氷帝カンタータ





18:30 〜鍋パーティー〜





「なぁ、ー。サイゼ行こー。」

「あ、ちょっと今日は宿題あるからやめとく。」

「えー!何だよ、つまんね!俺、腹減ってんのに!」

「そうだよ、ちゃんー。いいじゃん、宿題とかー!」

「や…やめて!抱きついて誘惑すれば私がいつもついて行くと思ったら大間違いなんだから!」

「実際いつもそう言ってノコノコついて行ってるやん。」



部活終了後。
今日も長いようで短い時間が終わった。

そして部室には既に着替え終わったメンバーに
まだ着替え中の人もちらほら。
さっさと帰ろうと思ったのだけど、うっかりがっくんに掴まってしまった。


「…今、金欠だしなー。」

「えー…あ、じゃあ俺いい事考えちゃったー!」

「何だよ、ジロー。」

ちゃんのお家でご飯食べよう!そしたら宿題も出来るでしょー?」

「あ、それいいね。それなら良いよ、私も。」

「なら決まり!俺、おでんがいい。」

「さすがにこの時間からおでん作るのは辛い…。あ、鍋はどう?」

「ええやん、この季節にぴったりや。」

「え、忍足も来んの?」

「何やねん、その嫌そうな顔。絶対行ったるからな。

「うえー……まぁ、でもどうせならたくさんの方が良いよね。宍戸は?」


部屋の端でピコピコと携帯ゲームをいじる宍戸に声をかける。
無言で手を挙げたあのサインは「行く」って意味らしい。


「じゃあ跡部も一緒に行こうー!」

「……面倒くせぇ。」

「まぁ、たまにはいいじゃん!の家で食う鍋、結構美味いんだぜ。」

「がっくん今日はオマケでヨーグルト買ってあげる。」


可愛すぎるがっくんの発言に我慢できず
飛びついて喜びを表現しようとすると、容赦なく鞄で撃退されてしまった。


「ほな、鳳も日吉も樺地も参加か?」

「……どうせ嫌だと言っても連れて行かれるんでしょう。」

「日吉、そんな言い方失礼だよ!後輩なんだから仕方ないじゃん。」

「…ウス。」

「あの…だ、大丈夫だよ?来たくなかったらいいんだよ…?」


なんだかものすごく心が折れそうな発言をする2年生トリオ。
振り絞るように言うと、ちょたはにへらっと笑って「冗談です。」と。
後ろにたたずむぴよちゃんさまのオーラは冗談で済むようなもんじゃないと思うけど…

と、取り合えず人数は多い方が楽しいはず…だ!
































「で、何で俺まで呼び出される訳?」

「いいじゃんいいじゃん!ハギーはいつも作るの手伝ってくれるから…
 見てよ。あいつら、ほら。人が一生懸命野菜とか切ってるのに、ゲームに夢中なんだよ。」

「……まぁ、いいけど。ほら、鍋煮立ってるよ。」

「あ!ほんとだ、じゃあ早速白菜投入ー。」


キッチンでは私とハギーが2人並んで食事の準備をしている。
そしてここから見えるリビングでは、3年生組が大はしゃぎでマリオカートに興じている。

うわー…跡部、あれ…カートゲームしながら自分の体まで無意識に動かしちゃってるじゃん、超ダサイ。
そして、2年生トリオはその後ろのソファでそっとゲームを見守っている。
…えらいなぁ。うちの学校は精神年齢と実際の年齢が反比例している気がするわ、本当に。


