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Valentine's day with Taki





「……ハギーのことが好きです。付き合って下さい。」

「………新しいギャグか何か?」

「ギャ…違うよ!こ、告白だよ!」

「アハハ、の顔がおちょくってるみたいな変な顔だったから勘違いしちゃった。」

おちょくってる顔って…どんな顔だ…。」

「…なら、ごめん。まだの事友達以上には思えない。」

「え…、え、あ。ギャグじゃないよ?」

「本気なら尚更、ちゃんと答えなくちゃダメでしょ。」

「………私、振られたの?」

「うん、振られたよ。」

「……そ、そっか…。結構ハッキリ言うね、ハギー…。」


バレンタインの日の屋上。
真子ちゃん瑠璃ちゃんにもらった勇気と共に、
意気揚々と挑んだ告白。

部活が終わった後に、こっそり屋上に呼び出したまでは良かった。
あまりにもモジモジする私を見て、ハギーが気持ち悪いって
笑いながら言ったのも、まだ耐えられた。

だけど、今、最終確認もしたけど私は振られてしまったらしい。
…告白ってこんなにあっけなく終わっちゃうものなんだ。
アレだけドキドキしてた心臓が、今はやけに静かだ。



「……そ、そうだ。一応、これ作ってきたから…。」

「美味しそう、ありがとう。」



少し痛いぐらいに吹き付ける寒い風が、ハギーの髪をなびかせた。
空回りする本命チョコを見ながら、優しく微笑むその顔をみると
やっぱり、好きだなぁと思って泣けてきた。


「…ちなみに聞いていい?」

「え…。」

「どこが好きなの?」

「…そ、それを振られた後で言わないといけない?」

「これでも勘は良い方だと思ってたんだけど、正直全く気付かなかったから、の好意に。気になってさ。」

「…落ち込んだ時にいつもわかりにくいけど励ましてくれたり、何だかんだで大変な時に手伝ってくれたり…。」

「……へー、そういうのがには有効なんだね。」

「…でも、やっぱり1番は、ハギーが…見えないところでも、いつも努力してるところとか、
 他人にも厳しいけど、自分にはもっと厳しいところが…その、カッコイイし、尊敬できるなって…。」

「…………。」

「そんなハギーを見てると、私ももっと頑張らないとって思えるっていうか…。」

「……もういいよ、ありがと。」

「え。」


顔をあげると、既にハギーは私に背を向けていて、さっさと出入り口へと向かっていた。
じ…自分が言えって言ったくせに、興味ないのかよ…!
どこまでも女王様だな、と思いながらもこのままサヨナラしてはダメだと思った。


「あ、あの!すぐには諦めないかもしれない!」

「…どうぞお好きに。」


ちらりとこちらを振り返り、笑ってくれたハギーに少し安心する。
嫌いだっつってんだろ、ブタとか言われたらどうしようかと思った…。


静かに音を立てて閉められたドアを見ながら、ぼんやりと考える。
……振られた時って、もっと悲しくなったり、涙が出たり、するもんだと思ってた。
だけど、今の私は自分でも不思議なくらい心が穏やかだった。


「……まだ、って言ったよね。」


ハギーに振られた時のセリフが、ずっと心のどこかで引っかかっていた。
「まだ、のこと友達以上には思えない。」そう言っていた。



「…ってことは、もっと頑張れば…友達以上になれるのかな。」































「と、いう感じだったんだ。だから、今日から猛烈アタック作戦を開始しようと思ってる。」

ちゃんはいつも前向きだね!」

「ちょっと私感動したわ。そのポジティブさに。」

「……昨日改めて、ハギーに告白したら…なんか、このまま諦めたくないなって思って…。
 でも、迷惑じゃないか一応確認したんだよ。そしたら、どうぞお好きにって言ってたから地の果てまで追いつめようと思ってる。

「意気込みが軍曹並だね、ちゃん!」


ハギーに振られた次の日。
寝て、起きると頭の中がスッキリしていた。

昨日までの私はハギーの友達だった。
でも、今日からは友達以上になるために、精一杯頑張ろう!
「イタイ奴」と思われるかもしれないけど、
ハギーにはっきりと「やっぱりどう頑張っても恋人にはなれない」って言われるまでは頑張りたい。



