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幸村の場合
from:さん
Sub:ご機嫌いかがですか?
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おはようございます。
質問なのですが、
立海の文化祭っていつですか?
噂ではもうすぐって聞いたんだけど…
朝、目覚めると携帯に届いていた一通のメール。
最近よくこうして交流をしている人物からの便りに
自然と気分が高揚してくる。
後でゆっくりと返事をしよう。
なんとなく良い気分のまま、朝の準備に取り掛かった。
・
・
・
「うわ…っ、うわ!見て、真子ちゃん!ゆ、きむら君から……!」
「なにー?……ああ、文化祭か。行くの?」
「昨日ね、少女マンガ読んでる時に王道である文化祭のお話があってさ。」
1時間目までの間に、なんと朝に送った幸村君へのメールが返ってきていた。
まさかあの忙しい幸村君が、私のような矮小な存在からのメールに返信をしてくださるだなんて…!
良くて、1週間後ぐらいに返ってくるのかな…とか思っていただけにテンションがうなぎ登り。
つい嬉しくて前に座っている真子ちゃんの肩をバシバシと叩くと、面倒くさそうな顔で対応された。
「でね、主人公が恋してるお相手の男の子のクラスはね…喫茶店をやってたんだ。」
「………うん。」
「絶対遊びに行くね!って言った女の子に対して男の子は、絶対来るな!!って言うんだよ。」
「…あー。」
「王道だけど聞いて!でねでね、女の子はショック受けちゃうんだけど…でも禁忌を犯して遊びに行ってしまうの…」
「大袈裟だね。」
「そしたら…なんと……メイド服姿の彼が!!!!顔を真っ赤にして怒る彼が!!」
「……はいはい。あ、今日の数学のプリントやってきた?」
「もうそれが本当可愛くてさぁ…。ヒロインも、嫌われた訳じゃないんだってホっとするんだけど…」
「(3)のとこ解けた?何回やっても答え合わないんだよね。」
「で、そこからが急展開なんだけど「あんたも折れないわね。」
「………やってきました。(3)については諦めてこの有様でございます。」
いよいよ真子ちゃんの目がマジになってきたので、仕方なくプリントを取り出した。
(3)以降、白紙のプリントを見て、スっと前を向く真子ちゃん。相変わらずクールなところも好きやで…。
しかし…立海の文化祭って…1週間後なんだ…。
日曜日だし、頑張れば行けるんじゃない…?
第3日曜は立海でのピアノレッスンの日だから、部活に出ないと言っても違和感はないだろうし…
それに確かこの日はメニュー内容的にも自主練習だったよね…。
チャイムが鳴り、先生が入ってきた。
起立・礼、という日直の声に合わせて身体を動かしてみるものの
頭では完全に別のことを考えていた。
着席して、すぐに鞄から手帳を取り出す。ぱらぱらとめくると
やはり目当ての日程のマス目に輝く「自主練」の文字。
「………っしゃ!」
「……亀田かよ。」
「ちが…さ、佐竹君おはよう。」
「おはよ。先生、睨んでるよ。」
そう言って笑う、お隣の席にいる佐竹君。
恐る恐る先生を見てみると、穴があくほど私のことを見つめていた。
1番後ろの席だから目をつけられやすいんだよなぁ…。
取り合えず、手帳を机の中にしまいこみ
真面目に教科書を開く。
全然集中できないけど。
この授業が終わったら、真っ先に真子ちゃんを文化祭へ誘おう。それしか考えてなかった。
・
・
・
「真田、今度の文化祭って1週間後の日曜日だったよね?」
「そうだ。」
「真田のクラスってアレだろ?西遊記の劇するんだろぃ?」
「マジッスか!ぎゃはは!俺、絶対見に行く!」
お昼休み。
いつものようにテニス部のメンバーとなんとなく食堂で合流して
なんとなく同じ席でご飯を食べていた。
今日の朝、さんから来たメールについては
ここで話すのももったいないので、秘密にしているけれど。
既に午前の授業中に俺の中での文化祭当日の計画はバッチリだった。
ただ問題なのは、さんの友人であるテニス部の仲間達。
特に赤也なんかにうっかり見つかってしまえば、まず間違いなく
「一緒にまわりたいっす!」なんて無邪気な笑顔で言いだすことだろう。
そして、さんも躊躇なくそれを受け入れて
結局、朝から晩まで赤也と過ごすことになりそうだ。考えるだけでゾっとするよ。
「……え…なん…なんスか、幸村部長…え、…なんか睨まれてる…。」
「赤也がでかい声で騒ぐからじゃ。うどんぐらい黙って食いんしゃい。」
「…赤也は文化祭当日、誰かと一緒にまわるのかい?」
「えー、別に決めてないッスけどー。あ、でも同じクラスの女子がまわろうって言ってたかも。」
「それはいいね。その女の子のこと、大事にするんだよ。」
「…なんだ幸村。急に…。」
「別に彼女じゃないんスけどね。」
「彼女にすればいいじゃない。好きなんでしょ?頑張りなよ。」
「いや…別に……え…?」
自然と頬が緩んでしまうのを、精一杯我慢しているけど駄目だった。
皆が明らかに不審な目を向けている。
それらに答えると、ますます怪しくなりそうなので
視線を振り払うように、目前のうどんに集中した。
その時、ポケットのあたりで僅かに振動を感じる。
from:さん
Sub:お返事ありがとう
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そっか!文化祭、1週間後なんだね!