「…早く混ざりたいって?」

「へ!?い、いやそんなことないけど?」

「…隠しても、顔に書いてあるよ。本当ってわかりやすい。」


クスクスと笑うハギーには何でもお見通しみたいだ。
恥ずかしさを紛らわせるように私はひたすらネギを刻んだ。






































「あー!俺の豆腐!何個目だよ、その豆腐!」

「えー、っていうか別に誰の豆腐とか決まってなくない?」

「うるっせぇな、食事ぐらい黙ってできねぇのか。」


いざ鍋が出来あがってみると、ゲームを放り出して
即座にテーブルに集まる皆。……大家族ってこんな感じなんだろうか。

そして食事が始まると、いつものように
私やがっくん、宍戸の間で次々に勃発する具材争い。

呆れた跡部が少し不機嫌な声を漏らした。


「ねぇねぇ、跡部。結構このお鍋おいC〜でしょ?どう?」

「………別に普通だろ。」

「素直じゃないねー。その割には結構箸が進んでるみたいだけど?」


クスクスと笑うハギーを、ギロリと睨む跡部。
…本当素直じゃない。さっきから白菜を食べまくってるのを私は見逃してないんだから。


「そう言えばさ、今日榊先生のつけてたスカーフあったじゃん?あれ私がプレゼントしたやつ。」

「うええええ!なんで?!いつプレゼントしたんだよ。」

「そりゃ誕生日だよ。榊先生ね、普段あんまり同じスカーフつけないんだけどアレだけはよくつけるんだよ。」

「へぇー、そうだったんですね!」

「…あの人にも物をもらって喜ぶという感情があったんですね。」

「喜んでる姿とかあんま想像できへんけどな。」


他愛もない話をしながら、皆で鍋を囲む。
大きい身体の樺地がふぅふぅして食べてるのとか超可愛いし、
普段カッコつけてる跡部が、熱いものを食べちゃって口をハフハフさせてんのとか超面白い。

がっくんに宍戸にジロちゃんは、よくご飯を食べにくるから見慣れているけど
忍足は結構久々に遊びに来た気がするなぁ。

きちんと正座をしているちょたにぴよちゃんさまも、これからはもっと来たらいいのに。
もちろんその隣で、せっせとお鍋の灰汁を取ってくれているハギーも。



































「…っ、先輩のそのキャラは何なんですか。ずるいんじゃありませんか?」

「へへー!ぴよちゃんさまにはまだ早かったようね!…っああああ!

「バーカ、よそ見してるからだろー。」

「何なん、これ。何で俺の使ってるゴリラのキャラ、ずっと地面叩いてるん?

「侑士、ずっとボタン押してっからだろ!あ、逃げろ逃げろ!来てんぞ!」


ご飯の後に始まった大乱闘スマッシュブラザーズ大会。


第5戦目は私VSぴよちゃんさまVS宍戸VS忍足だった。
もちろんこのメンバーだと、私と宍戸の独壇場なんだけど
負けず嫌いのぴよちゃんさまは、なんとか私達を倒そうと
必死にコントローラーを動かしている。
……ぴよちゃんさまも、画面を見ながら身体を動かしちゃうタイプなんだね、超可愛い。
跡部と同じことしてても、これだけ評価が変わってしまうのはやっぱり日頃の行いだと思う。








そして、私達の対戦は終わり次の第6戦目のメンバーへとコントローラーを譲った。
最下位だったぴよちゃんさまは、少し悔しそうに「次は負けませんよ…先輩の使ってたプリンってキャラを使います。」
とか言ってる。プリンを使ったら間違いなく、ぴよちゃんさまは使いこなせずにずっと「うたをうたう」を連発して
また最下位になると思うけど、可愛かったから何も言わないでおいてあげた。


しかし、その先輩である忍足なんかは全く悔しいなんて思っていないようなのに…。
ドンキーコングでずっと地面を叩き続けていた忍足は、実質宣戦を離脱していたためか、
果敢に戦っていたぴよちゃんさまよりも戦績が良かった。……そういうところが、本当忍足っぽいと思う。



さて、次の戦いは跡部VSがっくんVSハギーVS樺地…か…。


なんかとっても面白そうなことになってる…。




ソファの上でクッションと毛布にくるまりながら、楽しく観戦していた私の意識は





そこで途絶えた。











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