朝、学校に着いてすぐ真子ちゃんと瑠璃ちゃんに
昨日あったことを報告すると少し残念そうな顔をしていたけど、
私が元気だったからなのか、逆にそのポジティブさを心配された。


「…しかし、友達から恋人に昇格するのってかなり大変だと思うよ。」

「うん…。それは、私も少女漫画を読んだり、様々なティーン向け雑誌の体験談を読むことで研究してるからすごくわかる。」

「そうかなぁ…。だって、これからはもう好き!ってことはバレちゃってるんだから、
 思う存分アピール出来る訳でしょ?肉食系女子にランクアップしたってことだよね!」


机に肘をつきながら考え込む真子ちゃんに、瑠璃ちゃんが笑いながら言う。
……肉食系女子…。確かに、今までの私はあのハギー本人にも悟らせないぐらいのレベルでしか
アピールを出来ていなかった。でも、もう隠す必要は…ないんだよね。


「…つまり、デートに誘ったり、部活の後で一緒に帰ったり、ハギーを思って作ったポエムとかを披露していけばいいってことだよね?」

「最後のは微妙だけど、うん。そのぐらい積極的にいったほうがいいよ!」

「要は、滝君にの女子の部分を意識させればいいってことだよね。」

「女子の部分!……え、こ、香水つけたりとか?」


瑠璃ちゃんと真子ちゃんが同時に吹き出す。
女子らしいことをしろ、と言われると意外に難しくて直感的に考えたのは
「取り敢えず、形から女子らしくしていこう」ということだった。
その答えが香水だったんだけど…可愛い女の子はみんな華から生まれてきたのかな?と思うような良いにおいがするもん。


「ふふっ、まぁ、それもいいんじゃないかな?」

「滝君、女子力高いしね。そういうの気づいてくれるかもしれないよ、髪型変えるとかさ。」

「……任せて、皆。私、今までたくさん雑誌を研究してきてたんだけど発揮する機会がなかっただけでね…。
 高校生になったら、ちょっと女子っぽくオシャレとかしてみようかなーって思ってたところなの!」

「わぁ、楽しみ!協力できることあったら言ってね!」

「ありがとう、瑠璃ちゃん!手始めにまず今日の放課後、メイクのグッズとか買いに行きたい!
 あとこの前、真子ちゃんが話してた風呂上りに、体に塗りたくるっていう…なんだっけ…マーガリンみたいな…

「ボディクリームだね!食べ物じゃないよ!」

「そう!アレを塗れば、真子ちゃんみたいに柔軟剤の原液かと思う程のフローラルな香りが1日中放たれるんだよね!

「いいね、もついにそういうことに興味持つ日がきたんだね。」


なんか…私、振られたはずなのに今かなりテンションが上がってる。
うん…。きっと、ハギーに告白するには自分の努力値がまだ全然足りてなかったんだ。
ハギーを好きっていう、自分の思いだけが先行して
ハギーに、女の子として好きになってもらえるような努力は出来てなかったのかもしれない。


自分に厳しく、努力を怠らない。
ハギーのそんなところが好きになったと、自分で言った。
そして、それを見習って自分も頑張りたい、とも言った。
その言葉に嘘が無いよう……よし!頑張るぞ!




































「……通学路で頭燃やされた?」

「そんな状況遭遇したことある?そんな場面、想像できる?」



朝。

そそくさと上履きに履き替え、廊下を走っていると
タイミング悪くハギーに遭遇してしまった。

よりによって、1番見られたくない人に真っ先に見つかるなんて…。
両腕で頭を隠してはいたけど、そんなの全然何の役にも立たない。
まじまじと私の頭を見つめるハギーの目線に、じんわり汗をかきそうになる。



「いや…なんでそんな髪の毛ぼさぼさなの。いつもぼさぼさだけど、今日はぶぉっさぼさだよ。」

「………した。

「なに?」

「モテかわゆるふわパーマにするためにドライヤーで試行錯誤したらこうなってたの!」

「………あれは、コテで巻いてるんだよ皆。逆にどうやったらそうなる訳?」

「わ…わかんないよ。気づいたら、水で濡らしても取り返しのつかないカールになってた…。
 取り敢えず、ケープを振って、くしゅくしゅすればゆるふわカールになるってCMで見たから振ったら、カチカチになった…。」