本当に偶然なんだけど、その日は
予定が空いているので、
遊びに行きたいなと思っています。
もし、ばったり会った時には
よろしくお願いします。
幸村君も、文化祭頑張ってください。
メールを読んでいる間に、どんどん表情が曇る様子を
完全に皆に観察されていたようで
画面から顔をあげると、皆が目を丸くして俺のことを見ていた。
「……何?」
「いや…なんか幸村君が、珍しく表情七変化してたなと思って…。」
「食事中にメールは良くないと思うぞ。」
「…ちょっと気になることがあったからね。……ちょっと、先に行くね。」
「うぃッス……。」
「…何だろな、いきなり赤也に彼女作れって言ったり…」
「いや、それよりあのメール読みながらいきなり顔めっちゃ怖くなった事の方が気になるッスよ。」
「……文化祭……ねぇ。」
「なんだ、仁王。心当たりでもあるのか?」
「…いや。ところで、真田。お前さん何の役?」
「劇か。昨日、晴れて猪八戒に就任が決まった。」
「「「ぶふぅっ!!!」」」
・
・
・
「え…嘘でしょ、真子ちゃん……!」
「嘘じゃない。ゴメンね、ということで一人で行っておいで。」
「むっ…無理無理無理!一人で行ったら、どこの模擬店にも入れずキョドり倒して終わりだよ!」
「えー…テニス部の友達いるんでしょ?幸村君もさ。」
「真子ちゃん想像してみてよ…。例えば氷帝テニス部のレギュラーが出店してるときとか。」
「…ああ…、まぁ確かにそう言われてみるととてもじゃないけど2人で…とか無理だね。」
「でしょ?間違いなく女の子の海に埋もれているはずだよ!でも…それでも、私は一目幸村君が見たいんだ。」
「………っていうか、ずっと思ってた事聞いていい?」
「いいよ!真子ちゃん、もっとなんでも聞いてよ!私達、親友っていうかニコイチっていうか「いい?」
「うん、ごめん。」
「ってさ、幸村君の事…好きなの?」
お昼休みの騒がしい教室で。
フリーズする私を見つめながら、手元のポッキーを一本頬張る真子ちゃん。
…幸村君を…好き?
「……それは、もちろん好きだよ。」
「…最近ずっと幸村君の話ばっかじゃない?」
「ご、ごめん…。でもね、最近よく…メールとかするようになって…。」
「うん。」
「…で、そのたまに電話とかしたりもするようになって…。」
「…おう。」
「その時の声とか、口調が…本当優しくてね…。でも練習試合とかで会う時の幸村君は本当男の子って感じでカッコよくて…」
「……。」
「もしも幸村君の彼女になれたなら、っていう小説も書き始めるようになって…」
「ちょっと雲行きが怪しくなってきたね。」
「…で、小説の中で…あのー…その、幸村君から告白されるシーンがあるんだけどね。」
「……うん。」
「普段は優しい幸村君に、力強く手を引かれて…≪俺のヘアバンドを毎日洗ってくれないかな≫って言われるんだけど」
「あんた本当に好きなの?馬鹿にしてるの?」
「ば、馬鹿になんてしてないよ!超カッコイイでしょ?それでね、そのまま抱きしめられて…幸村君から…そのっ…あのキスされるんだ。」
しらーっとした顔で、私を見つめる真子ちゃん。視線が痛いよ。
「そ…そんなこんなで、もう頭の中ずっと幸村君ばっかりで…」
話しながら、どんどん顔が赤くなっていくのがわかる。
アレ?ずっと、私のこの気持ちは「アイドルや神に対するファン精神」だと思っていたけど
なんでこんなに締め付けられる感じがするんだろう。
中学生の時に初めて知り合って、もうお互い高校生。
なんだかんだで学校は違うけれど続いている交流に、持ち前のポシティブ思考で勘違いをしたこともある。
だけど、幸村君にその気はないんだって気付いたのは恥ずかしながら最近の話。
練習試合中に久しぶりに会った、立海マネージャーと里香ちゃんと話している時のことだった。
「そ…そう言えばさぁ、最近…あのー、よく幸村君と…メールとかするんだよね。」
「え!そうなんですか。」
「…うん。…それでさ、ちなみに幸村君って…彼女とかいるのかな?」
「………いないと思いますよ。」
「そっ!…うなんだー、へー、えー、そっかぁー…。」
「…でも最近仲良くしている女の子はいますね。」
「ヤダ、里香ちゃん!私は、そんな仲良くなんて言う程…」
「高校に入ってからですかね。立海の先輩マネージャーの…あの人です。」
「…って…へ…?え…、うわ……引くぐらい美人だね…」
