氷帝カンタータ





番外編 プティ・タ・プティ






今日は本当に素晴らしい日だった。
立海でなんか色々乙女ゲーも真っ青なトキメキイベントを堪能した気がする。

も…もしかして皆私のこと好きなんじゃ…?!
まさかの逆ハーレムルート突入してるんじゃないですか?きゃーっ☆
そろそろ本気で立海に編入する方法を考える時がきたか…。

しかしこんな妄想を言う相手もいなくて。
真子ちゃんは聞いてくれないだろうし…。
そんな時にはこれ。
机の上に置かれたA4サイズのキャンパスノート。

ノートには、日記と共に今日起こった
トキメキイベントを記入し、恋愛度を数値化したものが記入されている。

我ながら気持ち悪い。わかっているんだけど。

あまりにも永らく女子を封印しているとこんな風になるんだって、真子ちゃんが感心してた。
これは氷帝テニスメンバーに対しても一応作っているリストで、
計算上では私とぴよちゃんさまの恋愛度はとうの昔にMAXで
今ぐらいの時期には婚姻届ぐらい書いてないとおかしいんだけど…、
と真剣にノートと向かい合っている時、そっと私の肩に手を置いて
首を横に振っていた真子ちゃんの優しい顔、忘れないよ。



「ふぅ…。よし、やるか。」


パタっとノートを閉じて、腕まくりをする。
全身鏡の横に置いてあるブルーのシュシュで髪をたばねてみると
俄然やる気がわいてきた。































「おはよー、。……どしたの、その荷物。」

「おはよう、真子ちゃん。聞いて驚け!なんと!この中には!女子力の塊が!」


朝の登校時、これみよがしに袋を広げ真子ちゃんに見せつけてみるも
何と反応の薄いことでしょう。バレンタインデーに手作りしたのなんて何年ぶりかって感じなのにさ。


「………。」

「……え、えとバレンタインデーのお菓子を手作りしてきました。えへへ!」

「うん…それはいいんだけど…なんでスーパーの袋にもっちゃり入れてくんの?」

……そ…そこまでは女子力がまわらなかった…。」

「一瞬、そんなでっかいビニール袋ぶらさげて歩いてくるから犬のフン持ち歩いてんのかと思った。

「こ、こら真子ちゃん!なんて痛烈な批判するの!リアルに恥ずかしくなってきたからやめて!」


下駄箱で大きな声で犬のフンとか言っちゃ駄目でしょ、真子ちゃんみたいな天使が…。
思わずビニール袋を皆から隠すように抱きしめたけど、周りの女子を見てみると
なるほど皆しっかりとした紙袋やら可愛いかばんに入れてきているようですね。…惜しかったな。


「で、誰にあげんの?」

「えーと、取り合えずテニス部と…田中君と…はい!真子ちゃんにも!」

「え…わー、ありがと。」


がさがさと袋から取りだしたのは、特製ブラウニー。
跡部の誕生日にケーキを作った時に、私の家にいつのまにか常備されていたパティシエグッズを駆使して
昨日の夜は徹夜で本格的なお菓子作りに挑戦してしまった…。