「…ふ……ふふ…、なんかよく見たら、目元も真っ黒だね。」

「っく…、昨日は成功したのに…!朝…急いでたら、なんかうまくいかなくて…。」


最悪だ…。努力した結果が全部裏目に出てしまった。
もう、自分ではどうにもならないと判断して朝イチで瑠璃ちゃんに整えてもらおうと思って
ちょっといつもより早めに登校してきたのに……!

ハギーはさっきまで驚いた顔だったけど、段々と含み笑いになってきてるし…
可愛いと思ってもらいたくて頑張ったのに、結果的に嘲笑されるなんて…どんな切ない運命だよ…。


「と、とにかく、急いでるから!」

「ちょっと待ちなよ。それで教室入る気?」

「仕方ないよ…、今まで女子をさぼってきた自分に対する残酷な運命だと思って受け入れるしかないよ…。」

「まぁ、それもそうだけど。……そうだ、部室がいい。」

「へ?」

「ほら、行くよ。直して欲しいんでしょ。」


そう言って、くるりと向きを変えて歩き始めたハギー。
……部室?って言った?意図がわからなくて、ボーっと立っていると
もう一度早くいくよ、と声をかけられた。















「…はい、これで少しはマシになったんじゃない?」

「す…すごいよ、ハギー…!編み込みじゃん、これ!私これやろうと思ったら指つったんだ!

は不器用だから一生出来なさそうだね。」


部室の鏡の前に立たされ、ボーっとすること3分ほど。
ハギーに髪の毛を弄られて、なんとなく恥ずかしいなぁなんて思いながらもじもじしていると
あっという間に、ちょっとオシャレでこなれ感溢れる編み込みおさげスタイルが出来上がっていた。

さっきまで爆発していた海賊風ワイルドパーマは跡形もなく消え去っていた。


「で、メイク落としは持ってるの?」

「……お、女のメイクは魔法の甘いマスクだから男の前で落とす訳には「何言ってんの、それデスマスクみたいだよ。」

「デ…デス…、それは既に貴様は死んでいるってこと?」


「なんか違和感バリバリだから落とした方がいいんじゃない?っていうか、なんでいきなり化粧?」

「…っう…。そ、それはー…そのー…。」


鞄にブラシを入れながら、呆れたような表情で私の顔を見つめるハギー。
……頑張ろうって決めた翌日からコレだよ…。さすがに、恥ずかしくて何も言えずにいると、先に言葉を発したのはハギーだった。


「…本当に、笑っちゃうぐらいバカだよね。は。」

「バカ…。」

「まぁ、いいんじゃない。そうやってもがいて、頑張ってるのが滑稽でっぽいよ。」

「…遠まわしに努力を全否定されてるよね。」


さすがに、ハギーには何でもお見通しなようだ。
そりゃ、振られてすぐにいつもはしないような化粧とかしてきたらバレても仕方ない。
ちょっとでも、友達から一歩踏み出そうと頑張ってみたけど失敗した。

…恥ずかしい。

もう何も言えずに、ソファに座って俯いていると
ハギーが少し近づく気配があった。


「…ん…?」

「……でも、この香水は結構好きな匂い。」

「っ!」


私が頭をあげると同時に、うなじのあたりに顔を寄せたハギー。
急な接近にびっくりして、思わず首を抑えて立ち上がると
クスクスと笑いながら、手を振って行ってしまった。

告白した時より、ドキドキしてる。


…もっと、もっと頑張って…
ハギーに、また褒めてもらいたい。

猛烈アタック作戦初日から、思い切り躓いてしまったけど
最初から失うものなんて何もない。
努力して、前へ進むだけだ…!






































「ハ、ハギー!今日、あの一緒に帰らない?」

「…いいけど。あ。朝のメイク落としたんだ。」

「うん!華崎さんが貸してくれた!」

「ふーん。色んな子に協力してもらってるんだね。」

「皆、応援してくれてるよ。私が必死になればなるほど痛々しくて見てられなくて心配なんだって!

