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ジローの場合







「んー…ちゃんは、友達のままでいいかなー。」

「……へ…。」

「えへへ、だって今のままでも楽しいC〜?」

「お…おう……、まぁ、うん。そうなんだけど。」

「ね!じゃあいいじゃん!この話はおーしまい!」



目の前で、呆然とした表情をするちゃん。
両肩に手を置き、くるっと体を反転させてあげると
思ったより女の子みたいな肩でびっくりしちゃった。

普段のキングコング的なイメージが強いから
もっとがっしりしてるのかと思ったけど。


部活が終わった後の部室。
また、俺はぐーすか寝ちゃってたみたいで気づくともうすっかり夜だった。
そして、いつものように部誌を書きながら待っててくれたちゃん。

俺が起きたことに気づくと、ニコって笑ってくれて
それがいつも可愛いなーって。

でも、中学生の頃から変わらない俺達の関係に満足してたのは俺だけだったみたい。




ロッカーから荷物を取り出している時だった。
ちゃんらしくないモジモジした声で話しかけてくるから、何かと思ったら
まさかの愛の告白。

一瞬、目が点になったけど、目の前のちゃんが見たこともないくらい顔を真っ赤にしてたから
あ、これ夢じゃないんだって。

寝ぼけた頭で、なんとなく考えて出した答えは
ちゃんと付き合うって想像できない」だった。
そりゃ大好きだけど…んー、でもなんか、別に友達でもいいじゃん?みたいな。

































あれは、はっきりと振られたんだな。

部室からの帰り道。頭の中で、グルグルとまわるジロちゃんの言葉。
…ジロちゃんが起きるまでの時間に必死に考えた告白の台本。
あれがダメだったんだろうか。いや、でもちゃんと愛の告白だってことは伝わってたはず。
だから、「友達のままでいいじゃん」だったんだと思う。

高校生になったばかりの私は、ずっと思い描いていた
華やかな高校生ライフを満喫するのと同時に、これを機に
今までずっと心の奥底にしまっていた思いを伝えたいと、本当に唐突に思った。

スヤスヤと部室で眠るジロちゃんの寝顔も、
心なしか中学生の時より少し凛々しく、カッコよくなった気がして、
ふつふつと湧きあがった封印されし乙女心。

ただ、見事玉砕してしまった。

マズイ。

勢いだけで言ってしまったから、玉砕した後のこととか考えてなかった…。


「え……、どうしよう明日から気まずすぎるよね。」


同じ部活で…、し、しかももしジロちゃんが皆に言いふらしたりしたらどうしよう…!
あ、あの子ちょっと鬼畜天然なところあるから…有り得る気がする…。


しかし、今はそんなことに考えを巡らせる余裕はなくて
普通にショックで…立ち直れるんだろうか…。

っていうか、何なんだろう友達のままでいいって。
……わ、私はジロちゃんと恋人になって…その、休日に手を繋いでお出かけしたり、
高校生らしく、校舎の廊下ですれ違う時なんかに秘密のサインを出し合ったり、
交換日記とか…そういうのがしたい、って思うのに


ジロちゃんは………。


「…………あー。ダメそう。」



ショックと焦りに気をとられていたけど、
冷静に考えるとなんだか悲しくなってきて、
必死に涙をぬぐった。


























ちゃーん、おはよっ!」

「…っ…え…、お、おはよう。」

「ん?どうしたの?また俺の顔、網膜に焼き付けるの?」

「………いや、別に。」


私がいつも言っている言葉で、からかうジロちゃん。
普段と全く変わらないテンションで絡む、この天使は
成長の過程の、どのあたりでデリカシーというものをポイ捨てしてきたのでしょうか。

フルフルと震える私を見て、楽しそうに笑うジロちゃんに
どう対処していいかわからなくて、そっけない態度をとってしまう。


「ね、ちゃん。今日の放課後ね、がっくん達とサイゼ行くの。一緒に行こ?」

マジで言ってんのか、…いや…、…え…?」

「マジマジ〜!嫌なの?」

「ちょ…っ、い、いやゴメン、今日は…その…株主総会があるから…

ちゃん、株主なの?!

