氷帝カンタータ





番外編 プティ・タ・プティ





あっという間に放課後になってしまった。

それでもまだ学園内はざわついている。
こんな時間にこれだけの生徒が残ってるなんて珍しいぐらい。
やっぱり、最後の最後まで諦めたくないよね。

例えばバレンタインに告白してカップルになる男女もいたりするのかな?
チョコと一緒に「ずっと…好きでした…。」「俺も…。」
みたいな感じなのかな!?いいな、いいな!私もそんな相手が欲しいな!



ボコッ


放課後、荷物をまとめる途中にボーっと窓の外を眺めながらニヤニヤしていた私。
するといきなり机の上に黄色い物体が飛んできて私のかばんを華麗に机から落としたのです


「おわぁぁあ!っ敵襲じゃぁああ!隠れろ皆の衆!」

「きゃー!なになに!?」



ここ最近は物騒な事件が多いので、クラスの皆でこの前学級会で話したところなんです。
何かあった際にはすぐに机の下に隠れましょうって。
(主にアメリカのニュージャージー州とかロサンゼルスの事件とかを想定しています
 なんとグローバルなクラスでしょうか、このクラスは。)


咄嗟に机の下に避難した私は、他の机を確認してみると
他の皆も机の下に無事避難できていました、わぁなんか楽しいコレ。



「……のクラスって全員バカなんだな。」

「な、ある意味楽しそうだなこんなクラス。」




机の下から周りの様子をうかがっていると、ぺったぺたと上靴を
引きずりながら歩く合計6本の足。どんどんこちらへ近づいてくる。

このナチュラルな侮辱と声はあいつらに違いない。


「なーにしてんの?ちゃん。」

「………ちょっと、驚かせないでくれる?」


無邪気な笑顔で机の下を覗きこむジロちゃん。
クラスの皆も、教室に入ってきたのがテニス部3人組だとわかって
歓喜の悲鳴をあげている。まったく、人騒がせな。


「コントやってねぇで、行くぞ。」

「コントじゃない、これは訓練なのよ。見た?私達の統率のとれた姿を。っていうかボールをむやみに投げるな。」

「いいなー!ちゃんのクラス楽しそう!俺もこのクラスがいい!」

「「「っきゃーー!」」」


ジロちゃんが笑顔を皆に向けた瞬間にとろけるような黄色い声援。
スゴイ。これがアイドルって奴か、すごいよジロちゃん…!


「お、それチョコ?俺にくれんの?」

「へ!?え…あ、あああげます!もらってください!」

「やーりぃ!サンキュな!」


少し目を離した隙に、がっくんがクラスの美影さんに話しかけていた。
美影さんが持っていたチョコを目ざとく見つけてなんとおねだりしているのである。
その顔は明らかに、それはもうあざといぐらいに可愛い笑顔で…!
そりゃクラス1の秀才美影さんも落ちるわ!頬を染めるわ!


「あ!ずるいがっくんー!俺も俺も!」

「え…あ、あのもう持ってな…」

「ジ、ジローくん!よかったらこれ…。」

「わぁ!俺もらっていいの?ありがとー、笹川さん!」

「わたっ私の名前知って…!?」

「知ってるよー、笹川さんこの前も飴くれたでしょ?」


ああ!あの笹川さんが…!クラスの癒し系女子NO.1の笹川さんが
額に手を置いて眩暈をこらえている!何だこの状況、カオスだな!
ジロちゃんはナチュラルにプレイボーイというか、
もうモテるために生まれてきましたみたいな感じなんだね、天は一物も二物も与えすぎだよこの子に!



チョコが欲しい3人、そして3人と関わりたい女子。
双方の利害は一致した。
あっという間に慎ましやかな私のクラスは祭と化した。

お…おお、ご覧下さいあの一般男子達の怨念のこもった目線を…!
いつもはこんなに間近でテニス部のテニス部たる所以を見せつけられることもないから、
いきなりの光景に驚きと悔しさで動くこともできないのでしょう…。

まるで田舎町にやってきたイオンモールに反抗するも、どうしようもできない下町の商店街のようではないですか…。
頑張れ…頑張れ男子!
イオンモールなんかに負けるな…!私は大好きだよ、商店街!


「……じゃ、私先に部室行ってるねー。」

「あ、おい待てって!」

「部室行く前にやることがあんだって!……皆、サンキューな!」

「もらったチョコ食べて部活頑張ってくるねー。」

「「「いってらっしゃーい!!」」」



ああ、皆超いい笑顔。
いいじゃんいいじゃん、素敵じゃん、青春じゃんバレンタインデー!

