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エイプリルフール企画 side.向日





「あのー…さ、がっくん。ちょっと良い?」

「なんだよ、あ。やべ、キャラ選択ミスった。1回リセットな。」

「あ!もう、それいっつも間違えるじゃん、何なの?わざとなの?」

「わざとじゃねぇし。馬超の隣が小喬なのが悪い。」


何度聞いたのかわからないような、お馴染みの言い訳をしながら
ゲームのリセットボタンへと手を伸ばすがっくん。

付き合い始めてもう半年が過ぎようとしていた。

やっぱり未だに友達の延長線上な感じは否めないけれど、
それでもたまに見せてくれるがっくんの特別な表情に、
私は満足していた。この半年で16GBのデジカメメモリーカードが3枚は埋まるぐらいに。

「で?なんだよ。」

「え?何が?」

「いや、今なんか言いかけてただろ。」

「…あ、ああー…。えーと、この前ね瑠璃ちゃんね、彼氏ができてさ。」

「誰だよ、瑠璃ちゃん。」

「ひっ、ひどい!中学生の頃から一緒のクラスの私のエンジェルじゃん!」

「知らねぇし。俺、同じクラスなったことねぇもん。」

「…まぁ、その瑠璃ちゃんとね。コイバナしてたんだ。」

「なんだよ、ホラー話?」

「違うよ!この導入部分のどこがホラーなの!?」



にししと笑いながら、またもやキャラ選択をミスったがっくんに
いい加減ムカついて殴りかかると、意図したわけではないけれど
何だかいちゃつくカップルのように、もつれ込む形になった。


「絶対わざとでしょ!」

「違うって!ちょ…わかった!わかったからどけよ!」

「………話の続きなんだけどね。」

「この状況で?!」


馬乗りになったまま話を続けると、
バタバタともがきながら超不機嫌そうな顔のがっくん。

私の乗っているポジションは、そう簡単に起きあがることの出来ない
ものだったからなのか、諦めたような顔でグタっと大の字になる。

……自分の彼氏のことをこんな風に言うのはおかしいかもしれないけど
何度見ても、何時見ても、隅から隅まで本当に可愛い。

個性を勘違いした前髪に、健康的なハリのある肌。
少し火照ったような頬に、パサパサとまたたく可愛い睫。

そして………




「ちょっ……ちょちょちょなっなんだよ!近い近い近い!

「はっ!ご、ごごごごめん!あんまりにもがっくんが誘惑するから、私の中のジャスティスが…!

「何言ってんだよ!キモイ!」

「……話の続きなんだけどね。」

「お、おいマジで!マジで怖い!!」


馬乗りになったまま、さらにがっくんの腕を押さえつけて顔を近づける私は
下手すると訴えられるのかもしれない。
だけど……


「る、瑠璃ちゃん、この前彼氏の間谷君と……ちゅ、ちゅーしたんだって。」

「だ……だからなんだよ。」

「だ、だからとかじゃなくて…ま、まぁそういう情報提供?」

「いらねぇし!ど…け…っああああもうなんでそんな力強いんだよ馬鹿!!」

「あ、あああああのねがっくん!そ、その私たちももうそろそろ半年じゃん?」

「……………。」


もがくがっくんを力で抑え込むと、やっぱりまた諦めたような様子で。
じとっと私を見つめる瞳は、いよいよ本気で不機嫌になりかけているような感じだけど
興奮している私にそれを汲み取る余裕はなかった。


「だ…から、その………」

「………。」

「…ちゅっ、ちゅーしていい!?」

「……ヤダ。」

「え。」

「ヤダっつってんの!馬鹿!どけよ!」


放心状態の私を押し退けるのは、容易だった。
チャンスとばかりに振り絞った力で私を突き飛ばしたがっくんは、
急いでコントローラーを握りしめ、何事もなかったかのようにゲームをスタートさせた。


う…嘘だろ、おい……!


