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エイプリルフール企画 side.跡部





あれからもう半年以上たったのかと思うと、感慨深い。

……よくここまで続いたな

っていうのが、皆からの感想。

私も本当に、そう思う。




「だから!何回も言ってんでしょ、これはたたたたたっただの音楽CDなの!」

「その怪しげなジャケット写真がただの音楽CDな訳ねぇだろ、貸せ。」

「違う!!違うからやめて!ちょ…入ってこないで、上着を!上着をまず脱げ!」














ある昼下がり。
私の家に電撃訪問した跡部への対処に追われていた。

休日で特に予定もなかったからスッカリ気を抜いていた私は
ぼさぼさの髪の毛をシュシュで適当にくくりあげ
ブヨブヨに伸びた残念なスウェットパジャマで跡部を我が家に迎え入れることになってしまう。

そんなことは、まだ問題なかった。

しかし1番の問題だったのは、私が大音量で寝室で流していた
「吸われたら逝く…禁断のデスエクスタシー★」をサブタイトルに掲げたドラマCD。
少し過激なドラマCDを聞くには、やっぱり休日のまったりした時間の中でじっくり聞きたいから…
ベッドの中でキャーキャーと奇声を上げながら堪能していたところに、
突然部屋の扉が開いた。咄嗟の判断でコンポのコンセントをぶち抜いたものの、
部屋の外側までそのCDの音量が漏れ出していたのか、目の前に立ち尽くす跡部は
完全にドン引きの表情だった。心なしか、ちょっと青ざめている気すらする。

そこからはもう修羅場だった。

ゆっくりと動き出した跡部に見つからないよう、
CDジャケットをベッドの中に隠すと、それに気づいて
力づくで私をベッドから引きずり出そうとする跡部。

ついに見つかってしまったCD。
無駄に勘の鋭い跡部が、コンポの下にある棚のカーテンをおもむろにめくり上げると、
びっしりと並ぶ禁断のCD達。そのどれもが、跡部が毛嫌いする
乙女心をノックアウト★なそれっぽい絵柄の男の子たちの絵柄だった為、
事態はさらにややこしくなってきた。


「こ…これには、その…理由が…理由があって…」

「その理由とやらを言ってみろ。場合によっちゃ…覚悟しろよ。」

「何の!?何の覚悟!?やめて、拳ボキボキ鳴らすの今すぐやめて。


ベッドの中で頑なに縮こまる私を見下ろす跡部。
頭の中からキュインキュインという音が聞こえてきそうなぐらい、
必死に思考回路を働かせて、言い訳を検索してみたけれど
今の、この状況で、跡部に許してもらえそうな言い訳はついに見つからなかった。


ダラダラと汗を流す私を見て、フっと呆れたように笑う声が聞こえた。


「…この万年発情野郎が…。」

「それが彼女に言う単語かどうか、ちゃんと考えた?考えた上でそんな発想が出てきた?」


「…その通りだろうが。」

「はっ、はは…はっ発情とかじゃないもん!ちゃんとR-15だし、ちょっと吸われただけで…何してんの?


壁に掛けてあった私のバッグを手に取り、床に座り込む跡部。
先程の秘密の花園から、ガサガサとCDをすべて取り出し、どんどんバッグに詰めていく。
その行動の意図がよくわからず、ポカンとする私に放たれた一言。


「捨てる。」

「すて……す…だっ、ダメに決まってんでしょ何言ってんの!?ちょっとやめてよ!」

「うるせぇ。」

「本当に勘弁してください!私がそのCD達にいくら注ぎこんだと思ってんの?!」

「知らねぇよ、気持ち悪ぃ。」



なんとか跡部の行動を止めようと、腕をつかんでみるも
あっけなく振り払われてしまう。若干キレ気味の跡部を下手に刺激すると
面倒くさいことになりそうなので、経験豊富な私はなんとか別の方法を考える。

…お、おおおお落ち着け…

このままでは、私の心の拠り所が全て闇に葬られてしまう…!
……跡部は、このCD達のことを「気持ち悪い」と言う。
1回も聞きもしないで、皆を見ようともせずにそういうレッテルを張っている気がする。
きっと聞いてみればわかるのに、このCDがどれだけ心を癒してくれるものなのか。
世知辛い3次元から妄想の世界へと私を解放してくれる大切なツールであることを、
跡部にもわかってほし…………はっ!そうか!!



「……わかった。跡部。とりあえず1回聞いてみ「聞いたうえで、俺がそれを気に入るとでも思うのか?」

「……………う、うん。」

「頭が痛くなるほどに馬鹿だな、てめぇは。こんな野郎の声が入ったエロCDなんて「エロCD!?」

「間違ってねぇだろ。」

「いやいやいや、ちがっ……違うもん!エロとかじゃないもん!アダルトビデオと一緒にしないでよ!」

「変わらねぇだろ。………こんなもんで、興奮しやがって。」

「ちがっ!ほ、本当やめてよ恥ずかしい!そんなつもりで聞いてるんじゃないもん!」

「じゃあ、どういうつもりで聞いてんだ。」

「……………刺激が欲しくてやった。後悔はしてない。」



キリっとした顔で答えれば、なんとなくそれっぽい理由になるかと思ったけど
さすがに跡部もそこまでバカじゃなかったみたいで。
真顔で私を射抜くように見つめるその瞳に、マジでちょっとちびりそうになる。

ボ…ボケたのにっ!スルーとか!