人にあげるものだし味見もちゃんとしたけど、
我ながら美味くできたと思うのよねー、ふふふん。


「しかし、手作りとは張り切ったね。」


私のあげたブラウニーをまじまじと見つめながら
廊下を歩く真子ちゃん。

1時間目が始まるまであと30分はあるけど、
今日はやたらと廊下の人口密度が高い。さっきから人によくぶつかるし。


「まぁねー、コスパの関係で手作りの方が得だと思った。」

「うっわ、コスト気にしてるよ。女子力が聞いてあきれるわね。」

「で、でも愛はこもってるもん!ほら、これとか!」


かばんに隠したビニール袋から私が取りだしたのは
ハート形の大きな板チョコ。これはもうかなり力作なんだけどね、うふふ。


「……うわー…。」

なっ、何うわーって!どっちのうわー?」

「恥ずかしいチョコだなぁと思って。」

「え、うそ!えー…あげたら迷惑かな…?」

「ふふ、いや?男は嬉しいんじゃないの?そんなダイレクトな愛向けられたら。」

「……そ、そうだよね!うん頑張るよ真子ちゃん!」

「はいはい。……あら?何あの人だかり。」


廊下の先に女子がやたら群がっている。
黄色い悲鳴の渦中にいるのは誰かと少し背伸びをしてみると…









「岳人君!これもらってください!」

「おー、サンキュなー。」



「あ、あの!宍戸先輩のために作ってきました!」

「……おー。」



「きゃー!ジロちゃん受け取ってー!」

「あ〜!チョコだ、ありがとね〜。」



可愛い女の子たちに囲まれてご満悦気味の幼馴染トリオだった。
ははーん…やっぱモテるわよね。
すっかり忘れてたよ、あいつらは氷帝のアイドルだってこと。

もう既に両腕で抱えきれない程のチョコをもらっている3人の顔は
ホクホクの笑顔で。可愛いとこあんじゃない。
もちろん女の子たちの笑顔も本当に嬉しそう。

その様子を見て、なんとなく立ち止ってしまう私の顔を
真子ちゃんが真正面から覗きこむ。


「…どしたの?渡してこれば?」

「いやー…。何か悪いなと。」

「何がよ。」

「…だって、皆の本気の思いが詰まったチョコの中にこんなコストパフォーマンスを重視した私が
ずけずけと入り込んで行っていいものかと…。」

「……見ててごらん?」

「ん?」


ニヤっと笑った真子ちゃんが指差した方向を見ると、
ジロちゃんやがっくんや宍戸に嬉しそうにチョコを渡していた女子達が
こちらに向かって歩いてきていた。


「ね!次早く行かないと、忍足君もう登校してんじゃない?」

「本当だ!あーん、跡部様にも渡したいのにー!」


すれ違いざまにそんな会話をしながら走り去っていく女の子達。


「…ね?バレンタインなんてお祭りみたいなもんだから、そんな気にしなくていいって。」

「……あ、なんか3人が可哀想になってきた。」



俺は何個もらった、いや俺の方が多いだなんだと言い争いしている3人に
ちょっと同情していると、ばっちり目が合ってしまった。


「あー!、お前ちゃんとチョコ持ってきた!?」

ちゃん、俺にも頂戴ー!」

「……なんだよ、お前その袋。犬のフン?

「おまっ…どこの世界にバレンタインデーに犬のフンぶらさげてくる女子中学生がいるのよ!」

なら有り得る。」

「うん、有り得る。」



3人でこくこくと頷く姿を見ているといよいよ暴れてやりたくなるけど
今はそんなことしてる場合じゃない、授業が始まってしまう。


「…もー、そんなこと言うならあげないから。」

「…え、本当に持ってきたのかよ。」

「何よ、駄目なの?」

「……さっき俺達ね、ちゃんってバレンタインとか縁なさすぎて忘れてそうーって話してたんだよ〜。」

「決めた。金輪際バレンタインには参加しません!」


折角私が徹夜で作ってきたお菓子を、笑い物にしやがって…!
許すまじ…!まぁ、別に他にいっぱいもらってるからいいでしょ。これは真子ちゃんと食べるんだから!

