PLLLL…PLLLLL…
「…ん、アレ。電話だ。」
学園祭優勝の興奮をそのままに帰宅してから1時間。
2日目に備えて、お風呂も済ませたところだった。
リビングのテーブルの上でガタガタと震える携帯に目を向けると
珍しい名前が画面に映し出されていた。
「もしもし?久しぶりだね!」
「…あ!で、出たよ堀尾君!あ、お久しぶりです先輩!わかりますか?」
「カチローちゃんでしょ?どうしたの、珍しい!元気にしてる?」
「はい!先輩も、元気ですか?」
「うんうん、合宿以来だよねー!」
耳元から聞こえる可愛らしい声に、つい頬が緩んでしまう。
恐らく周りにあの青学の小動物3人組もいるのだろう。
ガヤガヤとした雑音の中で、ホリーの声も聞こえたような気がする。
「あの、えーっと…。」
「うん?あ、もしかして久しぶりに声が聞きたくなったとかそういう感じ?ふふ。」
「あ、全然違います!」
「…そ、そう。うん、どうした?」
「明日って氷帝の学園祭、ですよね?」
「うん!よく知ってるね!今日は学内の本祭だったんだけど、明日は2日目なんだ。」
「えっと、それって…僕たちが行っても大丈夫そうです…かね?」
「え!おいでおいで!僕たちってカッツォにホリーでしょ?」
「あと、リョーマ君と桃ちゃん先輩もだと思います!」
「わー、皆久しぶりだー!良かったら来て来てー!うちのクラ……」
そこまで言いかけて、フと冷静になる。
皆が来てくれるのは嬉しい。
学園祭に来てくれたら、是非色々と案内とかもしてあげたいし
お師匠様や癒し隊3人組の、可愛い姿を心のシャッターに収めたりしたい。
あわよくば、ももちゃんとも久しぶりにおしゃべりしたい。
でも…出来ればあの姿は見られたくない。
テニス部の連中にも酷評された、例のあのアリス姿。
普通に接客しているならまだしも、今日の感じでは
明日の私は間違いなく、多数の挑戦者を千切っては投げ、千切っては投げするような
魔界のラスボス的な位置に置かれる。
あ…あの子達にそんな姿見せたくない…!
メルヘンな雰囲気を夢見て入ってきたカチローちゃんが
汗だくで男子とぶつかり稽古してるような、私のアリスを見たら
間違いなく心の中で「キッツ…」とか思うに違いない、嫌だ。
「他校の可愛くて頼れる憧れのマネージャーさん★」ポジションを失いたくない…!
「先輩?どうしたんですか?」
「あ…あー、うん、えっと…是非案内してあげたいんだけどー…。」
「ほ、本当ですか!やったぁ!」
「うん、あの…でも、私ちょっとお昼以降は忙しくてさー…良ければ午前中に来れる?」
「はい!9時からでしたよね?そのつもりでした!」
「ナイス!うん、じゃあ午前中ちょっとだけ案内するね!」
「わかりました!ありがとうございます、リョーマ君たちにも伝えておきます!」
「う、うん。でも、あの、お昼…15:00ぐらいには帰った方がいいよ。」
「え…、どうしてですか?」
「……ほら、その時間ってとっても混むからさ。早めに学園でないと電車も乗れなくなるし!」
「なるほどー…わかりました!」
何も知らずに、無邪気な声で感謝の言葉を並べるカチローちゃん。
少し心を痛めながらも、携帯を切った。
今日、華崎さんがクラスの祝勝会で伝えた2日目のスケジュールでは
私の腕相撲当番は15:00から学園祭終了までの18:00。
2日目は、今日よりも終了予定時刻が1時間遅いため
傾向として喫茶に人が集まりやすいのはお昼過ぎ以降の時間らしい。
