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エイプリルフール企画 side.鳳





あのお泊り以来、ちょたがよそよそしい。

部活中も、デート中もずっとそわそわしている。

それどころか、ちょっと私を避けているようにすら思える。





「………エッチしたからじゃない?」

「ししししっしてないよ、バカバカバカ!何言ってんのバカハギー!」

「え、違うの?一緒に旅行に行って、一晩一緒の布団で寝たんでしょ?」

「キャー!やめてーーー!はっきりと活字にしないでーー!」

「うっ…るさ…何興奮してんの、はぁ、ウザイ。」

「興奮とかじゃないよ!……で、でも本当にアレは、そのそれだけで…。」

「…………別に隠すことないのに。」

「いや、本当なんス。逆にそこまで大人の階段上ってたらこんなことで悩まないと思う。」

「…ふーん、そうなんだ。まぁ、相手がじゃ仕方ないか。」


カランカランと、つまらなさそうにアイスティーに刺さったストローを回すハギー。
私はというと、とっくに飲み干したオレンジジュースのストローをずこずこと吸っていた。

今日は、ハギーにどうしても相談したいことがあったので
放課後に近くのコーヒーショップに呼び出した。
面倒くさそうにしながらも、ちゃんと相談を聞いてくれるハギーが私は大好きだ。氷帝の良心だと思う。


「……でも、どうしようハギー。本当に、避けられてるのかな。」

「………違うと思うけど。」

「も…もしかして、近くで見た私が思った以上にグロテスクで引いてるとか…

「あははっ!結構面白いこと言うじゃん、。」

「そ、その抱きしめた時に想像とは違う匂いがして、それで目が覚めたとか…」

「どんな匂いなの、それ。
あ、もしかして抱きしめた時の感じが思ってたより太ってたとかじゃない?」

「あり得る!それはものすごくあり得るよ、ハギー!うわあああ、どうしよう!幻滅されたのかな…!」

「……………相変わらず、頭弱いよねぇ。」

「え、どういう意味?殴ろうか?

「……まぁ、取りあえずさ。はどうしたい訳?鳳とどうなりたいの?」

「どうって……、普通に…接してほしい……のと……」

「と?」

「あ……あわよくば、またギュってして欲しい。」


モジモジしながら言ったのがいけなかったのか、
笑顔のままダラダラと口からアイスティーを垂れ流すハギー。
「気持ち悪ぃんだよボケ」というのを無言で伝えるその視線が怖い。