「ご、ごめん!じゃあね、また部活で!」


いくら私だって、
そんな、昨日の今日で復活はできないよ。

ジロちゃんから逃げるように、教室へと走った。






























「あれ?っつか誘った?」

「朝ねー、誘ってみたけど今日は株主総会で忙しいんだってー。」

「アホやな、ジロー。それの逃げの常套句やで。」

「なんだよー、どうぶつの森通信して桃もらう予定だったのにー。」


ブーブーと、DSを手に文句を垂れるがっくんに、
ドリンクバーで何故かいつもコーヒーばっかり飲む忍足。

いつもの放課後。
特に何をするでもなくファミレスに集まってみたけれど
……んー、やっぱりちゃん来てほしかったなー。

朝のリアクションも、やっぱり昨日のこと気にしてるよね。
……可愛いなぁ。


「……何ニヤけてんねん、ジロー。」

「んー?なんでもなーい。」

「でも、珍しいな。ジローに誘われたら絶対来るのに。」

「気まずかったのかなー。」

「なんで気まずいん?」

「………えー、えへへ。ちゃんがー、俺のこと大好きだから。」

「いや、別にそんなの今さらじゃね?皆知ってるし。」


こっちに目線もむけないままDSを弄りながら適当に答えるがっくん。
…結構重大な発言したのに、全然驚いてくれない。


「違うのー!そういうことじゃなくって、本当にちゃんに言われたの!」

「……何を?」

「だから、告白されたの!」

「………………え、が?ジローに?」

「うん!」


次こそは本当に2人の動きがフリーズした。
目を見開くその表情が面白くてプっと吹き出してしまう。


「は?…マジか、いつ?」

「昨日。」

「…部室で?よう言うたな、あのチキンなが。」

「プルプル震えて真っ赤で可愛かったー。」

「うわー、全然萌えないけどおめでと。これからが彼女かー、マジ面白いな。」

「え?ううん、違うC〜。」

「……どういう意味?」

「お友達でいましょ、って言ったの。」


残り少ないメロンソーダをストローで吸う俺を見つめたまま、
またフリーズした2人。
…あー、なんかちょっと眠たくなってきちゃった。

だけど、すぐさま興奮した様子のがっくんたちが
問い詰めてきたから、それは出来なかった。


「な…なんでだよ!いや…俺だったら断るけど…でもジローも好きだっただろ?」

「んー、なんでだろうね。」

「……だからあんな死んだ顔してたんか、。」

「……なんていうか、別に付き合わなくてもー、ちゃんは俺のことが1番好きじゃん?」















「…ジローって、結構鬼畜だよな。」

「ほんまにな。じゃあ付き合うたったらええやん。」

「でも、俺は俺のことを好きで片思いしてるちゃんが可愛くて好きなの。」

「マジで歪んでんぞ、ジロー!どこでそんな捻くれたんだよ!」


いつのまにかDSを閉じて、俺の体を前後に揺さぶって詰め寄るがっくん。
忍足も、何か怖い目して睨んでるし。

…むー…、別に悪いことしてないのに。


「だって、まだ高校生になったばっかりで、俺も遊びたいC〜。」

「……まぁ、わかるけどさ。…あー、でもちょっとはキツイだろな。」

「やな。部活で嫌でも顔合わせなあかんし。」

「なんで?別に今まで通りじゃん!俺だってちゃんのこと大好きだもん。」

「…ラブじゃなくて、ライクってことかよ?」

「…んー、わかんない。」


そんなに批判されるとは思わなかった。
皆、いつもちゃんのこと邪険に扱うくせに
やっぱりいつだってちゃんの味方なんだから。


そこまで心配しなくても、別に何か変わるわけでもなくって
今まで通りってだけなのになぁ。


「…今まで通り、やったらええけどな。」

「ん?どういう意味ー?」

「…いや。まぁ、ええわ。」


何だか変なムードになったから、その日はすぐに解散した。
ちゃん、そろそろ株主総会終わったのかな。


メールしてみよっと。

































…、焼き肉でも行くか。」

「は?何よ、いきなり。」

「わかってる、わかってるからそんな可哀想な顔すんなよ。」

可哀想な顔って何?生まれたままの姿で一生懸命生きてるんだけど。」


お昼ご飯の後、榊先生に呼び出されて職員室に行った帰りの廊下で
前から歩いてきた忍足とがっくんに、突然肩を組まれて
何か知らないけど、一方的に励まされてる。ものすごくイラッとする。