3人を廊下に置き去りにして教室へ向かおうとすると
後ろからぽんぽんと肩を叩かれた。



「っもうあげないっていってるでしょ!……って、樺地!」

「……ウス。」

「ご、ごめん!今のはそこのウスラバカ3人組に言ったの!」

「なんだよウスラバカって!」


しょんぼりと肩を落とす樺地に必死に言い訳をする私に
ブーイングをする3人は放っておいて、可愛い後輩の用事をきかなければ。


「どうしたの?樺地。」

「…今日の……練習メニューです。」

「あ!ありがと、榊先生から渡されたの?」

「ウス。」

「助かるわー。…あ、そだ。樺地、これ!」


ビニール袋から取り出したのは、真子ちゃんにもあげたブラウニー。
やりだしたらとことんこだわってしまう性分な私はラッピングにもこだわっておりますの。


「……ありがとう…ございます。」

「あ!!ずりー!なんで樺地にはあげて俺にはねぇんだよ!」

「いいんだよ、樺地。いつもありがとうね!樺地はブラウニーとか好き?」

「おい!無視してんじゃねぇぞ、!」

「…美味しそう…です。」

「…そういう素直なところが可愛くてたまんない!」


ガシッ


赤面する樺地に辛抱たまらず抱きつくと、さらに赤面してしまった。
はー、可愛い。作ってきて良かった、その表情だけで苦労が報われるわぁ。
やっぱり2年生は正義!さっきから罵声を浴びせてくる3年生とは大違い!




ゴチッ


「いっ…た!何!」

ちゃん、俺の分は?」


樺地の体温が気持ちよくて、抱きついたまましばらく動けずにいると
背後から何者かに思いっきり脳天をどつかれてしまった。

勢いで振り返ると、両腕で数え切れないチョコを抱えながら
まださらにチョコをせびるジロちゃんの姿。そ…そんなにもらっても食べれないでしょうよ…。


「…ジ、ジロちゃんはもういっぱいあるでしょ?」

「そういう問題じゃないもん。ちゃんのが欲しいの。」







きゅんっ






「うっわ、がきゅんってしてるぞ。ジロー言葉のチョイスミスだぜ。」

「そ…そりゃ、きゅんってするでしょ!そんなこと言われたら!一々茶化さないでよ!」

「ほら、授業始まっちゃうよ。ちゃん、早く。」


無表情で手をこちらに向けるジロちゃん。
たまに何故か俺様っぽい感じになることがあるんだよね、ジロちゃんってば。
そういうところがたまらんわけですけれども。


「じゃあ…はい。」

「わ〜!ありがとっ、ちゃん!これ手作り?」

「うん!味には自信あるから安心してよ。」

「ほらほら、早く!俺も!」

「…っふ、なんだかんだと言いながらがっくんも私からの愛がほしのでも貰っとかねぇと勝てないしな!」

「……ん?」






「だからー、俺達3人で誰が1番もらえるか勝負してんだよ。だから、ほら。のもくれ。」







わけのわからんドヤ顔で手を差し出してくるこの2人は本当もう…どつきまわしてやりたい。
え、じゃあさっきのジロちゃんのきゅんきゅん発言も…個数に目がくらんで…!

ちらっとジロちゃんを見ると、てへへっ☆みたいな顔をして可愛く舌を出していたので
やっぱり私は氷帝なんか一刻も早く見捨ててやる、と決心しました。



























キーン…コーンカーン…コーン…



1時間目の国語が終わり、ぐいっと背伸びをしていると
廊下から物凄い地響きと歓声が聞こえた。

何事かと廊下側まで見に行くと、チャイムと同時に飛び出してきた各クラス女子が
廊下を必死の形相で走っているではありませんか。
……氷帝のバレンタインってすごいな。

他のクラスとは違って、テニス部員を有していないうちのクラスは
女子男子共にどこかゆったりとしている。
メロスも逃げ出すほどの気迫で走る女子軍団を見て、クラス全員で感心していた。


「ねぇ、さんはあげに行かなくていいの?」

「へ?あ…あー、まぁ他の皆の邪魔になっても悪いし…ねぇ。」

「そっかぁ。…あ、メールだ。……跡部君、今屋上にいるみたいだよ?」

「跡部?なんでそんなのわかるの?」

「ほら、これ。」



クラスメイトの女子、華咲さんが見せてくれた携帯のメール画面には
≪緊急連絡網≫と題されたメールが1通。
本文にはテニス部員の詳細な居場所情報が書かれていた。

……あ、改めてすごい。あいつらも、女の子たちの情熱も。



「今は混んでるだろうから、跡部君は諦めるかぁー…。」

「ほ、他の皆の情報も載ってるの?」

「うーん、見つけた人が連絡メールする感じになってるからねぇ。今見つかってないのは…忍足君だけだ。」

「へー…。」


























「…なんや、びっくりした。か。」

「やっぱりここじゃないかと思った。」


華崎さんの話を聞いて、唯一見つかっていない忍足がいるのはここしかないと思った。
保健室の横にある備品倉庫。
「なんかこの匂い落ち着くやろ。」とか、この前言ってたもんな。たぶんそれカビの匂いだと思うけど。
それにこんな場所に来る人はおそらくいないだろうし。


