if...??





宍戸の場合






「だから絶対違うって言ってんだろ!」

「いや、私は間違ってない!宍戸が忘れてるだけでしょ!」

「はぁ?俺が間違う訳ないだろ。」

「いつも適当なこと言ってるくせに、その自信はどこから湧いてくるわけ?」

の脳みそとは出来が違うんだよ!記憶力はあるんだからな。」

「よく言うわよ、この前だって私と遊ぶ約束してた日、すっぽかしたじゃん!」

「それ…そ、それは練習があったんだから仕方ねぇだろ!覚えてたよ!」

「覚えてたなら尚更悪いわよ!せめて連絡するとかあったでしょ?」

「あーもーっ、うっせぇ!ギャーギャー騒ぐなよ!」

「っ、…もう知らない!宍戸なんかもう絶対デュエルの相手してあげないから!」

「いらねーし、ジローとかもいるし。」

「…帰る。」











「……はぁ、うぜー。」



何の間違いか、俺とが付き合い始めて約3ヶ月が経とうとしていた。

お互いを彼氏彼女と認識することすら難しいぐらい、友達期間が長かった俺達だけど
休みの日に同じ趣味の奴と遊ぶことができるのは純粋に楽しかった。
今までは向日もジローも忍足も、一緒に遊ぶことが多かったけど
それが2人っきりになっただけ。
ダチが話す「彼女との日常」とは随分違う気はするけれど、
俺達は、俺達の関係で良いと思う。上手く表せねぇけど、もそう思ってるはずだ。

しかしここ最近は、小さな口喧嘩が増えた。
元々「ラブラブ期間」なんて一切なかったけど、
なんでこんなに喧嘩しちまうんだろ。

怒ったが帰って行った方向をぼんやり見つめながら
俺は残りのマックシェイクをズコズコと飲み干す。
まぁまぁ大きい声で喧嘩してたからなのか、地味に周りからの視線がイタイ。
トレーを持って席をたつと同時に携帯が震えた。

確認すると、ジローからのメール。
何だよ、皆ジローの家に集まってるのかよ。



































「……おーっす。」

「あ、宍戸ー。…あれ、ちゃんは?」

「いねぇよ。」

「えー、と久々にぷよぷよやろうと思ってたのになー。」


先程のモヤモヤを忘れるために、ジローの誘いに乗ったっていうのに
ここでもの話か。
バレないように、密かにため息をついた。


「…どうしたん、宍戸。なんかあったん?」

「いつもの宍戸さんらしくないですね…。」


目ざとい2人は気付いた様子だった。
ジローと向日はそんなこと気にもせずゲームに夢中だけどな。
床に正座する長太郎に、ベッドに寝そべり漫画を読む忍足。
俺はそのベッドにもたれかかるように腰を下ろした。


「…マジでムカツク。」

「なんや、喧嘩かいな。いつものことやな。」

「マジマジ?今日はどんな喧嘩したの〜?」


の名前を出した途端、ゲームを放り出して食いつくジロー。
協力プレイをしていた途中なのか、向日の絶叫が響くと
ゲーム画面にはデカデカとGAME OVERの文字が。


「……あいつが…、間違ったことを正しいって言い張るからよ。」

「なんだよ、それ。お互いの思想的な話?

