紫 … 跡部
「…まぁ、ちょっとわかるけどな。」
「でしょ?1番最初に思い浮かんだわ。跡部の色が。」
「なんで紫なんだよ?俺的にはゴールドとかのイメージなんだけど。」
「あぁ、確かにゴールドって感じもあるけどね。裸の王様的なね。」
そう発言した瞬間、ソファに寝そべっていた跡部が上半身をゆっくり起こした。
マズイ、このままでは確実に暴力シーンが始まってしまう。
「で…で、がっくん!結果は?」
「………。」
「…ちょっと、どうしたの?」
「……や、やめた方がいいと思う。なんか色々駄目な結果だコレ。」
「なんやねん。そんな言い方したら気になるやん。」
軽く青ざめるがっくんに詰め寄る忍足。
震えるがっくんの手から雑誌を奪い取り、じっくり内容を眺めると
奴はそっと雑誌を閉じ、何事もなかったかのように部室を出て行こうとした。
「ちょ…ちょちょ、待ちなさいよ!何!?何なの!?」
「…アカン、なんか色々ひっくるめて吐きそうや。」
「何でなのよ!吐きそうな結果ってなんだ!」
「えー、俺も知りたいC〜!」
ガタガタっと椅子を飛び降りたジロちゃんに、宍戸が雑誌を開く。
その横でがっくんは机に突っ伏して微動だにしない。
…ちょっと…一体なんなのよ…。
跡部の方を見ると、さもどうでもいいといった様子で
携帯を弄っていた。…ちょっとぐらい気にならないのかよ、この状況で…!
「……うー…わ、これは今までで一番キッツイな…。」
「…ちゃん……、そうだったんだ…。」
「もう!何よさっきから!ちょっと見せなさい!」
まるで残念なものでも見つめるような目で私を見る幼馴染三人組に痺れを切らし、
雑誌の該当箇所を探してみると、私の目に飛び込んできた文字列は
あまりにも衝撃的だった。
「……な…なな…違う!!違うから!やめ…やめてよ、その目!!」
「…いつもあんなに喧嘩してるくせに…心の中ではこんなこと思ってたなんてな…。」
「ちゃんのヘンターイ。」
「違うって言ってんでしょ!!こんなのただの遊びじゃん!大体、跡部がいつも紫のパンツ履いてるのが悪いんだよ!」
ゴチンッ
「いっ…!!」
「見てんじゃねぇよ、このド変態。おい、見せろそれ。」
「だっ…だめ!」
いつの間にか移動してきていた跡部に後ろから殴られた。
心底呆れた顔で雑誌を奪い取る跡部を制止しようとしたものの、時すでに遅し。
「……なんだコレ。」
「ちが…これは何かの間違いなんだよ。」
「おい、俺の半径100m以内に近寄るんじゃねぇ。」
「範囲広いな!!なっ、何よ勘違いしないでよね!私はそんなこと思ってないから!」
雑誌を机に投げ捨て、両腕で自分の身を守るようにして私から距離をとる跡部。
顔をしかめて私を見つめるその顔がなんか無性に腹が立つ。
「が…なぁ。ヤバイわ、ほら見て。めっちゃ鳥肌たってきた。」
「うわ、マジだ。確かに軽いホラーだよな。」
部室内にいた全員が私から一定の距離をとる。
ドアの前でがっくんに腕を見せる忍足に、ニヤニヤする宍戸。
くっそ…こんなの冤罪だ…!私は悪くない…!
「…って、いうか!跡部となんか1億円積まれても無理だから!」
「ふざけたこと抜かすな、誰がに1億円なんか積むんだよ。日本政府でももうちょっとマシな金の使い方するぞ。」
「っく…!わ、私だって…私だって初めては跡部なんかじゃヤダもん!!!」
この心理テストの無効を訴えたくてつい大きな声で叫んでしまった。
その瞬間に部室内の時間が止まる。
自分で言ってから、何だかものすごい発言をしてしまったことに気付く。
みるみるうちに赤くなる私の顔を見て、全員が真顔で罵倒を始めた。
「おい…やめろよ、!なんか鳥肌たったぞ、今!」
「そうだぞ!何ちょっと女子みたいな言い方してんだよ、怖ぇよ!」
「あ…あんた達、私が何言われても傷つかないとでも思ってんじゃないでしょうね!意外とガラスのハートなんだよ!」
「そんな繊細なメンタル持ってる奴は、ナチュラルに2Lペットボトル振りかざしたりせえへん。」
あまりにも皆が私を変態みたいに扱うから、カっとなって机に置いてあった
新品のペットボトルを振り上げたことに苦言を呈する忍足。
もー…ああいえばこういう…!誰かこの状況から私を救い出してくれる王子様はいないのですか、いませんね!!!