いつも他クラスの親衛隊に怯えて、遠くから見守るだけだった
クラスの女子がこんなに嬉しそうにしてくれるんだったら…
今度無理矢理にでも跡部を引っ張ってこようかな。跡部ファンも多いし。



























、お前今日ただのバレンタインデーだと思ってねぇ?」

「……?どういう意味?」

「今日はなんと…長太郎の誕生日なんだぜ!」


ドヤ顔でふふんと鼻を鳴らす宍戸。
…甘い、甘すぎる…。私がちょたの誕生日を忘れると思うことが甘すぎる!
私はねぇ、1か月前からこの日の為に手作りプレゼントを製作してきたんだから!


「全てはちょたの為…!今日私はちょたと結ばれます。」

「おい!鳳の折角の誕生日を闇の歴史にするつもりかよ!」

なんだ闇の歴史って!
どう考えてもキラキラピンクなハッピーデーでしょ!」


がっくんが私の肩を掴み、真剣にそんなことを言うんです。
手作りプレゼントで闇の歴史を作り上げる女子って一体何だというんでしょう。

いつものようにぺちゃくちゃとしゃべりながら歩いていると
もう部室についていた。ここにくるまで、ちょこちょこ呼びとめられては
お菓子を渡されていたこいつらは、改めて言うけどとんでもないモテ男集団だ。



「…おっほん、まぁ聞け。俺に作戦がある、1ヶ月考えた壮大な作戦だ。」

「えー、宍戸の作戦とかどうせあれでしょ。ちょたがドアから入ってきたらクラッカーならして
 おめでとぉー☆とか言いながら折り紙で作った首飾りをプレゼントするとかそんな昭和系サプライズでしょ?

「馬鹿にしてんのか。俺はなぁ、この誕生日を機に長太郎に変わってもらいたいんだよ。」


部室の真ん中のソファに座って熱弁する宍戸と、その横の机に座って
もらったチョコレートを開けて中身を確認するがっくん、ジロちゃんそして私。

宍戸の話:チョコ=0:10ぐらいの割合で扱っていた私達に宍戸の渇が入ったところで
やっと私達も宍戸の作戦とやらを真剣に聞くことにした。

ちょうど部室に、忍足とぴよちゃんさまがやってきて。
そして最後に樺地が入ってきたところで宍戸がホワイトボードを駆使して説明を始めた。


「…ちょっと待ってよ。跡部がいないんですけど。」

「跡部がこんな時間に部室これるはずないやん、まだチョコの集計中やろ。」

「集計!?い、意外とみみっちい奴なのね。」

「跡部さんは、毎年全員にきっちりお返しをしますからね。」


ぴよちゃんさまがさらっと言ったけど…それってスゴイことじゃない?
あいつ軽く300はもらってるよ?だってトラック積みだもん、まさかの。
驚いているのは私だけで、他の皆は慣れっこの様子。
私の質問は軽く流され、本題へと議題はうつる。







宍戸が熱く語った作戦はこうだ。


その名も「長太郎☆漢の誕生日」


嬉々としてこのタイトルを宍戸が発表した時の
あの部室内の笑いをこらえるムード、たまんなかったな。
1ヶ月温めたタイトルがそれかよって、よくつっこまずに我慢できたな私。


まず、ちょたが部室に入る時に1人が部室内でスタンバイをする。


その1人は腹にベルトを巻きつけている。
ベルトにはスイッチがついてて、それをちょたに押させるのがミッション。

ただ、普通に押させるだけでは意味がない。
ベルトを巻きつけた人物は長太郎に闘いを挑むことになっている。
闘いなので、こちらもベルトを守ろうと必死に戦うし
ちょたもスイッチを押すためには真剣に戦わなければならない。


優しいちょたのことだから、きっと人と喧嘩なんてできないし
ましてやベルトのスイッチを殴ることなんてできない。
だけど、そんなことでは宍戸曰く「いつまでたっても漢になれない」とのこと。

誕生日に試練を乗り越えてこそ、やっと男になれるのだそうだ。


気になるスイッチについてだけど、このスイッチをちょたが殴った際には
スイッチが点灯し、誕生日をお祝いするメロディが流れ
部室内の電気が消灯し(誰かが手動で消すらしい、可愛すぎるだろあんた達。)
隠れて見ていた皆が出現し、一斉にクラッカーをならしてお祝いするのだそうだ。

なんと陽気なパーティーなんだろう。
まるでアメリカのホームドラマのようなアットハート展開じゃないですか。






「…宍戸にしては中々面白い計画じゃん!のった!」

「ああ!鳳が喧嘩吹っ掛けられて応戦するところとか見てみたいよな。」

「でもー、そのベルト巻きつけて対戦するのは誰がやるの〜?」

「よくぞ聞いてくれたジロー。この人選にはかなり悩んだんだが…




















 。頼んだぜ。」








































「お前は、頭が、おかしいのか。」

「いってぇ!やめ…やめろ!離せ!」

「なんで私がそんな危険な役しなきゃなんないのよ!」


キラキラの笑顔で依頼された内容は
どう考えても私がやるべき役割じゃないですよね?