「ちげぇよ。長太郎の血液型はA型なのにあいつが「O型です。」

「……いや、A型って前に「O型です。」



























「…まさか、そんなしょうもないことで喧嘩したん?」

「しょ、しょうもないって何だよ!俺は間違ったことが許せねぇんだよ!」

「だから〜、宍戸が間違ってたんでしょ〜?ちゃんは何て言ってたの?」

「…………長太郎は絶対O型だって…。」

「…宍戸さん……。」


憐みの目で俺を見つめる後輩に、どんどん顔が青ざめる。
心なしか背中にじんわり汗もかいてる気がする。

…長太郎……、なんでA型じゃねぇんだよ…。

自分の犯したミスに頭を抱える。
そんな俺を見てゲラゲラ笑うギャラリー。
くっそ…笑いごとじゃねぇよ…激ダサじゃねぇか…。



「別に間違えてたー、って謝りゃいいじゃん。」

「…それは…なんかプライドが…。」

「宍戸さん…激ダサです!潔く謝るのも漢ってものじゃないんですか!」

「長太郎…。」

「まぁ、そんなどうでもええことで喧嘩できるうちが華ちゃうか。」

「早く謝りなよ宍戸ー、ちゃん今必死でちょたちゃんの情報かき集めて
 宍戸にどうやって事実を突き付けてやるかってことに夢中になってると思うよー?」

あいつは徹底的にやるからな…早いとこ降参した方がいいぜ。」


口々に俺に助言する友人達。
…そう言われると、何だか本当にどうでもいいことのように思えてきた。
こんなことで悩んで、後悔している時間がもったいない。

俺だって、クソ生意気な顔して怒るが見たいわけじゃねぇし…。

渋々携帯に手を伸ばすと、隣で長太郎が拍手をしていた。
偉いです、宍戸さん!って後輩にまでアドバイスされてちゃ先輩とは言えないよな。

履歴に残った「」の文字をタッチすると
コールが始まる。柄にもなく少し緊張しながらあいつが出るのを待つ。



PLLLL…PLLLL…






『……何よ』

「…あー…、いや…その」

『デュエルなら無理だからね』

「ちげぇよ。……その、長太郎の…血液型のことだけど…」

『プロフィール確認したらやっぱりO型でしたけどー、私の方がちょたに詳しかったですけどー』

「っく…。その、たまたま間違えたっていうか…」

『ふんっ、これで反省した?』

「反省って……、だ、大体お前が生意気な言い方するから悪いんだろ!」

『おま…っ、言い方とかじゃなくて、正解不正解の話でしょ!』

「いいや、違う。がもっと、なんていうか普通の女子みたいに可愛く折れればいいだけだろ!」

『はい、出ましたー。宍戸先生の望む一般女子論ー、どうぞどうぞ語っちゃってください。』

「…そういうのが生意気なんだよ。本当可愛くねぇ、お前。」

『……可愛くなくて結構です、なら可愛い女の子と付き合えばいいじゃん。』

「っちが…」

『謝るのかと思えば、ムカツクことばっかり言いやがって…。本当呆れた。もういい、バイバイ。』

「は?待てよ!」



プチッ…


切られた電話を見つめる俺。

そんな俺を白けた目線で見守る皆。な、なんだよ…。



「…宍戸さん…本当に…激ダサです……。

「素直じゃないよね〜、宍戸っていっつも。」

「あれは怒っても仕方ねぇだろ。」


会話の内容なんて聞いてないはずなのに、なんで一方的に責められるんだよ。
なんとなく居心地が悪くてブスっとした顔をしていると、忍足が肩を叩いた。


「…気づいてるんか知らんけど、宍戸一言も謝ってへんかったで。






全然気づかなかった。

携帯を床に落として呆然とする俺を見て

乾いた失笑が起こる。



なんてことだ。
謝ってモヤモヤを解消しようとしたのに。
っていうか、何となく俺…もう謝った気になってたのに。
「謝ったのに、あいつまた怒りやがって!」って皆に愚痴ろうと思ったのに
あ、謝ってなかったなんて…つい無意識に…。



「…もう宍戸さんに任せてたらいつまでたっても仲直りできませんね。」

「仕方ねぇ。俺達で考えてやるか!」

「お!E〜ね!楽しそう!」

「…考えるって何をだよ。」

「何って、と宍戸の仲直り計画に決まってるやん。」

「…げー、何だよそれ。」


いつのまにかゲームも消して、俺を取り囲む皆。
何となく男友達との話をするっていうのは、恥ずかしくて嫌だ。
しかし、こうなったこいつらはたぶん止められないと思う。
(こいつらにとって)面白そうなことには全力で加勢してくるからな。



「まずと会って話すことやな。近々デートの予定とかないんか?」

「…別に、学校で会えるだろ。」

「アホやな、は絶対明日から宍戸のこと避けよんで。」

「だな。あいつ怒らせたら結構面倒くさいしな。」

「俺、ちゃんに怒られたことないからわかんない〜。」

「…………あ。」

「どうしたんですか?」

「…そう言えば、明日付き合って3ヶ月目の記念日だ。」

「それや!記念日っちゅーのは効果アップやで。」



ポンっと手を叩く忍足がいつになく楽しそうだ。
つーか、記念日なんて全くもって忘れてた。
高校生になって忙し過ぎて…そう言えば今まで記念日に何か特別なことをしたことねぇな。