「……ふふ、その気持ちわかるかも。」


苦笑しながら、席を立ちあがったハギー。
今日は部活がオフの日だというのは、リサーチ済だった。

初日から、ぐいぐいアピールしていく自分に正直驚いている。
でも、なんだか思い立ったら歯止めがきかなくて、
今日の放課後の予定まで、ばっちり作戦を練ってしまった。

…今のところは、嫌がるでもなく付き合ってくている様子のハギー。
……と、ということは、一応嫌われてはないってことでいいんだよね…。


「あ、あのね。ハギー。ちょっと音楽室に寄って行かない?」

「音楽室?いいけど、何か用事あるの?」

「……うん。」


それなら、この作戦は決行だ。
ハギーのことを思いながら考えに考えた、私の思いを伝える術。
私が、本気なんだってことをわかってほしい。














「誰もいないね。」

「うん、榊先生に、放課後貸してもらえるようにお願いしたから。」


まだ、校内が騒がしい放課後。
音楽室はそれに反してひっそりと静まりかえっていた。

通いなれたこの教室も、ハギーと二人きりだとなんだか緊張感が漂う。



「へー…。ピアノでも弾いてくれるの?」

「…う、うん。でもあの、メインはピアノじゃなくて…歌で…。」

「歌?、歌得意だっけ?」

「……ごほん。…では、聞いてください。ハギーに捧げる唄です。届け★恋のマジカルラブ・パッション!

「ちょっと待って、それどうしても聴かなきゃいけない?」

「安心して、結構良い曲に仕上がったから!…Hey YO!君に届けたいYO!湧き上がる俺のパッション!

「いきなりラップなの?……って聞いてない…。」





















…Ahーそんなこんなでやっぱり君が好きー。Hu〜♪………。はい。…うん、これでおしまいです。」

「……あ、やっと終わったの?」

「え、えへへ…。ちょっと直接的な表現もあったかもしれないけど、ど、どうだったかな?」

「最後の方、歌詞適当だったよね。【そんなこんなで】って表現、聞いたことない。

「…なんか、タイトル考えて…歌詞を書いてるうちに…ラブレター…みたいで、恥ずかしくなってきちゃって…。」

「出来れば、タイトルの時点で恥ずかしいって認識を持ってくれれば良かったんだけどね。」

「でも、私の思いは素直に書き下ろしたつもりだよ!」

「一人称が【俺】っていうのがもう何か、どういう気分で聞いていいのかわからなくてほとんど歌詞は頭に入らなかったかな。

「……そ、それは気が付かなかった…!そっか…これだと男が男に向けたラブソングだよね…!」

「……っふ……ふふ…。基本的にはベクトルが間違ってるよね。」


気持ちよくラブソングを歌い終えてみると、目の前のハギーは必死に笑いをこらえているようだった。
私の計画では、これだけ素直に好意を伝えられて赤面しちゃうレアなハギーが見られるはずだったんだけど、おかしい。

ついにはお腹を押さえて、椅子の上でうずくまっている。
……化粧に続き、これさえも空回り…!も、もうダメすぎる…!


