氷帝カンタータ
15:00 〜部室にて〜
「じゃあ、また明日ね!」
「うん、いってらっしゃーい。」
帰宅部の華崎さんに見送られ、私は教室を後にした。
既に廊下には授業を終えた生徒がチラホラと出ていた。
荷物を持って、階段を下りている途中
同じく部室へと向かうちょたを見かけた。
「ちょたー、おっすー。」
「先輩、お疲れ様です。」
「部室まで一緒に行こ。」
「はい。…あ、先輩少し髪切りました?」
「……ちょたスゴイ。よく気付いたね。」
「すぐにわかりますよ。」
そう言って微笑む心優しき後輩。
…ほんの少ししか切ってないから、友達だって気付かなかったのに
やっぱりちょたはスゴイなぁ…。よく人を見てるんだな。
「そう言えば今日さ、宍戸とハギーとご飯一緒だったんだけどね。」
「へぇ、食堂ですか?」
「うん、友達と。で、私の友達が宍戸をやたらベタ褒めするもんだからあいつ超照れちゃって!」
「…なんか想像つきます。帽子深くかぶって俯いてる宍戸さん。」
「それ!まさにそんな感じになっちゃって!意外にもあいつ女の子に弱かったんだねー。」
「きっと普段から女子と接触する機会がないからでしょうね。」
「ねー!…………いや…え、あれ?」
「?どうしたんですか?」
「…今、ちょた…さ、いや、悪気はないと思うんだけど…その…ナチュラルに私を女子から除外したよね?」
「……あっ!そ、そのすいません!そういうつもりじゃ…あの、違うんです…!」
「わ、わかるわかる!大丈夫だよ、そのー女子とかって言うより、仲良し過ぎてそう見れなくなっちゃってるってことだよね!」
「あの…本当に、すっかり先輩が女子だという認識がなくて…」
「あー、ほら、女子ってことはわかっているけれどいつも見慣れすぎているから忘れちゃってて…ってことでしょ?」
「え、と…本当に…その、先輩は女子っていうより俺達と同じ「頑張ってフォローしてるのに何でどんどん傷をえぐるのかな!!!」
・
・
・
ガチャッ
「おー…っす。いつも2人は早いねぇ。」
「ウス。」
「…先輩達が遅いだけだと思いますけど。」
残酷な戦いからなんとか生還した私は、やっと部室にたどり着くことが出来た。
ちょたは終始申し訳なさそうに謝ってたけど、謝られれば謝られる程心が…心が泣いてます!
後輩達3人と共に過ごす、この時間は毎日癒しの時間。
誰からも暴言を吐かれることもなく…可愛い後輩たちを見守るこの幸せ…。
誰も私にかまってくれないし、黙々と準備をする3人だけど
私は見ているだけで…
静かな部室でニヤニヤしていると、間抜けな音が聞こえた。
グゥウウ……
「っ!!」
「あ、日吉お腹なってるー。お腹空いたの?」
「っ、ち、違う!」
「えー、でも今日吉の音だよね、絶対?」
「…ウス。」
「……わかってても黙ってればいいだろ!」
「なんでそんな怒ってんの?あ…でもゴメン、俺何も持ってないや。」
「俺も……すいませ…ん。」
「だからいらないって言ってるだろ!」
「あんまり怒ると余計お腹空くよ?」
「ウス。」
「……っ!!黙れ!」
かわいいいいいいいいいいいいいい!!
…な、なんだこのイベント…!
真っ赤になって2人に噛みつくぴよちゃんさまに、
それを手慣れた様子で優しく宥める(逆効果)ちょたに樺地…!
もうずっと見てたい。この光景をドルビーサウンドで聞きながら
映画館貸し切ってライブ中継でポップコーン食べながらずっと見てたい。
「……っ!み、皆…良かったらこれ…。」
「え、あ!チョコレート!良かったな、日吉!」
「…お前…本気で殴るぞ…。」
「ぴ、ぴよちゃんさま!大丈夫!私何も聞いてないよ!可愛いお腹の音とか聞いてないけど、よかったら食べる?」
ニヤつく顔を抑えながらそう提案すると、
即座にこちらに走ってきて、真っ赤な顔で拳を振りかざしたぴよちゃんさま。
急いでそれを止めるちょたに樺地。
……こんな平和で幸せな世界がずっと続けばいいのに。
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