「……大丈夫やで、ジローは呼ばんから。」

「なんでジロちゃ……っあ!……なっ、なに、まさかし…ししし知って…!」

「昨日ジローから聞いた。…にしては頑張ったじゃん。」

「ちょ…っ、もう……はぁ…まぁ、いつかバレるか。」

にも、普通の女子としての乙女心の欠片が残ってたのはビックリやったわ。」

「な。寝顔の写メだけで満足できるタイプの変態かと思ってたのに。」

「もうやめて!今、あんた達乙女の傷口に全力でスマッシュ決めてるようなもんだよ!」


肩を組まれたまま、しばらく歩いていると
今このタイミングで絶対に出会ってはいけない人間が目の前に立っていた。


「あー、ちゃん!がっくんたちも、なにしてんのー?」

「ジ…ジロちゃん、どうしたの…珍しいね、起きてるなんて…。」


こうしてジロちゃんが校舎内の廊下に立っているのはものすごく珍しい。
なぜなら今は昼休みだからだ。大体、中庭あたりで寝てることが多いのに。


ちゃん探してたんだC〜!真子ちゃんに聞いたら職員室って言うからさ。」

「そ、そっか。な、何かあった?」

「これ!今日ね、友達に映画のチケットもらったから放課後一緒に行こ?」

「…………。」


この悪魔め。

絶対楽しんでる。なんだその朗らかな笑顔。
そりゃ普段の私なら喜んで飛びつくところだけど、
さすがにあの玉砕から日も浅いのに、そんな、いきなり普通に友達やれって、
…私だって、人並みに傷つくんだから。

上手く言葉を発せずに俯いていると、
隣にいた忍足が珍しく口を挟んできた。


「…は今日、俺らと焼き肉食いに行く約束してんねん。」

「え、そうなんだ。じゃあ俺も行く〜。」

「いや、ジローはダメ。じゃな、。」

「なんで?……ねぇ、ちゃん。俺と映画行くよね?」


不安そうに私の方へと歩み寄るジロちゃん。
忍足とがっくんが、何となく庇ってくれてるのがわかる。
だけど、ジロちゃんを除け者にするのも心が痛む…

思い切って顔をあげてジロちゃんの顔を見つめると、
やっぱりいつものジロちゃんで、ドキドキした。
それと同時に、自分でも説明できないモヤっとした感情が湧いてきて…


「…ごめん、ジロちゃん。先にがっくん達と約束しちゃったから…。」

「…………。」


可愛い顔が、どんどん不機嫌な顔へと変化していく。
あ、マズイと思った時にはもう遅かったようで


「あ、でもジロちゃんも一緒に…」

「もう、いいもん。他の人と行くから。」

「え、あ、ジロちゃ……」


クルっと方向を変えて、廊下を走り去っていくジロちゃんを
つい追いかけてしまおうとすると、隣にいたがっくんに
がっしりと手首をつかまれてしまった。


「…ジローに思いっきり遊ばれてんじゃん。」

「……う…。はぁ、そうだね。うん……うん、行かない。」

「よし。失恋の穴を埋めるんは肉だけやで。」

「ふつう新しい恋とかじゃないの?」

に新しい恋って、あと何年かかるんだよ。」


ゲラゲラと笑うがっくんと忍足に、
不覚にも救われた気がする。

……うん、そうだよ。

いつまでもウダウダしてたって仕方ないんだ。

































「んー、ねぇ跡部。これ見てくれない?」

「…んだよ。……あぁ、その書き方でいい。あとは監督に渡すだけだ。」

「了解ー。」



……最近、全然面白くない。

あんなに俺にだけ優しかったちゃんが、
なんか…なんだろう、普通になった。
別に、無視されてるとか冷たくされるわけじゃないけど…

…前まではもっと俺のことを見てくれてたのに。


こうしてソファで寝ころんでる今も、
前までだったらすぐに風邪ひいちゃうよって、ブランケットかけにきてくれてたのに
そんなことも忘れて、跡部となんか楽しそうにしゃべってる。