「だ、だって別に、そのカップルなんだから、こう思うのは普通だよね!?」

「………うん、ゴメン。今ちょっと気分がすぐれないからソっとしておいてくれない?」

「もう!ちょたはそんなこと思わないはずだもん!」

「……フフ、まぁそうだろうね。……じゃあ、どうしようか。平たく言うといちゃいちゃしたいんでしょ?」

「ものすごく的確だよ、ハギー!そういうことなの、今はなんか…避けられてて話すことすら出来ないし…。」

「……じゃあ、今から言うことメモって。実践してね。」

「はい!!お願いしゃっす、ハギー先輩!」

「うるさい、声大きい。」


























1.できるだけボディタッチをする・させる



「は、はい!ちょた!お疲れ様!」

「あ…ありがとうございます!………え、…えーと…?」

「あの…えーと、このタオル!ふかふかでしょ!」

「そう、ですね。いつもありがとうございます。」

「でね!私の…二の腕もぷよぷよだから触って良いよ!」

「え!?ど、どういう…?意味ですか?」

「タオルとどっちがふかふかか、触って確かめ「し、失礼します!!」


…作戦第一、失敗。

おかしいな、ハギーの言う通りにどちらの条件も満たすベストな
話だったと思うんだけど…。

想像では、また前のようにちょたと笑いあいながら
楽しく話せると思ってたのに。逃げられてしまった。








2.一緒にいる時は積極的に手をつなぐことを忘れない


「ちょた、一緒に帰ろ!」

「はい、今日は…その、まっすぐ帰りましょうか。」

「え?家、寄って行かないの?」

「…す、すいません…ちょっと家の用事があって…。」

「そっか…。じゃあ仕方ないね。」

「あ、あのでも…一緒に帰るのは大丈夫なので…送ります、家まで!」

「い、いいよいいよ気を遣わないで!早くお家帰らないと…。」


作戦に入る前に失敗しちゃったけど、仕方ない。
なんとかちょたと元通りになろうとしている時に、変に嫌がられることはしたくないし。

急いで荷物をまとめようとするちょたを静止すると、
ハギーが珍しく声をかけてくれた。


「…。じゃあ俺と一緒に帰ろう。」

「え?あ、うん。でもハギー帰り道先輩、か、帰りましょう!」

「わっ…え、あ…ご、ごめんハギー、バイバーイ!」


部室の前でヒラヒラと手を振るハギーに悪いことをしてしまった。
だけど、その顔はやけに楽しそう。

反対に、今、私の手を握っているちょたは随分余裕がないようだった。


「…ちょた、急いでるなら本当に大丈夫だからね。遠回りでしょ?」

「…大丈夫です。俺が、……その、彼氏なので。」

「え…。」

「……他の男の人と…帰ってほしくないです…。」

「………爆発しそう。

「何がですか?!大丈夫ですか!?」

「…し…心臓が。」


しばらくの沈黙の後、プっと吹き出すように笑ったちょた。
歩きなれた河川敷で、2人で笑いあうその時間が幸せだった。

ちょたがそわそわしていたのも、きっと何か…こう…脱皮の時期っていうか…
季節的なものだったのかもしれない。きっと明日からは元通り。そう思っていた。
























「ちょた!明日は何時に家来る?3時?明朝3時?

「え、あ、はい…あ、あのー…」

「……、明日は鳳と遊ぶんだ?」

「うん!ちょたは人生ゲームしたことないらしいから、家でやるんだ!」

「ふーん………。ゲームねぇ。」


放課後、帰る間際に立ち寄った部室にいた、ちょたとハギー。
その珍しい組み合わせに一瞬首を傾げたけれど、
ニコっと笑いかけてくれるちょたの可愛い仕草に色々吹っ飛んでしまった。


「…何ニヤニヤしてるの、ハギー。」

「別に?……ほら、頑張りなよ鳳。」

「滝先輩!」

「え、何なに?あ、ハギーも一緒にゲームしに来る?」

「きっ、来ません!あ…すいませんっ!」

「……っぷ…ふふ…ああ。行かないよ。俺、用事あるから。」

「そっか。じゃあ、ちょたまた明日の3時にねー!」

「……お疲れ様です。」

「……ねぇ、いいの?ナチュラルに3時って言ってたよ。」














3.年上のプライドを捨てて甘えてみる



は、わけのわからないプライドがあるでしょ?いつも。」

「いや…まぁ、年上な訳だからそう簡単に後輩に甘えるわけには…」

「それが無駄だって言ってんの。言っとくけど後輩の中でのこと先輩として尊敬してる奴なんていないから。」

「ええええ!い…いや、私いつだって年上としてのこう…責任感というか…ほら…。」

「…でも、もしかすると鳳はそれが気になってるのかもよ?」

「………え?」

「やっぱり…先輩後輩である前に、男と女でしょ。女に守られたい男なんていないと思うけど。」

「なっ…なるほど…。いわゆる【守ってあげたい系女子】ってことね!」

「……まぁ、若干違う気がするけど。とにかく、ちょっとは甘えてみれば?ってこと。」







ちょたが家に来る時間まで、この前のハギーとの作戦メモを見直す。
うん…。今、いい感じのところまで来ているはずだから。
あわよくばいちゃいちゃしたい、という欲望を達成する一歩手前だから。
ここでしくじるわけには、いかないんだ…!

なんとしても…なんとしても、ちょたと仲良くなるんだから…!