他のアリスよりも長い当番時間を課せられる代わりに、
15:00までの間は、店番も免除されていたから丁度良かった。
…と言っても、1人で学園祭周るのも気が引けるし、
カチローちゃんからの電話が無ければ、普通にクラスを手伝うつもりだったけど。
…うん、大丈夫。この当番時間にはカチローちゃん達には帰ってもらおう。
でも、そっか。…明日みんな来てくれるんだ…。
皆で頑張って作ったお店だからこそ見て欲しいし…午前中の内に私のクラスは案内しちゃおうかな。
それに、他のクラスだって存分に楽しんで欲しい。
「…ふふ、どのお店行こうかなー。今日行けてないところも行きたいしー…。」
携帯をソファに放り投げ、通学用鞄から学園祭パンフレットを取り出す。
2日目の外部来場者に向けて製本された本格的なパンフレットには、
各クラスの詳細な紹介が載せられている。
「…この1年生の"軽食ピエトロ"も気になるんだよねー。」
ゴロンと寝ころびながら、今日の閉会式の様子を思い出す。
1年生で異例の上位入賞を果たしたクラスだし…、うん。
まずは小腹を満たしに連れて行ってあげよう。
明日の案内コースを想像しながら、パンフレットの文字にアンダーラインを引いていく。
次はどうしようかと悩んでいる時だった、ソファに放り出したはずの携帯が鈍い音を発していた。
「…また電話…、メールか…。」
急いでディスプレイを確認すると、1通の新着メールが届いていた。
From:幸村君
Sub:(無題)
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久しぶり。
突然だけど、明日ブン太や
赤也達と一緒に学園祭に
行こうと思ってるんだけど、
少し会えたりするかな?
さんのクラスにも
遊びに行こうと思ってるけど。
「マズイ…!」
まさかの幸村君からのメールに、飛び上がる。
…り、立海の皆も来てくれるなんて…!
もちろん最初に湧き上がってきたのは嬉しい気持ちだったけれど
最後の2行を読んで、サっと血の気が引く。
マズイ、青学の皆もそうだけど
幸村君や、切原氏に…アリス(最終形態)を見られたら…!
でも折角来てくれるっていうのに、断るのもおかしいしな…。
数分間携帯のディスプレイと顔を突き合わせて考えた結果。
To:幸村君
Sub:そうだ、氷帝へ行こう
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こんばんは。
幸村君達が来てくれるだなんて
とても嬉しいです。
きっと私たち氷帝のお送りする
スペクタクルショーにご満足
いただけると思います。
もし11時ぐらいに会えそうなら
少し学園を案内出来そうかな!
その際に、私のクラスの仕上がりも
一緒に見ていただけたらなと思います。
確かなクオリティ、安心のサービスに
きっと腰を抜かすはずです、楽しみにしててね。
「…よし、と。自然だ、ごく自然な返信になったと思う。」
我ながら、見事な誘導文だと思う。
…とにかく、明日の午前中はお師匠様達を案内して…、
で11時からは、幸村君たちと合流か。
なかなか忙しくなりそうだけど、
もう一度パンフレットを見る私の顔は盛大にニヤけていた。
「…あ、丸井君来るならスイーツのお店きっと行きたいよね…!」
見事に部門優勝を果たした、忍足のクラスのライバル店。
2年生で優勝をもぎ取ったその力を明日は存分に見せてもらおうじゃないか…!