「ですよね。最近、精市君とよく一緒にいるんです。」
「…………へー…!」
「あ、ゴメンなさいさん。ちょっと呼ばれているので行ってきますね!」
「あ、う、うん!ゴメンね、邪魔して!またね!」
あの日のことを思い出すと、今でも顔の上で軽くたき火が出来るぐらいに恥ずかしい。
あんな美人がライバルとなれば、そりゃ敵前逃亡するのも仕方ないと思う。
その日から、勘違いするのはやめた。
それでも、幸村君から送られてくるメールや電話を止めることはできなかった。
友人として接してくれている幸村君に勝手に勘違いを抱いたのは私だ。
ちょっとだけ胸が痛んだけれど、まだ大丈夫。
「恋心」を暗示で「憧れ」にすり替えることはまだ可能だった。
「……?……ってば。何ボーっとしてんの?続きは?」
「へ…?」
「だから、頭の中ずっと幸村君ばっかりで?どうしたの?」
「あ…うん、だからちょっとでも…幸村君を拝みたいんだ。ほら、私が跡部に学校の廊下中を引きずりまわされながらも
うたの★プリンスたまっのライブに行った時あったじゃん?あのときと同じ精神だと思う。」
「ああ、女子の脚をもって振りまわす跡部君にも引いたけど泣いて訴えるにも引いたわ。」
「…だっ、だからね!行きたいんだ…、文化祭。きっと幸村君のメイド姿が拝めると思うの。」
「もうあんた、色々な次元が頭の中でごっちゃごちゃになってて話すの面倒くさい。」
真子ちゃんもついに匙を投げたその時。
ポンと肩を叩かれたと思うと、そこには隣のクラスの田中君が立っていた。
「田中君、どうしたの?」
「あのさ、太田先生から電話きた?」
「え?ううん…。」
太田先生というのは、私と田中君がお世話になっている立海のピアノの先生。
気の良いおじさんで、私達が榊先生同様慕っている先生だ。
「今度の日曜の練習は、文化祭だから無しだってさ。」
「あ、うん。それは知って………」
その時だった。
私の頭の中に、雷に打たれたような衝動が走った。
……最高の答えが導き出されたよ。
「…田中君、一緒に文化祭に行かない?」
・
・
・
「そう言えば、幸村部長のクラスは文化祭何することになったんスか?」
「…アイスクリーム喫茶、だって。」
「アイスクリーム!?うわ、幸村君こっそり俺に分けてくれよ!」
「…フフ、うん。来てくれたらサービスするよ。」
「…アイスクリームを出すだけか?」
「うん。でも、店内…というか教室内を英国風に飾り付けて、ウエイターは執事っていう設定らしいよ。」
放課後の部室で、文化祭の話題が出た。
着替えながら、昼間のさんのメールが脳裏に浮かぶ。
……あの後、メールは返していないけど…後でメールしないとな。
なんとなく心がざわつく理由は、さんが文化祭に来る理由が
「俺に会いにくる訳じゃない」ということ。
てっきり「一緒に文化祭をまわりたい」と言われるのを期待していたのに
あの文面は……
「…誰と来るつもりだろう。」
「っていうか、執事って…幸村部長が執事の服とか着るんスか?」
「え?…あぁ、うん。そうみたい。今日、班分けがあったから。」
「マジかよーーーー!そんなの絶対、今年の模擬店最優秀賞に決まってるじゃないッスかー。」
「幸村のクラスも必死なんじゃろ。最優秀賞に選ばれれば、食堂無料券1週間分じゃ。」
「いやいや、赤也。忘れんなよ、俺のクラスだって模擬店だぜぃ。」
「…うわー、丸井先輩は?」
「パフェカフェ。」
「なんじゃそりゃ。」
「パフェ出すんだって、しかもパフェ1個につきウエイターとのチェキが1枚撮れるって特典付き。」
「ゲスい!!ゲスいっスよ!うわー、マジで俺のクラスもそういうのつけようかな。」
「赤也が真面目に朝から晩まで店番が出来るとは思わんがな。」
皆がわいわいと楽しそうに話している話題も、
あまり頭の中には入っていなかった。
当日の午前中は店番もあるので、出歩けない。
もしもさんが俺のクラスに立ちよってくれれば良いかもしれないけど、
でも…知ってるのかな、俺のクラス…。
「…ゴメン、ちょっと先に帰るね。お疲れ様。」
「おーう、お疲れ様ー。」
・
・
・
To:さん
Sub:(無題)
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さんに会えるの、楽しみにしてる。
ちなみに俺のクラスは
アイスクリーム喫茶をするから
良かったら食べに来てね。
ところで、さん一人で来るの?