「…よっし、華崎さんにメールし「おい、やめろや。」

「……皆、あんたに折角チョコ持ってきてくれてんだからさー。」

「まぁ、嬉しいねんけどな。あれ休み時間毎回来よるから、ちょっと休憩もせんとな…。」


…っち、贅沢な悩みだわ。忍足のくせに。
何ちょっとアンニュイな表情でかっこつけてんのよ、忍足のくせに。

備品倉庫の椅子に座り、携帯を見つめる忍足と
倉庫の扉付近で立ち尽くす私。

忍足を見つけて皆にメールして、女の子たちから感謝されて
あわよくば私に対するファン達の敵対心を軽減させようという知略があったのにさ。っちぇ。


「…も持ってきたんか?」

「?」

「チョコや、チョコ。特別にもらったるわ。」

「何視点から話してんのよ、あんたは。…一応持ってきたけど、なんかムカツクわね。」

「どーせ、俺達ぐらいにしかあげる奴おらんのやろ?やしな。」


やれやれ、みたいなポーズで手をあげフッとあざ笑う忍足の野郎。
俺に直接チョコ渡せるとか光栄に思わなアカンで?とか、うわ、本当にいよいよ殴りたい。


「…はんっ、自惚れないでくださいますー?私だってあげる人はたくさんいるんだから!」

「ほー?誰や、言ってみ。」

「昨日は、立海まで行って皆にあげてきたんだからね!どうよこの健気な女子感!」

「……立海?」

「それはそれはもう、皆涙してたわよ。はるばるチョコを持ってきてくれるなんて女神か!みたいな。」

「嘘つくな。」

……まぁ、ちょっと脚色は加えたけどちゃんと渡したもんねーだ。私だって女子の仲間入りしてんだから、とっくに!」


腰に手を当ててふんぞり返ると、一瞬真顔になった忍足は
興味なさそうにふいっと顔を逸らし、手元の携帯をぽちぽちと打ち始めた。

っく…自分から話題振っておきながら何なのよ、こいつは…!


「…自分、立海好きやなー。」

「……へ?」


携帯画面を見つめながら独り言のように呟くもんだから
一瞬反応が遅れてしまった。

もうムカツクからさっさと帰ってやろうと思ったのに
呼び止めるようなことを言うもんだから、聞くしかなくなるじゃん。


「俺らにあげるより先に立海まであげに行くとか、えらい熱心やん。」

「まぁ、榊先生のお使いもあったしね。」

「…ふーん。」

「何よ、言いたいことがあるなら言えば?」

のくせに生意気や。」


やっと顔をあげたかと思えば、何を考えているのかわからない表情で。
…こういう時の忍足はよくわかんないけど、関わらない方が良い。
しかし、こんな2人っきりの状況だと引くに引けなくて…。
気まずさからか、言わなくていいようなことまでペラペラしゃべっちゃう。


「ふふん、私がトキメキ体験してきたのがそんなに羨ましいわけー?」

「トキメキ体験?」

「もう本当、立海のメンズはなんというか…ねぇ…駄目だ、思い出した。」


自分で言って、自分で勝手に思いだして赤面してしまう。
あんな至近距離の幸村君とか、仁王君とかほら…切原氏だって…
うわわわ、昨日ノートにまとめたからなのか詳細に思いだせるよ…!


「…きも。何赤くなっとんねん。」

「う、うっさいわね!とりあえず行くから!」

「待ちーや。」


こんな場面を他の人に見られては困る。
まるで、私が忍足と恋愛関係にあって赤面してるみたいじゃないか。
想像できないわ、そんなのおぞましい…!

