氷帝カンタータ





11:00 〜合同の体育〜





「ね!ちゃん!今日の体育、A組と合同なんだって!」

「え、なんで?」

「ほら、この前の台風でA組の体育が1回飛んじゃったからその埋め合わせらしい!」

「へー……っていうかA組って…」

「そうだよーっ!!あの跡部様の体育が見れるんだよー!!」

「私達いつも体育でもテニス部の男の子と合同とかなかったしね!」

「男女は分かれてるけど、やっぱり目と鼻の先に跡部様がいるって…ねー!」

「本当、私跡部様と同じ学年で良かったー!」

ちゃん、ほら早く着替えて!出待ちしようよ、出待ち!」



にわかに色めき立つ我がクラスの女子達。
このキャピキャピした様子がものすごく可愛いんだけど、
その対象があの万年建国系ぶっとび男子代表の跡部というところがなんとも…。


みんなに連れられて、体育館に集合してみると
そこには、授業中には見慣れない光景が広がっていた。


「……何これ、ミサ?

「わ…わぁ!ほら、見てちゃん跡部様がバスケしてるー!」



バスケコートの周りを取り囲み、静かに見守る女の子達。
A組の女の子達に混じって、うちのクラスの子達も何人か見受けられる。


意外と、テニスコートのまわりに居る時のように黄色い歓声は出さないのだなぁ…
なんて見守っていると、跡部がシュートを決めた瞬間。


「「「「っっきゃぁあああああ!跡部様ぁああああ!!」」」」


「うわっ、びっくりした!」

「きゃーー!跡部様、超かっこよかったね、今!!」

「…おーおー、跡部も喜んでる喜んでる。あいつって部活以外でもこんな感じなんだね…。」



コート内にいる跡部は、遠目に見ても光悦とした表情を浮かべていた。
…あいつの周りはいつだってこのような状況なのだとしたら…
もしかして普通の国語の授業中とかにも1問答えるだけでこんな状態なのだろうか…。


既に私の元から走り去って、バスケコートの周りへと馴染んでしまった
瑠璃ちゃん達。何となく部活以外で跡部の見学なんてしたくなかったので
体育館の倉庫あたりに座っていると、同じクラスの佐竹君、吉武君が近づいてきた。



「あれ、さん。何してんの。」

「え、あ、ちょっと授業始まるまで休んどこうと思って。」

「体調悪いの?」

「いや、そうじゃなくて…このドームツアーライブのようなテンションについていけなくて…」

「ああ、跡部な!すごいよなー。」

「ってか、うちのクラスの女子も釘付だしちょっとなんか嫉妬しちゃうよな。」


遠い目で跡部を見つめる2人にちょっと笑ってしまう。

…確かに、いつもうちのクラスだけで体育がある時なんかは
この2人の姿に、私を含む女子達はキャッキャとはしゃいでいるもんな。


「…皆が楽しそうで何よりだよね…。」

「あ、でもさんいいの?」

「え、何が?」

「彼氏なんでしょ?跡部。」

「………佐竹君、その発言はヤバイよもし跡部に聞かれでもしたら…」

「うわ!あれ、跡部こっち睨んでない?」

「っマズイ!佐竹君、なんか背中とかに盗聴器とかしかけられてんじゃない?!」

「え…え、俺そんな…わ、まだ睨んでんだけど!」

「まさか…あいつ…」

「え、何さん?怖い怖い!」

「ヤバイかもしれない…佐竹君、もしかしたら今…骨格透かして見られて弱点見抜かれちゃったかもよ!」

何言ってんのか全然わかんねぇけど、とても怖い!




怯える佐竹君に吉武君をなだめていると
丁度良いタイミングで先生が体育館に入ってきて
跡部のワンマンライブは終了し、男女は分かれて授業へと入った。

































「はい!ちゃんお願い!」

「任せて!アタック…ナンバーワン!!」


バシッ



「あはは、そんなヘッポコアタックでA組に勝とうなんて…ちゃんちゃらおかしいわ!」

「いくわよ!それ!」



バシッッ



「きゃぁ!」

「っく…落とす…もんかぁああ!」

ちゃんナイスーレシーブ!!」

「後は…任せてっ!!!」


バシッ



「あ……っ!」



ピピーーッ



「はーい、試合終了!次のチームコートに入ってー。」







…勝った…の?

先生の声が遠く聞こえる…。


ちゃん…ちゃん!私達…勝ったんだよ!」

「うっ……良かった…私は…もう…ここま…で…」

「「「…っちゃーーーん!!」」」



「何なの、その茶番。」

「ドン引きなんですけど。」



「あ、A組の皆さんは知らないよね。これ、バレーの授業中いつもやるアタックNO1ごっこ。


瑠璃ちゃんの腕から飛び起きて説明をすると、
あからさまに嫌な顔をされてしまった。これ私達のクラスの鉄板ネタなんだけどな。



「今日は私がヒロイン役だったんだ!いやー、楽しかったね!試合にも勝てたし!」

「…今回は手加減して負けてあげただけなんだからね!」

「そうよ!あんた達の茶番に付き合ってあげただけなんだから!」



私達のアタックNO1ごっこが気に食わなかったのか、
プリプリと怒るA組女子の皆さん。


よし…このタイミングでアタックNO1ごっこの終幕を飾るとするか…!
まわりの瑠璃ちゃんや真子ちゃんにアイコンタクトを送ると
「GO」サインをいただきましたので、最期の一言で締めくくりたいと思います。



「コートの中では何を言われても平気だけど…あんまりそういうこと言われると…涙が出ちゃうっ!
















 だって……っだって!女の子だもんぶふごぅっ!!





「……言い残すことはそれだけか。」

「ちょっ…あんた終幕の大切な場面でドロップキックって何考えて「「「「きゃぁああ!跡部様ぁああ!!」」」」



本日選ばれたヒロインのメインの仕事は、最期のこのセリフだと言うのに
何故か遠く離れたバスケコートから光速で走ってきたとみられる跡部に
助走距離を十分にとった渾身のドロップキックをお見舞いされた。


イカれる。脊髄がイカれるわよ、これ。


「てめぇの胸糞悪い気持ち悪い薄気味悪い演技を見せられるこっちの身にもなってみろ。」

「あんたねぇ、日本語勉強してから来なさいよ。形容詞をそんなふんだんに使っていい訳ないでしょ!
 っていうか、跡部にだけはそんなこと言われたくないんだけど!あんたなんか全国の
 テニス少年たちが集まる大切な場面で盛大に大爆笑演技を披露してるじゃぶふぅっ!」

「や…やめて跡部様!ちゃんが…ちゃんが…!」


「うるせぇ、こいつはこのぐらいで懲りる奴じゃ…」

「…くっ、大丈夫よ瑠璃ちゃん…!これも全部私が悪いの…。
 私が…可愛くて放っとけない小動物系女子なばっかりに、跡部はついつい授業中にも関わらず
 こうして私にちょっかいをかけにきてしまうんだから…可愛さって罪だよ…ね。」

「ああ、なんかまた火に油を注ぎそうなことを…。」

、絶対アレ楽しんでやってるよ。ほら見て、跡部君無意識に頬の筋肉が痙攣する程怒ってる。



これ以降、私達のクラスとA組が合同で体育することは一切なくなった。




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