「うわ…マジ…で、喫茶店なんだ!え…じゃあもしかして本当にメイド服とか…!」
お風呂からあがると、メールが来ていた。
飛びついて見てみると、予想通り幸村君からのメール。
文面の中に色々な単語が入っているけれど
一番に目に飛び込んできたのは「楽しみにしてる」の文字。
「……お店に行けば、ちょっとぐらいは幸村君見れるかなぁ。」
ボーっと画面を見つめながらそんなことを呟いた。
朝から晩まで店番する訳じゃないだろうから、ちょっとぐらいならもしかして…
そこまで考えて、フと冷静になる。
…駄目だ、ポシティブ思考がまた出ちゃってる。
よく考えたら、幸村君だってこの文化祭には一緒にまわりたい人がいるのだろう。
落ち着かなきゃ。大丈夫、幸村君は拝みに行くだけ。
それに久しぶりに里香ちゃんや切原氏にだって会いたいし…うん。
本当に遊びに行くだけだから大丈夫。決して幸村君と一緒に過ごそうだなんて、考えてない。
フゥっとひとつ息を吐いて、私はいつものように妄想ノートを取り出した。
・
・
・
From:さん
Sub:夜遅くにごめんなさい
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返事が随分遅くなってすいません。
明日の文化祭、私も楽しみにしてます。
アイスクリーム、食べに行くね。
幸村君が作ったアイスクリームなら
ハーゲン○ッツよりも高く売れるだろうね。
デジタル一眼レフを持って遊びに行きます。
「……肝心なところが抜けてるんだけど。」
やっと返事がきたと思ったら、内容は期待とは大きくはずれていた。
ベッドに寝転がりながら、ボスッとソファの方へ携帯を投げる。
…まぁ、いい。取り合えず、模擬店には立ち寄ってくれるみたいだからその時に誘えばいいか。
久しぶりに会えることが、嬉しくて自然とニヤけてしまう。
間違ってもこんな顔をさんに見せることは出来ない。
…以前よりメールの回数も増えた。それに、内容も段々とくだけてきた。
最初にさんから送られてきたメールと言えば、なんだか
危ない宗教のようなメールばかりだった気がするけど随分マシになった。
それでも、何故か敬語は抜けないようだけど。
メールでは、色々と話をしてくれるのに
会えばいつもキョロキョロと目を逸らしながら挙動不審なのも面白い。
その様子をずっと見つめていると、段々と赤くなっていくのも、可愛い。
だけど、いつまでもこの関係では状況は動かないと思った。
もう高校生だ。進展するにはきっかけがいる。
その、きっかけ作りも既に済ませてある。
柳のデータに頼ったのは、我ながら情けないけど
それでも、絶対に、手に入れたかったから。
彼女の頭の中で、俺の事しか考えられないように
少しだけ彼女を不安にさせる嘘をついた。
コソコソと計画を立ててこんなことをするのは卑怯かもしれない。
……こんなに自分が臆病だとも思わなかった。
それでも、築き上げてきたチャンスを逃したくはなかった。
・
・
・
「おはよう、さん。……それ、カメラ?」
「おはよう、田中君!うん!いっぱい写真撮りたいなって!」
「そっか。じゃあ行こう。」
駅のホームに待っていた田中君は、いつも通り爽やかな好青年だった。
元々私達は、今日は立海に行く予定だった事もあって
文化祭に誘ってみると、快くOKしてもらえた。
…田中君と他校の文化祭に遊びに行けるだなんて、
友達が聞いたらびっくりするだろうな…。
テニス部人気にも劣らない、密かなる田中君人気。
…やっぱり、イケメンで性格も良くて、ピアノを弾く姿は美しくて…
となればもちろんモテてモテて仕方ないだろう。
だけど、こうして一緒に私と出掛けてくれるのは
同じ先生に師事する兄弟弟子だからだと思う。
田中君とは、ずっと一緒に頑張ってきたこともあって
気軽に話せるし、一緒にいて楽しい。
これが「好き」という感情かと聞かれると、それは違うと思うけど。
あの締め付けるような、不思議な感覚がないから、きっと違うんだと…思う。
「そういえば、さんがこの前コンクールで弾いてた曲。俺も弾くんだ。」
「えー!そうなの?あの曲のさ、タラララララ、タラララララ♪ってところの辺りが、
本当、落ち葉が舞い落ちてきてる感じがして良いよね!」
「うんうん。楽しいね。」
「最初は全然そういうイメージで弾いてなかったから、榊先生に怒られてね。イメージが違うって!
