氷帝カンタータ
09:00 〜1時間目〜
今日も1日が始まる。
チャイムの音と共に教室に入って来た先生。
それと同時に、今日の日直の瑠璃ちゃんの声が響く。
「礼。…着席。」
1時間目は数学。
残念なことに、つい昨日の席替えで教室のド真ん中の席を引き当てた私は
憂鬱な数学の授業中に窓の外を見ながら体育に興じるがっくんを観察することが
出来なくなってしまった。
仕方なく机の中から数学の教科書とノートを取り出す。
数学の先生の渋い声が響く。ああ…眠くなる…。
でもここで寝てたら絶対に目立つ。
右隣にいる、クラスのイケメンランキング上位に食い込んでくる
サッカー部の佐竹君に、よだれを垂らしながら寝る姿を見られたくない。
そんなことをしたら、私を挟んで左隣にいる
佐竹君といつも一緒にいるサッカー部の吉武君にも笑われてしまう。
…そう考えると、この席というのはイケメンの板挟み席ということで
中々悪い席じゃないかもしれない。
2人が話すときに挟まれているおかげで、話にもちょこちょこ参加させてもらえるし…うふふ。
そんなことを考えていると、少し眠気も飛んできた。
気を取り直してノートをめくると、
「……何よこれ。」
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「なぁなぁー、なぁ、って。」
「五月蝿いなぁ、ちょっと今真剣にこれ解いてるんだから静かにして。」
「うわ、ウザ!どうせ考えてるフリしてるだけだろー。」
「静かにしたり、岳人。アホはアホなりに脳働かせようとしてんねや。」
「あんた後でぶっ飛ばすから。」
問題の文章から目は逸らさずにそう言うと、
ケラケラと不愉快な2人の笑い声が聞こえてきた。
あー…うるっせぇ…!
私が今!必死に!作者の気持ちになって答えようとしてるというのに!
「っていうか、国語よりこっちやろ。数学、明日あたるんちゃうん?」
「……数学は後回しなの。」
「、数学嫌いだもんなー。」
「ここに心強い先生がおるやないか。ほら、数学やるで。」
「ちょ…今、作者の気持ちにやっと5%ぐらいシンクロしてきたのに!邪魔しないでよ!」
「お前は思考回路から作り直さな作者の気持ちに寄りそうことなんか出来へんて。」
「あ!も今、数学このページ?俺もそこ丁度宿題だし一緒にやろうぜ。」
「……あー、もうわかったよ!やればいいんでしょ、やれば!」
「何やねん、教えたる言うてんのにその態度。腹立つやっちゃな。」
「で?はい、ここの答えは?」
「……典型的なアホやな、お前は。自分で考えないつまで経ってもアホのままやで。
このままいくと、高校卒業と同時に相撲部屋入門確実やな。」
「ぎゃはは!将来は乃海親方だな!超似合う!」
「行っとくけど親方になろうと思ったらめちゃくちゃ時間かかるんだからね。
まず横綱になるだけでも難しいんだから、2場所連続優勝からさらに審査まであって…
…っていうか、まず私は女の子だからなれないの!」
「なぁ、侑士。この底辺との角度の求め方ってさ「聞けよ!!」
「うっさいな、はよノート開いたらどうやねん。岳人は真面目にやってんで。」
「怖いよ、あんた達!何なの、さっきまでのテンションはどこ行っちゃったの?置いてかないでよ!」
「あ、。俺コーラ!」
「俺はココアでええで。」
「…くそ…っ!殴りたい…!」
・
・
・
「あの時か…」
ノートを開いた途端現れた、下手くそすぎる絵。
絶対私がドリンクバーに行ってる隙にがっくんあたりが落書きしたんだ。
…なんとなくシュールなその落書きを見て
少し噴き出してしまった。
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