色んな手順は踏んだはずだった。
お互いに、ちゃんと彼氏彼女だという認識もあるはず。
だけど…だけどなんで上手くいかなかった?
瑠璃ちゃんなんて…まだ1か月も経っていないというのに
とっくの昔に大人の階段をスキップで駆け上がっている。

対して私は、階段の途中で盛大に転んでしまっている。
それどころか、転んだ拍子に何段か下がってしまったような気がする。


急いで、私のバイブルである雑誌の「○eventeen」第68ページを開いた。
読みすぎてふにゃふにゃになったページの真ん中にはやっぱり
「男の子は、ちょっとぐらい強引に迫られたほうが…ドキドキする★(賢隆クン・14歳)」
という年下の男の子の実例が載っているし…
それにこの雑誌自体も「ガンガン攻めちゃう!肉食系女子の時代!」なんていう
アグレッシブなメインタイトルを掲げているはずなのに。

恐る恐る後ろを振り返ると、
こちらを見もせずに黙々と一人でゲームプレイを進めるがっくんが。

………ヤバイ、怒ってる。


「…が、がっくん…私もやる…」

「無理。もう始めちゃったし。」

「ご……ごめんなさい…。」

「…………。」


やっぱり話しかけてもそっけない……。
や…やばいよ、マジで本当に怒ってる…!
…でも、よく考えてみるといきなり襲われそうになったりしたら…
怒るのも当然かもしれない…。

いくら彼女といえど、やって良いことと悪いことがある。
きっと…怖かったんだろうな、がっくん。
体の自由を奪われながら、彼女とはいえどいつもと違った
興奮気味のばちばちに血走った眼で迫られたら…うん、怖いかもしれない。

少し冷静になって反省した私は、
勇気を振り絞って、がっくんの隣に座った。


「……がっくん、怖がらせてゴメンね。」

「……別に怖くねぇし。」

「ね、もうしないから。だからリセットして二人でやろ?」


問答無用でリセットボタンを押すと
プツとテレビが暗くなり、またゲームタイトルのロゴが浮かび上がった。


「ああああ!お…お前、いいとこだったのに…!」

「どうせがっくん一人じゃあのステージは無理だよ。ふふ。」

「……ムカつく。」



















「ほら!がっくん、それ!それ取って!」

「わかってる!」

「あああ!ダメダメダメ、そこ行ったら…あー…ほら、達成できなかったじゃーん…」

がうるさいから集中できなかったんだよ!ちょっと次黙ってやれよ!」

「………むー…がっくんが下手くそなだけなのに。」

「うっせ。」


1時間続けても、二人とも飽きずにこれだけゲームに集中できるというのは
ある意味スゴイと思う。…本当、似た趣味があって良かった。

すっかりさっきの黒歴史なんて忘れて、ゲームを楽しむ私に
ぷりぷりと相変わらず可愛く怒るがっくん。
仕方ないから言うとおりに、次のステージでは無言でプレイしてみたものの、
やっぱり下手くそながっくんについ笑いが漏れそうになってしまう。


「…………ふふ。」


沈黙が流れる部屋の中で、ゲーム画面に集中する私たち。
フと、画面の下を見てみるとがっくんの操るキャラが何故かずっと立ちどまっている。
敵の出現を待っているのかとも思ったけど、どうやらそうでもないらしい。


「……がっく……ん?」


不思議に思って隣を見てみると、コントローラーを置いて
こちらをまっすぐに見つめるがっくん。


「……え、どうした?」

「……………。」



ズシャッ   バンッ





「っあ!ちょ…ダメだがっくん!来たよ、呂布が!!」


画面から響いた物騒な音に、急いでコントローラーを握りしめ
なんとか敵に応戦する。
しかし相変わらずボサっと立ち尽くすがっくんのキャラクター。


「ちょ…がっくん、早く!何して……」

。」

「え?」











チュッ




















意識が戻った時。
何事もなかったかのようにコントローラーを握りしめる、がっくんが目に入った。


固まる私に見向きもせずにテレビ画面に集中するがっくん。
何事もなかったかのようにゲームに興じているけど

その真っ赤な耳が、今起こったことが現実であることを証明していた。




「………がっ………がっく…」

「……う、ううううるさい。早く戻れよ!!」

「………っす……好き!!!!

「うわっ!ウザイキモイ離れろ馬鹿!!」



















after story side. Gakuto