え、ちゃんと話を聞いてたつもりなんだけど…
だって長太郎に殴られる役割なんですよね!?

自分の脳内で処理しきれない内容に比例して
私が宍戸の頭を締め付ける指の力はどんどん増してゆく。
久しぶりにこんな本気のアイアンクローしたよ。



「だって俺達がこの役やったら、長太郎が遠慮して本気だせないだろ?」

「なんで私相手なら本気が出せるだろうという結論に至ったのか30文字以内で述べなさい。」

「確かに、なら簡単に倒されへんしあいつも真剣になるんちゃうか。」

「やだよ!私ちょたと喧嘩なんかしたくない!」

「これも鳳の為なんだぜ、!一肌脱いでやれよ!なんのためのマネージャーだよ!

「部員に殴られるための女子マネージャーなんか聞いたことないでしょ、馬鹿!」



絶対やだ、ちょたに殴られたりしたら私はもう一生立ち直れないぞ。
主に私が葛藤している部分というのは「ちょたに嫌われたらヤダ」というところであって、
「ちょたに殴られるのが怖い」という意味ではないところが、なんかもう、残念。





「こんなとこで時間とってる場合じゃねぇんだって!もうすぐ長太郎来るから!ほら、!」





宍戸がロッカーから取り出したベルトは案外本格的で。
1ヶ月かかっただけあるな、と思ったけど…本当に私がやる流れなの?これ。
なんであんた達そそくさと部室から退避しようとしてんの?

私がちょたの本気のストレートをくらって泣き叫ぶ可能性は想定してないの?と問うと、
あっさり宍戸から「それは想定外だったな…」と言われてしまった。なんだ、そのきょとん顔。殴りたい。





「…とにかく!これも長太郎の為なんだぜ!いくぜ!ファイッオー!」

「「「オー!!」」」

「……おー…。はぁ、憂鬱すぎる。」



























ガチャッ



「すいません、遅れま……っ、あれ?先輩?」

「…………。」

「ど、どうしたんですか?変なベルトなんかつけて。」

「きたな、長太郎。」

「へ?」

「私の死を糧として伝承者の道を歩むがよい!」

「…え、えー…っと。」









部室の外では…



「ぶふっ、あいつ…長太郎に北斗の拳ネタが通じる訳ないだろ。」

「イヤイヤ言ってた割には、ノリノリじゃんな。」

「ほんま悪役似合ってるわ。見てみーや、あの邪悪な顔。

「…ちょたちゃん混乱してるねー。」









「貴様の誕生日…。俺を超えてゆけ!」

「何言ってるんですか、先輩。他の先輩はどこ行っちゃったんですか?」

「このベルトのスイッチを押せば貴様をここから解放してやろう。」

「……じゃ、じゃあ。」




ヒュッ




テクテクと無邪気な顔で近づいてくるちょたに、
目にもとまらぬ右ストレートをかすらせる。
驚いた顔で飛びのいたちょたは、やっと私が本気であることに気づいてくれたようで。

……この演技中々楽しくて笑っちゃいそう。

そして窓の外で爆笑してるあいつらは後で絶対北斗百裂拳をお見舞いする。



「あ…ぶない…!ほ、本気ですか?先輩。」

「本気よ。……退かぬ!媚びぬ!!省みぬ!!帝王に逃走はないのだぁああ!!」


サウザー様の名台詞と共にちょたに襲いかかると、
軽く避けられてしまう。その割には攻撃をしかけてこないちょた。
……やっぱり優しすぎるのだ、君は…!

3年生なら…間違いなくこの状況で私を投げ飛ばしているよ…!