「…歌詞は酷かったけど、ピアノの方は…が考えたの?」

「…うん、昨日の夜ハギーの写真を見ながら、考えた。」

わぁ、気持ち悪い。…でも、メロディは良いね。ちょっといつものと違って見えた。」

「ほ、本当に!?それはつまり、ちょっと女の子として意識しちゃったってこと?!」

それはポジティブすぎじゃない?ピアノが50点だとすると、歌詞でマイナス100点されてるから結果マイナスだよ。」

「そんなに歌詞酷かった!?ま…まじか…。やっぱりもうちょっとラップの部分で韻を上手く踏めてれば…。」

「そういうことじゃないけどね。……まぁ、いいや。笑わせてもらったよ、ありがとう。」


…笑わせたいなんて思ってなくて、全身全霊ガチンコで告白だったんだけど…
うん、でも、まぁハギーが楽しそうに笑ってくれてるから…それで結果オーライだと思おう。

なんだかんだ言いながら、こういう時に最後まで聞いてくれるあたりやっぱりハギーは優しい。


「…帰ろっか。聞いてくれて、ありがとう。」

「うん。笑わせてくれたお礼にの好きなパフェおごってあげる。」

「え、本当!?やった!早く行こ、この時間だと満席になっちゃうかも!」

「……はいはい。」


…なんかこういう時間も楽しいな。
今は、ハギーともっと仲良くなって…それで、欲を言えば
少しでもいいからハギーの気持ちが動いてくれれば嬉しい。


































「よし、今日こそは絶対誘う。ふー…、≪たまたまスーパーの抽選で当たったんだけど、一緒に水族館行かない?≫
 …うん、完璧だ。ちゃんと自然に誘えてる。」


バレンタインでの大玉砕から、2週間ほどが過ぎようとしていた。
あれからも、私なりのアピール作戦を続けてきた。
クラスの皆にも、まぁまぁ見れるメイクになってきたとお墨付きをもらった。
髪の毛は、ついに三つ編みも自分で出来るようになった。
女の子らしく振舞おうと頑張るうちに、心なしか仕草も女子っぽくなってきた気がする。

でも、まだハギーとの関係に動きは感じられなかった。
…そりゃ、すぐに効果が出るだなんて思わない。
友達として過ごした時間の方が長かったんだから、恋人候補になろうと思えばもっと時間がかかるのはわかってる。

…少しづつ、焦らず、頑張ろう。


ふぅっと一つ深呼吸をして、放課後の部室のドアを開こうとしたその時。
中から大きな笑い声が聞こえた。一瞬、ドアノブを開ける手が止まる。
そして、その笑い声の中に聞き間違えるはずの無いハギーの声が混じっているのがわかった。


「…で、どうなんだよは。」

「なんや、最近色気づいてるらしいな。クラスの奴らが騒いどったわ。」

「確かに、可愛くなりましたよね、先輩!」



ちょ、ちょっと…これはマズイんじゃないか…
明らかに私の名前が飛び出している…しかも、中にはハギーもいる…

…いや、いや、でももしかしたら、これはハギーの気持ちを探るチャンスかも…。
うん、2週間も経ったんだから、中間発表があってもいい頃だよね…!
…ちょたも、嬉しいこと言ってくれてるし、何か変化があるかも…しれない!

ついドアノブから手を離し、必死にドアに耳をつけて話し声に耳を澄ます。



「…どうって言われても…ねぇ。」

「まぁ、今までゴリラみたいだった奴が、ちょっとおめかししたゴリラになったってだけの話だもんな!」



…この際、がっくんの暴言は無視しよう。
大丈夫、大事なのはハギーの気持ちだけだから。でも後で絶対一発殴ろう。


「そうですか?なんだか高校生になって、それなりに綺麗になってる気がしますけど…。」

「雰囲気やろ、雰囲気。ほんまに可愛い子と並べたら一目瞭然や。」

「でも、頑張ってる感は出てるよなー。なんかいつ見ても滝の後に目キラキラさせながらついていって…犬みてぇだ。」

「発情期のな。」




ギャハハと大きな笑いがおこる。
っく…くそ、あいつら…!言わせておけば好き勝手言いやがって…!
現在、めでたく処刑リストの筆頭に加えられた忍足とがっくんの発言は出来るだけ脳内から排除して
必死に気持ちを落ち着ける。……ハ、ハギーは…どう思ってるのかな…。