手に持ったCDを床に放り投げ、こちらへ迫ってくる奴に
昔からの習性で、脊髄反射的に頭を守ると、そこに衝撃はなく、
代わりにベッドが大きく揺れた。


「え……な、なに…」

「………お前の言いたいことはわかった。」


ニヤリと悪い顔で笑う跡部に、サッと血の気が引く。
気づけば、ベッドに押し倒され跡部を下から見上げる形になっていた。
急に近くなった距離に目がチカチカする。相変わらず無駄に恵まれた容姿だな。


「ちょっ……や、やめてよ触んないで!」

「お前の希望なんだろ?刺激が欲しいなら、やるよ。」


跡部と付き合い始めてから、初めて訪れたシチュエーションに頭が破裂しそうになる。
服の中に侵入し、わき腹を伝う生暖かい感触に、叫びたいけど声が出ない。

恥ずかしすぎて、緊張しすぎて、声が出ないなんて初めてだ。

パクパクと口を動かす私を見ながら、嘲笑う跡部。
その手がついに、他人に触らせたことのない、膨らみまで達した瞬間。
他人の手が思いっきりソレを掴む感触に、一気に顔が紅潮する。


何段か大人の階段をすっ飛ばして、こんな展開になるなんて予想もしていなくて
さすがに頭が混乱してきて、何とか跡部に気持ちを伝えようとすると、


急に真顔になった跡部がベッドから転げ落ちるようにして飛び退いた。


「……え、…え?」

「お…まっ…!なんで…下着つけてねぇんだよ!!

「した…えっ、あ…だって…起きたばっかりで…寝るときはブラはつけない…」


さっきまでの余裕っぷりはどこへいったのか、
見たことないぐらいに顔を真っ赤にして慌てふためく跡部。

……何だったんだ一体。


「ばっ……馬鹿じゃねぇのか、てめぇ…!」

「いや…え…?か…勝手に、さ、さささ触ったのは跡部の方じゃん!」

「下着があると思ったからだろうが!!」

「下着があったら触ってるのに、無かったら慌てふためくのは何なの?どっちも変わらないじゃん!」


「変わるに決まってんだろ!やわら………っ殴る。

「どんな心境の変化!?テンションの落差が普通の人間じゃないよ!ちょっ…や、やめろ!」



顔を真っ赤にしたまま、照れ隠しなのか何なのかベッドに横たわる私に
マウントポジションのまま殴りかかろうとする跡部。

しかし…自分でもちょっとびっくりしたけど、
意外にも絶体絶命のピンチになったことよりも、
あの跡部が、普段ドヤ顔で経験豊富な色男を気取っている跡部が
見たことないぐらいの慌て方を見せたのが……


「……っぷ……ふふ……か……かわいい…。」

「……アーン?」

「いや!違う、今のは本心じゃない!」

「…大体…、彼氏がいるのにあんなCDを聞く理由はなんだ。」

「…………その話に戻っちゃいます?」

「言え。」


ついに跡部の顔色も元に戻り、先程と同じように
明らかな怒りをはらんだ真顔で見下ろされていた。

……言うのか…。

言いたくない、絶対に言いたくない。
だけど…この展開は、たぶんもう本当のことを言わない限りは
解放してもらえない気がする。意外と跡部しつこいから。

っく……仕方ない……。




「あ…あー…なんていうか…、あの…こ、この前屋上でさー…」

「………屋上?」

「ほ、ほら。あのー…屋上で初めて……ちゅーした日あったじゃん。」

「………………。」

「あれ以来…跡部と…接触っていうかー…その、なんだろうな…」

「………。」

「そのっ、恋人っぽいこと……してないじゃん?してくれないじゃん?」

「……………。」

「いやっ、勘違いしないで!し、しししししてほしいとかじゃなくて!」

「……………。」

「でもほら、こんな言い方するとしてほしいみたいじゃん?!違うのに!あくまで好奇心の延長だから!」

「…………。」

「だ…だから……、とりあえず妄想でなんとか補完しようと……もう勘弁して。



自分でも支離滅裂なことを言っているのはわかるけれど、つまりそういうことだ。
あの日から、さりげなく「もう一度してほしい」というようなことを
時には拳も交えながら伝えているつもりだったけど、跡部に対して
「甘えたくない」という自分のプライドも裏目に出て、中々それが伝わらなかった。

取りあえず諦めて、二次元に逃げた結果抜け出せなくなりつつあった。

こんなに正直に発表するつもりじゃなかったのに…!!
恥ずかしさで消えてしまいたくなった。せめてもの抵抗で両手で顔を覆うようにすると
非情にも、その手を意地でも解こうとする跡部。

私もこんなに恥ずかしい顔を跡部に、跡部なんかに見られるわけにはいかない。
私の中のプライドが許さないのだ。

無言の攻防を続けながらも、徐々に私の顔を覆うものが取り払われ
ついに跡部と目が合ってしまった。








「…………なんであんたが真っ赤なの。」

「……バカがバカみてぇなこと言うからだろ。」

「バ……っ、も、もういいもん!私のことはほっとい………」





















お互いに恥ずかしさで体温が上昇していたからなのだと思うけれど、



2度目のソレは、1度目よりも、もっと熱い気がした。















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