さっきつけたマークとは違う色で、キュっと新たなアンダーラインを引く。
「じゃあ、スイーツの後は…。あ、そっか!受付の手伝いがあるんだった!」
パンフレットを眺めながら思い出したのは、今日の帰り道での約束事。
学園祭の実行委員、瑠璃ちゃんが明日の12:30から、金券売り場の受付をするらしい。
毎年お昼頃から来場者数が増えるらしく、金券売り場は人でごった返すそうだ。
委員会の人数も十分に用意はしているものの、念のためということで
各クラスから1人、増員を委員会から命じられたらしい。
丁度その時間に店番のない私に、瑠璃ちゃんが申し訳なさそうにお願いしてきたのを
すっかり忘れていた。瑠璃ちゃんの約束を忘れるわけにはいかないし…危ない危ない。
「…忘れないようにメモしておいた方がいいか。」
中々、忙しい日になりそうだ。
きっちりとタイムスケジュールをパンフレットに書き記して、それを閉じた。
…明日も楽しい学園祭になるといいな。
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「おはようございます!昨日の興奮冷めやらぬまま、氷帝学園祭2日目がスタートいたします!」
いつもの1時間目が始まる時間より、少し早めに集まって
第1体育館では2日目の開会式が始まっていた。
朝早くから再度店の準備をして、生徒のテンションもいい具合に上がっている。
昨日に引き続き司会を担当する間中君は、あれだけ大声で叫んでいたというのに
1日経てばすっかり元通りの声に戻っていた。さすが放送部、プロだ。
体育館中に響き渡る威勢の良い声に、大きな歓声と拍手で答える。
「昨日笑ったクラスも、涙を流したクラスも今日はみんな学園を代表する仲間です!」
「学園祭を楽しんでもらうため!最後まで気合を入れて!頑張りましょうっ!!」
マイクを置いたと同時に、野太い声援が響いた。
ぺこりとお辞儀をして舞台を降りる間中君に続いて、
先生が退場を各クラスに促し始める。
「真子ちゃん、確か午前中は宣伝当番だったよね。」
「うん、は今日皆と行動時間違ったよね?」
「そうなの。でも、他校の友達が来てくれるらしくってさ!」
「へぇ、それは良かったね。」
ぞろぞろと前の人に続いて体育館を後にする。
まだスタート時間までは余裕があるので、真子ちゃんとダラダラと話しながら
教室を目指していると、後ろから華崎さんに声をかけられた。
「真子ちゃん、宣伝当番でしょ?一緒に着替えに行こう。」
「おっけ。じゃ、ゴメンね。」
「はーい!2人とも頑張ってね!」
「さんも、午後からは覚悟しててね!」
パチンとウインクをして去っていく華崎さんに、背筋が寒くなる。
……覚悟…!
ぶっ続けで3時間は店の当番をしなければならないことが、
嫌な訳ではないけれど、自分に務まるのかどうか少し不安になった。
2人の背中を見つめながら、なんとなく教室を目指して歩いていると
ポケットに入れていた携帯が震えた。
From:カチローちゃん
Sub:(無題)
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先輩、おはようございます!
もうすぐ、学校に着きます!
…もうすぐかぁ。じゃあ玄関まで迎えに行くかな。
「待ってるね」とだけメールをして、方向転換をする。
久しぶりの再会が楽しみで、少しだけ速足になった。
「あ!先輩!」
「おおー!皆、久しぶり!」
「久しぶりッスー!」
合宿で見た時とはまた違う、私服での登場が何だか新鮮に見える。
学園の玄関口で私を見つけてパタパタと走ってくるカチローちゃん達に、
後ろから手を振りながら歩いてくるももちゃん。
そして、いつもの帽子をかぶってキョロキョロとあたりを見回すお師匠様。
「ようこそ氷帝学園へ!」
「スッゲー…なんかテーマパークに来たみたいだ…!」
「さん、ありがとうございます!今日案内してくれるんスよね?」
「うん!ちょっとだけになるけど…。」
玄関口に飾られた巨大なアーチを見て、キラキラと目を輝かせるホリー。
遅れてやってきたももちゃんが、爽やかな笑顔でぺこりと頭を下げた。
「お師匠様も、来てくれてありがとう!」
「…別に、誘われただけ。」
「何言ってんだよ、越前。こいつ、俺達が先輩誘おうって言った途端、やっぱり行くとか言い出して…」