「なんかー、≪ちゃんの初めて≫っていう語呂がゾワっとするよねー。」
「やめろよ、ジロー。改めて言うと背筋がヤバイ。」
「いい加減にしないと今度からあんた達の靴箱・机・ロッカー全てに女児のパンツ大量に詰め込むよ。」
「…その発想がもう女じゃねぇよ、お前…。」
呆れ顔で腕を組む宍戸に、この状況に飽きたのか近くの椅子に腰を下ろす面々。
はー…。良かった、取り合えずこの話題はここで終わりになったみたいだ。
「…で、跡部は嫌なんやったら結局誰がええねん。」
「あ…んた、今いい感じに終わりそうだったのに、何蒸し返してんのよ!」
「えー、俺も気になるー!」
「そうか?聞くの怖いんだけど、もうやめようぜこれ以上…。」
「ほら、アレだよ。ホラーゲームやってて怖い怖いと思いつつも、その先に進みたくなるあの気持ちに似てるよな。」
「乙女心をホラーゲームに例えるような奴とこんな乙女チックな話したくありません!!」
もうこれ以上突っ込まれたら本気で女子である確証が自分の中から消えてしまいそうなので、
さっさと荷物をまとめ、部室を飛び出した。
ドアを出る時に、ちょっと私から距離をとったあいつらを見て
そうだ、イオンモールに大量の男児パンツを買いに行こうと心に決めました。
・
・
・
「いやー…災難だったな、跡部。」
「ほんまに紫に選ばれんで良かったわ。なんやねんこの心理テスト、凶悪すぎるやろ。」
「まさか跡部がの、≪エッチしたいタイプの人≫だったなんて…っぶふ…ご愁傷様だな!」
「黙れ。殴るぞ。」
「えー、でもさ。実際ちゃんとエッチ出来る?」
「やめろや、ジロー。それ、おかんとエッチ出来るかって聞いてんのと同じやで。」
「あああああ、なんか…なんか無理!想像すんのがまず無理!」
「…俺は出来るなー。」
「は!?マジで言ってんのか、ジロー!」
「だーって。じゃあちゃんが例えば立海の切原とがいい!とか言ったらどうする?」
「切原に避難勧告を出す。さすがに敵とは言えど可哀想すぎるだろ。」
「ちゃんが切原といちゃいちゃして、俺にかまってくれなくなるのとか想像したら…超ムカツクじゃん!」
「…まぁ、立海の奴等はのこと女と認識してるみたいやし、出来るやろなぁ。」
「それに、ちゃんってああ見えて恋に恋する乙女みたいなとこあるからエッチなんかしたら絶対そいつにゾッコンになるよ!」
「…の性格じゃ、彼氏なんか出来たら超がつくほど一途だろうな。」
「……なんか想像したら、確かにちょっとイラっとするな。」
「でしょ?だから他の奴にとられるぐらいなら跡部が頑張ればいいじゃん!」
「俺に振ってんじゃねぇ。」
「…でも実際問題さ。もし迫られたら跡部はどうするよ!は跡部がいいって言ってんだぞ。心理テストとはいえ。」
が去った後の部室。
跡部を取り囲むメンバーが、向日の発言への返答をじっと待つ。
腕を組んで、これでもかというほど顔をしかめた跡部は
2分程の長い沈黙の後、重い口を開いた。
「出家する。」
ガチャンッ
「俗世間を捨ててまで拒否するっていうのか、この野郎!!!!」
「ちょっ、何盗み聞きしてんだよ!」
「うるさいうるさいうるさい!!!忘れ物取りに帰ってきてみれば、は…はは破廉恥な話しやがって!!」
ちょっとでも、一瞬でも跡部に甘い言葉を期待した私が馬鹿野郎でした…!
なんだかんだ言っても、私のことそういう目で見てんじゃないのぉー?このこのー?
なんて思いながら部室のドアに耳を貼り付けていた1分前の自分が可哀想すぎて涙が出るわ!!!
悔しさと恥ずかしさを紛らわすように跡部に掴みかかると、
軽々と避けられ、いつものようにヘッドロックの体勢に持ち込まれてしまう。
「いっ、痛い痛い!!ギブギブ!」
「…お前が土下座して頼むってなら考えなくもないけどな。」
「だ…っれが懇願するか!調子のってんじゃないわよ!」
なんとか振りきると同時にローキックを繰り出す。
見事に跡部のふくらはぎにヒットしたソレは中々のダメージだった様子。
少し顔をしかめた跡部に満足していると、
「…っ、お前…ここまで言われて、もうちょっと女らしくしようって気にはならねぇのか!」
「何言ってんのよ!私はどこからどう見ても
荒野に咲く一輪の薔薇のように可憐なおとごっふっ、いっ痛いわね!!!」
必死に弁解する私に、真顔で右ストレートを繰り出してくる跡部こそ
もうちょっと女の子に優しくなればいいのにって思いました。
そんないつもの光景を見ている、他のメンバーが
飽きたのか何なのか知りませんが、
そっと部室を出て行くのも、ひどすぎると思いました。
私はもう仕方がないので来世から頑張ろうと思いました。
氷帝カンタータ
番外編 しんりてすと!