氷帝カンタータ





12:30 〜お昼ご飯〜





いよいよ待ちに待ったお昼ご飯!
今日は1週間前から、真子ちゃんや華崎さんと約束していた
食堂の日だということで、ウキウキも最高潮に。


昼休みを告げるチャイムと共に、教室を飛び出した私達。
最速で向かったというのに、既に食券売り場はごった返していた。

くそぅ…理科の先生、話長いんだもんなぁ…!


「真子ちゃん、今日は何にするー?」

「私Aランチの気分かもー。」

「ラーメンかなぁ、私は。」

「瑠璃ちゃん、ラーメン?…んー、私うどんにしよっと。」


仲良し4人組で大人しく列に並んでいると、
すぐ後ろにいた人物に肩を叩かれた。



「ん?」

「…よ。」

「あ、宍戸。に、ハギーも。珍しいね。」

「五月蝿い声がすると思ったらやっぱりだったね。」


チクっとお小言を言うハギーママに、
食堂でもポケモンマスターみたいな帽子はかぶったままの宍戸。


「あれ、ジロちゃんは?」

「知らね、どっかで寝てんじゃね?」

「あ、ちゃん。ほら、食券どうする?」

「あら、ごめん。んーと…これっ!」


食券を無事手に入れて、各々のカウンターまでバラけると
自然と宍戸達とも離れてしまった。

…まぁ、いいけど。














ちゃーん!こっちこっち!」

「ありがとー!」


無事うどんを受け取った私は、既に席に着いている3人に呼び止められ
やっと合流できた。……食堂は混み合うからすぐはぐれちゃうんだよね。


「よいしょっと…。…あ、あれ宍戸達だ。」

「席、探してるみたいだね。」

「おーい!宍戸にハギー、ここ空いてるよー。」


手招きをして大きな声で呼び止めると、
椅子の合間をぬってこちらへ近づいてきた2人。


「ちょ…ちょっとちゃん…!」

「え…、あ、ごめん。もしかして一緒に食べるのヤだった?」

「そんな訳ないじゃん!超グッジョブだよ!一緒に食べれるなんてー!」

「ど、どうしよう私ドキドキしてきた!」

「あんた彼氏いるじゃない。」





「サンキュな。」

「あ!し、宍戸君!ど、どうぞここ座って!」

「滝君も、ここにどうぞ!」

「お…おう。」

「ありがとう。間に挟まれるのってなんだか慣れないけど。」


少し頬を赤くした瑠璃ちゃんに華崎さんが
サっと席を譲った為、宍戸とハギーは女子2人に挟まれる形になった。

……なんか面白い6人の図だな。


「よーし、じゃあいっただきまーす!」

「…真子ちゃん…だっけ、Aランチ一緒だね。」

「うん。私オムライス好きなんだ。」


にこりと微笑むハギーは、何だかいつもより優しく感じる。
そんな笑顔に見惚れている華崎さんと瑠璃ちゃんも超可愛い。


「…あ、でも華崎さんと瑠璃ちゃんのラーメンは宍戸と一緒だね。」

「……やっぱラーメンだろ。」

「うん!うん!私、本当ラーメン選んで良かった…!」

「5分前の自分の選択を褒めてあげたいよね!宍戸君とお近づきになれて嬉しい…!」


色めき立つ2人に、
少し頬を染めて、無言でラーメンを啜る宍戸。

……これは面白い。


「っていうか、瑠璃ちゃんも華崎さんも跡部派じゃなかったっけ?」

「え、私は宍戸君も滝君も大好きだよ!」

「ありがと。」

「わっ、私も!幼稚園の時から宍戸君カッコイイなって思ってたよ!」

「ぶふっ!……へ…変なこと言うなよ。」


どうだ、この天然小動物系キュート女子2人の攻撃は…!
ニヤつく私に、耳まで真っ赤にした宍戸が睨みを効かせる。

ハギーはさすがというか、全く動じない様子だけど
このトゥーシャイシャイボーイの宍戸は間に受けて、心なしかラーメンを啜る速度も速くなっている。



「…意外だなぁ、宍戸も結構モテてるんだねぇ。」

「何言ってんの、ちゃん!隠れファンは超多いよー!」

「え、何で隠れんの?」

「…んー…何でだろう。」

「興味ねぇし。」

「……フフ、結構嬉しそうじゃん宍戸。」

「うっせ。」


ハギーまで宍戸をからかい始めた為か、どんどん宍戸の顔は紅潮する。
あー、面白い。いつもは調子良いこと言ってる宍戸が
女の子の前だとこんなに口ベタになるだなんて、知らなかった。


「でも、宍戸君ってほら…ねぇ。」

「え、何?」

「そのー…何ていうんだろう、ちょっとほら…」


言いにくそうに微笑みあう2人に、宍戸もハギーもその答えを待っている。
……何だろう。私も全然わかんない。


「あの、あんまりキャーキャー騒いだりしたら怒られちゃいそうで…。」

「ああ!そういうこと!まぁ、確かに目つきも態度も頭も悪いもんねぇ。」

お前に言われたくねぇよ!


「でも、宍戸はあの奇人変人テニス部の中でも結構優しい奴だから大丈夫だと思うよ?」

「え…そうなんだ…!じゃあ私、今度応援に行こうかな…!」

「おいでおいで!ね、宍戸!嬉しいよね!」

「ばっ……べ、つにどっちでも良い。」


女の子に詰め寄られて顔を隠す宍戸が、不思議なもんで可愛く見えてきた。
それは瑠璃ちゃんや華崎さんも一緒だったようで、キャッキャとはしゃいでいる。


「……絵にかいたようなデレ方だね。」

「ね。全然見たくなかった一面だよね。」


ご飯を食べ終えたハギーと宍戸を眺めながらそんなことを話していた。



「ほ、ほら行くぞ滝!」

「はいはい。じゃあね、皆。」

「ばいばーい。」


ついに耐えきれなくなったのか、早々に立ち去る宍戸にハギー。
その後ろ姿を眺めながら華崎さんや瑠璃ちゃんはその余韻に浸っていた。


「はー…宍戸君、超カッコ良かった。」

「ね、あんな近くで見たの初めてかも。」

「うんうん!近くで見るとさ、よりカッコよく見えたよね!」

「だよねー、制服の肘のところに超米粒ついてたけど、それすらカッコ良かった!」

ぶふぅっ!
え、な、何それ!めっちゃダサイじゃん!激ダサ!あははは!」

「…っていうか、それ宍戸君に言ってあげた方が良かったんじゃない?」

「え、でも私あれも宍戸君の可愛さの1つだって思うから…。」

「うん。ちょっと激ダサなところも含めて良いよね、宍戸君。」


影でこんな事を言われているとは、宍戸も思っていないだろうなぁ…。



まだ瑠璃ちゃん達に見られてると思っているからなのか、ちょっとカッコつけて

トレーを流し場に置く宍戸。私はしばらく笑いが止まらなかった。




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