「堀尾、うるさい。」
からかうように、はしゃぐホリーに表情を変えずにつっこみを入れるお師匠様。
相変わらずのクールさと、その可愛すぎるやり取りに早速デレデレしてしまう。
「…っへへ…お師匠様ったら、私はいつでもどこでも会いに行くのに…」
「…変な顔。」
「変な!!顔!!それは…ほ、ほら、そういう生まれ持ったカルマ的なそういう…悪口はダメだよお師匠様…。」
「なーに照れてんだよ、越前。」
「桃先輩もうるさいッス。ほら、。早く行こ。」
出会った途端に、どこか懐かしい心の痛みをプレゼントしてくれたお師匠様。
へなへなとその場に崩れ落ちる私のTシャツを引っ張るその手に、少しだけまた喜びを感じて
変な顔になっていたらしく、お師匠様の冷たい視線が痛かった。
・
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「よし!金券は買えたかな?」
「はーい!ばっちりです!」
「すげーッスね、学園祭のレベルが高すぎる…!」
2日目のグッズ販売は、1日目とはまた違ったグッズが売っていて
金券売り場と同じ場所に設置されている。
積み上げられた氷帝学園祭オリジナルのグッズを見て
わいわいとはしゃぐ、桃ちゃんやカッツォ達。
別に自分が作ったわけではないけれど、
なんとなく氷帝学園を褒められているような感じで嬉しい。
「で、最初はどこに行くの?、案内してくれるんでしょ。」
「あ、うん!ちゃんとルートは考えてきたよ!」
皆の輪からいつの間にか抜け出して、隣でパンフレットを開いていたお師匠様。
ペラペラと数ページを見て、私に目線を向ける。
……久しぶりに見るお師匠様の、ぱっちりおめめに吸い込まれそう。
「…お、お師匠様。良かったら、写真部ではメイド服などのコスプレで写真を撮ったりできるんだけど
それに行こっか?決して、性的な意味ではなくあくまでお師匠様の想い出の1ページとしてね!ね!」
「……それ、俺が着るの?」
「可愛いは世界を救うって言うじゃない。お師匠様はその力を持ってるんだよ!」
「写真部はパス。」
「無慈悲な即答…!な…なんで…」
「気持ち悪いこと言ってないで、早く案内してよ。」
…久しぶりにお師匠様の…、この小気味いい罵倒が聞けて満足です。
プイッと顔を逸らしてずんずん歩いていくところとか、本当に可愛い。
お師匠様が今向かっている方向には、トイレしかないけど。
「お、お師匠様!こっちこっち!みんなも、そろそろ行こっか!」
「はい!よろしくお願いしますっ!」
「あー、俺ちょっと腹減ってきたッス。」
「桃ちゃん先輩、早くないですか!?」
「ふっふっふ…私のルートは完璧だったようね…!早速模擬店にGOだよ!」
「よっしゃ!行きましょう、行きましょーっ!」
にこにこの笑顔で拳を突き上げる桃ちゃんに合わせて、
オーッと可愛い掛け声を響かせる3人組。
呆れたような顔で皆を見つめるお師匠様も、心なしか楽しそうに見える。
賑やかな青学のメンバーを引き連れて、まずは最初のお店へと向かった。
氷帝文化祭(2日目)について
学園祭の2日目は、他校の皆と主に行動することになります。
話の繋がり的に、推奨ルートがございますので下記の通り読み進めていただければわかりやすいかな、と思います。
開会式→軽食ピエトロ→Welcome to "D"→
スイーツ×スイーツ→浴衣喫茶→中庭PRイベント→
あなたの☆お好み→アリスインワンダーランド(第2弾にて公開)
上記は「本編」となります。各話の最後に「next」ボタンを設けていますので
それに従って進んでいただければ大丈夫です。これ以外にもちょこちょこと色んな所にお話を用意しております。
Extra Storyについて
【15.07.7現在】 Extra Storyが5話あります。本編以外のお話には最後に「Extra Story」の表記がありますので
良ければ探してみて下さい。
氷帝学園祭スタンプラリーについて
各クラスのお話の最後にスタンプラリー用のカードがあり、それぞれに「数字」を書いてます。
全7種類の数字を「全て足し算」した数をスタンプラリーページでご入力ください。
各学校別の小話をご覧いただけます(*'▽')!
申し訳ございません!現在制作中ですので、今しばらくお待ちくださいませ( ;∀;)