まぁ、男が一々記念日覚えてアレコレするのもちょいダサだしな…。



「宍戸さん、決戦は明日ですよ。気合い入れて下さい。」

「はぁ?何をどう気合いいれるんだよ。」

「だからその作戦を今から考えるんでしょ〜。自然にちゃーんとちゃんに謝るんだよ?」

「まずは…記念日にに何をするかだな。跡部みたいに薔薇の花束百本!とかは?」

「そんなことするぐらいなら、俺は命を断つ。」

「そ、それ跡部さんに失礼すぎますよ…。」

「宍戸には似合わなさすぎるやろ。…せやな、恋人やねんからそっと抱きしめて謝る、とかでええんちゃうか?」

無理無理無理無理!なんだよそのむず痒い感じ!ダサすぎだろ!」



こいつら絶対面白がってるだけだろ…!
含み笑いで言ってんじゃねぇぞ!

これ以上ここにいたらどんな無茶ぶりされるかわかんねぇ。
さっさと帰ろうとしたところに、ジローが声を上げた。



「あ!俺、思い出した!」

「なんだよ、ジロー。」

ちゃん、宍戸と手つなぎたいって言ってたよ!」

「………え…、宍戸さん3か月も付き合って手もつないだことないんですか…。」

「ね、ねぇよ!っていうか何だよ、手つなぐってどんなシチュエーションだよ、キモ!」

「……高校生にもなって手つなぐぐらいの話で、そこまで顔赤くする宍戸もまぁまぁキショいけどな…。」



何だよ、その意味わかんねぇ情報!
が…そんなこと言ってたのか?俺は一言も聞いてねぇんだけど…。

段々と赤くなる顔を自覚して、それがさらに恥ずかしくて負のループだ。



「決まりましたね。明日は先輩と手を繋いで帰って、仲直りです!」

「ひゅー!頑張れよ、宍戸!」

「そんな恥ずかしいこと出来るかよ。無理!」

「……ちゃん、可哀想〜。」

「……っ、お前らに話した俺が間違ってたぜ。帰る。」













「…っつか、も案外可愛いこと言うんだな。なんだよ、手つなぎたいって。」

「あぁ。あれ嘘だC〜。」

「へっ?そ、そうなんですか?」

「何となく言ってみたんだけどねー、まさか本当に繋いだことないとは思わなかった。

「やるやん、ジロー。宍戸、あいつ絶対明日手繋ぐと思うわ。

「だな。…まぁ、それで仲直りできんじゃねぇの?あーあ、面倒くせぇカップルだな。相変わらず。」


































おかしい。

朝からの姿が全く見えない。

昼休みにさりげなくのクラスの前を通った時もいなかった。

放課後の部活にも顔を出さない。

そして、部活が終わった後メールをしても電話をしても繋がらない。



「…あいつ…、まだ怒ってんのかよ。激ダサ。」




俺なりの計画が崩されたことに、少し焦りながら
足早に部室を後にする。
後ろの方から忍足達の期待に満ちた視線が突き刺さっていたのが、
ものすごく居心地が悪かった。

急いで携帯を取り出し、通話ボタンを押す。

耳に携帯を当てながらも、走って校門を出たその時



「宍戸。」



通り抜けた校門の前で呼び止められた。
振り返ると、そこにいたのは



「……何やってんだよ。」

「待っててあげたんでしょ。どうせ今頃テンパってるんじゃないかと思ってね。」

「は?別にテンパってねぇし。何の話だよ。」

「……ほんとバカだねぇ、宍戸は。」


そう言って笑う
あ、なんか久しぶりに笑った顔みたな。


「…帰ろっか。」

「……おう。」



















「でね、その時榊先生がお饅頭みたいな顔してね…」


やべぇ、の話が全然頭に入ってこねぇ。
何故か。そんなのわかってる。
自分に課したミッションを遂行するには、タイミングが大事だからだ。

昨日の勢いはどこへいったのか、
今は隣でヘラヘラと、またいつもの訳わかんねぇ話をする

…タイミングだ。

タイミングが大事だ。



「で、やっぱりぴよちゃんさまは天使の生まれ変わりなんだなぁって……ねぇ、聞いてんの?」