さっさと出て行こうと思うと、次は腕を掴まれてしまった。

何事や…何してはんねん、忍足はん…。




「何?」

「氷帝のマネージャーやったら、マネらしく俺らだけ見とけや。」


























ここで、きゅんっとこないのはやっぱり忍足は私のタイプから大きくはずれているためなのか。


そんなことを考えているのが読まれたのでしょうか、顔面に思いっきりチョップをくらってしまった。
思わずおでこを抑えると、両手首を忍足に掴まれてしまい何だか昨日の屋上での出来事を思い出してしまう。

……まぁ、相手が忍足なので仁王君の時のようにドキドキしたりはしないんだけど。
しっかし相変わらずデカいわね、壁に追いつめられて見下ろされると中々の迫力がある。


「いたい!…何なのよ、離せ!」

「立海の奴らに何してもろたん?」

「は?……えー…あー…言えない。」

「…何を女子みたいにしおらしくなっとんねん。イラっとくるわー。」

「イ、イラってなんなのよ!いいでしょ、ちょっとぐらい良い思いしたってさー!」

「俺とおる時は良い思いしてない、言うんか?」

「え、あんた達と居て私が良い思いをしてると思ってるわけ?」

「十分してるやろ、今女子が必死で探しまわってる俺と、こんな密室で2人きりやねんで?」


ニヤっと意地の悪そうな表情をする忍足に背筋がぞくっとする。
いつぞやのホレグスリ事件を思い出すようなその顔に、脳が緊急警報を鳴らしている。


「あんた、私が嫌がるってわかってやってんでしょ!」

「せや。嫌やったらはよ言いや、何されたか。」

「…っ!……っ平たく言えば、今のこの状況みたいな感じでその…そのなんか色々されそうに…。」



いや、未遂だからね!っと言い訳をしてみるけども
忍足の目は大きく見開かれたまま。……驚きすぎでしょ。


「……世の中には色んな趣味の奴がおるもんやなぁ。」

「失礼なこと言ってるとぶっ飛ばすわよ?」

「まぁええわ。ほんで?そういう良い思いを俺ともしてみたいってことやな?」

「どこをどう繋いだらそんなファンタジーな話になるんだ、おい。」

「照れんなや、じっとしとき。」

「じ、じっとしてられるか!こうなったら一揆を起こしてやる!大声出すわよ!」

「ほな、その口塞いだるわ。」







はて。

口を塞ぐ。

2人とも両手がふさがっている。

……。














「っ…っき「アホか、冗談や。大声出すな。」

「もがっ…!」



忍足がとっても気持ち悪いよ、ママ!なんだこの全然必要ないトキメキイベント!
いや、むしろトキメキイベントじゃない。恐怖イベントや、こんなもん!

うすら笑いを浮かべながら私の口を手で塞ぐ忍足。
空いた片方の手でみぞおちに一発パンチをいれるとあっさり離れてくれた。


「ゴホッ…ゴホッおま…どんだけパンチ重いねん…。

「あっ…あんたマジで洒落にならないことはやめてよね!」

「……最初からこれ出しとったらそんなんせんで済んだのに、アホ。」





うずくまりながら、こちらを睨む忍足の片手にはいつのまにか私の手作りブラウニーが。
……いつ取ったんだそれ、あなどれない奴。

っていうか、それが欲しいがためにこんな恐怖イベントを体験させられたのですか私は。



「…最初から素直にくださいって言えばあげたのに、バカ忍足。」

「言うか、そんなもん。…時間や、行くで。」



ドアを開けて廊下を優雅に歩いて行く。
…忍足を探してた女の子達ごめんなさい。

歩きながらガサガサとラッピングを開け、ブラウニーを口に放り込む忍足を見ていると
いつもなら沸々と怒りがわいてくるはずなんだろうけど。



不覚にもちょっと可愛いと思ってしまった。



不覚にもね。