氷帝カンタータ





16:30 〜恒例行事〜





「だからさっきから何回も言ってんでしょ!わざとじゃないじゃん!」

「わざとじゃなけりゃ、何してもいいのか。」

「そういうことじゃないけど、そこまで怒らなくてもいいでしょ!」

「てめぇは…ちょっとはしおらしく謝ることも出来ねぇのか!」

「はいはい、すいませんでした!!」

「しおらしくって言ってるだろうが、何だそのムカツク顔は!

「顔!!顔って言ったわね、あんた!そうなってくるともう話は別だから!戦争だ、上等よ!」









「なぁ、あれ何?」

「あー、何か跡部のドリンクのボトルと日吉のボトル間違えたらしい。」

「ふーん…ほんで?あれ…日吉は大人しくしとんのに、跡部が暴れてんのかいな。」

「おう。つか、が悪いんだからさっさと謝ればいいのになー。」

ちゃん、最初に謝ってたよー。でも、何か跡部にネチネチ言われていつもみたいな喧嘩になっちゃった。」

「毎日毎日よう頑張るなぁ、跡部もも。」








































「っち…っくしょ…!もう絶対あんなミスするもんか…!」


跡部との戦いは最終的に、敗戦におわった。
くっそ…!あいつあの時絶対本気だった、引くぐらいのローキック入れてきた。

途中で仲裁に入ってくれたがっくんと忍足の
ニヤニヤした顔もムカツクし…アレほとんど楽しんでるよ…!
だってもし止めるならもっと前の段階で…
私が跡部の右脛にクリティカルヒットを繰り出した時点で止めてくれればよかったじゃん!
そしたら私はスッキリするし、傷つかずに済んだと言うのに…!

怒りの矛先をどこに向けるべきかもわからず
何も言えずに倉庫まで来てみたものの、もう戻るべきタイミングがわからない。



「……あれ、この前掃除したばっかりなのに随分散らかってるな。」



何となく入ってみた倉庫は想像以上に荒れ放題だった。
テニス部だけじゃなくて、他の部活も共同で使う倉庫だからなのか
荒れるのも早い。……丁度いい機会だし整理整頓しとこ。

そして、この荒ぶる心を落ち着けよう。









「あれ、さん?」

「あ、本当だ。」

「え…、あ。佐竹君に吉武君。何か今日はよく会うね。」

「つか、席隣だもんね。何してんの?」

「ちょっと掃除しようと思って!…サッカー部もこの倉庫使ってたよね?」

「うん。え…っていうか、いつもここ掃除してくれてるのさんなの?」

「いや、いつもって訳でもないと思う!サッカー部のマネージャーさんも片づけてると思うよ。」

「へー…。ありがとね。」




…ずきゅん。

このさりげない一言が思った以上に心に響く。
普段マネージャーの当然の仕事なだけに、こうして感謝の言葉を
告げられることもない。別にそれを望んでやっているわけじゃない。

だけど…だけど、こんな風に言ってもらえると嬉しいなぁ。

単純な私は先程までの怒りなんかすっかり忘れて、
今は心からの喜びに満ちていた。



「…吉武君、サッカー部のマネージャーって今何人?」

「え?…あー…、1人後輩がやめたから…実質1人かな。」

「結構大変そうだよなー。1人になってからは。」








これは…






これは好機!!





キュインキュインキュインと私の頭でサイレンが鳴り
ここは攻めるべきだと合図が出た。




「じゃ…じゃあ、良かったら私もサッカー部の。」


即座に走り寄った佐竹君と吉武君の後ろに、
なんとなく見覚えのある影が見える。

倉庫の中は薄暗くてはっきりと表情は確認できないけど
声色だけでわかる。










大ピンチだ。







「わ、びっくりした!……跡部か。じゃね、さん。行くわ。」

「あ…あ、うん…!ばいば…ーい!」


入口に仁王立ちする跡部の横をすり抜けて出ていく2人。
取り残された私も、それに続き出て行こうとしたのだけれど



「待て。」

「はい!」


こちらも見ずに呼びとめられる。
何となく不機嫌オーラが見て取れるので
ああ、ものすごく面倒くさいなぁと思いながらも無視することが出来ない。



「…何部活中に遊んでんだ、てめぇ。」

「あそ…遊んでたわけじゃないよ!この倉庫整理してたの!」

「嘘つくんじゃねぇ、現にあの2人とヘラヘラしゃべってたじゃねぇか。」

「嘘じゃないもん!佐竹君達はたまたま通りがかっただけで2分も話してないし!」

「やけにあのサッカー部と仲がいいじゃねぇか。」

「お、同じクラスだもん。席も隣だし。」


さぼってた事に対して、厭味を言われるのかと思いきや
話の展開は佐竹君と吉武君の方向に。……跡部、あの2人の事知ってんのかな。


「で?お前さっき何言おうとしてた。」

「……え?え…えー、何の話?」

「とぼけてんじゃねぇ。知ってると思うが、裏切り行為を働いた奴は即処刑だ。

「知らないよ!何そのマフィアの世界みたいな掟!」


「…授業前にもペラペラと話してただろ、あいつらと。」

「え?…あ…あー、体育の時間?なんで知ってるの?」

「馬鹿面でヘラヘラしてるのが目ざわりだったからだ。
 どうせ、髪を切っただの何だの言われて浮かれてたんじゃねぇのか。」

「…………。」

「…何見てんだ、喧嘩売ってんのかその顔。

「……え…いや…。」

「なんだ。」

「……跡部、私が髪切ったの気付いたんだ。」




そう言った瞬間、物凄く嫌そうな顔をした跡部。
反対に、私の顔はみるみる内にニヤけ顔になり、
それが気に食わなかったのか、跡部は盛大に舌打ちをして立ち去ろうとした。





「あのね、ちょたは気付いたんだけど跡部は2人目だよ、すごい!」

「……………。」

「いやー、やっぱり私の事よく見てるんだねー何かちょっと気持ち悪いけど
 跡部が私のことを大好きな気持ちは「それ以上しゃべったら次は本気でオトすぞ。」



…跡部の目は本気だった。

オトすって…何ですか、それスナイパー界の専門用語か何かですか、怖い。



しかし…本当に可愛くない奴。





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