べてしまったようだった。

そんな…、先輩が帰ってきたらどう言い訳するつもりなんだろう。


「そや。思い出した。」

「何だよ、侑士。」

「こないだ、帰りにがパスケース落としたから拾ったったら、物凄い勢いで俺の手から奪い去ってん。」

「……何か隠してんじゃねぇの?」


ああ、もう!宍戸さんも何でそんな煽るようなこと言うかな…
絶対また先輩の鞄を勝手に漁る方向になるじゃないですか…!
仮にも女の子の鞄を隅から隅まで漁るなんて…、先輩達は鬼だ。



「…あ!あったぜ!どれどれー…?何もないじゃん。」

「がっくん貸してー!こういうのは内側のポケットとかに入ってるんだC〜♪………何これ。



俺の場所からはよく見えないけど、どうやらジロー先輩が何か見つけたようだった。
先輩達は立ち上がると、それを取り囲むようにして見ている。

……何が入ってたんだろう、俺もちょっと……気になる…。


「…これ、立海の奴達じゃねぇの?」

「……ちょっと、何こいつちゃんに抱きついてんの?」

「うわー、マジだ。これ切原じゃん?物好きな奴もいるんだなー。」

の奴…、俺が知らないところでコソコソ密会してやがったのか。っち、気にいらねぇ。」

「立海の奴らは全員集団催眠にかかってるんちゃうかって感じでのこと甘やかしよるからなぁ。も居心地いいんやろ。」

「ダメ!あいつらちゃんのこと取ろうとしてるんだよ!」



「し、宍戸さん俺にも見せてください。」

「ん。」


腕を組んで、考え込む先輩達。先ほどの勢いはどこへいったのか。
先輩の鞄の中に潜んでいた秘密を見つけて、各々何か思う所があったようだ。

…勝手に見るのはいけないと思うけど、気になって仕方ない。
み、皆見たんだし、俺が見ても別に…大丈夫だよ…ね。

宍戸さんから受け取ったのは、1枚のプリクラ?だった。

そこには嬉しそうにニヤける先輩と、
先輩に後ろから抱きついている立海2年生の切原。
その周りには幸村さんや真田さん、立海のオールスターが揃っていた。

…なんだか、すごいメンバーだな…。先輩ってどこに行っても好かれるんだなぁ。
穴があきそうな程プリクラを見つめていた俺は、全く気付かなかった。



目の前に先輩がいたことを。








「ちょた…、何してんの?」

「えっ!?え…えーと、その…。」

「…そっ…それ!ちょ、どこにあったの!?」


いつのまにか部室に戻ってきていた先輩。
俺だけが部室の真ん中に突っ立っていたもんだから、不思議に思って話しかけたようだ。



フと周りを見渡していると、先ほどまであれだけ騒いでたジロー先輩は寝たフリをしているし、

跡部先輩も自分の仕事を黙々とこなしている。

向日先輩と忍足先輩も、まるで何事もなかったかのように元居た場所に戻っていた。

俺だけが先輩の秘密を勝手に覗いてしまったような構図になっている。これはマズイ。



「えーと、あの…あのあの…!」

「って…うわああああ何よこれ!私が朝買ってきたアルフォート!!!」

「ちが…っ、それは違うんです!!」

「ぜ、全部なくなってんじゃん!……誰よ、食べたの。」





「…俺達、ずっとラケットの手入れしてたしなぁ…。」

「ぐー…ぐー……。」

「ぎゃあぎゃあ騒ぐんじゃねぇ、俺は仕事中だ。」




ひ、ひどい先輩達…!

完全に俺を生贄にするつもりだ…!!

見損なった…見損ないましたよ、先輩達!

宍戸さんも助けて下さいよ!何iPod聞きながら窓の外眺めてるんですか!




あぁ、でも先輩たちを密告することなんて出来ないし…
隠してた秘密を勝手に見られただなんて知ったら、先輩は怒り狂うだろうし…

っく、仕方ない…1年遅く生まれてきた俺が悪いんだ…
ここは濡れ衣をかぶるしか…



「がっくん。」

「………なんだよ。」

「こっち向きなさい。」

「何だよ、俺はラケット磨きで忙しいんだよ!」



俺の前をスっと通り過ぎて、座りこむ向日先輩の前に仁王立ちする先輩。

あ、あれ…?怒られなかった?



「ほら!その口についてるチョコはな・ん・な・の・よ!」

「ひゃっ、ひゃべぇ!(や、やべぇ!)」



向日先輩の口をむにゅっと押しつぶし、的確に証拠を見つける先輩。
その横で忍足先輩が、しまったというような顔をしていた。



「あんた達恥ずかしくないの!?後輩であるちょたに罪をかぶせようなんて!」

「…先輩…!見てたんですか?」

「え?別に見てないけど、ちょたが勝手に私の鞄を漁る訳ないじゃない。」

「…なんで長太郎は疑わずに俺達は疑われるんだよ!」

「当たり前でしょ!ちょたは蚊も殺せないような天使なんだから!これが3年生だったら真っ先に疑ってたけどね。」

「ふゅこうふぇいふぁっ!(不公平だ!)」



先輩…!

そんな風に思っててくれただなんて…普通に蚊は殺すけど…。

跡部先輩に対しても怯むことなく果敢に挑み、
曲がったことが大嫌いな、正義感あふれる先輩。
やっぱり俺の尊敬する大切な先輩。

いつものように先輩達の愉快な罵声が響き渡る部室の中にいると、何だか落ち着くし、楽しい。
そんな混沌とした状況の中で、俺はこっそりプリクラを自分のポケットの中に隠した。



先輩は俺達のマネージャーでいてください。




…天使も、たまには悪魔になってもいいですよね。