ピーンポーン



「きたぁっ!!はいはいはーい!!」

「わっ!…あ、どうも…おはようございます…。」

「うん!ちょた、7時間も遅刻だよ!」

「…本気でAM3時に集合予定だったんですか?」

「まぁ、上がって上がって!人生ゲームの準備は万端だから。」

「あ、これお土産…買ってきました。」

「……………。」

「…あれ?な、何ですか?」

「…………さすが、育ちの良い子は違うなって…感動してる。」

「……先輩の好きなシュークリームです。」

「うわあああい!食べよ、食べよ!すごいよ、ちょた!なんで私が今食べたいって思ってるってわかったの!?」

「…フフッ、そんなに喜んでもらえると嬉しいです。」


お邪魔します、ときちんと言ってから靴をそろえるちょたは
本当に我が彼氏ながら、人類の中でも5本の指に入るほどの良い子じゃないかと思う。

1日はまだ始まったばかり。
これからずっとちょたと一緒に居れるのかと思うと嬉しすぎて、
ついついテンションが上がってしまう。
ちょたの手を引いてリビングまで案内すると、苦笑いされてしまった。












「うわー、マジで…マジでちょたの恵まれ方が怖い。」

「あ、もしかしてこれまた3億円もらえるんですか?やったー。」

「っく…!中高と頭脳明晰学校に進学したあげく、異例のスピード出世で医者の最高ランクまで上り詰めて
 何のボケなのか、まさかの【最後の賭け】に全財産注ぎこんだ挙句、それが大成功するなんて…!

先輩、これ…何でしょうか、【人生の価値ルーレット】……あ、俺は天使らしいです!」

「そりゃそうでしょうよ!誰も陥れることなく、そんな大金持ちで人生勝ち組になったんだからさ!」

「…先輩は…あははっ!ワラジムシだそうです!

「くそっ……辛い…ビギナーズラックとは思えないレベルの幸運に恵まれた天使には敵わない…!!」


あっさりと人生ゲームを第1位で終えたちょたが楽しそうに笑う。
ワラジムシがツボったらしく、お腹を押さえて転がっている。

………か…可愛い…。この姿を見られたってだけで、人生ゲームを3時間かけてやり込んだ甲斐があるよ…。


「あ、そうだ。持ってきてもらったシュークリーム食べよっか。」

「はい、俺準備しますよ。」

「いいのいいの、座ってて。」

「ワラジムシ先輩に負担をかけるわけには「彼女ぞ!?私、あくまでも彼女だよ!?」

「…っく…ふふっ…あはは!」

「……楽しそうで、お姉さんは何よりで…あっ、いけないいけない。」


ついいつものように年上ぶってしまったけど、気を付けないと。
ちゃんと今日のミッションをコンプリートするんだ。
甘える、甘える……う…うん、何かそんな経験なさすぎて全身が火照ってきたけど
う…うまくやって見せるんだから…!


「はい。ちょた、どうぞ。」

「ありがとうございます。ここのシュークリーム、美味しいんですよね。」

「はむっ…。…んむ!むまっ!んっ、めっちゃ美味しい!」

「…良かったです。」


柔らかく微笑むちょた。よく見ると、なんか観察されている気がして恥ずかしい。
なんでちょたは食べないのだろう。


「…ふふ、先輩。クリームが頬についてますよ。」

「むっ!ご、ごめ…」


あ。

ここだ、って私の中の何かが叫んだ気がした。


「……って。

「え?」

「…ちょ、ちょた取って。」

「……え!…あ…あの、…はい。」


律儀にティッシュで頬を優しく拭き取ってくれるちょた。
しかし、その後に訪れた謎の沈黙にめちゃくちゃ恥ずかしくなる。
………なんだよ、取ってって…!何ちょっと女の子みたいなこと言ってんの!?
あ、ダメだ違う!自分が否定したらもう誰も私を女の子と認めてくれないじゃん、撤回!

