「さぁ、いよいよこの特別番組も終わりに近づいております…。」

「最後に相応しい模擬店は…そう、ここです!1日目の学園祭で見事王者の栄光を勝ちとりました
 3-E!アリスインワンダーランドです!今日も、たくさんのお客さんで溢れていますね!」


「さて、それでは入ってみましょうね!」





「おー、最後はのクラスか。」

「…昨日の第1位だもんね。トリに持ってくるのは当然じゃない?」

「あ、樺地。お疲れ様!大人気だったみたいだね、工作教室!」

「……ウス。」


16:00の部室。

樺地の工作教室を鳳と観に行ってみると、そこには忍足さん向日さん滝さんがいた。
しばらくそのまま工作教室を眺めていると宍戸さんに芥川さんも遊びに来て
最終的には跡部さんも様子を見に来た。いつの間にか集合してしまった氷帝テニス部。

そのままの流れで、今こうして部室内でいつものような時間を過ごしているところだった。

学園祭も終了間近。
皆、自分のクラスの担当時間は終わったようで
のんびりと特別番組を眺めている。

ただ1人、ここにいない氷帝テニス部のメンバーは画面の中に登場するのだろう。


「…っていうか、ちゃん今も腕相撲頑張ってるのかなぁー?」

「あいつ15:00からずっと当番って言ってたから、今もやってるんじゃね?」

「あ!映りますよ!」


鳳の掛け声で、皆が画面に注目する。
放送部の2人が教室内に入ると、そこは既に人だかりが出来て居た。



「うおおおおっと!今日も強い!負け知らず!まさにダークサイドに生まれし闇のアリスだー!

「お、やっていますね。早速現場に近づいてみましょう!」

「おお!まさに今、接戦が繰り広げられています!」


人混みを掻き分け、カメラが入った先には
がっちりと腕まくりをし、男と対等の闘いを繰り広げる先輩の姿があった。

バチンッ

と机に手をついたのは、挑戦者の男。
その瞬間、先輩は机の上へと立ち上がり拳を雄々しく掲げていた。


「48連勝ー!1時間たったいまでも1度も破られていません、連勝記録!」

「一体このアリスを破るのは誰なのか!」



今日も、先輩のクラスの男子が司会を務める腕相撲大会。
その様子をしばらく撮影していた放送部だったが、このタイミングでインタビューが開始された。


さん!48連勝おめでとうございます!」

「あ、ごめんなさいちょ…ちょっとこの…首から下は映さないでもらえますか…!

「え…、わ、わかりました!では首から上のドアップで…」

「いや、それもちょっとNGですね!…ど、どうしよう…あのモザイク処理とか出来ます?

「生放送なんで無理ですね。どこにモザイクをかけるっていうんです?」

「首から下全体的に…」

「それだとなんかさんが猥褻物みたいな感じになるけど大丈夫ですか?

「…っく……万事休す…!



何故か撮影を拒否するに、部室内は爆笑の渦だった。
…きっと、あの姿を校内に流されるのがイヤなのだろう。
もう既にさっきPRイベントに出てたのだから、随分見られてるとは思うけど
他校の奴らにも、頑なにその姿を見せないようにと熱心になっていた。

……別に、そこまでヒドイ姿な訳じゃないが
先輩達があまりにも笑うものだから、自信がなくなったのだろう。


「…あの姿を、他校の人に見られたくないらしいですよ。」

「へぇー、だからこんなに必死に拒否してるんだ。」

「まぁ、どう見ても似合ってへんもんなぁ。」

「そうですか?俺は可愛いと思いますけど…。」

「そうかー?中身がだってだけで笑えてくるぜ、俺は。」


そう言ってまた笑う宍戸さんに向日さん。
跡部さんは興味がないのか、樺地が持ってきたボトルシップを
ずっと見つめているだけだった。






「で、ではさんは少し恥ずかしがり屋さんなようなので…
 クラスのリーダー、華崎さんにお話をうかがってみましょう!」


「こんにちは、よろしくお願いします。」

「さて…名物ともいわれている、あの最強アリスなのですが…
 昨日と違って今日は何かスペシャルな特典があるんですよね?」


「はい!さん以外のアリスには、勝ったらその場でオリジナルスイーツと
 チェキ会の特典がついてきます!」


「おおー!これは嬉しいお知らせです!ご覧ください、男性のお客様が大いに盛り上がっています!」

「…では、もしも…もし、さんに勝った人にはどんな特典があるんですか?」










「はい!アリス姿のさんと校内デート出来るデートチケットがついてきます!」







「おおっと!なんという「華崎さんっ?!!」

「…あの、さん…全身映ってますよ、大丈夫?」

「ま…待って華崎さん今…なにか言ってたよね…?」

「うん、デートチケットがつくんだよ。このあと17:00からさんとデート出来るチケット。」

「華崎さんに大事なのは報告・連絡・相談だって言ったよね?ほう・れん・そう!私そんなの聞いてないよ!」

「ごめん!さっき決まったんだ。あるお客さんが何十連勝もしてるさんに勝ったら…
 もっと豪華な賞品がないと割に合わないって…。」

「あるお客さんって誰なの、っていうかそんなのマジで需要ないよ!私を笑いものにする作戦!?」

「まさか!ほら、あそこにいるでしょ。」



物凄い勢いで華崎さんにつかみかかる先輩。
たぶん、これ今校内に放送されてるってこと忘れてるな、この人。

華崎さんがスっと指をさした先にカメラが移動すると、
そこにいたのは…



「……おい、あれ幸村たちじゃん。」

「ほんまや。まだおったんやなぁ。」

「……あ、先輩が近づいていきますよ!」



先輩を追うようにカメラがついていくと、
そこにいたのは、やっぱり立海軍団だった。

にこやかに手を振る幸村部長は、すっかりこの番組でもおなじみの顔になってしまったらしい。
呟き欄が「幸村様」という字で溢れている。



「わ…わっわわ、私…来ないでって言ったよね!?」

「えー、でもさん可愛いんスもん!近くで見たくなっちゃった。」

「……っ!みなさん!この切原氏に特別なストロベリーアイスを差し上げて!