部活が終わったばっかりで、ガヤガヤとうるさい部室の中。

俺は、ここ最近全然かまってくれないちゃんの動きをずっと観察してた。
相変わらず、何をしてるのかわからないけど忙しそうに動き回るちゃん。

…また、他の人としゃべってる。俺のことなんてまるで気にしていない。


「…ねぇ!ちゃん!」

「え!?…え、どうしたのジロちゃん?」

「……寝るからブランケット貸して!」

「あー……うん、ゴメンちょっと待ってね!先に、ちょたの傷の手当してから…」


気まずそうな顔で、俺からすぐに目を背けた。
ちょたちゃんの膝の傷を熱心に消毒してるちゃんを見てると、
何だかわからないけど、変な気持ちがこみあげてきて
ものすごくイライラした。……眠いから、余計にイライラするんだ、きっと。


「…もう、いいもん。ちゃんのバカ。」

「ゴ、ゴメン!あー、えっと…あ、がっくーん!そこにあるブランケット投げて!」

「いいってば。俺に優しくないちゃんなんか嫌いだもん。」

「………え…。」


これだけ言っても、ちょたちゃんの手当てを優先させるちゃん。
……もちろん、別に間違ったことはしてないんだけど。

…だけど、なんでだろう。
そんなちゃんに少しだけ意地悪したくなった。



「…あーあ。追川さんはもっと優しかったのになー。」

「…お、追川さん?って…あの、ナイスバディの…」

「…この前ねー、映画一緒に行ったんだよ。」

「そ、そうなんだー…わー、いいなー、何観たの?」


ひきつった笑顔で、救急箱を閉じるちゃん。
俺と話してるのに、消毒を終えたちょたちゃんに笑顔を向けてるのも


すっごくイライラする。


「秘密。ちゃんには関係ないもん。」

「…ま、まぁそうなんだけどさ。」

「…俺、追川さんと付き合っちゃおうかなー。」

「…え…?」

「追川さんね、俺のこと好きなんだってー。同じクラスだし、可愛いし、いいよね!」


もう、ちゃんはちょたちゃんの方を見てなかった。
俺をまっすぐ見て、びっくりした顔してる。

…きっと今、ちゃんの頭の中は俺のことでいっぱいなんだろうな。

そう考えると、さっきまでの気持ちがウソみたいに消えた。



「なーんちゃって!」

「……あ、い、いいんじゃないかな!追川さん…ジロちゃんも好きだったもんね?」

「え?別に…」

「き、きっとお似合いだと思うなぁー。ほら、なんか優しそうだしあの子。」

「……ちゃん?」

「…ごめん、ちょっと急ぎの用事があるから、帰る、ね!」


ドタバタと鞄を担いで、部室から飛び出していったちゃん。
いつの間にか部室にいるみんなが俺のことを見ていた。



「…ジロー。お前、いつまでそんなガキみてぇなことしてんだよ。」

「……跡部に言われたくないCー…。」

は、単純やからな。その変化球かけまくったジローの感情は絶対伝わらんと思うで。」

「だな。たぶん、今のとこヤバイ方向に進んでると思う。」

「……追いかけたほうがいいんじゃないんですか。」

「むー…うるさいうるさい!」


グルっと周りを囲んで、次々に批判の言葉を投げつけるみんなに
耳を塞ぎたくなった。……大丈夫だもん。
俺はこんなにちゃんのこと、大好きなんだから
きっとちゃんだって、わかってくれる。




