「や、やめてください!先輩を殴るなんて…できません!」

「それが命取りなのよ!男の子なら貴様をこの場で倒しておれが最強の男となろう!!ぐらい言えないの!?」

「言わないですよ、そんな変なセリフ!」

「変とは何かー!ラオウを侮辱するつもりか!」


相変わらず防戦一方のちょたに、次々に拳を打ち込む私。
そのどれもがヒラリと交わされるところを見ると
やっぱり健全な中学生男子。身体能力は私より何段も上だ。


「わ、わかりました!せめてそのベルトのスイッチを背中側にしてくれませんか?」

「…ん?なんで?」

「いや…本当に女の子のお腹を殴るなんて無理です。」


















「おい、普通に悶えてんじゃん。あの表情。」

「長太郎はサラっとああいうこと言うからなぁ。」

「あ、ちゃん普通にベルトの向き変えてるし。言いなりじゃん。」

「…まぁ、それで鳳が本気になれるんだったらいいでしょう。」














なんなの、この長太郎の何とも言えないオーラは…。
もう本当こんな闘いやめて今すぐ抱き合いたい…!
殴ってごめんねって謝ってプレゼント渡して一緒に帰りたい!

だけどそれを奴らが許すはずもなく。
ちらりと窓の外を見ると、「いけいけ!」と口と目と手ぶりで必死に合図をしていた。


「…これで、ちゃんと本気で戦えるっていうのね?」

「……そうしないと先輩の気がすまないんですよね?」

「…いくわよ!」


だだだっと走ってアッパーを打ち込むと、ひらりとかわしたちょたが
私の背後にまわる。いけない!スイッチを押されるっ!

野生の勘というか、本能というか、
背後にまわられた恐怖からつい振り向きざまに回し蹴りを繰り出してしまった。


「っっ!」


その蹴りはちょたにクリーンヒットするかに見えたけど
ちょたが左手でばっちりガードしていた。
少し顔を歪めるちょたについ駆け寄ってしまいそうになるけど
ここは心を鬼にして…!ちょたのためなんだから…!



「…っふ、やるじゃない。」

「……先輩…、ピンクのパンツが見えてましたよ。」

「なっ!!」

隙あり!


ちょたが余りにもちょたらしくない発言をした。
一瞬混乱した隙に、ちょたが長い腕を伸ばして
こちらに向かって来る。




あぁ、ごめんみんな…!


ここで負けちゃうんだ、私…!



だけど、ちょたは十分冷静で強い男です。




受け身をとる隙もなく、あぁ、これまでかと思って目を閉じると




感じるはずの衝撃はなく、





その代わりに温かい何かに体全体が包まれていた。















「…どうしたんですか?先輩。何かイヤなことがあったんですか?」

「え、ちょ…ちょ、何?!」


大きな体で私を抱きしめるちょたが、
頭上から優しい声で語りかけてくる。

なんだこの状況、動けない!


「いつもより荒れてたみたいだから…心配になって…。」

「ち、違うのよちょた。早くスイッチをなぐ…」

先輩に手を出せるわけないじゃないですか。」



ぎゅっと力を強めて抱きしめるちょた。


私の脳内では、宍戸がアホみたいに熱弁していた計画など


まっさらに消え去っていた。








「わ…」

「わ?」













「我が生涯に一片の悔いなし!」




スパコーンッ!













ちょたを抱きしめ返そうとしたその瞬間に
背後から大きなハリセンで頭を殴られた。

衝撃で我に帰った私が見たものは
鬼の形相で腕組をする宍戸てんぱいと、その他面々。

……あぁ、忘れてた。




「あれ?どうしたんですか、宍戸先輩!」

「どうしたんですかじゃねぇよ!空気読めよ長太郎!

「…え?」

「ええからこのスイッチはよ押したって。」

「あ、はい!」



私から離れたちょたが、背中にあるベルトのスイッチを
恐る恐る押すと





♪ハーッピバースデェートゥーユゥー


ハァッピバァスデェトゥーユゥ♪








静かな部室に響き渡る、聞き覚えのある声。

誰も言葉を発することなくスイッチから流れる音楽に集中していた。




♪ハァッピバースデェ、ディア鳳…。


 ハッピバースデートゥウ…ユー♪




「……おい、宍戸。これ…。」

「どうだ、すげぇだろ。跡部の生歌だぜ。」

「いや、あの…なんか…ねぇ。跡部ってやっぱり凄い奴だったんだね。

「ようこんなん頼めたな跡部に。」


これをボイスレコーダーに録音している跡部と
それを見守る宍戸の図を想像するとシュールすぎてなんかもう…!

なんでそんなに愛すべき馬鹿なんだ、あんた達は…!