「正直……困ってるよ。」

「まぁ、アレだけ付きまとわれたらなー。」

「あいつは突っ走る癖あるしな。」

「…どうすればいいのかな。」





……あ、なんか心臓が止まりそう。

さっきまでがっくん達に抱いていた怒りもスーっと引いていった。

間違いなく、ハギーの声で、困っていると言った。
話の流れからして、完璧に私のことだ。

ドアの前で、ずるずると膝から崩れ落ちる。

…私は、根本的なところで間違えてたのかもしれない。



「おい、何してんだ。」

「っ!」

「てめぇ、また薄気味悪ぃ覗き行為してんのか。警察呼ぶぞ。」

「ちょっ、し、静かに…!」


突然登場した跡部が、ずんずんとこちらへ向かってくる。
そのバカでかい声に反応したのか、中が一瞬静かになった。

これはマズイ。



「っご、ごめん!用事あるから!」


鞄を掴んで、咄嗟に駆け出した私の後ろで跡部が何か叫んでいた。
でも、今は何も考えられない。

私はなんてことをしてしまっていたんだろう。

































「おはよう、ちゃん。」

「お、今日は編み込みじゃん。結構上手くできてるよ。」

「…へへ、ありがとう。…あのね、私、もうやめようと思う。」

「…え、何が?」


昨日、あれから一晩考えた。
私は今まで、自分のことしか考えてなかったのかもしれない。

ハギーが力なく言った「困ってる」という言葉。
それが頭から離れなかった。


「…私がやってたことって、ただの自己満足だったのかなと…思って。」

「……恋のアタックって、そういうものじゃないの?」

「そ、そうだよ。どうしちゃったの?」

「…友達以上になりたい!って思ってるのは私だけで、ハギーはそうじゃなかったとしたら…
 見え見えのアピールとか…、ラブソングとかって…面倒だし、変なプレッシャーだったんじゃないかな。」

「ラブソングのあたりは確かに迷惑だと思うけど、滝君も楽しんでたんじゃないの?」

「……なんか根本的に、ハギーの気持ちを考えることを忘れてたなと思って…。あー、なんか…申し訳ない。」

「…じゃぁ、ちゃん…諦めちゃうの…?」


机に突っ伏す私に、瑠璃ちゃんが心配そうな声をかけてくれる。
……諦めるのは…やっぱり難しいけど…


「…ちょっと一旦落ち着こうかなと思って。」

ここにきてやっと落ち着くんだね。突っ走ってるも面白かったのに。」

「もう、真子ちゃん!そんな言い方…」

「…ふふ…、うん、なんか…自分でも、面白いと思う。」

「でも、今日も頑張ってメイクして編み込みにも挑戦してきたのは偉いじゃん。」

「……うん、折角慣れてきたのにここで全部放り投げちゃうのはもったいないし…。」

ちゃん!」

「わっ、びっくりした…何、瑠璃ちゃん?」

「きっと…、きっとちゃんの頑張りが届く日がくるって…信じてるから、私!」


私の両肩を掴み、涙目で応援してくれる瑠璃ちゃんにつられて涙がこぼれそうになる。
真子ちゃんがぽんぽんと私の頭を優しく撫でてくれるのが、心にしみる。


「皆…、色々ありがとう。こうして、はまた一つ大人の女性へと…近づいていくんだね…。」

「自分でそれ言う?」

「ふふっ、ちゃん本当女の子らしくなってきたよ!努力の結果だよ!」
































「あ……ハギー。」

「……今から移動教室?」

「…うん!教科書忘れちゃって、取りに戻ってたんだ。」

「へぇ。…………じゃあね。」



笑顔も無く、私の横を通り過ぎていくハギー。
……心のどこかでちょっとだけ期待してた。
昨日の話は誤解だったんだよ、って展開。

漫画やドラマの世界ではそうでも、現実は甘くない。
今日は朝の日課にしてたハギーの教室訪問もしてない、
お昼休みに一緒にご飯食べようって誘いもしてない。
今までずっとやってたことが、急になくなって
ハギーも少し変に思ったりするかな、なんて思ったけど
それすらも、無かった。

……悩みの種が無くなって、安心してるのかも。

ハギーは優しいから、2度も、友達である私を振るのが苦しかったのかな。
それが昨日間接的に振ることが出来て、良かったと…。


教科書が真っ二つになりそうなぐらい、ぎゅっと握りしめて
深呼吸をする。…もう、これ以上ハギーを困らせてはいけない。
きちんと、自分の中でこの思いとは決別しよう。


































「お、さんじゃん!久しぶりー!」

「…吉武君!本当、久しぶりだね!」


放課後。
今日は真子ちゃんも瑠璃ちゃんも用事があるらしいので、
1人で下校しようと、下駄箱で靴を取り出したところだった。

後ろからポンと肩を叩かれたかと思うと、
中学3年生の時の同じクラスの男の子、吉武君が立っていた。
高校生になっても相変わらずというか、むしろ輝きを増したように思える爽やかスマイル。
私達のクラスは端と端で1番離れているので、久しぶりに見たその笑顔に癒される。