「ね、ちゃん!」

「お、おはようジロちゃん!ちょっと今急いでるから、またね!」

「あ……。むー…何アレ。」


あれから1週間。
やっぱりちゃんの様子はおかしいままだった。

ポケットの中でくしゃくしゃになった映画のチケットの期限も
もうすぐ切れちゃう。


「………ちゃんの、バカ。」


廊下で一人立ち尽くしていると、
ちょうど後ろから通りがかった女の子たちの会話が聞こえた。


「今度の土曜日楽しみだねー!遊園地とか久しぶり!」

「ね!私、もう一つ楽しみがあるんだー。」

「え。何なに?」

「フフ!佐竹君が、ちゃんに告白するっぽいよー?」

「マジで!?何それ、聞いてない!え、でも確かに最近仲良いもんね!?」

「うわー、うちのクラスで初のラブロマンスじゃない!?高校生って感じだねー!」


少し小さめの声で楽しそうに話す、その女の子たち。
会話に出てきた、聞き覚えのある名前に、頭が真っ白になった。

心臓の動きが段々と早くなって、無意識に
その女の子の一人を引き留めてた。


「えっ!…あ、芥川君?」

「……ちゃんって?」

「あ、ほら。マネージャーのちゃんだよ。」

「今の話聞いてたの、芥川君。ダメだよ、まだ部活の皆には言わないでね!」


いたずらっ子みたいに笑う女の子たちは
そういえば、ちゃんとよく一緒にいる子達だ。

…胸がざわざわする。眠かったはずの頭が完全に起きた。


「…それ、土曜日って何時?」

「へ?え…と、朝の10時に校門前に待ち合わせなんだけど…。」

「あ。芥川君も一緒に行く?」

「……いいや、行かなーい。ありがとね。」




…最近、俺に構ってくれないのは、

その佐竹って奴の所為なの?ちゃん。













































「おはよー…あれ?佐竹君早いね?」

「おはよ。さんだって早いじゃん。」

「なんとなく、部活の習慣で15分前集合が身についちゃって…怒られると怖いから。」

「ハハ、跡部厳しそうだもんな。」



今日はクラスの友達と遊園地。
正直、そんなテンションにはなれなくて一度は断ろうとしたけど
事情をしる真子ちゃんに、いつまでも引きずってちゃダメだと
強制参加させられた。

しかし、考えてみると遊園地なんて久しぶりだなぁ。
ジェットコースターとかあるのかな。


「佐竹君は絶叫大丈夫?」

「うん。さんも強そうだよね。」

「私も結構好きだよー。空中ブランコとかも乗りたいな。」

「懐かしいね、子供のころよく乗った。」


相変わらず爽やかな佐竹君の笑顔に、心が浄化されていく。
サッカー部でも1・2を争う人気男子と、こうして二人で話せるなんて
結構な贅沢だよなぁ…なんて思いながら、みんなを待っていると