それで例の、あのいつもの…先生が思いを言葉で伝えられない時に繰り出す、謎の舞が始まったの。」
「ああ…ふふっ、そうなんだ。」
「大変だったよー、音楽室で落ち葉の真似してヒラヒラ舞ってて、私椅子から転げ落ちて笑ったもん。」
「怒られたでしょ?」
「うん。真面目にやれって睨まれた。」
「……ふふ、榊先生がちゃんを可愛がる理由もわかるなぁ。」
そんな他愛もない話をしていると、長いはずの時間もとても短く感じられた。
あっという間にそこは立海の最寄り駅。
生徒数も多いからか、文化祭に来る人々も大勢いた。
「田中君、大丈夫?はぐれないようにね。」
「うん。さすがに大丈夫だよ、それよりちゃんはどこに行きたいの?」
「あ…えーと…、ちょ、ちょっと小腹が空いたよね?アイスでも食べない?」
「アイスかぁ、いいかも。行こっか。」
ニコっと微笑む田中君に、幸村君のことは言えなかった。
なんとなくだけど、知らない人のこと話されてもつまんないだろうし。
それに、言葉にしてしまうと…また緊張しそうだし。
入り口でもらったMAPに従って、校舎内へ足を踏み入れてみると
文化祭のレベルを明らかに超越しているような、模擬店のレベルの高さだった。
入ってすぐのところにある教室では、パステルカラーの可愛い内装。
思わず足を踏み入れたくなるような感じで、さらにめちゃくちゃ可愛い女の子たちがピンク色のメイド服をきている。
うっかりカメラを構えてしまう私の肩に、ポンと手を置いた田中君が真顔で首を横に振っていた。
そ…そうか、ここはアイドル撮影会場じゃないもんね…ごめんなさい…!
アイスクリームのお店に行く前に、このお店が気になりすぎた私は
田中君にお願いして、ちょっと立ち寄らせてもらった。
まだ朝一番だったからなのか、行列もなくすんなり入れた「パフェカフェ」
その名の通り、たくさんのパフェメニューがあって心も躍る。
「わぁー!田中君、どうする?!私、この、あんこア・ラ・モードたい焼き乗せっていうの超気になる!」
「へ、へぇ…僕は無難にイチゴパフェで…いいかな…。」
「えー、折角だし「アレ?お前、じゃね?」
いきなり顔を覗きこんできたのは、間違いなく丸井君だった。
こんな偶然に出会えるだなんて、ついてるなーと思いつつ
挨拶をしようとした、が、それはできなかった。
「う……っうわああああああ!まっ、まままままるまるいまっまるいく「なんだよ落ち着けって。」
「ちょ…待って、それ…はぁ…はぁ、…メイ…メイド服だよね?」
「ん?おう。何着ても可愛いだろぃ?」
パチンッとウインクをする丸井君に軽くトびそうになる。
すぐさま鞄の中から財布を取り出し、ありったけのお札を机に置いた。
「ん?なんだよ。後払いだぞ。」
「…丸井君…生写真…1枚いくらですか…。」
「……うわぁ。その一眼レフで撮るつもりかよ。」
「一五〇〇〇円までなら…大丈夫ですから…っ、お願いします…!」
汚いものを見るような目で私を見る丸井君の顔…たまらんな…!
どうしても写真を撮りたかった私は、あろうことか一つ目のお店で
全財産を使ってしまう暴挙に出たわけだけど、それでも…それでも
こんなフリッフリの可愛すぎるメイド服に身を包んだ丸井君が…撮れるなら…!!
「……別に金とかいらねーし。パフェ1個頼めば、1枚チェキ撮れるから。」
「…え……?」
「だからー、何にすんだよ?オススメはこのプリンwithコロッケパフェだけど。」
「それで!それでいいです!」
「いいの!?え…ちゃん、そんなパフェでいいの…?なんか明らかに違うと思うけど…。」
「本人が良いっつってんだからいいだろぃ。…あれ、っつかお前誰?」
「え?あ、田中君だよ!一緒に太田先生にピアノレッスン受けてるんだ。」
律儀な田中君がぺこりと頭を下げると、丸井君もつられて頭を大きく下げた。
あ…!今…、今後ろに回り込んでればスカートの中身が見えてたかもしれない…!