あまりにも自分の行動が恥ずかしすぎて、
頭の中は大パニックになっていた。


「……今日は、甘えんぼなんですね。先輩。」

「ふぁっ!?そ、そそそそそそんなんじゃないし!何?私先輩だよ?」

「…フフ、可愛いです。」









成功した。






すごい…すごいよ、ハギー先輩…!
やっぱりハギー先輩の言ったことは本当だったんだ…!
今、なんか私…理想的なカップルになれている気がするよ…!

シュークリーム一つでこんなに幸せになれるのか。
あまりにも幸せで爆発しそうになっていると、
ついにちょたもシュークリームに口をつけ始めた。


そして、その様子を見つめながら一つ思い出したことがある。
…さすがにあの項目は、ないわ…。と思っていたけど、
こうも上手く成功してしまったもんだから、やっぱり本当なのかもしれない。

1番難易度が高い項目。

だけど、1番距離が縮まるであろう項目。







4.時には積極的に攻めてみる



色々とシチュエーションを想像してみたけど、どうしても実践できる気がしなかったけど
今なら…今のこのほんわかしたカップルオーラの中なら頑張れるかもしれない…!

そんなことを考えながら目を血走らせていると、発見してしまった。
神様が与えたとしか思えない絶好のチャンス。

あの…あのちょたの頬に、クリームがついているではないか…!

あざとい…あざとすぎるよ、ちょた…!
悶える私に、笑いかけるその笑顔が辛い…!

しかし、このチャンスを逃すわけにはいかない。
……大丈夫。彼女だもん、怒られないと思う。
ま…まぁ、失敗してもちょっと気まずくなるぐらいだと思う。

それよりも、成功した後の展開の方が…うん、そっちに賭けたい。



「……ちょ、ちょた…あの、クリームついてるよ。」

「え?あ、すいま「取らないで!!」

「…へ?」

「と、取ってあげるから…!うん!」

「…ありがとうございます。」


呑気に微笑むちょた。

…っく…何故かよくわからない罪悪感があるけれど…

でも……積極的に……積極的に…!











チュッ














「………え?」

「……………。」

「……あの、先輩「ごごごごごめんなさいいいい!調子に乗りました!!!」


積極的にいってみたものの、光の速さで消極的になってしまう。
調子にのって頬のクリームを舐めとるという、セクシー女優もびっくりな積極性を見せてみたものの、
そのポカンとしたちょたの顔を見るのが辛い…!恥ずかしい、本当何やってんだ自分バカ!


「ほ、本当にごめん…あの、ちょっと別人格が出ちゃったみたいで…」

「…………。」

「ちょ、ちょた?お…怒ってるの?」

「…………怒ってません。」

「……本当に?」

「……怒って…ませんけど………先輩の所為です。」

「な、何が?」




食べかけのシュークリームを、きちんとお皿において
振り返ったちょたの顔は、何故か真顔で。

いつも笑顔のちょたには珍しい。


ちょっと、本当に調子に乗りすぎたのかと冷や汗が流れる。
何とか弁解しようと、ちょたの前に立ち上がった途端




視界が揺れた。















「………我慢…できそうにない、です。」











見上げる形になったちょたの顔は真っ赤だった。




私もつられて真っ赤になった。


































「…これ、どう考えても鳳が暴走してまうように仕向けてるやん。」

「ふふ、だって面白いでしょ?その方が。」

「うわー、あんま想像したくねぇけど。」

「っつか、長太郎全員に相談してんのかよ。」

「俺、笑っちゃったC〜。ちょたちゃん可愛いんだもーん。」


休日にファミレスに集まった氷帝テニス部。
その話題は、今頃家で仲良く人生ゲームをしているだろう2人のことだった。



…あの旅行以来…、先輩の顔をまともに見れないんです!っつってな。」

「でも俺のアドバイスで随分と普通になってたでしょ?」

「ああ、確かにここ数日は結構普通にしてたよな。何言ったんだよ?」

をじゃがいもだと思って見るといいよ、って。」

「ぶふぅっ!それ、可哀想だろ!」

「………まぁ、でもの方も頑張ってるみたいだからどうなるかわかんないけどね。」

「はー、なんやかんや幸せそうでええなぁ。」













after story side.Chotaro