「クラス違ったら、全然会わないもんなー。高校生になるとさ。」

「だね。今日、部活は?」

「テスト前だからオフなんだよ。さんも、帰るとこ?」

「うん。…そういえば、もうすぐテストかー…嫌だなー。」

「……あ、じゃあさ。近くのスタバで勉強会して帰らない?」

「へ…う、うん…いいけど、私が力になれることは何もないと思うよ?」

それはわかってる!
まぁ、久しぶりに会ったんだし話もしたいじゃん?」


吉武君の、こういう気さくなところが良いなぁと思う。
誰にでも人懐っこいというか、根っから明るいというか…。

こんな爽やかイケメンボーイとスタバに行けるなんて、
生きていたらラッキーなこともあるもんだなぁ、なんて思いながら
自然と足はスタバの方向へと向いていた。

















「っていうか、さんちょっと雰囲気変わったよね。」

「え…そ、それはどういう風に?より一層野性味が増したってこと…?」

「いやいや、可愛くなったなーって。佐竹とも言ってたんだよ。」

「えええええっ!っちょ…えっ…あの…それは好きってこと…?

「あ、ごめん全然違う!もっと軽い意味で捉えて欲しい!」


「そ、そうだよね!ごめんごめん!つい欲張りな願望が先行してしまったね!」

「…っふふ、でも中身は相変わらずだね。」

「……そこが最大の問題だって、真子ちゃんも頭抱えてた。」



お互い、高校に入ってからほとんど話してなかったからなのか
吉武君との会話はとても弾んだ。
つい、失恋のことなんて忘れてしまいそうなぐらいたくさん笑った。

きっと、こうやって毎日笑って過ごしてたらいつか忘れて行っちゃうんだろうなぁ…
なんてちょっとセンチメンタルなことを考えていたその時。




「…ごめん、。待った?」

「…………へ?」

「…あ、滝。なんだ、さん予定あったの?」

「え…、い、いや…」

「そうなんだ。掃除が長引きそうだから、先にスタバに行っててってメールしたよね?」

「なんだー、ごめんごめん!付き合わせちゃって。んじゃ、俺行くね。」

「いや、あの…」


抹茶フラペチーノを持って、豪快に手を振りながら笑顔で立ち去っていく吉武君。
急な展開に頭がついていかなくて、固まる私。

目の前には、私を目で殺そうとしてるんじゃないかという程の勢いで睨み付けてくるハギー。

吉武君がいなくなったソファに、どかっと座ったハギーは
先程見せていた営業スマイルはなんだったのかと聞きたいほどの無表情でコーヒーを飲んでいる。


「…………。」

「……はっ!…あ、あのメール届いてなかったみたい…です…。」

「当たり前でしょ、送ってないんだから。」

「……えーと…、うん…うん…?

「…っていうかさぁ、。」

「…はい。」


ついには、足を組んで大層ご立腹な様子の女王様。
…このパターンはマズイ。ハギーの口から、毒舌マシンガンが放たれる予兆をひしひしと感じる…!


「俺がダメだったら、すぐに次を見つけられちゃうんだね。」

「……次、とは?」

「さっきの男でしょ。楽しそうに話してたじゃん。」

「…ちっ、違うよ!別にそういう…」

「そう?馬鹿みたいにゲラゲラ笑うから、五月蝿くて仕方なかったよ。周りの迷惑考えなよね。」

「ごっ、ごめんなさい…。」

「あと、それ。足。こういうソファ席に座ったらきちんと閉じてないとパンツ丸見えだから。」

「えっ!」

「ちょっとメイクして髪型変えたぐらいで、世の中の女子と同じになったと思わない方がいいよ。
 の想像してる軽く100倍ぐらいの努力はみんなしてるんだからね。

「すいません!」

「ちょっと最近イメチェンして、皆からお世辞で可愛いって言われるからって調子乗らない方がいいんじゃない?