「ね、ねぇ丸井君。その画期的金銭搾取システムについてなんだけど、例えばパフェを10個頼めば10回丸井君と写真が撮れるの?」
「おう。金さえ払うならいいぜ。」
「じゃあ「早まらないで、ちゃん!アイス食べるんでしょ?!」
札束を握りしめる私の手を田中君がガッチリと掴む。
……危なかった…ものすごく危なかったよ…本当に田中君と来て良かった…。
・
・
・
「…うわぁ、なんか物凄い行列だね…。」
「うん…。きっと幸村君がいるからだよ…さすが神の子…。」
「幸村君?お友達?」
「あ、うん。さっきの丸井君と同じテニス部でね。部長なんだよ。」
「へぇ、そうなんだ。……どうする?後にする?」
「…そうだねぇ。もうすぐこの劇も始まっちゃうし。先にそっちに行こうか。」
丸井君のお店を後にした私達は、同じフロアにある幸村君のアイスクリーム屋さんの前に来ていた。
しかし、中の様子さえ見えない程溢れかえった人に、行列。
なんでも、ここのアイスクリームはサー○ィワンと提携しているので、そのままお店の味が楽しめるらしい。
そりゃ、人気でるよねぇ。
丸井君のお店で結局写真を撮ったり、ウエイターという名のメイドッ子(男の子ばかり)を
舐めまわすように見ていると、軽く1時間経ってしまった。
田中君は怒る訳でもなく、付き合ってくれて…本当に仏だなぁ…。
目の前の行列に怯んでしまったので、取り合えず先に体育館で行われる劇へと足を運ぶことにした。
事前情報では、弦一郎さんが登場するらしい。楽しみ。
・
・
・
「……ふぅ。ちょっと落ち着いてきたね。」
「うん!幸村君、お疲れ様。」
「おーい!幸村君、アイス食べにきた!」
「……あぁ。いらっしゃい。」
「うわー…カッコイイな、その服。俺もそういうのが良かった…。」
「…フフ、聞いたよ。メイド服なんでしょ?」
「そうなんだよー、にもめちゃくちゃ性的な目で見られたしさ「さん?」
お客様の波がひと段落した時に、飛び込んできたのはブン太だった。
ほんの数m先の模擬店にいるから、嫌でもその情報は飛び込んでくる。
男子がメイド服だなんて、さんが真っ先に飛びつきそうだな、と思っていたけど…
「……来てたの?」
「え?うん。なんかパフェ食った後に、アイス行く―とかって言ってたけど。来てねぇの?」
「…来てない。」
「ふーん、じゃ劇かな。真田見に行きたいっつってたし。」
「…そう。一人で来てたの?」
「いや?男。」
一瞬、目の前がチカっと光った気がした。
…何気なく答えた彼の顔を凝視してしまう。
…今、何て言った?
「……男……って?」
「ん?テニス部じゃなかったみたいだけど。なんだっけな……あ、田中!」
「……知らないな。……2人きりで来てたの?」
「うん。なー、っていうかそろそろアイス食いたい!」
「……………。」
「幸村君?」
「……あ、ああ。ちょっと待ってて。」
頭が真っ白になった。
…さんが、テニス部以外の男と2人きりで?
……アイスを、友人にオーダーしながら
今すぐ教室から飛び出したい気持ちが抑えられなかった。
・
・
・
「面白かったねー!西遊記ってあんなお話だったんだ。」
「いや、ちょっとアレンジしてるんじゃない?」
「そうなんだ。…弦一郎さん、俳優になれそうな勢いだったなぁ。」
「あの猪八戒の子?確かに、上手だったよね。」
体育館から流れる人ごみにまぎれて、先程の劇についての感想を語りあう。
思った以上に楽しかった劇を終えて、さて次は…
「…あ、もう1回アイスクリーム店行ってみていい?」
「いいね。もうさすがに空いてるんじゃない?」
「そうだと良いんだけど…。」
先程は諦めたアイスクリーム店に向かうと
予想は大当たり。先程よりも人は少なくなっていて
2・3組の待機列があるだけだった。
迷わず、田中君と列に並ぶと
執事姿のウエイターらしき男の子がメニューを持ってきてくれた。
な…なるほど、ここは英国執事喫茶的な…!?
そこまで考えて、一瞬で妄想が膨らむ。
も…もしかして、幸村君もあの執事姿に…!?
どうしよう、そんなことがあったら私普通じゃいられない気がする…!