「……え?あ、ああ…日吉にお土産でもらった饅頭の話だろ?」

「全然違う。どこをどう繋げたのよ。」

「………その、。」

「何?」

「……いや、やっぱ…何でもねぇ。」

「何よ、気持ち悪いな。言いなよ。」

「……そのー…今日、何の日か知ってるか?」

「うん。」

「え…。」


やっぱり覚えてんのか。
そりゃも、そうは見えないけど女だもんな…。
クラスの女子がキャピキャピ話してる「彼氏との記念日」の話とか
こいつも、してる…のか…。

そう考えると、何となく、じんわり胸が熱くなった。


「お、俺も覚えてる…。」

「え、そうなの?よく覚えてたね!」

「…馬鹿にすんじゃねぇよ。当たり前…だろ。」


うわあああ、無理無理。むず痒い!こういう感じ、物凄く苦手だ。
何気持ち悪いこと言ってんだ、俺。


「でも、そっか。宍戸も案外私の話聞いてくれてるんだね。」

「なんだよ、それ…。って、ていうか早く行くぞ!」

「へ?ちょっ……」








よし!

繋いだ!


超自然にの望みを叶えることに成功した!



なんとなく恥ずかし過ぎて、の顔は見れないけど
手をつなぐというよりは、ズンズンと連行しているような感じだけど



「そ、その昨日ごめんな。」

「へ…め、珍しいね宍戸が謝るなんて。」

「ま、まぁお前も悪いけど!俺もちょっと悪かったよ。」

「…っぷ、ふふ、そうだね。」

「あ、何笑ってんだよ。」

「いや?っていうか、手。」

「は?」

「いや、なんで手繋いでんのかなーって。繋ぎたかったの?」


フと歩みを止めて振り返ってみると、そこに居たのは俺の想像と全然違う

もっと、こう…幸せで、嬉しい、みたいな…クラスの女子みたいな顔してると思ったのに
なんだよ、その普通の顔。っていうか、なんで俺がこんなに赤くなってんだよ。


「お…お前が繋ぎたいって言ったからだろ!」

「え、そんなこと言ったっけ?ぴよちゃんさまとじゃなくて?」

「はぁ?!ジローが言ってたぞ!」

「へー…。たぶんだけど、それ宍戸からかわれたんじゃない?」


夕暮れが2人を優しく包み込む。
河川敷で手を取り合う俺達は傍から見れば、微笑ましいカップルだろう。

だけど、なんだ?

今何て言った?俺が…騙されてたのか?



「ど…どういことだよ…。」

「いや、だから私そんなこと言ってないもん。どうせ昨日がっくん辺りに相談してアドバイスされたんでしょ?」

「知ってたのかよ!」

「知らないけど、大体いつもの流れで想像つくよ!宍戸が何もないのに私と手なんか繋ぐはずないじゃん!」

「…っ、き、今日は…記念日だから、手ぐらい繋いでやろうって思っただけだよ!」
























「え?何でトキヤの誕生日に私達が手を繋ぐの?」





































「…いや………誰だよ、トキヤって。

「ちょ、この前話したじゃん!ほら、ゲームの!」

「………お前…、はぁ…。本当この川に突き落としてぇわ。

「何てこと言うんだ、彼女に。…まぁ折角だしこのまま帰ろっか。」

「…に普通の反応を期待したことが間違いだった。」


何だよ、全然覚えてねぇじゃん記念日とか…。
そりゃそうか、こいつは女というより思考がほぼ男子だもんな。
そんな細かいこと一々覚えてる訳ねぇし…。

っつか、ジローあいつ絶対許さねぇ…!

さっきまでの緊張なんかすっかり消えうせて
今はジローへの復讐に燃えていた。




「…なんてね。よく覚えてたね、宍戸。」

「…は?」

「皆にからかわれた結果にしても、まぁ、なんというか…
 宍戸には…ずっとそういう馬鹿可愛い感じでいて欲しいな。」



そう言うの顔は、夕暮れのせいなのか赤く染まっているように見えた。

きゅっと右手に込められた力。

…相変わらず握力強ぇな、と思いつつも



俺は少しだけジローを許してやろうかな、という気持ちになった。