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プロローグ





ちゃーん、次はどうすればいい?」

「あ、じゃあこのココアパウダーをざるに入れて振りかけてー…。」

「はーい、スゴイね。ちゃんのお家、お菓子作りの道具が色々そろってるー。」


今日は2月13日。
全国の乙女が、ホワイトデーへの布石を打ち込むために総力をあげる日…
だと去年までは思っていた。

私の自宅で行われているお菓子作りパーティーも既に2時間が経過している。
隣で必死にザルを振る瑠璃ちゃんに、湯煎でチョコレートを溶かす真子ちゃん。
もちろん作ってるのは、バレンタインデー用のお菓子だ。


「…っていうかさ、が1つ別に作ってるそれは誰に渡すの?」

「えっ!!い、いやー…あのー…まぁ、ほら…。」

「フフ、もちろんあの人だよね。」

「あー、なるほど。ついにも≪本命≫を作る年頃になったわけね。」


真子ちゃんが、私の手元を覗き込みニヤリと笑う。
その後ろからぴょこんと顔を出した瑠璃ちゃんまで、楽しそうにクスクスと笑っているんだから
たまらなく恥ずかしい。


「……あ、あのさー…。」

「何?」

「…バレンタインに…その、告白…したこととかある?」

「「えええええ!!」」

「違う!まだ、計画段階の話だから!まだ必要な情報を集めてるところだから!」

「うわー!ちゃん、頑張ってね!応援してるから!」


さりげなく聞いたつもりだったのに、やっぱり好奇心に満ちた目をキラキラさせる2人。
ああああ、きっと今私の顔は汗が噴き出す勢いで赤くなってるんだろうな。


「…でもさ…、いきなりすぎたら…引かれたりしない!?」

「いやー、バレンタインってきっとそういう女子の為のイベントでしょ?しちゃいなよ、告白。」

「も、もし…じゃあ、もし振られたらどうすればいいの!?その場で、土に還るしかないの!?」

「その時は、その時だよちゃん!渡す前から失敗することなんて考えちゃダメじゃん!」

「そうそう。まぁ、確かに今までがあの人に対して好きだって素振り見せてなかっただけに、相手は驚くだろうけど。」

「だ、だよね…。それが怖いんだよー、今まで何とか隠そうと平静を装ってきたから…。」


きっといきなり「本命チョコです★」なんて言われても…戸惑うんだろうなぁ。
瑠璃ちゃんは、ものすごくポシティブな応援をしてくれたけど
やっぱり本当に告白するとなると、考えるだけで心臓が鷲掴みにされているような息苦しさを感じる。


「でも、逆に真剣なちゃんって珍しいだろうから、思わずドキっとしちゃうかもよ?」

「…そんな上手くいくのかなー…。」

「…大丈夫だよ。それだけ気合入ってれば。」


いつの間にか手元で完成したハート形のガトーショコラを見て、真子ちゃんがポンっと頭を撫でてくれた。


「っていうか、いきなりだよね。前まで、告白はしないとか言ってなかったけ?」

「…そ、そうなんだけど…。私達も、一応高校生じゃん?」

「うん。でも、ちゃんが中学生の時も告白するチャンスはあったんじゃない?」

「…す、好きかもって思ったのは最近で…。でも、そう思うと、なんかこのバレンタインイベントで
 もし…他の子と付き合うことになっちゃったりしたらどうしようって…。」

「なるほどね、確かにそれはあり得るかもしれない。」

「…でも、誰かに掻っ攫っていかれるのを待つぐらいなら玉砕覚悟で突っ込んで行った方がいいんじゃないかと…。」

「その意気だよちゃん!」

「も、もしっ付き合えたりしたら、それはそれでラッキーだしね!」

「お、ポシティブ思考。そうだよ。そのぐらいの気持ちでいいんだよ。」


2人に話すことで、何となく1人で悶々と悩んでいた時よりも気持ちが軽くなった気がする。
おだてられると、全力で調子に乗るタイプの私は完全に浮かれていた。


「…よしっ!もし玉砕した時は、亡骸の回収よろしくお願いします!」

「そうならないことを願ってるよ!頑張れちゃーん!」


気合の入った≪本命≫に、リボンを勢いよく結び
2人と無言でハイタッチを交わす。
…なんだか戦場に赴くような緊張感。

でも、私から動かなければきっと前には進まない。



…頑張るぞ。