はぁはぁ、と荒くなる息を抑えていると田中君が心配そうな顔で覗きこんでくれた。
いよいよ、教室の中へ足を踏み入れると
想像以上のこだわり具合に、純粋に驚いた。
わぁ…本当に喫茶店みたいだ…どうやって作ってるんだろう。
そんなことを思いながら、きょろきょろとしていると
ウエイターさんが近づいてきた。
「…………。」
「……あ、えーとこのストロベリーアイスでおねがいしまほんぎゃぁあああああああ!」
「え!?どうしたの、ちゃん!?」
「ゆ…っ、ゆき…幸村君こんにちは…!」
「………こんにちは。注文はストロベリーアイスだけでいいですか?」
「あ…、えと…田中君は、どっどどどどどうする?」
「僕はバニラアイスでいいです。」
「…かしこまりました。」
ペコリと頭を下げて立ち去る幸村君に、心臓のドキドキが止まらない。
……カッコイイ…いや、カッコイイどころの騒ぎじゃない、あれは…犯罪だ…!
私のハートをがっちり掴んで…とんだ怪盗★執事だよ…!!
止まらない震えを抑えるように、机に伏せっていると
あっという間にアイスクリームが運ばれてきた。
ダンッ
「………どうぞ。」
叩きつけるように田中君のアイスを置いて、笑顔で立ち去る幸村君。
え……、何……?
店の中にいた、他のウエイターや幸村君のクラスメイトも
こちらのテーブルを見て、一言も言葉を発しない。
シーンとした空間に響き渡るクラシック音楽。
「……えーと……、田中君…幸村君と喧嘩した?」
「いや、初対面だと思う…な…。」
「え……なんだろう…。」
胸がざわざわする。
なんだろう、メールでは普通に「おいでよ」って言ってくれてたのに…
あれは社交辞令だったのかな…?
いや、でも…そんな感じではなかったし…
私と田中君は、アイスをかきこんで逃げるように店を出た。
・
・
・
「ど…どうしたんだよ、幸村。さっきの知り合い?」
「……うん、ちょっとね。抑えられなくて。」
「大丈夫かよ…、休憩行く?今なら空いてるから大丈夫だし…。」
「………そうさせてもらおうかな、ありがとう。」
「おう…。」
想像以上にイライラが収まらない。
テーブルに座って、2人で楽しそうに話す様子を見るだけで
冷静じゃいられなくなった。
さん、その男は誰?
聞けなかった。答えを聞くのが怖かった。
もしも…彼が、さんの彼氏だとしたら…
そこまで考えて立ち止まる。
絶対に手に入れたいんじゃなかったのか。
それなのに、自分では動かずに…
さんがその気になるように、里香に協力を頼んだり、
外堀を埋めるような動きばかりして…一度でも直接気持ちを伝えたことはあっただろうか?
蓮二は、追いつめられるとさんは力を発揮するはずだから
少しぐらい不安にさせた方が良い、と言っていたけれど、本当にそれは正しい?
もしかすると、ただ単にさんを「諦め」に導いたのではないか?
元々、さんが俺のことを好きだという保証なんてなかった。
だけど、彼女から向けられる視線に、安心していた。
問題はどうやって、彼女をその気にさせるか、だと思っていたけど、違う。
「……言わないと……。」
焦る気持ちを抑えながら、携帯を取り出した。
・
・
・
「ん…アレ?田中君、ゴメンちょっと待って。」
「うん。」
携帯の画面いっぱいに表示される「幸村君」の文字にドキっとする。
……さっきお店で見た幸村君の冷たい笑顔が蘇って、怖くなったけれど
震える手で、通話ボタンを押した。
「……もしもし。」
『…さん、今どこにいる?』
「え…、あ、のそろそろ帰ろうかって…校門に…。」
『待ってもらえないかな。話したいことがあるんだ。』
「え…っと……うん、今なら大丈夫。どうかした?」
『ごめん。会いたい。』
ハッキリと言われた「会いたい」の言葉に、心臓が激しく動き始める。
……なんだろう。チラリと後ろの田中君を見てみると、空を眺めながら私を待ってくれていた。
「……あ…の、幸村君…」
本当は田中君を待たせているんだから、断らなければいけないのに
すんなりとその言葉を言いだせなかったのは、何でだろう。
頭をフル回転させて、どうしようか考える。
携帯を片手に俯いていると、人にぶつかられるような衝撃を感じた。
驚いて顔をあげると、息を切らせた幸村君が私の片手を掴んでいた。
「……え…。」
「ごめん、田中君!」
「へ?はい!」
「申し訳ないけど、一人で帰ってもらって良いかな。」
「え……!」
「幸村君…?」
「……来て。」
有無を言わせず、ずんずんと元来た道を進んでいく幸村君。
パニックになりながらも田中君を振り返ると、遠慮がちにこちらに手を振っていた。
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・
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「…幸村君…あのー…」
「………。」
パタン
連れてこられたのは、文化祭の出し物には使われていないと見られる図書室だった。
BGMもなく静まり返るその空間に、幸村君と2人きりというのは中々辛い。
「……は、話があるんだったよね?」
「………さん。」
「はい!」
「…田中君と付き合ってるの?」
「へ?!……え…、う、ううん!違うよ。」
「……そう。じゃあ、好きなの?」
「ええええ!いや…え、っと違うと思い……ます…。」
こちらを一切見ずに、矢継ぎ早に質問をする幸村君。
…何だろう…、いつものような優しい感じは全くしない。
むしろ……少し、怖い。
「……でも、田中君はさんのことを…好きかもしれないね。」
「…それは、ないなぁ…。」
「……さんが、男の本音なんてわかるの?」
「へ?…いや…、まぁ、ある程度はわかるよ。」
そう言うと、こちらに振り返りニコっと微笑んだ幸村君。
……アレ?怒ってない…っぽい?