「おい!皆用意しろ!いくぞ!…せーの!」


パンッ パーンッ



「「「「誕生日おめでとー!!」」」」



「え、あ…あ?!そういうことだったんですか!」

ちゃんがあまりにも白熱した攻防繰り広げるから俺、一瞬誕生日のこと忘れちゃってたー。」

「いや、やっぱり真剣勝負だからさ…!ちょたゴメンね、驚かせて!」

「いえ…あの…俺、そうとは知らず…。」


ぼーっと立ち尽くしたちょたの顔がみるみる赤くなっていくのを見て
生温かい目で見守る私達3年生+2年生。
あぁ、なんか幸せだなぁ。これも青春だよね、なんか。



「な。やっぱり鳳はやさ男だな!」



ニカっと笑ったがっくんが、ちょたの背中をばしっと叩く。
それに続いて宍戸も苦笑いしつつ、うなだれるちょたの頭をガシガシと撫でた。


「私はちょたはこのままで良いと思うわ…。柔は剛を制すだよ…。」

「…先輩のことだから、役得とか思ってるんでしょう。」

「バレた?いやー、良い思いさせてもらったわ。」

「やめてください、もう本当に…。恥ずかしい…。」

























「さて!私もちょたに誕生日プレゼント持ってきたよー。」

「え…ありがとうございます!」


部室に集まった皆がソファに座るちょたを取り囲み
次々にプレゼントを渡していく。
こういうところ、本当に仲間思いというか。

手作りブラウニーはバレンタインのモノとして渡したけど、
ちゃんとプレゼントだって持ってきてるんだから。

手渡したのは青い水玉模様の袋。
ありがとうございます!なんて言いながら
キラキラした目でそれを開けるちょたが可愛くて可愛くて。



「……なんだそれ。」

「ちょっと見せてみ?……なんだこれ筆箱?」

「そう!なんとちゃん手作りペンケースです!パチパチー!」


ちょたが開けた袋の中には布製のお手製ペンケースが。
不思議な顔をするちょたの手からそれを奪いまじまじと見つめる宍戸にがっくん。


「…先輩、俺の筆箱がなくなったこと覚えててくれたんですか?」

「うん、この前買わなきゃーって言ってたでしょ?」

「…ありがとうございます!」


ちょっと涙ぐむちょたが良い子すぎてこっちが泣きそうだ。



「いや…いやいやいや!こんな筆箱使えねぇだろ!見て、これ!」

「え?なになに…"I am a tennis player."ぶふーっ!うわ、だせぇええ!

「ちょ、ださくないださくない!ちょたはテニス好きだもん!」



感動しているちょたの後ろでは、悪ガキ3人組がお手製筆箱を盛大に馬鹿にしていた。

ベージュの布に、ピンクの刺しゅう糸で縫った文言にどうやら爆笑しているらしい。
ペンケースとしてはレベルが高いはずなのになんでこんなに馬鹿にされなきゃならんのだ!

がっくんとかお腹かかえて床に転がってるし、宍戸もジロちゃんも涙流して笑っている。
こいつら…!人が折角作ったものを…!




「はははっ!ひ…ひぃ…ダメだ、腹いてぇ……アイアムテニスプレイヤー…ぶふぅっ!

「…ちょっと見せてみ。っく…ふふ…お前…これなんやねん…。」

「だからー、それはちょたの名台詞でしょ!」

「≪一球入塊≫先輩、漢字間違ってますよ。

「ええええ!うそ!」


ぴよちゃんさまが呆れた顔で手にしたそれを奪い取ってもう一度確認すると…
確かに入魂の「魂」が「塊」になってる、なんだこれ恥ずかしい!

失笑する忍足にぴよちゃんさま。
樺地も顔を真っ赤にして笑いをこらえている。
か…樺地まで笑うなんて、お姉さん泣いちゃうよ!?



「ちょ…ちょた、ごめんこれ作りなおしてくる…。」

「ふふ、いいですよ。それ使わせて下さい。ありがとうございます。」




俯く私の手からペンケースを取り
首を傾けてにっこり笑うちょたはやっぱり天使です、氷帝の最後の良心です。

ちょたならそんなペンケースでも使いこなしてくれるって信じてる私…!
結局イケメンなら何持っても大丈夫だから安心して!と言うと、苦笑いされたけど。



「やめとけって、長太郎。そんなの使ってたらお前気が狂ったのかと思われんぞ。

「ぶふっ、そ…そうだぞ…お前それ日本語にしたら僕はテニス選手です!だぞ、ダサすぎんだろ!」

「ちょたがいいって言ってるんだからいいでしょ、この野郎!」



笑い転げる奴や、怒鳴り散らす私やそれを静観している奴。

当の本人であるちょたはニコニコ笑っていて。

色々あったけど…うん、ちょたが笑ってれば私は嬉しいよ!

来年もこうやってみんなでバレンタインを過ごせるといいな。なんて。

心の中でちょっぴり贅沢なお願いをしてしまうのでした。