「山賊にしては結構似合ってんじゃん、その服。」

「……え……、ほ、本当?嘘だよね?」

「いや?なんでそんな自信ないのかしらねぇけど、可愛いよ。」

「ジャッカル君……!だ、だってあの…昨日、氷帝の皆が来た時は…
 黒歴史決定とか…明らかに他と比べて異質とか…殺傷能力が異常とか言われたけど…。

「まぁ、めちゃくちゃ可愛いとは言わんが、お前さんにしては可愛らしいの。」




「さて、こんな感じでこちらのクラスでは腕相撲大会が行われてるということです!」

「特典も盛りだくさんの今日、絶対来なくちゃ損ですよー!」


放送部の2人の声にかき消されて、少し聞こえ辛いが
立海の人と先輩の会話が映像から筒抜けになっている。
盛り上がるあちらの教室とは反対に、部室内からはいつの間にか声が消えていた。



「あ、ありがとう…!ありがとう…私の乙女心を癒してくれて…生涯をかけて感謝します!」

さん、さっきの賞品…楽しみにしてるよ。」

「……へ?……あ!そ、そうだ!華崎さん、あのチケットって…」

「うん、幸村様が提案してくれたんだ。」

「……呼称がいつのまにか様付けになってる…!」


さん。」

「……は、はい?」



「俺が最後に勝ってあげるから…それまで負けないで頑張ってね。」







腕を組みながら微笑む幸村部長に、頬を染める先輩。
いつの間にか番組はエンディングへと向かっていた。

放送部2人が他のアリスや、お客さんにインタビューをしている最中も
部室の中には嫌なムードが漂っていた。



「……なんだよ、アレ。」

「…デレデレやないか、。」

「すごく…嬉しそうでしたね、衣装のこと褒められて。」

「っていうか、あれだと俺達が悪者みたいじゃーん!俺だって褒めたのに!」

「…あれだけ可愛い可愛い言われたら、は単純だから真に受けちゃうのかもね。」


ぽつぽつと話し始めた先輩達は、やっぱり先輩の表情や反応について思うところがあったようだ。
……思い出してみても、昨日はあんな表情をしていなかった。

いつも思うが、先輩がああいうデレデレとした表情をしているのは
何だか気にくわない。大体、口にはしないだけで俺もそんなにあの衣装を悪いとは思っていない。

……ダメだ、何考えてるんだ。


モヤモヤとした気持ちの所為か、おかしなことを口走りそうになるのをグっと抑える。
すると、隣にいた鳳が口を開いた。


「…先輩、デートしちゃうんですよね。」

「……が負ける訳ねぇじゃん。」

「でも、さすがに幸村が出てきたら負けるやろ。」

「………じゃ、じゃあやっぱり先輩は幸村部長とあの姿でデートすることになるんですか?」


鳳がそう言った後、いつの間にか画面では放送部の2人が手を振っていた。
それと同時に中継がプツっと切れる。

シンとした空気に包まれる部室。


「…っていうかさ。」

「……なんだよ、滝。」


ジュースを飲みながら、つまらなさそうな様子で滝さんが発言をする。
部室内にいる全員の目がそちらへと向けられた。


「…勝てばいいんじゃないの?幸村より先に。」

「…ナイスアイデアー!そうだよ、俺が勝てばちゃんとデート出来るんじゃーん!」

「バカ、ジロー勝てねぇじゃん!」

「……俺も、に腕相撲で勝ったことないしなぁ…。」

「…先輩、俺達が行ったら意地でも負けなさそうですもんね…。」

「この中でに腕相撲勝てるのって……」


向日さんが気まずそうに視線をソファへと移す。
それと同時に、全員の目が、また一つの地点へと向けられた。



「……なんだ。」

「跡部しかいねぇよな…。」

「アーン?俺は行かねぇからな。とデートって罰ゲームじゃねぇか。

「だけどさー、幸村とちゃんがいちゃいちゃしてるの見たいー?」


芥川先輩の問いに、また部室内が静かになる。
……ちょっと想像してみたけど、普通に見たくない。なんというか絵面的にキツイ。


「…俺、ちょっと見てこようかな。」

「岳人が行くんやったら俺も見に行くわ、おもろそうやし。」

「あ、俺もついていきます!宍戸さんも行きますよね?」

「……別にいいけど。」

「ほらほら、日吉も樺地も行くよー!」

「……で?跡部はどうするの?1人でここにいる?」

「…………ッチ、面倒くせぇな。」



舌打ちしながらも、立ち上がった跡部さん。

……結局、この先輩たちはいつもこうなるんだな。


そんなことを思っている自分も、なんだかんだと言いながら

いつもこの先輩達についていってしまうのが少し悔しい。

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