釣られてニヘラっと笑顔を見せると、少しずつ近づいてきた。
窓から差し込む光が逆光になっている所為か、何だか怖く見えるけれど
その表情からは、怒っている様子は読みとれない。
「そ、そうだ。幸村君、アイス美味しかったよ。」
「…そう。楽しそうだったもんね、田中君と何話してたの?」
「美味しいねって、話してたんだよ。そ…それに…あの…。」
「……ん?」
「……ゆき…むら君の、執事姿も……カッコよくて…」
恥ずかし過ぎる…!言ってしまった…!
でも本当にカッコよくて、こっそり何十枚も盗撮してしまったぐらいだ。
下手すると、盗撮で捕まるかもしれないので事後許可を幸村君にいただこうと思っていた。
丁度いい、ここには2人しかいないからその話をさせてもらおうかな、とカメラを取り出そうとした時。
ガタンッ
私を見下ろすように、目の間に立ちはだかる幸村君。
壁に追いつめられた私は蛇に睨まれた蛙のように動けなかった。
幸村君の足が私の足に触れて、身体ごとくっつきそうな距離。
逃げようにも、壁につけられた幸村君の両腕がそれをさせてくれない。
暗くてよく見えない幸村君の表情は、先程と変わらない笑顔に見えた。
「…さん。今、俺が何を考えてるかわかる?」
「……え?…っと……何だろう…、もしかして…何か…怒ってる?」
「…ちょっとだけ正解。」
「お、怒ってるの!?ゴメンなさい!違うの、ちゃんと事後に許可はとろうと…」
「ねぇ、さん。」
「…思って…………」
もう逃げるところなんて、ないのに
どんどん縮まる私と幸村君の距離。
バカみたいな顔でポカンと、幸村君を見つめる私を見て
少しだけ幸村君が笑ったように見えた。
そして
「……………え…?」
「……ほら、全然わかってない。」
「…いや…あの……え?…」
かすかに触れた、幸村君の唇。
一瞬何が起きたかわからなかったけれど、沈黙が続くと顔の温度も急上昇し始めた。
「さすがに、まだわからない、なんて言わないよね。」
さっきまでの余裕の笑顔はどこへいったのかと思ってしまうぐらいの
緊張したような、ほんのり赤い頬で、そう問いかける幸村君。
……思ってもみなかった出来ごとに、頭がクラクラする。
「…さん。」
「は…はい…。」
「………好き、なんだ。」
ドキドキが止まらない。
幸村君に触れている部分から、それが伝わってしまいそうなぐらい。
言いたいことが、口から中々出てこなくて
その変わりに、目頭が熱くなってきて、気付くと温かい感触が頬を伝っていた。
「……あの……ほ、んとう?」
「…………ずっと好きだったよ。」
「…………わ…たしも、……好き…かもしれない…」
よくわからなくて、頭がぐちゃぐちゃで
何故か語尾が弱気になってしまった私に、
ップっと幸村君が噴き出した。
それに、安心したのか、もう涙は止まらなかった。
「…うぇ……わたっ、私も幸村君が…ずっと…あの、…かみっさまで…。」
「……うん。」
「でも…、っ先輩が…好きって聞いた……から…ひっく…。」
「………ゴメンね。」
「別に…ゴメンって……え、…うっどういう…こと」
「嘘だよ。」
「え…今の…が?」
「…っふ、ふふ、違うよ。どうしてそうなるの。さんに…ちょっと焦って欲しくて嘘ついてもらったんだ。里香に。」
「…………。」
「ゴメン、臆病で。どうしても…確実に…さんが欲しかったんだ。」
「………っ……そ…っかぁ…。」
「……好きだよ、さん。」
「………っ…うん…うん!あの…毎日…ヘアバンド……っ洗う…ね…!」
「え…、なに…、匂う?」
「……っぷ…フフ…違うよ…、…っく、あはは…!」
「……さん。」
「え…」
ソっと抱き寄せられて、幸村君の顔がまた近づく。
私の妄想小説の通りの展開。
一つだけ違ったのは、幸村君に2回目のキスをされて
情けなくも、私が腰を抜かしてしまったことだった。