後ろから急に肩を掴まれた。


「っ!わ…え、ジロちゃん?!」

「……ちゃん、いこ。」

「へ?!いや、え、どこに?」

「いいから!」


かなり焦った様子のジロちゃん。
何か緊急事態でもあったのだろうか。

掴まれた腕を振り払うことも出来ず、
引っ張られていく私は、とりあえず佐竹君に大きく手を振った。










「お、佐竹君はやーい。優秀だね!」

「おっまたせー!…あれ?は?」

「…なんか、連れていかれたけど…。」

「「「へ!?」」」














































「ちょっ…ちょ、待って…ジロちゃ…!」

「はぁ…はぁ、もう大丈夫かな…はぁ…。」


やっと止まったジロちゃん。
学校近くの山の上のほうまで全力ダッシュで引きずられて
正直体力の限界だった。

ジロちゃんも、私もしばらくは息切れでまともに会話も出来なかった。


「…はぁ……はぁ、何……ジロちゃん…どうしたの?」

「……ちゃん……どこ行こうとしてたの?」

「…へ?…はぁ…っと…みんなで、遊園地に行く予定だったの。」

「………俺とは映画行ってくれないのに?」


ベンチの上で座り込む私に、黒い影がかかった。
顔をあげると、目の前に立ちはだかるジロちゃん。

どこか泣きそうな顔をしているのが、気にかかる。


「…映画…?」

「…ちゃん、もう俺のこと好きじゃないの…?」

「っ!……な、何言って…」

「だって!最近、全然俺のこと見てくれないし、遊んでくれないじゃん!」


ご乱心のジロちゃんに、詰め寄られながら
私の心の中に、フツフツと…今まで必死に抑えていた気持ちが湧き上がってきた。




……何、それ。



「…ジ、ジロちゃんは…ズルイよ。」

「……ズルイって?」

「だ、ってそうじゃん!私のこと好きじゃないのに、なんでそうやって期待持たせるようなことするの!?」

「好きだもん!なんでそんなこともわからないの、バカ!」

「…っ、ジロちゃんの言ってる好きと私の好きは違うんだよ。」

「違わない!」

「じゃ、じゃあどういう意味で言ってるかわかってるの?!」

「だから、付き合って、チューしてイチャイチャしたりエッチしたりしたいんでしょ!」

ちっちちちちち違うもん!そんっ…そんな下心全開な感じじゃない!」

ちゃんは違っても、俺の好きはそういう好きなの!」

「えええええ!えっ、いや…あの、じゃあ……なんで私、振られたの?」


肩で息をしながら、色々な爆弾発言を放り込むジロちゃんに
段々と訳がわからなくなってきた。
え……どういう理解をすればいいんでしょうか…。



「…そんなの、俺だってわかんないよ。」

「……えー……。」

ちゃんは俺のことが1番好きだから、大丈夫って思ったから…なのに、段々と離れてって…」

「…なんという、自信…。」

ちゃんが俺のことじゃなくて、他の人のこと見てるとすっごくイライラするし…。」

「……。」

「告白されたときは寝ぼけてたから深く考えてなかったけど…」

「寝ぼけ!?……だ、だけどジロちゃんはもう彼女が…いるじゃん。」

「え、誰?」

「誰って…!お、追川さんと付き合ってるんじゃなかったの?!」

「……そんなの嘘に決まってるじゃん。」


プクっと頬を膨らませ、むくれた顔でポケットから
映画のチケットを取り出したジロちゃん。

……あの時のチケット…、映画、まだ見てなかったんだ。


「…ちゃんは、俺が人のモノだと思ったから離れたの?」

「…そりゃそうでしょ。……略奪とかは、やっぱりダメ、だと思うし。」


何だか色々な事実が脳内に舞い込んできて、
パンク寸前で、泣きそうになっていると、
両頬を挟まれ、強制的に顔をあげさせられた。

少しかがんだジロちゃんの顔が、目の前にある。
変な泣き顔を見られるのが恥ずかしくて
抵抗しようとしたけど、挟む力が強すぎて
必死に視線をそらすことしかできなかった。


「…俺は、ちゃんが人のモノだったとしても絶対渡さないもん。」

「…な、何を言って…」

ちゃんは、俺のモノなんだから。」


真剣な顔で、思わず赤面してしまうような殺し文句を言い放つジロちゃん。
うっかり目を合わせると、いつもと違った、男の子みたいな表情をしていたから
余計に恥ずかしくなってくる。


「ジ、ジロちゃん…とりあえず一旦解放して…」

「ダメ。ちゃんが…俺のことが1番大好きって言ってくれるまではダメ。」

「そっ…それは…ま…前にも言ったのに…。」

「それじゃ足りない。」

「っ……あ、あの…ジロちゃんが大好きだよ…。」

「…1番?」

「……いちばん。」


これは新手の拷問なのだろうか。
いよいよ血の巡りが活発になりすぎて、汗が噴き出し始めた。

なんで私、2回も告白させられてるんだろうと思いながら
目の前の天使に抗うことなんて出来るはずもなく。

恥ずかしさから、視線を思いっきり左にそらしていると
不意に唇のあたりに柔らかいものが当たる感触があった。


「………っえ…。」

「…えへへ、俺も大好き。」

「なっ…なんで…いま、いまさら…!」

「ゴメンね。ちゃんが、離れて初めて気づいた。誰にも渡したくないって。」

「………っ!」




キツイ。

こんな甘いセリフがどんどん出てくるなんて
さすが純粋培養された天然天使…!

ちょっと本気で鼻血の心配をし始める私に、
容赦なく攻め込んでくる。




「…ちゃん、真っ赤で可愛い。」

「な、何いってっ……んっ…!」



ついばむように何度もキスをされて
恥ずかしさで、半分成仏しかかっている私に
にこにこと楽しげに微笑むジロちゃん。




「……ちゃん、大好き。」





きっと私は、一生この気まぐれすぎる天使に振り回されるんだろうなと、
将来が少し心配になった。

だけど、嬉しそうなジロちゃんの笑顔をみると
そんな不安も吹っ飛んでしまう。


……本当に私は、ジロちゃんに甘いなぁ。