「……も、申し訳ございません…。」

「あと、勝手に盗み聞きして、勝手に解釈されるのも迷惑。」

「…………えっ……あ…。」


コトンと、コーヒーのカップを机に置いたハギー。
…と、取り敢えずハギーからの空襲は終わったようだ…。

正直、もう心のHPは限りなく0に近いぐらい打ちのめされたけど…
ハギーのいつもと変わらない毒舌を聞けて、ちょっと嬉しいと思っているあたり
私は重症なのかもしれない。


「昨日。部室の外で聞いてたんでしょ。」

「……ごめん、つい気になっちゃって…。」

「…どこから、どこまで何を聞いてたのかしらないけど、取り敢えず今日のわかりやす過ぎる行動見てたら
 たぶん、もう諦めたとかなんとか言ってるんだろうなぁと思った。」

「……当たりです。」

「廊下で会った時も、なんか珍しくがしゅんとしてるから、ちょっと面白くて放っておいたけど…。」

「………。」

「驚いたよ。帰ろうとしたら、目の前でが知らない男連れてるんだもん。」

「……た、たまたま帰りが一緒になっただけで…。」

「あー、やっぱりが言う≪好き≫ってそんなもんなんだなーと思ったよ。」

「ちがっ…そ、そんな…。」

「……そしたら、なんかムカついてきた。」

「………。」

が言ってた、俺の好きなところ。アレ聞いたとき、正直やられたって思ったよ。
 そんな姿、には見せてるつもりもなかったし、誰にも知られてないって思ってたから。」


少しトーンを抑えて、呟き始めたハギー。
その目は私を見てはいなくて、机に置かれたコーヒーカップをただただ見つめているようだった。


「……しかも、次の日から変な頭に変な顔で、バカみたいに好き好き言ってくるし…。」

「………。」

「でも、ダメだって。これでに落ちたら、末代まで皆からバカにされて笑われるって思って…。」

「………末代…。」


「ちょっと冷たくしてみても、には人の心を読む能力が欠如してるから伝わらないし。」

「………ごめん…。」

「どこからどうみても、ただののはずなのに…それなのに…段々、なんか…可愛く見えてくるし…。」

「…………へ…。」

「…それを≪困ってる≫って表現したのが、たぶん聞かれてたんだろうなぁ、と思って…
 放っとけばいいのに、何故かに弁解しないとって不安になって…でも、そんなのダサすぎるし。」

「…………ねぇ…?」

「でも、どうせのことだから良いように解釈して次の日から同じように笑ってるんだろうと思ったのに。」

「…………ハ、ハギー?」

「あろうことか、別の男に笑いかけてるの見て…本当にムカついたんだけど、どうしてくれるの?」


依然として怒り口調のハギーだったけど、
しゃべればしゃべるほど、その内容が…


「……も、もしまた私が間違った解釈をしてたら指摘してほしいんだけど…。」

「…何?」

「あのー…それってつまり……ハギーも…私のこと…好きになったってことだよね?」

「……………。」



沈黙。

「固まる」という言葉が1番しっくりくるぐらい、
動かなくなってしまったハギー。

…な、何かまた間違えてるのだろうか、私は…いや、でも…
とか考えていると、目の前のハギーの目線が少し動いた。


「……あ、あの…。」

「………っ!…っの癖に生意気なこと言わないでくれない?」


ガタっと席を立ちあがり、逃げるように立ち去っていくハギー。


……きっと間違いじゃない。
あのハギーが、自分の鞄も、コーヒーの空きカップも持っていくのを忘れていくなんて…
見たことないような真っ赤な顔で突然立ち上がったのも、きっと間違いじゃない…!



「ハギー、待って!あの、私も!私も大好きです!」

うるさい!デカイ声で何言ってんの!


くるりと出口で振り返って、さっさと出て行ってしまったハギー。
あんなに焦ったところ…初めて見た。


今になって心臓がどきどきし始める。


目の前に置き去りにされた鞄と、コーヒーカップを握りしめて
私はハギーの言う、≪バカみたいな顔≫で彼を追いかけた。










fin.